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波乱の建国記念式典
閑話:或皇帝の能力 ※No Side※
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サムエルの扱いについて話し合われれ、エルネスティが玉座の間から去った後。サムエルは皇帝にその場に残るように言われ、未だ皇帝の前で膝を折っている。
「さて、何か言いたそうな顔だな。今なら何を言っても咎めないぞ」
「……それじゃあそうさせていただきます~。何故僕なんかの話を信じたんですかあ?」
皇帝相手に有るまじき軽い口調だが、皇帝は何も気にしておらず、逆に愉快そうにくつくつと笑った。サムエルはその様子に眉根を寄せる。
サムエルに忠誠心がなかったとは言え、シーウェルト王子の手先としてこの国に紛れ込んだ身だ。本当のことを言っているかもわからない。いつ裏切るかもわからない。そんなサムエルを皇帝のお気に入りであるエルネスティの側に置いておくだなんて、正気の沙汰ではない。
「む?ならお前の先程の話は全て嘘だったのか?」
「いいえ~。全て本当で、全て本音です~」
「それが真実なら信じる他ない。お前の性格上、歌さえあればエルネスティを裏切らんだろう?なら変装魔法という便利な属性を持つ人間を、そう簡単に殺せやしない」
サムエルはいよいよわからなくなった。皇帝が自分の話を真実と断言するその自信がどこから来ているのだろうか。
目の前の皇帝の厄介な所は、自分の信じた者を愚直に全肯定するただの馬鹿ではないという点だ。サムエルはシーウェルト王子にそう聞かされていたし、諜報員として情報を集める中でそれを否が応でも感じさせられた。
今この場面だけ見ると皇帝は、何でもかんでも信じてしまう人間に捉えられてしまうだろうが、そんなことは全くない。
何故ならこの皇帝が皇帝になって初めてしたことと言えば、右腕とも呼ばれた側近を虚偽罪で処刑することであったのだから。
当時の皇帝は為政者として優れてはいるものの、身内に甘いと評価されていた。その右腕と呼ばれた側近はその象徴のようなものであり、その側近の助言には素直に従っていた。だから皇帝に気に入られれば生涯安泰、やりたい放題出来ると一部の貴族は考えていた。
だがその矢先の側近処刑。その時に皇帝が発した言葉は「我は真実を好み、虚偽を嫌う」である。皇帝に嘘をつき、それがバレたら最後、どれだけ皇帝に取り入っていたとしても容赦なく処刑される。皇帝にごまをすろうとしていた貴族たちは恐怖で震え上がった。
そしてなお恐ろしいことに、皇帝の座についてこの方、真偽の判断に狂いがないのだ。どれだけ怪しくても皇帝が真とすれば真であり、どれだけ信用に値する者でも皇帝が偽とすれば偽であった。
だから後ろめたいことがある者は徹底的に皇帝を避ける。それは結果として、皇帝の周りに優秀な人材が集まることとなった。
覚醒とも言える皇帝の変化。その原因についてはあらゆる憶測が流れている。
最有力は元より素質があったが隠していた説である。所謂能ある鷹は爪を隠すと言うやつだ。それが一番無難で最もらしい。
だがひとつ、面白い説がある。
実は皇帝が皇帝となる直前、皇帝の双子の兄が事故死した。そのショックから後天性魔法属性が開花したと言う説があるのだ。判断の正確性を見れば禁忌魔法を使っているとしてもおかしくない。皇帝自身が公言しないため、真実は未だ濃霧の中であるが。
「……じゃあ陛下はどうやって真偽を見極めているんですかあ?」
「む?そうだな……形容し難いが敢えて言うなら、そう視えるのだ。真なら真と、偽なら偽と」
あまりに曖昧で婉曲で、それでいて簡潔な答えにサムエルは考えることをやめた。どう言う原理があるとしても、自分の図り知れる範囲にはないのだ。ならそう言うものだとしていた方が、楽である。
「……ふ~ん。そう言うものですかあ」
「ああ、そう言うものだ。お前の言動は真だと視えたから我は信じておる。逆に偽だと視えたが最後、一瞬にして首と胴体が離れることをゆめゆめ忘れるな」
「わっかりましたあ!」
サムエルは元気良く返事をする。普通の人間なら震え上がる場面であるが、サムエルにとっては嘘をつかないだけで自由に歌える権利が得られるなんて、この上ない好条件なのだ。歌のためなら告げ口するのも裏切るのも厭わない。単純明快でいて末恐ろしい感覚の持ち主である。
「……だからこそ、これ以上の好条件を提示する輩をサムエルに近づけてはならない」
「何か仰いましたかあ?」
「いや、何でもない」
