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波乱の建国記念式典

結婚は男性も女性も大変

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「そうそう、最後にひとつ話がある」

俺がそろそろお暇しようとした時、父上から呼び止められた。はて、なんか話してないことでもあったっけ?

「はい。何でしょうか?」

「パルヴィアイネン公爵家の処分は罰金と長女の社交界永久追放だけとなった」

「……パルヴィアイネン公爵?」

俺は聞き覚えのあるようなないような名前に首を傾げる。確か……そうだ!歴代に数多くの皇后を輩出し、多くの皇女も嫁入りした、皇族家の次に権力があると言われる名門中の名門だ。はて、何故そんな公爵の話を俺にするのだろうか?

「そうだ。……わかっていないようだな。パルヴィアイネン公爵の長女が昨日、お前にオレンジジュースを誤って・・・かけてしまったからな。事故で未遂とは言え何かしらの処罰は必要だ」

「……彼女、パルヴィアイネン公爵の者だったのですね」

「そうだ。あまり大々的な処罰は出来なかったが」

「私は正直どうでもいいので父上に任せます」

「お前ならそう言うと思っていたぞ」

父上はくつくつ笑う。普通オレンジジュースぶっかけられたら怒るわな。俺は飄々としているどころか眼中にも無いけどな!

「残念だ。パルヴィアイネン公爵の長女はお前の婚約者候補だった」

「今回の件で私とだけでなく、貴族全員から婚約は避けられるでしょうね。一生独身でしょうか。それはそれで可哀想ですね」

「お前が娶れば丸く収まるが、それは有り得ぬな」

「わかりきったことを」

俺がさらりと断ったのに父上は肩を揺らして笑った。社交界永久追放ってことは、公的・私的問わずパーティなどの催し物に一生出られない。婚約前に皇族の御前であの失態と、社交界永久追放だ。今ある婚約の話は全て頓挫だろう。結婚出来ない女性は不名誉で外聞が悪く、下手したらその家の名前にも傷をつける。まあ今回の件は完全な自業自得だから、俺が助ける義理もないけど。

「いやいや、お前が彼女に一目惚れしていたら話は別であろう?」

「それこそ有り得ないですよ。私の性格をご存じでしょう」

「色恋事に全く興味ないどころか魔法陣の研究をする時間が減ると忌み嫌いそうだな」

「全くもってその通りです」

俺は力強く頷いた。色恋事など面倒なことこの上ない。恋やら愛やらは時間だけでなく思考すらも奪っていく。そんなもの今の俺には必要ない。

「それに私は結婚するつもりはございません」

「……ほう?何故」

「今は帝位継承権争いが煩わしいのと、例えそれが落ち着いたとしても、私が子供を残すと後々面倒なことになりかねないので」

「……なるほど。男女の営みも出来ぬ相手と結婚するのは不憫だと」

父上は納得したように相槌を打つ。皇帝血筋以外の皇族の血が残るのは、権力やらのいざこざが生じる一番の原因だ。そんなの関係ねぇって産む人たちもいるけど。まあ産んだとしてもそんな面倒なことにならないよう手回しするなら、別に駄目なことではないのだ。それが存外面倒である。面倒事は出来る限り避けるのが俺のモットーだからね。例外はあるけど。

「そのことに理解がある者と結婚すれば良いのではないか?」

「私はこれでも結婚に夢描いている人間なので。形だけの夫婦などは願い下げです」

「お前が!結婚に!夢!色恋に興味ないのにか!」

「結婚する気がないからこそ!現実を見ないで済むからですよ!」

俺の言葉に父上は爆笑した。いや確かに俺が結婚に夢見てるとか違和感しかないけど!自分に関係ないからこその偶像崇拝だよ!そんだけ笑うのは失礼じゃない!?あっ、こらヴァイナモ!笑いが堪えきれてないの、見え見えだかんな!

「あっはっは。久々にこれだけ笑った」

「失礼じゃありません?」

「お前にそんな要素を見出す方が難しいと言う話だ。でもそうか……お前が許容出来るなら、男と結婚するのはどうだ?」

「男と、ですか」

父上はニヤニヤと笑いが止まらぬまま提案した。どうした、父上!めっちゃ俺に結婚を勧めるじゃん!あれか!俺の手網を握れる人が欲しいのか!なんだよ父上!俺のこと信用出来ないのかよこう思うのも何度目だ!?

