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波乱の建国記念式典
お口つるっつる
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それからサムエルはまるで氷の上を滑るかの如くお口をつるっつると滑らせて事情を説明してくれた。
サムエルはベイエル王国のとある孤児院に捨てられた孤児であったそうだ。物心ついた時には孤児院にいたため、両親の顔を知らない。孤児院の院長も両親の手がかりとなるものを何も持っていなかったらしい。ある日突然布一枚で包まれた赤子が門前に捨てられていたのだ。無理もない。
そうしてその赤子はサミュエルと名付けられ、孤児院で育てられた。質素な生活であったが、生きることには困らない。そんな幼少期を過ごしたそうだ。
サミュエルは歌が好きであった。孤児院が併設されている教会で月に一度、聖歌隊が祈りの歌を歌う行事があり、彼はいつも楽しみにしていたらしい。歌うことも好きであったが、ベイエル王国は宗教色が色濃く、歌は神のお言葉であるという教えが一般的だ。したがって歌は神聖なものにして軽々しく歌うことを禁じられている。サミュエルも何度か歌って、院長にこっぴどく叱られたことがあったらしい。怒った院長は物怖じしないサミュエルでさえも怖く、院長の言いつけには大人しく従っていたそうだ。
だけど歌いたい欲が抑えきれず、人目を避けていつも歌っていたらしい。孤児院の側の、森の中で。そしてそこでサミュエルと同じく歌が好きだと言う若い男性と出会った。2人は意気投合し、定期的に待ち合わせをして、2人で歌ったそうだ。その男性は沢山の歌をサミュエルに教えたらしい。歌を教わる機会のないサミュエルにとっては、まるで天国のような時間であったとか。
だがある日、孤児院のお使いで街に出た時、サミュエルは無意識のうちに歌ってしまった。ただ歌っただけなら説教だけで済むが、その時歌ったのがなんと帝国聖歌、つまりハーララ帝国の国歌だったらしい。
両国は友好条約を結んでいるとは言え、長年の蟠りがなくなった訳ではない。逆に従属的な条約であることに不満が溜まっていた。まだまだ帝国は敵だと考える人が多い中で、帝国の建国と栄光を祝う歌を歌えばどうなるか。
しかも運悪くその歌を反帝国派の貴族に太いパイプを持つ憲兵に聞かれてしまったそうだ。サミュエルはあることないこと捏造されスパイ容疑で捕まり、国家反逆罪で処刑されることになった。
めっちゃ不運。普通なら一時は捕まるとは言え、直ぐに無実を証明されて厳重注意だけで済むのに。反帝国派が友好派の人間に『大々的に動くとこうなるぞ』と言う脅しをするのに利用されたのだ。まあそもそも帝国聖歌なんて歌わなければ良かったのだけど。サムエル曰く「歌いたい時に歌いたい歌を歌わなくてどうするんですかあ」らしい。
でもまあサミュエルも流石に収監所に入れられると焦るもので、死にたくない、もっと歌を歌っていたいと強く願ったらしい。檻の中では歌どころか声ひとつ発することが許されない。歌を禁止され、後は死を待つのみ。気が狂いそうになり、サミュエルは情緒不安定になったそうだ。
そしてそんな極限状態の中でサミュエルは、後天性適正魔法属性が開花した。後天性適正魔法属性の開花とは、存在しないはずの魔法属性が、身体的・精神的に酷く追い詰められた時に、ごく稀に使えるようになる現象のことだ。
俺は全属性適正ありの俺TUEEEEテンプレ乙だが、後天性適正魔法属性の魔法は使えない。通常この世に存在しないはずの属性だからだ。別名は『禁忌属性』であり、基本的に人権を著しく侵害したり、個の生体を著しく変化させたりと、倫理的に問題がある魔法が多い。だから禁忌属性の使用を禁じる国もある。ハーララ帝国やベイエル王国は違うが。
話を戻すがサミュエルは禁忌属性が開花し、変装魔法を使えるようになった。それにいち早く目をつけたのが、シーウェルト王子であった。快刀乱麻を断つが如くサミュエルの無実の証拠をかき集め、サミュエルを解放するまで至った。
そして自由となったサミュエルにこう言ったらしい。
「自由に歌が歌いたいなら、私の駒になってハーララ帝国に紛れ込んで欲しい」
ハーララ帝国なら宗教が違うので、自由に歌が歌える場所だと、そう教わったそうだ。そしてシーウェルト王子に協力することで彼が国王となれた暁には、サミュエルを王族所有の音楽隊に入隊する、と。自由に歌っても咎められないと言う魅力に飛びついたサミュエルは、二つ返事で了解したらしい。
そしてシーウェルト王子に『ランテル』という姓をいただき、とある人に諜報員としての訓練を受けた。意外にも素質はあったらしく、直ぐに一人前となり、我が国の騎士『サムエル・ランデル』として紛れ込んだ。
それから先は先日聞いた通りだと言う。
……うん。色々ツッコミさせて?
