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波乱の建国記念式典
閑話:或第四皇子専属護衛騎士の焦燥
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「……何やってんだ、お前は」
エルネスティ様が走り去った後、団長が呆れたように、非難するように溜息をついた。俺は何も言えずにただただ俯く。
「いくら何でもさっきのは騎士としても失格だ。護衛対象となる皇族の命令に従えない奴なんて、騎士でもなんでもない。ただの謀反者だ」
「……すみません」
俺は深く頭を下げた。確かにさっきは頭に血が上って騎士として有るまじき行動をしてしまった。最悪色んな意味で首を切られてもおかしくはない。
それでも、鍛錬を止める訳にはいかないんだ。
「……お前、何を焦っている?」
団長は全てを見透かすように目を細めて聞いてくる。有無を言わせないその迫力に俺は怖気付きながらも、ぽつぽつと言葉を零した。
「……陛下が、こう仰いました」
* * *
これは建国記念式典の次の日、エルネスティ様が陛下と謁見し、自室に戻られた後。俺は個別に陛下に呼び出された。一介の騎士に陛下が態々何の用だろうかと初めは疑問に思ったが、陛下の第一声で全てを悟った。
「お前は一体、エルネスティの何なのだ?」
俺は直ぐにシーウェルト王子の件で責められていると感じた。俺は言葉が詰まりそうになるのを必死に我慢して、絞り出すように言った。
「私はエルネスティ様の騎士です」
と。
すると陛下は抑揚のない声で続けられた。
「ならお前は一体何をしていた?」
俺は心臓が押し潰されそうになった。今回はエルネスティ様が直ぐに異変に気づいて回避出来たが、本当ならエルネスティ様の手を煩わせる前に俺が対処すべきだったのだ。自分の不甲斐なさに吐き気がした。
俺が俯いて唇を噛み締めていると、陛下が深く溜息をつかれた。俺は思わず肩をビクリとさせる。
「エルネスティはお前を大切にしているから、出来れば奪うような真似はしたくない。お前をエルネスティの専属護衛騎士から外すことはしたくない。だがいつまでもお前がそうなら、我も手段を選ばぬぞ?」
手段を選ばぬとは、一体。俺がちらりと陛下を伺うと、陛下はこちらを睨みつけていた。
「婚約の話。我は本気だぞ。お前が専属護衛騎士を務められないなら、別の手段でエルネスティの手元に留めるのみ。お前の実家は伯爵。皇族と結婚するほどの身分は持ち合わせている。幸いエルネスティ自身はお前と結婚するのに抵抗はないようだしな」
それはつまり、俺が弱くてもお情けでエルネスティ様のお側に留め置くと言うこと。
それは嫌だ。
俺はエルネスティ様の専属護衛騎士だ。騎士として、エルネスティ様をずっとお側でお護りしたい。
なのにそんな形でお側にいても、意味がない。俺のこの気持ちは騎士としての、かけがえのない忠誠なのだ。それはこれまで義務として騎士をしていた俺にとって、初めての自発的な忠誠だ。
結婚は一生伴侶を側で護ることになると言うけれど、俺はお側にいる権利をそんな狡い方法で手に入れたくない。
エルネスティ様もきっと、騎士としての俺に側にいて欲しいに決まっている。結婚に夢を描いていると仰っていた。そんななけなしの結婚なんて、望まないに決まっている。
何よりお前では護れないと烙印を押された俺なんかをエルネスティ様のお側に留めておくなんて、俺自身が許せない。
俺がギチリと拳を握りしめると、もう一度陛下から溜息が零れた。
「……それだけ嫌であれば、努力するのだな」
それは俺にとっての、最後のチャンスみたいなものだ。これ以上陛下に失望されないように、エルネスティ様を危険から護るために。
俺は止まることを許されない。
* * *
「……っですから!俺はもっと鍛錬して、もっと強くならないといけないんです!そうしないと、俺は俺の望む形であの方のお側にいることが出来ない!」
俺は湧き出す感情が抑えきれずに叫んだ。周りの騎士が普段の俺らしくないことに、息を呑むのを感じた。
団長は静かに俺の話を聞いていたが、俺が話し終えると少しの思案の後、俺の頭に思いっきり鉄拳を叩き込んだ。俺はあまりの痛さにしゃがみこんで悶絶する。
「……それで?自分が弱いせいで立場が危うくなったから、殿下の気遣いも無下にして癇癪を起こしたのか?」
「……っ!俺はただっ!」
「ただもクソもない。お前にどんな苦悩があったとしても、さっきのお前の言動はただの癇癪を起こした子供だ。『騎士』には程遠い」
団長の断言に俺は反論出来なかった。騎士失格であると、自分でもわかっているからだ。
「……お前は、自分に何が足りないかわかっているか?」
「強さです」
「違う。お前は十分すぎるぐらい強い」
「えっ……!?」
団長の予想外の言葉に俺は困惑した。俺は自分が強いと思ったことがないし、もし強いとしてもそれなら何故エルネスティ様を護ることが出来ないのか説明出来ない。
当惑する俺に団長は溜息をつく。
「お前に足りないのは、周りへの興味だ」
「……興味?」
さっきから団長が予想外の言葉ばかり連発するから俺は困惑しっぱなしだ。騎士として足りないのが周りへの興味……?
