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人間関係が広がるお年頃
父上に帰還報告
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「ただ今帰りました父上!」
「うむ。楽しかったのだな。とりあえず落ち着け」
俺は夕暮れ時になり孤児院を出てから、ある所に寄り道をしてから宮殿に帰り、迷わず父上の元へ向かった。父上は何故か俺が来ることをわかっていたかのように平然と玉座に座っていた。なんで!?ちょっと驚かせようと思ってたのに!
「お前の行動は予想出来るものと出来ないものの差が激しいからな」
つまり俺が来ることは予想出来たと。何だよ父上俺のことめっちゃ理解してるじゃん!知ってたけど!
「それで?初めての帝都はどうであった?」
「はい!とても楽しかったです!」
「それはわかっておる。詳しい内容を聞いているのだ」
俺は今日一日の帝都での出来事をつぶさに報告した。もちろん海の死神を食べたことや、孤児院でロヴィーサ嬢と邂逅したこと、そしてアウクスティの花壇のことも。
「それで、このお花は父上への土産です。花屋の店主が贈り物にピッタリだと言ってました」
「ほう。見慣れない花だな」
「たまたま仕入れることが出来たと言ってましたよ」
俺は孤児院からの帰りに寄った、花を買う約束をした花屋で買った花を父上に差し出した。それを側に控えていた枢長が受け取り、問題がないか隈無くチェックする。皇帝に手渡すものだからね。何かあったら大問題だ。
しげしげと見ていた枢長は眉を顰めた。
「……本当に見たことのない花ですね。安全性が不安なので一度専門家に見てもらった方がよろしいかと」
「ふむ。……確かにそうかも知れないな。頼む」
「御意」
「すまんな、エルネスティ。我の立場上、直ぐに受け取ることが出来ないで」
「大丈夫ですよ。理解しております」
父上は申し訳なさげに言うが、当たり前の対応であるから気にしてない。て言うか俺が軽率だったな。父上への献上品には厳重なチェックが入るのに、直ぐに駄目になってしまう花をチョイスしてしまった。しかもよくわからない花って。条件として最悪じゃん。
「花と言えば、アウクスティか……。アイツが帝都に下っていたのは知っていたが、まさか孤児院で植物を育てていたとはな」
「……いけないことでしたか?」
「いや、何の問題がなかったなら黙認するが。少し意外だと思っただけだ。アイツが植物に関心があるとはな……」
アウクスティに何のお咎めがないことにホッとしつつ、父上ですらアウクスティの趣味を知らなかったことに少し驚いた。まあ父上もお忙しいから、皇族全員の動向を詳細に調べる暇なんてないだろうけど。
だから父上?サムエルによる俺の監視、やめて良いんだよ?忙しいでしょ??
「アウクスティはこれまで帝位争いに疎遠だったからな。あまり気にしていなかった」
父上は俺から視線を逸らして考え込む。父上?何サラッと俺の視線の訴えをスルーしてるんです??父上なら今俺が何考えてるかわかってるでしょ??
「お前は危なっかしいから、見張ってないと面倒なことになりかねない」
「失礼ですね。これでももう13歳ですよ。少しは落ち着きを身につけました」
「では今から魔法陣について語れと言えば?」
「徹夜で素晴らしさを語ってみせましょう」
「そう言うところだぞ」
父上は溜息をつきながらも、口が弧を描いている。俺が想像通りの返答をしたんだろう。悪かったね!思考回路が成長しても変わらなくて!
「それで?魔法陣研究の役には立ちそうなのか?」
「はい。まず何を作るかは決めました」
「む?そうなのか?一体何を作るんだ?」
「冷蔵庫です」
「……れいぞうこ?」
父上は片眉を上げて首を傾げる。聞き慣れない言葉に少し舌っ足らずになった。何だよ強面なのに平仮名語使いやがって。いやわざとじゃないのはわかってるけど!
「はい。中が常時冷えている箱で、食材とかを入れて長持ちさせるものです」
「……なるほど。それは便利そうだが、お前はどこで『れいぞうこ』とやらを知った?そんな言葉、どこから聞いた?」
「……さあ?どこでしょう」
父上が怪訝そうに尋ねて来た。やっべえ平然と冷蔵庫って使ったけど、この世界に冷蔵庫たるものなんてある訳ないよね!いやもしかしたらどこかに魔導具としてあるかもだけど。それにしても皇帝が知らないような遠い国のもの、皇子が知ってるはずがないよね!
うわ~父上めっちゃこっち見てくる!めっちゃ怪しんでる!だよね誤魔化されてくれないよね!でも俺は黙秘します!はぐらかします!前世なんぞ、話すだけで面倒なことになるし!
俺と父上は無言で見つめ合う。側にいるヴァイナモと枢長が固唾を飲んで見守っている。い、息が詰まりそう!早く!早く折れて父上!俺窒息死しちゃう!!
