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人間関係が広がるお年頃

冷蔵庫に必要な魔法陣

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翌朝。

ヴァイナモは昨日何も無かったかのように俺に接した。気を使ってくれているんだろうなと思うと、申し訳なくて。それでも言えるはずもないから、俺も普通に接した。ごめんね、ヴァイナモ。

さて、俺は今図書館の魔法陣学用の小部屋に来ている。ココ最近はずっとここである資料を探していた。

「むー。ないですね、冷風魔法の魔法陣」

「……意外ですね。割と基礎的な魔法だと聞くのですが」

「魔法陣学が軽視されている弊害ですかね……」

そう、俺は冷蔵庫を作るのに欠かせない冷風魔法の魔法陣の見本図を探している。冷風魔法とは風属性の魔法の中でも初歩的な魔法であり、魔法陣もどこかにはあるだろうと踏んでいたが、どこにもない。

社会の風潮から魔法陣学の研究はあまり進んでいない。そのためひとつの属性が深掘りされておらず、広く浅く研究されている。それに風属性は五大魔法属性だから、使える人が多い。適正属性でない魔法が使えるという魔法陣の利点に全面に出そうとすれば、多くの人間が使える風属性魔法より、無属性魔法やら特殊属性魔法やらを優先的に研究するのもおかしくない。

まあ何故ないか、その理由は割とどうでもよくて。

「これは1から作る必要がありますね……!」

「エルネスティ様、口角がピクピクと上がっております。嬉しいのですね」

「はい!割とすぐに完成するだろうと思っていたでござるが、基礎中の基礎、用途にピッタリな魔法陣が存在しないと来ましたぞ!これは研究の余地がある、いや、研究の余地しかないと言うこと!文献から様々な仮説を立てながら膨大な量の実験を重ね、試行錯誤を繰り返してひとつの新しい魔法陣を確立する!ああ!なんて楽しそうでありますな!期待で空が飛べそうだ!」

「発作が起こるのは久々ですね」

俺が熱く語ると、ヴァイナモは平然とそれを受け流しながら必要そうな書物を取り出してくれる。すっかり俺の奇行にも慣れたね!そして書物出してくれてありがとう!やっぱりヴァイナモぐう有能!

「さあそうとなれば早速あらゆる仮説を立てていきましょうぞ!ヴァイナモ、補佐を頼みますぞ!」

「はい。俺はどこまでもお手伝いしますよ」

ヴァイナモは胸に手を添えて柔く微笑んだ。うぐっ。まるで物語の中の騎士様だな。イケメンレベルがカンストしてる。歳を重ねるごとにイケメン度が高まってて、それでいてあのへにゃりとした笑顔は健在だし!何なのヴァイナモは俺の心臓を爆死させたいの!?イケメンめこんちくしょう!

「……あの、今余計なことを考えていませんか?」

なんでわかったし!?俺の周りにエスパーが多いんだけど!?


* * *


色々と調べていくうちに、冷風魔法の魔法陣を作るのが殊の外難しいことがわかった。

まず、冷風魔法は通常魔法としては簡単に発動出来るが、魔法陣魔法でそれを再現しようとすると、二重魔法陣が必要なことがわかった。なんでも冷風魔法は魔法陣学においては風属性の魔法と水属性の応用である氷魔法を組み合わせる必要があるらしい。

通常魔法は感覚で自在に効力を変化させられる。つまり、風魔法を使いながら「冷えろー冷たい風を起こせー」って念じるだけで冷風が生じる。

だが魔法陣が『冷えろー』って念じることは出来ない。だから風を起こす魔法と、その風を冷やす魔法を同時に発動させる必要があるのだ。通常魔法であれば初歩的な魔法でも、魔法陣魔法においては無属性魔法より高度な魔法になる。それが魔法陣が『応用の効かない落ちこぼれ学問』と呼ばれる所以であり、通常魔法と全く異なる魔法である証明にもなるのだが。