「ああ、と言うより人間として興味が足りてない。お前は他人から向けられる感情に疎すぎる。見える危険に対しては誰よりも強いが、隠された殺意には誰よりも弱いんだ、お前は」
「……なら殿下の周りに興味を持てば良いのですか?」
「自分の周りすらも気にかけない奴が、他人の周りを気にかけることが出来るものか。まずお前自身が、お前の周りに興味を持て」
団長はそのように言うが、何をすれば良いのだろうか。俺は別にそんなつもりはないのだけど。と言うより俺って周りの人に興味がないのか。これが普通だと思っていた。
……こう言う感覚の違いが、変人なんだろうか。
「まずお前は近衛騎士団で孤立している現状をどうにかしろ。気にする気にしないって次元じゃない。お前はもっと周りの人間と関わりを持て。そうすれば自然と周りにも目が行くようになるだろ」
「周りの人と……」
「後、実家とのいざこざを何とかしろ」
「実家、ですか」
俺はキョトンとした。騎士団での孤立を何とかすべきなのは理解出来るが、実家は俺が家出して騎士団に入団したことで丸く収まったんじゃないのか?
「……式典でサルメライネン伯爵と話す機会があったが、お前の身を案じていたぞ。それと同時に何故学園にも通わず騎士団に入ろうと思ったのかわからないと言っていた。家出同然だと言っていたがどうせお前、詳しい説明もせず騎士団入団を直談判したんだろ。そりゃ猛反対もされる」
「……ですが跡継ぎが兄上に決まって父上は満足なのでは」
「伯爵の心配はその話じゃない。ただただ息子が心配な父親心だ。それに気づけないからお前は朴念仁で殺意に疎いんだ」
朴念仁、疎い。俺の心にグサグサ刺さった。でも確かに家族の心配すら気づけない鈍感野郎が、周りを常に警戒することなんて出来ないな。
やはり俺は未熟者だ。神童だなんて謳われているが、実際は何の力もない弱い人間だ。
俺が自責の念にかられていると、団長は励ますように俺の肩を叩いた。
「そう自分を責めるな。お前は身体的には誰よりも強いんだ。式典でも、殿下の重力魔法を受けてピンピンしていただろ?魔法耐性の訓練を受けていない人間だと木っ端微塵に潰れていてもおかしくなかったんだ。努力は着実に身を結んでいる。その調子で頑張れ。騎士として望ましい対処法とかも教えてやるから」
「……ですが、こんな弱い俺がエルネスティ様の騎士だなんて名乗れる訳がありません」
「そう焦るな。お前はまだ若いし、吸収力が桁違いに高いんだ。今からでもきちんと訓練すれば変われる。お前にはチャンスが与えられたんだ。今名乗れなくても、名乗れるようになれば良いんだ。足掻いてみせろ。相談には何時でも乗る」
「……はい、わかりました。頑張ります。ありがとうございます」
俺は深々と頭を下げた。やるせない気持ちはあるが、エルネスティ様のためだ。耐えてみせる。乗り越えてみせる。そしてエルネスティ様を護れる強さを手に入れてやる。
「……まさかお前が上からの命令に背いてここまで感情的になるとはな……」
「何か仰いましたか?」
すると団長の方から何か独り言が聞こえた。何を言っているかは聞き取れず、俺は頭を下げたままちらりと団長を見上げる。団長の表情には後悔が浮かんでいた。
「……いや、最初からこうすべきだったのだな、と思ってな」
「……こうすべき、とは?」
「お前は変人だから、俺たちとは感覚が違うんだ。正しようがない。そう思っていたが、違ったな。ちゃんと伝えていれば、お前はもっと早く変われていたかもしれない」
「そんなことはありません!きっと今までの俺なら、他人に興味を持てと言われても義務的にしかしなかったはずです!」