「……言えぬのか」
「……すみません」
「……はあ。我が知らなくても、手遅れになることはないのだな?」
「はい。自分のことは自分で責任を取ります」
「……わかった。今回は我が折れよう」
父上はどさりと背もたれに上体を預け、眉根を押さえた。心配で仕方ないが、俺が何をしても折れないとわかったから、断腸の思いで諦めたのだろう。ごめんね、父上。前世のこと、言えなくて。
俺が眉を下げていると、ふと父上が何か思い出したように顔を上げた。
「……そう言えばお前、海の死神を食べたのだな?」
「えっ?はい。食べました。美味しかったですよ」
「……ふむ。我も食べたいな。その料理人に宮殿に出向いてもらうか」
「「えっ!?!?」」
「本気ですか陛下!?」
父上が突拍子もないことを言い出したので、俺は思わず変な声が出てしまった。枢長は焦ってその真意を問う。今まで空気と化していたヴァイナモまで思わず声を出す始末だ。
だってどこの国に帝都の平民向けの定食屋の料理人を呼び出して海の死神って忌み嫌われる食材で料理作らせる皇帝がいるの!?いや目の前にいるけど!俺の父上だけど!!
「ああ。エルネスティが食べられるのであれば、我も食べられるだろう?」
「いや確かにそうですが……」
「それに海の死神の大量発生で困っている国は結構ある。このレシピが広がればその国もわざわざ処分する手間と費用が浮いて、大助かりだろう?」
「……なるほど。恩を売るためにまずは陛下自らが試食なさる、の言う訳ですか」
枢長は思案するように顎に手を添えた。確かにハーララ帝国の皇帝が食べれば、その影響は大陸中に広がる。そうすれば徐々にタコを食べる文化が根付き、タコを廃棄するなんて勿体ないことは減るし、定食屋の料理人の評判も上がる。悪い話ではないかもしれない。
だけどこれは、タコが父上の口に合えばの話だ。もし父上が不味いと言えば、忽ち旦那さんの評判は急落するし、タコへの偏見も強まってしまう。渡るには危ない橋だ。
「……その案自体には賛成ですが、果たして一介の料理人が陛下に料理を献上するほどの度胸があるかどうか……」
枢長も同じことを考えていたようで、苦い表情で問題点を指摘する。すると父上はくつくつと笑った。何か良い方法でもあるのかな?
「何、エルネスティの話を聞いてその者の大方の性格はわかっておる。こう一言付け加えれば良いのだ」
父上が続けて発した言葉に、俺は思わず「ああ、なるほど」と納得させられた。
「うむ。楽しかったのだな。とりあえず落ち着け」
俺は夕暮れ時になり孤児院を出てから、ある所に寄り道をしてから宮殿に帰り、迷わず父上の元へ向かった。父上は何故か俺が来ることをわかっていたかのように平然と玉座に座っていた。なんで!?ちょっと驚かせようと思ってたのに!
「お前の行動は予想出来るものと出来ないものの差が激しいからな」
つまり俺が来ることは予想出来たと。何だよ父上俺のことめっちゃ理解してるじゃん!知ってたけど!
「それで?初めての帝都はどうであった?」
「はい!とても楽しかったです!」
「それはわかっておる。詳しい内容を聞いているのだ」
俺は今日一日の帝都での出来事をつぶさに報告した。もちろん海の死神を食べたことや、孤児院でロヴィーサ嬢と邂逅したこと、そしてアウクスティの花壇のことも。
「それで、このお花は父上への土産です。花屋の店主が贈り物にピッタリだと言ってました」
「ほう。見慣れない花だな」
「たまたま仕入れることが出来たと言ってましたよ」
俺は孤児院からの帰りに寄った、花を買う約束をした花屋で買った花を父上に差し出した。それを側に控えていた枢長が受け取り、問題がないか隈無くチェックする。皇帝に手渡すものだからね。何かあったら大問題だ。
しげしげと見ていた枢長は眉を顰めた。
「……本当に見たことのない花ですね。安全性が不安なので一度専門家に見てもらった方がよろしいかと」
「ふむ。……確かにそうかも知れないな。頼む」
「御意」
「すまんな、エルネスティ。我の立場上、直ぐに受け取ることが出来ないで」
「大丈夫ですよ。理解しております」
父上は申し訳なさげに言うが、当たり前の対応であるから気にしてない。て言うか俺が軽率だったな。父上への献上品には厳重なチェックが入るのに、直ぐに駄目になってしまう花をチョイスしてしまった。しかもよくわからない花って。条件として最悪じゃん。
「花と言えば、アウクスティか……。アイツが帝都に下っていたのは知っていたが、まさか孤児院で植物を育てていたとはな」
「……いけないことでしたか?」
「いや、何の問題がなかったなら黙認するが。少し意外だと思っただけだ。アイツが植物に関心があるとはな……」
アウクスティに何のお咎めがないことにホッとしつつ、父上ですらアウクスティの趣味を知らなかったことに少し驚いた。まあ父上もお忙しいから、皇族全員の動向を詳細に調べる暇なんてないだろうけど。
だから父上?サムエルによる俺の監視、やめて良いんだよ?忙しいでしょ??
