上 下
68 / 219
人間関係が広がるお年頃

無自覚で話を逸らす

しおりを挟む
……どうしよう。マジでどうしよう。

俺は冷や汗タラタラで悩んだ。俺が意味深に黙り込んでしまったから、変な空気が流れてるぞ。なんとかしないと。このまま昼休憩終了はしんどい。

その場の空気を一転させると言えば……ギャグか?一発芸か?前世の笑いの猛者たちの出番か??

いや待て。落ち着け自分。いきなりボケてもみんなついて行けないぞ。絶対滑るぞ。てか俺は普段あまり冗談を言わないから、真に受けてしまうかもしれない。駄目だ。余計変な空気なる。それはいけない。選択肢『ギャグ』は排除だ。

なら何がある?話を逸らすか?でも露骨過ぎるとそれはそれで気を遣わせてしまう。あくまで自然に、流れるような話題変換……。

……わからん!圧倒的コミュ力不足!前世の俺は必要以上に人と関わろうとしなかったし、今は人と関わる機会すらほとんどないからな!上手な話の持って行き方なんて知らんぞ!?

俺は荒ぶる思考をなんとか鎮めようと、サンドウィッチに手を伸ばした。適当にひとつ手に取ると、躊躇いなく口に入れる。そして目を丸くした。

「……これ、中に入っているのは……」

「ん?えっとそれは……玉子とツナね」

「ツナ、ですか」

俺はバスケットから同じサンドウィッチを取り出して、ズイッとヴァイナモの前に差し出した。ヴァイナモは目を瞬かせる。

「ヴァイナモ!ツナですよ!」

「……えっ?ええ、ツナですね」

「……あれ?ツナは好きではありませんか?」

俺が首をコテンと傾けると、ヴァイナモは目を丸くして「いや、好きですが……」と呟いた。俺は思い違いじゃなかったことに安堵しつつ、ヴァイナモの顔にサンドウィッチを近づけた。

「美味しいですよ。ヴァイナモもひとつどうぞ」

「……ツナが好きと、俺は言いましたか?」

「いいえ。ですが魚料理が好きそうだったので、ツナもそうかなと思っただけです」

「……その、魚料理が好きとどうして……」

「色んな料理を並べられた時、真っ先に魚料理を選んでいたので」

俺の言葉にヴァイナモは「そんなにわかりやすいてますか……」恥ずかしそうに頬を掻いた。……なっ、なんだその反応。可愛いかよ。精悍な顔つきの19の男子に向ける言葉じゃないかもしれないけど。なんて言うかピュアな可愛さと言うか。何だこれ俺の方が恥ずかしくなってきたぞ。

「……と、とにかく!どうぞ!美味しいですよ!」

「い、いえっ!俺は護衛騎士なので!」

「受け取らないと、無理矢理口に入れますよ!?」

「えっ!?それは勘弁してください!」

恥ずかしさを誤魔化すためにヴァイナモに迫ると、ヴァイナモは慌ててサンドウィッチを受け取った。まあ護衛騎士が13の少年に『あ~ん』されるのは恥ずかしいわな!それ以前に俺は皇族だから、公然の場でそんなことしたら首が飛ぶし!

ヴァイナモはサンドウィッチを見つめながら、「受け取ったは良いものの、食べて良いのか……?」と独り言を呟いた。護衛任務中に食べ物渡すのって、迷惑だったかな?

俺はその場の勢いでサンドウィッチを渡してしまったことを後悔していると、オリヴァが俺たちのもとにやって来た。護衛交代の時間か?