俺は慌てて上体を上げた。他人に興味を持たなかったのは俺の責任であり、団長は何も悪くない。以前の俺が団長にそう言われていても、上からの命令だからとこなすだけで、逆に理想の姿から遠ざかっていただろう。
エルネスティ様が危険に晒され自分の未熟さと欠点を痛感した今だからこそ、団長の言葉に意味と重みがあるんだ。
「俺はこれまで、殿下はお強いからお前がその方面に疎くても大丈夫だと自己完結させて、部下の教育を怠った。これは上司として有るまじき行為だ」
「……例えそうだとしても、俺にとって団長は理想の上司です。俺は団長のお陰でこれからすべきことがわかりました。団長がいなければ俺は先走って、取り返しのつかないことをやらかしていたはずです。だから、感謝させてください。見習うべき師として、慕わせてください」
「……そうか。ありがとう」
団長は弱々しく笑った。団長は俺のことでこれだけ四苦八苦してくれるんだ。そんな団長が俺は変われると応援してくださっている。それに応えなくては。
「……おっ。殿下がお戻りになった。そら、ちゃんと殿下と話し合って、仲直りして来い」
団長は俺の背後にある出入口を見ながらそう言い、俺の肩を叩いた。俺は深く、強く頷いて、エルネスティ様と和解すべく振り返った。
エルネスティ様が走り去った後、団長が呆れたように、非難するように溜息をついた。俺は何も言えずにただただ俯く。
「いくら何でもさっきのは騎士としても失格だ。護衛対象となる皇族の命令に従えない奴なんて、騎士でもなんでもない。ただの謀反者だ」
「……すみません」
俺は深く頭を下げた。確かにさっきは頭に血が上って騎士として有るまじき行動をしてしまった。最悪色んな意味で首を切られてもおかしくはない。
それでも、鍛錬を止める訳にはいかないんだ。
「……お前、何を焦っている?」
団長は全てを見透かすように目を細めて聞いてくる。有無を言わせないその迫力に俺は怖気付きながらも、ぽつぽつと言葉を零した。
「……陛下が、こう仰いました」
* * *
これは建国記念式典の次の日、エルネスティ様が陛下と謁見し、自室に戻られた後。俺は個別に陛下に呼び出された。一介の騎士に陛下が態々何の用だろうかと初めは疑問に思ったが、陛下の第一声で全てを悟った。
「お前は一体、エルネスティの何なのだ?」
俺は直ぐにシーウェルト王子の件で責められていると感じた。俺は言葉が詰まりそうになるのを必死に我慢して、絞り出すように言った。
「私はエルネスティ様の騎士です」
と。
すると陛下は抑揚のない声で続けられた。
「ならお前は一体何をしていた?」
俺は心臓が押し潰されそうになった。今回はエルネスティ様が直ぐに異変に気づいて回避出来たが、本当ならエルネスティ様の手を煩わせる前に俺が対処すべきだったのだ。自分の不甲斐なさに吐き気がした。
俺が俯いて唇を噛み締めていると、陛下が深く溜息をつかれた。俺は思わず肩をビクリとさせる。
「エルネスティはお前を大切にしているから、出来れば奪うような真似はしたくない。お前をエルネスティの専属護衛騎士から外すことはしたくない。だがいつまでもお前がそうなら、我も手段を選ばぬぞ?」
手段を選ばぬとは、一体。俺がちらりと陛下を伺うと、陛下はこちらを睨みつけていた。
「婚約の話。我は本気だぞ。お前が専属護衛騎士を務められないなら、別の手段でエルネスティの手元に留めるのみ。お前の実家は伯爵。皇族と結婚するほどの身分は持ち合わせている。幸いエルネスティ自身はお前と結婚するのに抵抗はないようだしな」
それはつまり、俺が弱くてもお情けでエルネスティ様のお側に留め置くと言うこと。
