上 下
24 / 219
帝位継承権争い?興味ねえ!

彼は俺ではなく天使を見ている

しおりを挟む
「はあ……。やはり似合ってる……!天使だ……。天使が目の前に舞い降りた……!」

二重魔法陣の実験の数日後、建国記念式典用の衣装が完成したとのことで、ペッテリがやって来て最終調整を行っている。採寸は寸分の狂いもないのは、ペッテリのプロの意地か、天使崇拝者変人の根性か。十中八九後者だろうな。ペッテリは被服関連にはあまり興味ないし。職人がそれで良いのかって話だが、仕事の出来は優秀なので問題ないだろう。

彼の世界は常に天使中心で回っているのだ。

「どうでしょうかエルネスティ様……!渾身の出来です……!正に僕の理想の天使……!目に焼き付けないと……!」

「ええ。サイズはピッタリですし、衣装の最低限のしきたりも守れてますね。ダンスも難なく踊れそうですし。ちょっとこのマントが邪魔ですが」

「それは理想の天使の必需品です……!外さないでくださいね……!」

「外しませんよ。ペッテリならこのマントを計算に入れて全体のバランスをとっているのでしょう?」

「もちろんでございます……!ひらりと舞われる度に天使が幸せを運ぶかの如く光を反射してキラキラと輝き……!楽園の匂いがふわりと香る……!」

「もしかして香水を染み込ませたりしてます?」

「いえいえ……!長く香りが続く匂い袋を縫い付けております……!」

俺はマントをひらひらさせながらペッテリの話を聞いた。匂い袋が縫い付けてあるって、どこにだ……?重さでわかりそうなのに、わからん。でもふわりと丁度いい香りが動く度に香るから、どこかにはあるんだろうけど。

俺は振り返って後ろに控えていたヴァイナモに意見を聞いてみた。くるりと1回ターンをする。

「ヴァイナモ、どうでしょう?」

「……とてもお似合いですよ。ただし、珍しいデザインなので目立つことは間違いありませんが」

「まあ目立つのは別に構いませんから。似合ってるのであれば良かったです」

ヴァイナモは優しく微笑みながらも少し心配そうだ。俺は周りの目にはあまり興味ないから気にしてないんだけどな。まあそれでも不躾な視線は鬱陶しくはあるけど。ペッテリが折角デザインしてくれたから、着ていきたい。

「その姿でダンスを踊れば視線を独り占めすること間違いなしです……!ああ……!願わくばヴァイナモ様の衣装も作りたかった……!天使の隣に一番相応しい守護者ガーディアンに仕立てあげたと言うのに……!」

「すみません、俺は騎士団所属なので公式の場には騎士団の制服で行く決まりがあります」

「わかっています……!だから口惜しいのです……!」

ペッテリは悔しそうに座り込んで床をダァァンッと叩いた。いくら掃除しているとは言え、ばっちいぞ?ペッテリよ。

「ですからヴァイナモ様……!是非天使の本領発揮出来るよう、完璧なエスコートお願いしますね……!」

「承知しておりますよ。責任重大ですね」

「はい……!僕の全神経を使ってヴァイナモ様に重圧をかけさせていただきますね……!」

ペッテリは手をワキワキさせながら何か不穏なオーラを醸し出している。おいコラ、ペッテリ。俺のことは好きに言ってもいいが、ヴァイナモに迷惑かけんじゃねえ。

「あまりヴァイナモを気負わせないでください、ペッテリ」

「ですが……!僕の天使……!」

「貴方だけの天使ではありません」

俺がピシャリと言うとペッテリはハッとなった。そして素早く土下座の体勢をとった。ペッテリよ、時々出るその神速は何なんだ。

「申し訳ございません……!僕、理想の天使をコーディネート出来ることに舞い上がって、自分のものなどと烏滸がましいことを口にしてしまいました……!どうかご慈悲を……!」