「ヴァイナモ、昼飯食って来い……って、どうした?そのサンドウィッチ」

「えっと……殿下が……」

「義姉上手作りの玉子ツナサンドですよ。美味しかったのでひとつヴァイナモにあげました」

「ああ、そう言う……。ヴァイナモ。今すぐ食べろ」

オリヴァは納得げに相槌を打つと、ヴァイナモにそう命じた。困っていたヴァイナモは焦り出す。

「えっ。ですが俺は護衛騎士で……」

「今は俺が来たから、護衛は交代だ。主からいただいたものを食べないのは、礼儀に欠けるんじゃないか?」

「それもそうですが……」

「それに作り手が目の前にいらっしゃるんだ。食べて感想を言うべきじゃないか?」

オリヴァの説得に、ヴァイナモは躊躇いつつも恐る恐るサンドウィッチを咀嚼した。難しい表情を浮かべていたヴァイナモはみるみるうちに目を輝かせていく。……うっ。可愛い。

「……とても、美味しいです」

「おいコラ語彙力どこ行った」

「ふふっ。良いのよ。その表情を見れば喜んでくれているのは一目瞭然だもの」

義姉上はクスクスと笑う。自分の料理を美味しそうに食べてもらえるのは、やはり嬉しくらしい。……てか義姉上に許可なくヴァイナモにあげてしまったけど、良かったのかな?

「……あの、義姉上。すみません。勝手にヴァイナモに渡してしまって……」

「あら?別に構わないわよ。良いもの見せてもらったし」

「……良いもの、とは?」

「ふふっ。秘密よ」

義姉上は内緒のジェスチャーをして、パチンとウインクした。よく見ると手に持つ扇子が粉々に砕かれていた。……義姉上、萌えを感じすぎじゃありません?まあ義姉上は美人だから何やってもウインクも器物破損もサマになってるけどさ!

侍女さんは壊れた扇子を回収し、新しい扇子を義姉上に渡す。1日にこんな器物破損してたら、お金とか凄くかかるんじゃないかな?

「安心しろ。普段は滅多に壊さねえよ」

俺が扇子を凝視しているのを見て、カレルヴォ兄上が溜息混じりに言った。そうなの?でも今日だけでも3回器物損壊してるよ?

「ユスティーナにとって、お前は萌えの塊だからな」

なるほど!俺は天使だからね納得するなし!義姉上の怪力が火を噴く訳だ!

てか何気にカレルヴォ兄上も俺の考えてること読み取ったよね!?なんで!?俺ってそんなにわかりやすい!?

「お前は複雑なことを考えてそうに見えて、割と単純なことしか考えてないからな」

それって俺が短慮ってことかな!?俺はこれでも思慮深い方だと自負してたんだけど!?

「わかりやすいって意味だ」

何だよ俺ってそんなに顔に出るのかよ恥ずかしい!俺の周りに読心術持ってる人が多すぎて怖いわ!

「……会話中すみませんが、ヴァイナモはこれから昼食に向かいます。その間の護衛は私、オリヴァ・クレーモラにお任せください」

オリヴァは俺とカレルヴォ兄上に向けて膝を折った。そっか。一応公の場だから、形式的にでもこう言うのしなきゃいけないのか。何気にオリヴァとカレルヴォ兄上って初対面だし。

「はい。よろしくお願いします」

「ああ、弟を頼むぞ」

「御意」

カレルヴォ兄上は俺の頭にポンッと手を乗せた。なんか『弟』って響きが良くて、ニヨニヨしてしまう。さっき家族のことで気分が落ち込んでいたから、尚のこと暖かい。

「では殿下。俺はここで失礼します」

「はい。また後ほど」

ヴァイナモは一礼して去っていった。その背中を見送りつつ、いつの間にか微妙な空気が無くなっていることに気づいた。

……あれ?何が起きたんだ?俺、なんかやったっけ?

まあいっか。終わり良ければ全てよろしいなのだ。
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

優しい庭師の見る夢は

エウラ
BL
植物好きの青年が不治の病を得て若くして亡くなり、気付けば異世界に転生していた。 かつて管理者が住んでいた森の奥の小さなロッジで15歳くらいの体で目覚めた樹希(いつき)は、前世の知識と森の精霊達の協力で森の木々や花の世話をしながら一人暮らしを満喫していくのだが・・・。 ※主人公総受けではありません。 精霊達は単なる家族・友人・保護者的な位置づけです。お互いがそういう認識です。 基本的にほのぼのした話になると思います。 息抜きです。不定期更新。 ※タグには入れてませんが、女性もいます。 魔法や魔法薬で同性同士でも子供が出来るというふんわり設定。 ※10万字いっても終わらないので、一応、長編に切り替えます。 お付き合い下さいませ。

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

処理中です...