それは嫌だ。
俺はエルネスティ様の専属護衛騎士だ。騎士として、エルネスティ様をずっとお側でお護りしたい。
なのにそんな形でお側にいても、意味がない。俺のこの気持ちは騎士としての、かけがえのない忠誠なのだ。それはこれまで義務として騎士をしていた俺にとって、初めての自発的な忠誠だ。
結婚は一生伴侶を側で護ることになると言うけれど、俺はお側にいる権利をそんな狡い方法で手に入れたくない。
エルネスティ様もきっと、騎士としての俺に側にいて欲しいに決まっている。結婚に夢を描いていると仰っていた。そんななけなしの結婚なんて、望まないに決まっている。
何よりお前では護れないと烙印を押された俺なんかをエルネスティ様のお側に留めておくなんて、俺自身が許せない。
俺がギチリと拳を握りしめると、もう一度陛下から溜息が零れた。
「……それだけ嫌であれば、努力するのだな」
それは俺にとっての、最後のチャンスみたいなものだ。これ以上陛下に失望されないように、エルネスティ様を危険から護るために。
俺は止まることを許されない。
* * *
「……っですから!俺はもっと鍛錬して、もっと強くならないといけないんです!そうしないと、俺は俺の望む形であの方のお側にいることが出来ない!」
俺は湧き出す感情が抑えきれずに叫んだ。周りの騎士が普段の俺らしくないことに、息を呑むのを感じた。
団長は静かに俺の話を聞いていたが、俺が話し終えると少しの思案の後、俺の頭に思いっきり鉄拳を叩き込んだ。俺はあまりの痛さにしゃがみこんで悶絶する。
「……それで?自分が弱いせいで立場が危うくなったから、殿下の気遣いも無下にして癇癪を起こしたのか?」
「……っ!俺はただっ!」
「ただもクソもない。お前にどんな苦悩があったとしても、さっきのお前の言動はただの癇癪を起こした子供だ。『騎士』には程遠い」
団長の断言に俺は反論出来なかった。騎士失格であると、自分でもわかっているからだ。
「……お前は、自分に何が足りないかわかっているか?」
「強さです」
「違う。お前は十分すぎるぐらい強い」
「えっ……!?」
団長の予想外の言葉に俺は困惑した。俺は自分が強いと思ったことがないし、もし強いとしてもそれなら何故エルネスティ様を護ることが出来ないのか説明出来ない。
当惑する俺に団長は溜息をつく。
「お前に足りないのは、周りへの興味だ」
「……興味?」
さっきから団長が予想外の言葉ばかり連発するから俺は困惑しっぱなしだ。騎士として足りないのが周りへの興味……?
「ああ、と言うより人間として興味が足りてない。お前は他人から向けられる感情に疎すぎる。見える危険に対しては誰よりも強いが、隠された殺意には誰よりも弱いんだ、お前は」
「……なら殿下の周りに興味を持てば良いのですか?」
「自分の周りすらも気にかけない奴が、他人の周りを気にかけることが出来るものか。まずお前自身が、お前の周りに興味を持て」
団長はそのように言うが、何をすれば良いのだろうか。俺は別にそんなつもりはないのだけど。と言うより俺って周りの人に興味がないのか。これが普通だと思っていた。
……こう言う感覚の違いが、変人なんだろうか。
「まずお前は近衛騎士団で孤立している現状をどうにかしろ。気にする気にしないって次元じゃない。お前はもっと周りの人間と関わりを持て。そうすれば自然と周りにも目が行くようになるだろ」
「周りの人と……」
「後、実家とのいざこざを何とかしろ」
「実家、ですか」
俺はキョトンとした。騎士団での孤立を何とかすべきなのは理解出来るが、実家は俺が家出して騎士団に入団したことで丸く収まったんじゃないのか?