サムエルはキョトンとしながらも、興味が失せたように視線を外して歌い始めた。その歌声は決して不愉快ではない、逆に心地良いものである。
「……風の出番か」
サムエルの歌声に紛れるように、皇帝がぽつりと呟いた。
「さて、何か言いたそうな顔だな。今なら何を言っても咎めないぞ」
「……それじゃあそうさせていただきます~。何故僕なんかの話を信じたんですかあ?」
皇帝相手に有るまじき軽い口調だが、皇帝は何も気にしておらず、逆に愉快そうにくつくつと笑った。サムエルはその様子に眉根を寄せる。
サムエルに忠誠心がなかったとは言え、シーウェルト王子の手先としてこの国に紛れ込んだ身だ。本当のことを言っているかもわからない。いつ裏切るかもわからない。そんなサムエルを皇帝のお気に入りであるエルネスティの側に置いておくだなんて、正気の沙汰ではない。
「む?ならお前の先程の話は全て嘘だったのか?」
「いいえ~。全て本当で、全て本音です~」
「それが真実なら信じる他ない。お前の性格上、歌さえあればエルネスティを裏切らんだろう?なら変装魔法という便利な属性を持つ人間を、そう簡単に殺せやしない」
サムエルはいよいよわからなくなった。皇帝が自分の話を真実と断言するその自信がどこから来ているのだろうか。
目の前の皇帝の厄介な所は、自分の信じた者を愚直に全肯定するただの馬鹿ではないという点だ。サムエルはシーウェルト王子にそう聞かされていたし、諜報員として情報を集める中でそれを否が応でも感じさせられた。
今この場面だけ見ると皇帝は、何でもかんでも信じてしまう人間に捉えられてしまうだろうが、そんなことは全くない。
何故ならこの皇帝が皇帝になって初めてしたことと言えば、右腕とも呼ばれた側近を虚偽罪で処刑することであったのだから。
当時の皇帝は為政者として優れてはいるものの、身内に甘いと評価されていた。その右腕と呼ばれた側近はその象徴のようなものであり、その側近の助言には素直に従っていた。だから皇帝に気に入られれば生涯安泰、やりたい放題出来ると一部の貴族は考えていた。
だがその矢先の側近処刑。その時に皇帝が発した言葉は「我は真実を好み、虚偽を嫌う」である。皇帝に嘘をつき、それがバレたら最後、どれだけ皇帝に取り入っていたとしても容赦なく処刑される。皇帝にごまをすろうとしていた貴族たちは恐怖で震え上がった。
そしてなお恐ろしいことに、皇帝の座についてこの方、真偽の判断に狂いがないのだ。どれだけ怪しくても皇帝が真とすれば真であり、どれだけ信用に値する者でも皇帝が偽とすれば偽であった。
だから後ろめたいことがある者は徹底的に皇帝を避ける。それは結果として、皇帝の周りに優秀な人材が集まることとなった。
覚醒とも言える皇帝の変化。その原因についてはあらゆる憶測が流れている。
最有力は元より素質があったが隠していた説である。所謂能ある鷹は爪を隠すと言うやつだ。それが一番無難で最もらしい。
だがひとつ、面白い説がある。
実は皇帝が皇帝となる直前、皇帝の双子の兄が事故死した。そのショックから後天性魔法属性が開花したと言う説があるのだ。判断の正確性を見れば禁忌魔法を使っているとしてもおかしくない。皇帝自身が公言しないため、真実は未だ濃霧の中であるが。
「……じゃあ陛下はどうやって真偽を見極めているんですかあ?」
「む?そうだな……形容し難いが敢えて言うなら、そう視えるのだ。真なら真と、偽なら偽と」
あまりに曖昧で婉曲で、それでいて簡潔な答えにサムエルは考えることをやめた。どう言う原理があるとしても、自分の図り知れる範囲にはないのだ。ならそう言うものだとしていた方が、楽である。
「……ふ~ん。そう言うものですかあ」
「ああ、そう言うものだ。お前の言動は真だと視えたから我は信じておる。逆に偽だと視えたが最後、一瞬にして首と胴体が離れることをゆめゆめ忘れるな」
「わっかりましたあ!」
サムエルは元気良く返事をする。普通の人間なら震え上がる場面であるが、サムエルにとっては嘘をつかないだけで自由に歌える権利が得られるなんて、この上ない好条件なのだ。歌のためなら告げ口するのも裏切るのも厭わない。単純明快でいて末恐ろしい感覚の持ち主である。
「……だからこそ、これ以上の好条件を提示する輩をサムエルに近づけてはならない」
「何か仰いましたかあ?」
「いや、何でもない」
サムエルはキョトンとしながらも、興味が失せたように視線を外して歌い始めた。その歌声は決して不愉快ではない、逆に心地良いものである。
「……風の出番か」
サムエルの歌声に紛れるように、皇帝がぽつりと呟いた。
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