「アウクスティはこれまで帝位争いに疎遠だったからな。あまり気にしていなかった」
父上は俺から視線を逸らして考え込む。父上?何サラッと俺の視線の訴えをスルーしてるんです??父上なら今俺が何考えてるかわかってるでしょ??
「お前は危なっかしいから、見張ってないと面倒なことになりかねない」
「失礼ですね。これでももう13歳ですよ。少しは落ち着きを身につけました」
「では今から魔法陣について語れと言えば?」
「徹夜で素晴らしさを語ってみせましょう」
「そう言うところだぞ」
父上は溜息をつきながらも、口が弧を描いている。俺が想像通りの返答をしたんだろう。悪かったね!思考回路が成長しても変わらなくて!
「それで?魔法陣研究の役には立ちそうなのか?」
「はい。まず何を作るかは決めました」
「む?そうなのか?一体何を作るんだ?」
「冷蔵庫です」
「……れいぞうこ?」
父上は片眉を上げて首を傾げる。聞き慣れない言葉に少し舌っ足らずになった。何だよ強面なのに平仮名語使いやがって。いやわざとじゃないのはわかってるけど!
「はい。中が常時冷えている箱で、食材とかを入れて長持ちさせるものです」
「……なるほど。それは便利そうだが、お前はどこで『れいぞうこ』とやらを知った?そんな言葉、どこから聞いた?」
「……さあ?どこでしょう」
父上が怪訝そうに尋ねて来た。やっべえ平然と冷蔵庫って使ったけど、この世界に冷蔵庫たるものなんてある訳ないよね!いやもしかしたらどこかに魔導具としてあるかもだけど。それにしても皇帝が知らないような遠い国のもの、皇子が知ってるはずがないよね!
うわ~父上めっちゃこっち見てくる!めっちゃ怪しんでる!だよね誤魔化されてくれないよね!でも俺は黙秘します!はぐらかします!前世なんぞ、話すだけで面倒なことになるし!
俺と父上は無言で見つめ合う。側にいるヴァイナモと枢長が固唾を飲んで見守っている。い、息が詰まりそう!早く!早く折れて父上!俺窒息死しちゃう!!
「……言えぬのか」
「……すみません」
「……はあ。我が知らなくても、手遅れになることはないのだな?」
「はい。自分のことは自分で責任を取ります」
「……わかった。今回は我が折れよう」
父上はどさりと背もたれに上体を預け、眉根を押さえた。心配で仕方ないが、俺が何をしても折れないとわかったから、断腸の思いで諦めたのだろう。ごめんね、父上。前世のこと、言えなくて。
俺が眉を下げていると、ふと父上が何か思い出したように顔を上げた。
「……そう言えばお前、海の死神を食べたのだな?」
「えっ?はい。食べました。美味しかったですよ」
「……ふむ。我も食べたいな。その料理人に宮殿に出向いてもらうか」
「「えっ!?!?」」
「本気ですか陛下!?」
父上が突拍子もないことを言い出したので、俺は思わず変な声が出てしまった。枢長は焦ってその真意を問う。今まで空気と化していたヴァイナモまで思わず声を出す始末だ。
だってどこの国に帝都の平民向けの定食屋の料理人を呼び出して海の死神って忌み嫌われる食材で料理作らせる皇帝がいるの!?いや目の前にいるけど!俺の父上だけど!!
「ああ。エルネスティが食べられるのであれば、我も食べられるだろう?」
「いや確かにそうですが……」
「それに海の死神の大量発生で困っている国は結構ある。このレシピが広がればその国もわざわざ処分する手間と費用が浮いて、大助かりだろう?」
「……なるほど。恩を売るためにまずは陛下自らが試食なさる、の言う訳ですか」
枢長は思案するように顎に手を添えた。確かにハーララ帝国の皇帝が食べれば、その影響は大陸中に広がる。そうすれば徐々にタコを食べる文化が根付き、タコを廃棄するなんて勿体ないことは減るし、定食屋の料理人の評判も上がる。悪い話ではないかもしれない。
だけどこれは、タコが父上の口に合えばの話だ。もし父上が不味いと言えば、忽ち旦那さんの評判は急落するし、タコへの偏見も強まってしまう。渡るには危ない橋だ。
「……その案自体には賛成ですが、果たして一介の料理人が陛下に料理を献上するほどの度胸があるかどうか……」
枢長も同じことを考えていたようで、苦い表情で問題点を指摘する。すると父上はくつくつと笑った。何か良い方法でもあるのかな?
「何、エルネスティの話を聞いてその者の大方の性格はわかっておる。こう一言付け加えれば良いのだ」
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