「いえ、わかっているのであれば構いませんよ。貴方の信仰に私が口出しすべきではありませんので」

「ああ……ありがとうございます……!神に感謝を!森羅万象に万歳!」

ペッテリは土下座と万歳を繰り返す。なんか見慣れてしまった自分が怖い。これが俺自身・・・に対する信仰じゃなくて本当に良かった。こんなん向けられたら気が狂いそうだ。

……ん?俺への信仰じゃないのかって?違うよ。ペッテリは天使を信仰しているのであって、俺を信仰している訳じゃないから。ヤルノからも言質とったし。


* * *


これは二重魔法陣の研究をした後、ヤルノが帰る時の話である。

「そう言えば、殿下。ペッテリが、そろそろ衣装が完成すると申してました」

「ああ!そうですか。最終調整の日程をまた決めないといけませんね」

荷物をまとめていたヤルノがふと手を止めて俺にそう言ってきた。俺は上機嫌になりながら日程を確認する。と言っても用事なんてそうそうないので、何時でも良いのだが。

「楽しみです。ペッテリはどんな衣装を仕立てて来るのでしょうか」

「……デザイン案はご覧になったのですよね?」

「ええ。ですが実物を見ないとわからないこともあるじゃないですか。彼はどのようにして理想の天使を作り上げるのでしょうか」

俺がワクワクしながらそう答える。するとヤルノは微妙な表情を浮かべ、言いにくそうにおずおずと口を開いた。

「……あの、失礼を承知で申し上げるのですが、ペッテリは決して殿下ではなく……」

「ああ、私自身ではなく、私が持つ天使のような容姿を崇拝しているのでしょう?」

「……ご存じでしたか」

俺が言葉を先回りしたとこにヤルノは瞠目した。まあペッテリのあの反応は勘違いされやすいだろうな。俺じゃなきゃ誤解されてたかも。

「ええ。ペッテリは私の見目には興味ありますが、私の中身には興味がありませんでしたから。今回の衣装も私のためでなく、彼の中にある理想の天使のためでしょうし」

「……ペッテリをご理解していただき、ありがとうございます」

ヤルノは恭しく頭を下げた。その姿からこれまでの苦労が滲み出ており、今まで数え切れないほど誤解され、その度にヤルノがカバーしていたんだろうなということが伺えた。

「……苦労されているのですね」

「はい……天使だと他人を崇めると相手が勘違いするので……。しかもアイツは顔が良いので、勘違いした相手が面倒なことを起こして……」

「……本当にお疲れ様です」

言葉は続かないが、その哀愁漂う表情からどんなことがあったかは何となく想像出来る。でもペッテリが人間不信になっていないのは他人に興味がないからか、ヤルノがカバーしたからか。両方だな。

「……ですから、今までになく容姿に心酔している貴方がご理解していただけるなら、私も安心して貴方にペッテリを頼めます。どうか、ペッテリを宜しくお願い致します」

ヤルノは再び頭を下げた。幼馴染のペッテリが本当に大切なのだろう。もしかすると、それ以上の感情があるのかもしれない。だがそこに踏み入ると言うのは野暮というものだ。

「はい。私も気にかけておきますね」

俺は笑顔で了承した。ペッテリは俺にとってもいて欲しい人材なので、断る理由もない。寧ろ言われなくても気にかけるつもりだったのだ。


* * *


「……どうなさいましたか?エルネスティ様」

黙り込んだ俺の顔をヴァイナモが覗き込んで来た。ペッテリは尚も土下座と万歳を繰り返す。俺はペッテリを一瞥した後、にっこりと笑った。ヴァイナモは不思議そうにしながらも、俺に笑顔を返してくれた。

俺の周りは今日も平和である。
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

優しい庭師の見る夢は

エウラ
BL
植物好きの青年が不治の病を得て若くして亡くなり、気付けば異世界に転生していた。 かつて管理者が住んでいた森の奥の小さなロッジで15歳くらいの体で目覚めた樹希(いつき)は、前世の知識と森の精霊達の協力で森の木々や花の世話をしながら一人暮らしを満喫していくのだが・・・。 ※主人公総受けではありません。 精霊達は単なる家族・友人・保護者的な位置づけです。お互いがそういう認識です。 基本的にほのぼのした話になると思います。 息抜きです。不定期更新。 ※タグには入れてませんが、女性もいます。 魔法や魔法薬で同性同士でも子供が出来るというふんわり設定。 ※10万字いっても終わらないので、一応、長編に切り替えます。 お付き合い下さいませ。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

処理中です...