マジでなんで態々帝国聖歌を歌ったの?いや「歌いたかった」じゃなくて。歌のためにガチで命削ってるじゃん!てかなんで帝国聖歌なんか知ってんの?歌仲間の男の人が教えたの?なんでそんな危険な歌を教えたんだその人??
てか何だよ森の中で歌仲間と出会ったって!怪しい!怪しすぎる!なんで森の中なんかにいるんだよ!?てかサミュエル嵌められてない!?絶対その男の人に嵌められたよね!?
それに歌を禁止されて禁忌属性が開花するって、薬物の禁断症状かよ!?普通は瀕死の狭間だったり、余程の精神的ショックがない限り開花しないよ?歌わないと死ぬのかよ!?
極めつけは諜報員になった理由!歌のためとは言え、仮想敵国に紛れ込むって相当危険だよ?サミュエルの脳内では『歌>命』なのか?それとも危険性を十分に理解してなかったのか??どっちにしてもそんな人を諜報員として敵国に送り込むって、シーウェルト王子も色んな意味で恐ろしいことをしたな!
そんでもってハーララ帝国でも自由に歌えないとわかるや否やシーウェルト王子に地獄に堕ちれば良いって?一応シーウェルト王子は命の恩人だよ?薄情すぎない??善悪の基準が歌に振り切りすぎでしょ末恐ろしい!
……ふう。ツッコミしたらちょっと落ち着いた。やべぇなサムエル。波乱万丈だ。天性の変人だ。
……でも、どうしようかな。普通なら即刻処刑台なんだけど。変装魔法の持ち主か……欲しいな。
まあとりあえず皇帝陛下の御前にサムエル突き出すか。うんそうしよう。
サムエルはベイエル王国のとある孤児院に捨てられた孤児であったそうだ。物心ついた時には孤児院にいたため、両親の顔を知らない。孤児院の院長も両親の手がかりとなるものを何も持っていなかったらしい。ある日突然布一枚で包まれた赤子が門前に捨てられていたのだ。無理もない。
そうしてその赤子はサミュエルと名付けられ、孤児院で育てられた。質素な生活であったが、生きることには困らない。そんな幼少期を過ごしたそうだ。
サミュエルは歌が好きであった。孤児院が併設されている教会で月に一度、聖歌隊が祈りの歌を歌う行事があり、彼はいつも楽しみにしていたらしい。歌うことも好きであったが、ベイエル王国は宗教色が色濃く、歌は神のお言葉であるという教えが一般的だ。したがって歌は神聖なものにして軽々しく歌うことを禁じられている。サミュエルも何度か歌って、院長にこっぴどく叱られたことがあったらしい。怒った院長は物怖じしないサミュエルでさえも怖く、院長の言いつけには大人しく従っていたそうだ。
だけど歌いたい欲が抑えきれず、人目を避けていつも歌っていたらしい。孤児院の側の、森の中で。そしてそこでサミュエルと同じく歌が好きだと言う若い男性と出会った。2人は意気投合し、定期的に待ち合わせをして、2人で歌ったそうだ。その男性は沢山の歌をサミュエルに教えたらしい。歌を教わる機会のないサミュエルにとっては、まるで天国のような時間であったとか。
だがある日、孤児院のお使いで街に出た時、サミュエルは無意識のうちに歌ってしまった。ただ歌っただけなら説教だけで済むが、その時歌ったのがなんと帝国聖歌、つまりハーララ帝国の国歌だったらしい。
両国は友好条約を結んでいるとは言え、長年の蟠りがなくなった訳ではない。逆に従属的な条約であることに不満が溜まっていた。まだまだ帝国は敵だと考える人が多い中で、帝国の建国と栄光を祝う歌を歌えばどうなるか。
しかも運悪くその歌を反帝国派の貴族に太いパイプを持つ憲兵に聞かれてしまったそうだ。サミュエルはあることないこと捏造されスパイ容疑で捕まり、国家反逆罪で処刑されることになった。