「……二重魔法陣ですか。またヤルノが地獄という名の天国を見そうですね」

「はい。最近私からの依頼が少ないと残念そうにしていたので、良い機会です」

俺はヤルノが嫌そうな声を出しながらも頬を紅潮させる姿を想像した。二重魔法陣を使うとなれば、最大の難所となるのが、魔法の鈍感化である。今はまだ二重魔法陣をひとつしか完成させていないので、確固たる法則などは定まっていない。大体の仮説は立てられているけど。

そうなるとまた、膨大な数の版画板を彫ってもらわないといけない。普通の人相手ならちょっと気が引けるけど、ヤルノ相手だったらご褒美だから気にする必要はないよね。

「では、風魔法の魔法陣と氷魔法の魔法陣の見本を頼りに、二重魔法陣の図案を練っていきましょうか」

そして俺はヴァイナモが用意してくれたペンと紙を手に取り、魔法陣を描く作業を始めた。


* * *


「むー。この図案だと効果が持続しそうにありませんね。まあ試しに作ってもらいますか」

俺は紙に描かれた魔法陣とにらめっこしながら、ブツブツと独り言を言う。これまでの俺の研究で、魔法陣の効力の持続性を高める方法はほぼ確立されているから、これは失敗するとは思うけど。一応念のために作ってもらおう。その方がヤルノも喜ぶし。

「……冷蔵庫は持続性が大切なのでしょうか?」

「ええ。箱の中の温度を常に冷えた状態にして、長期間食材を保存するためのものですから。持続性が高い魔法陣の方が長持ちするでしょう?それに今回の冷蔵庫制作は、通常魔法と魔法陣魔法の違いを知らしめる目的もありますし」

ヴァイナモの質問に俺は顔を上げて答えた。

通常魔法とは即効的で持続性が低い。一回に必要とする魔力量が多いからである。だから長時間同じ状況を維持させるのが困難だ。ロヴィーサ嬢シスター見習い令嬢が一日の4分の1しか活動出来ないのも、魔法が持続しないからである。まあ6時間も魔法を持続させられる時点で、ロヴィーサ嬢は常人離れしてるけど。普通の人なら1時間も持たないだろうね。

だからコンロや電子レンジといった即効的で持続性のあまり必要のない家電の開発は後回しにするつもりだ。通常魔法で代用出来るからね。まあ魔導具の需要が高まったら、いずれ作りたいけど。

持続性が必要な家電の中でも他のもので代用が効きにくく、尚且つ初めから需要が高そうなのが冷蔵庫だと俺は思った。定食屋のおばちゃんもウーノさん旦那さんが買ってくる珍食材を如何にして腐る前に消費するかと悩んでいたし。ちょっとでも保存出来る方が余裕も生まれるだろう。

「……確かに夏場とかは食材が傷む心配もありますから、長く保存は出来なくて騎士寮の料理人も困ってましたね。完成すれば大助かりでしょう」

「やはり作ったからには喜んで使われたいですから。使い易いよう、デザインにも力をいれますよ!」

「……そう言えば、冷蔵庫ってどのような形をしているのですか?」

ヴァイナモは不思議そうに首を傾げた。そう言やこの世界に冷蔵庫ってものがないから姿形を想像出来ないか。俺は直ぐに白紙の紙に前世の家にあった冷蔵庫を思い浮かべて描いた。……画力はまあ、悪くはない、とは思う。

「こんな感じです」

「……扉がついた長方形の箱、ですか……」

「大きさはまちまちで正方形のものもありますが、基本的には長方形ですね」

「……あの、俺の中で冷蔵庫が想像し易いよう、この絵をもらっても構いませんか?」

「え?ええ、良いですよ。こんな下手な絵で良いならどうぞ」

ヴァイナモに絵を手渡すと、ヴァイナモは真剣な表情で絵を見つめた。ちょっ、自分の絵をまじまじと見られるの、恥ずかしい!やめて!下っ手くそだから!

「いいえ、お上手ですよ、エルネスティ様」

なんで考えてることわかったし!?
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