「……式典でサルメライネン伯爵と話す機会があったが、お前の身を案じていたぞ。それと同時に何故学園にも通わず騎士団に入ろうと思ったのかわからないと言っていた。家出同然だと言っていたがどうせお前、詳しい説明もせず騎士団入団を直談判したんだろ。そりゃ猛反対もされる」
「……ですが跡継ぎが兄上に決まって父上は満足なのでは」
「伯爵の心配はその話じゃない。ただただ息子が心配な父親心だ。それに気づけないからお前は朴念仁で殺意に疎いんだ」
朴念仁、疎い。俺の心にグサグサ刺さった。でも確かに家族の心配すら気づけない鈍感野郎が、周りを常に警戒することなんて出来ないな。
やはり俺は未熟者だ。神童だなんて謳われているが、実際は何の力もない弱い人間だ。
俺が自責の念にかられていると、団長は励ますように俺の肩を叩いた。
「そう自分を責めるな。お前は身体的には誰よりも強いんだ。式典でも、殿下の重力魔法を受けてピンピンしていただろ?魔法耐性の訓練を受けていない人間だと木っ端微塵に潰れていてもおかしくなかったんだ。努力は着実に身を結んでいる。その調子で頑張れ。騎士として望ましい対処法とかも教えてやるから」
「……ですが、こんな弱い俺がエルネスティ様の騎士だなんて名乗れる訳がありません」
「そう焦るな。お前はまだ若いし、吸収力が桁違いに高いんだ。今からでもきちんと訓練すれば変われる。お前にはチャンスが与えられたんだ。今名乗れなくても、名乗れるようになれば良いんだ。足掻いてみせろ。相談には何時でも乗る」
「……はい、わかりました。頑張ります。ありがとうございます」
俺は深々と頭を下げた。やるせない気持ちはあるが、エルネスティ様のためだ。耐えてみせる。乗り越えてみせる。そしてエルネスティ様を護れる強さを手に入れてやる。
「……まさかお前が上からの命令に背いてここまで感情的になるとはな……」
「何か仰いましたか?」
すると団長の方から何か独り言が聞こえた。何を言っているかは聞き取れず、俺は頭を下げたままちらりと団長を見上げる。団長の表情には後悔が浮かんでいた。
「……いや、最初からこうすべきだったのだな、と思ってな」
「……こうすべき、とは?」
「お前は変人だから、俺たちとは感覚が違うんだ。正しようがない。そう思っていたが、違ったな。ちゃんと伝えていれば、お前はもっと早く変われていたかもしれない」
「そんなことはありません!きっと今までの俺なら、他人に興味を持てと言われても義務的にしかしなかったはずです!」
俺は慌てて上体を上げた。他人に興味を持たなかったのは俺の責任であり、団長は何も悪くない。以前の俺が団長にそう言われていても、上からの命令だからとこなすだけで、逆に理想の姿から遠ざかっていただろう。
エルネスティ様が危険に晒され自分の未熟さと欠点を痛感した今だからこそ、団長の言葉に意味と重みがあるんだ。
「俺はこれまで、殿下はお強いからお前がその方面に疎くても大丈夫だと自己完結させて、部下の教育を怠った。これは上司として有るまじき行為だ」
「……例えそうだとしても、俺にとって団長は理想の上司です。俺は団長のお陰でこれからすべきことがわかりました。団長がいなければ俺は先走って、取り返しのつかないことをやらかしていたはずです。だから、感謝させてください。見習うべき師として、慕わせてください」
「……そうか。ありがとう」
団長は弱々しく笑った。団長は俺のことでこれだけ四苦八苦してくれるんだ。そんな団長が俺は変われると応援してくださっている。それに応えなくては。
「……おっ。殿下がお戻りになった。そら、ちゃんと殿下と話し合って、仲直りして来い」
団長は俺の背後にある出入口を見ながらそう言い、俺の肩を叩いた。俺は深く、強く頷いて、エルネスティ様と和解すべく振り返った。
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