めっちゃ不運。普通なら一時は捕まるとは言え、直ぐに無実を証明されて厳重注意だけで済むのに。反帝国派が友好派の人間に『大々的に動くとこうなるぞ』と言う脅しをするのに利用されたのだ。まあそもそも帝国聖歌なんて歌わなければ良かったのだけど。サムエル曰く「歌いたい時に歌いたい歌を歌わなくてどうするんですかあ」らしい。
でもまあサミュエルも流石に収監所に入れられると焦るもので、死にたくない、もっと歌を歌っていたいと強く願ったらしい。檻の中では歌どころか声ひとつ発することが許されない。歌を禁止され、後は死を待つのみ。気が狂いそうになり、サミュエルは情緒不安定になったそうだ。
そしてそんな極限状態の中でサミュエルは、後天性適正魔法属性が開花した。後天性適正魔法属性の開花とは、存在しないはずの魔法属性が、身体的・精神的に酷く追い詰められた時に、ごく稀に使えるようになる現象のことだ。
俺は全属性適正ありの俺TUEEEEテンプレ乙だが、後天性適正魔法属性の魔法は使えない。通常この世に存在しないはずの属性だからだ。別名は『禁忌属性』であり、基本的に人権を著しく侵害したり、個の生体を著しく変化させたりと、倫理的に問題がある魔法が多い。だから禁忌属性の使用を禁じる国もある。ハーララ帝国やベイエル王国は違うが。
話を戻すがサミュエルは禁忌属性が開花し、変装魔法を使えるようになった。それにいち早く目をつけたのが、シーウェルト王子であった。快刀乱麻を断つが如くサミュエルの無実の証拠をかき集め、サミュエルを解放するまで至った。
そして自由となったサミュエルにこう言ったらしい。
「自由に歌が歌いたいなら、私の駒になってハーララ帝国に紛れ込んで欲しい」
ハーララ帝国なら宗教が違うので、自由に歌が歌える場所だと、そう教わったそうだ。そしてシーウェルト王子に協力することで彼が国王となれた暁には、サミュエルを王族所有の音楽隊に入隊する、と。自由に歌っても咎められないと言う魅力に飛びついたサミュエルは、二つ返事で了解したらしい。
そしてシーウェルト王子に『ランテル』という姓をいただき、とある人に諜報員としての訓練を受けた。意外にも素質はあったらしく、直ぐに一人前となり、我が国の騎士『サムエル・ランデル』として紛れ込んだ。
それから先は先日聞いた通りだと言う。
……うん。色々ツッコミさせて?
マジでなんで態々帝国聖歌を歌ったの?いや「歌いたかった」じゃなくて。歌のためにガチで命削ってるじゃん!てかなんで帝国聖歌なんか知ってんの?歌仲間の男の人が教えたの?なんでそんな危険な歌を教えたんだその人??
てか何だよ森の中で歌仲間と出会ったって!怪しい!怪しすぎる!なんで森の中なんかにいるんだよ!?てかサミュエル嵌められてない!?絶対その男の人に嵌められたよね!?
それに歌を禁止されて禁忌属性が開花するって、薬物の禁断症状かよ!?普通は瀕死の狭間だったり、余程の精神的ショックがない限り開花しないよ?歌わないと死ぬのかよ!?
極めつけは諜報員になった理由!歌のためとは言え、仮想敵国に紛れ込むって相当危険だよ?サミュエルの脳内では『歌>命』なのか?それとも危険性を十分に理解してなかったのか??どっちにしてもそんな人を諜報員として敵国に送り込むって、シーウェルト王子も色んな意味で恐ろしいことをしたな!
そんでもってハーララ帝国でも自由に歌えないとわかるや否やシーウェルト王子に地獄に堕ちれば良いって?一応シーウェルト王子は命の恩人だよ?薄情すぎない??善悪の基準が歌に振り切りすぎでしょ末恐ろしい!
……ふう。ツッコミしたらちょっと落ち着いた。やべぇなサムエル。波乱万丈だ。天性の変人だ。
……でも、どうしようかな。普通なら即刻処刑台なんだけど。変装魔法の持ち主か……欲しいな。
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