まあそれはそれとして。この国で同性婚が認められている理由のひとつに、男が権力関係のいざこざを避けるためと言うのがある。

昔、皇族は帝位継承権争い、貴族は爵位継承権争いで、血で血を洗う争いが絶えない時代があった。もちろん進んで争う者もいたが、その中には帝位爵位に興味がないのに、条件を満たすからと言う理由だけで争いに巻き込まれた者も数多くいた。それを憂いたその時代の皇帝が、同性婚を許した。跡継ぎを産めなければ、帝位も爵位も継げないからだ。

「確かに今の私にはうってつけですね」

「いざとなれば我が用意してやろう。理想はどんな人だ?」

「それは結構です」

何が悲しくて自由恋愛出来る身分で父上主催のお見合いをするんだ。良い人くらい自分で見つける。父上最近俺に対して過保護すぎ!放っておいてくれちょっと嬉しいんだよこんちくしょう!

「まあ紹介云々は置いておいて、理想ぐらいは教えてくれぬか?」

「理想、ですか……」

理想は誰かと聞かれると困る。前世は普通に女の子を好きになったし、今世ではまず人との関わりが少ない。齢10歳の俺の世界は思った以上に狭い。

あっ、でも。

「ヴァイナモですね」

「……はいっ!?」

「おお!そうかそうか!丁度ヴァイナモも男と結婚するメリットがあるだろう!今すぐ婚約するか!?」

「ちょっと待ってください!私はただ理想と言うだけで、ヴァイナモと結婚するつもりはありません!」

俺がポロッと出した答えに2人とも過剰反応してしまった。ヴァイナモはらしくない大声を出して驚くし、父上は何故か色々すっ飛ばして婚約させようとするし!待ってそんな反応、予想外だって!

だってヴァイナモはぐうイケメンだし!ぐう優しいし!ぐう気が利くし!ぐう有能だし!紛うことなき優良物件じゃん!

「何故だ?双方メリットがあるならさっさと既成事実を作った方が楽だぞ?」

「それではヴァイナモの意思が考慮されていないじゃないですか」

「……ほう?ヴァイナモの、か?」

「……?はい、そうですが」

父上は興味深そうに上体を前に乗り出した。ん?なんか俺、おかしいこと言ったか?ヴァイナモはもしかしたら同性愛を受け付けないかもしれないし、もう好きな人がいるかもしれない。そんな中で俺と無理矢理結婚とか、出来ないよ。

「だそうだぞ、ヴァイナモ」

「……ご冗談を」

「あっはっは。まあ手遅れにならぬようにな」

父上はいよいよ上機嫌だ。なんだ?何がそんなに嬉しいんだ?疑問に思ってヴァイナモの方を見ると、ヴァイナモは手で顔を隠して俯いている。ちらりと見える耳は真っ赤だ。恥ずかしがってる?

……って、あああああ!!理想がヴァイナモとか!!告白みたいじゃん!!

「ヴァイナモ!これは決して愛の告白とかではありませんからね!あくまで理想!そう!理想を言っただけですから!」

「わかってます!わかってますから……!少しそっとしておいてください……!」

「すみません!本当にすみません!」

ヴァイナモはいたたまれなくなったのかこちらに背を向けてしゃがみこんでしまった。ああ……悪いことしたな……絶対気分悪いよな……男に結婚する理想の人とか言われるの……。

おいコラ父上!ニヤニヤしてこっち見んなし!目を逸らしたくなるほどの悪役ヅラになってんぞ!怖すぎ!ヤのつく人かっ!




* * * * * * * * *




2020/07/16
中盤、主人公のセリフの一人称を『俺』から『私』に修正しました。


2020/07/17
○注釈◯
『ぐう』
ネットスラングのひとつであり、『ぐうの音も出ない』の略。本作品では『とても』『凄く』の意で使用しております。
コメント欄にてご指摘されたので注釈を入れさせていただきます。
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