前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

文字の大きさ
23 / 221
帝位継承権争い?興味ねえ!

前進したらちょっと後退した

しおりを挟む
俺の興奮が収まった頃、俺はもう一度成功した二重魔法陣を紙に写し、ヴァイナモに渡した。魔力量の少ない人でも使えるか、それと版画板が使い回し出来るのか実験しておくのだ。

ヴァイナモは緊張した面持ちで魔力を流し込んだ。すると先程と同じように正常に発動した。

「……魔力はそこまで必要ではなさそうです。魔力枯渇の倦怠感もありません。どれくらい持続するかは今はなんとも言えませんが、直ぐに使えなくなるってことはなさそうです」

ヴァイナモは魔法陣を見つめながら真剣な表情で使った感想を述べていく。俺は自分でもわかるぐらいに目を輝かせていった。

「効果が期待出来る!実用的な!二重魔法陣ということですな!やったでありますぞ!成功でありますな!しかも版画板は使い回し可能!すごいですぞ!革命が起こりますな!」

「……まあ作る過程で魔法が得意な人が必要という難点はありますが、それでも誰でも使えるという利点が大きいですね。……本当に革命が起こりそうです」

「ならヤルノはこれから大忙しですな!私も貴方にバンバン仕事を依頼するでありますぞ!」

ヤルノはまじまじと魔法陣を見ながら、心の底から感嘆しているように呟いた。ヤルノは魔法が得意な彫刻師。この魔法陣の需要が増えれば仕事量は莫大に増えるだろう。心做しか頬が紅潮しており、これから複雑な魔法陣を彫る仕事が増えるという地獄天国を想像して、興奮しているようだ。変人が隠蔽出来てないぞ、ヤルノ。

「ヴァイナモ、イエーイです!」

俺はヴァイナモの前で手を広げた。ハイタッチの構えだ。ヴァイナモはキョトンとし、意図を汲み取ったのか戸惑いながらも手を恐る恐る広げて構えた。俺はその手を叩こうと手を振りかぶって……。

バチッ

いきなりヴァイナモの防御魔法の魔法陣が発動した。防御壁に当たった俺は手の痺れを感じながら後ろへよろける。ヴァイナモは察知魔法の魔法陣が脳内にけたたましく鳴り響いているのか、頭を抱えてしゃがみ込んだ。だが直ぐに俺が倒れそうになっているのに気づいてこちらに手を伸ばして来る。

バチッバチッ

だが防御魔法は展開したままなので届くはずもなく。逆に俺は防御壁に阻まれて余計に後ろへよろけた。ヤルノが支えてくれたので倒れるのは回避出来たが。ヴァイナモはいよいよ音が大きくなったのか、顔を白くして手で口を覆う。

「ヴァイナモ!魔法陣!魔法陣を捨ててください!」

「……っ!」

ヴァイナモは震える手から魔法陣を離した。すると音が止んだのか、ヴァイナモの表情が緩んだ。俺は直ぐに魔力を吸い取る魔法を使い、魔法陣から魔力を抜き取る。魔法陣は魔力を失い、ただの紙切れと戻った。

「ヴァイナモ!大丈夫ですか!?」

俺はヴァイナモに駆け寄った。ヴァイナモは頭を抱えたまま、弱々しく頷く。

「大丈夫……です。まだ少し残響がありますが……。すみません、音が大きすぎて……」

「わかってます、わかってます。辛いなら喋らなくても結構ですから」

俺はヴァイナモに回復魔法を使った。なんか前もこんなことがあった気がする。あの時はヴァイナモ、俺の魔力にあてられてたっけ。なんか申し訳ないな。

「……回復魔法……ですか……」

後ろからヤルノの驚いた声が聞こえてきた。そう言えばヤルノは知らなかったな。俺は人差し指を立てて内緒のジェスチャーをした。ヤルノは惚けていた表情を引き締め、神妙に頷いた。そして話題を変えるように口を開く。

「……それにしても、初めの実験ではその場に鳴り響いていたのに、何故二度目はヴァイナモ様の脳内で鳴り響いたのでしょうか」

「多分、手に持っていたからでしょうね。触れた人を自動で持ち主と判断するのでしょう」

「改善すべき点ですね」

「自動持ち主認定機能自体は良いのですが、警報を消すか、音量を抑える必要はありますね。後、察知魔法をもう少し鈍感ししないと……ハイタッチ程度で発動されては日常生活に支障をきたします」

俺は魔法陣を見つめながら、考察を広げる。何故、それぞれの魔法の効果が上昇したのか。これはあれか。昆布出汁とカツオ出汁の相乗効果的な、混ぜろそなたは強くなる的なあれか?なんか行き過ぎて逆に混ぜるな危険になってるけど。

それとも版画魔法陣の特典か?ペンで描いた魔法陣より魔力の消費量が少ないとか、その恩恵で効果upとかあるのか?原理はわかんないけど。

まあどちらにしても魔法陣の鈍感化は必要だな。今まで効果を上昇させる研究しかしてなかったから、魔法陣の効力はまた研究が必要だ。

「……とりあえずまだまだ研究が必要ですね。実用化の道は長そうです」

「そうですか……」

ヤルノは残念そうに眉を下げる。彫刻関係の精神的・肉体的苦痛に悩まされる絶望的な幸せな未来が遠ざかったからだろう。欲望に忠実だな。俺も他人のことは言えないけど。

「では早速ヤルノに依頼です。今から大量に渡す一重魔法陣を彫ってきてください」

「……これまた膨大な量なんでしょうね。また徹夜の日々ですか……軽く地獄です」

ヤルノは嫌そうな声を出してる癖に、顔は紅潮している。言ってることと反応が矛盾してるぞ!お前もう俺の前で取り繕うこと諦めてるだろ!失礼だぞ自然体でよろしい

そんなことを思っていると、回復したヴァイナモが俺の側にやって来た。大丈夫なのか?もう少し休んでて良いんだぞ?

「……成功したと思えば後退ですか……。先は長そうですね」

「そうですね。ですがちゃんと前進はしていますよ。頑張りましょう」

「……はい。俺はあまりお役には立てませんが」

「そんなことありませんよ。ヴァイナモの意見はいつも頼りにしてますし。何より……ヴァイナモはいてくれるだけで私は安心出来ます」

こういうことは素直に伝えた方が良いと、先日の件で俺は学んだ。ちょっと恥ずかしいけど。俺がはにかみながら言うとヴァイナモはキョトンとした後、へにゃりと笑った。ああ、俺はヴァイナモのその笑顔が好きだ。

「ありがとうございます。俺もエルネスティ様をお護り出来ることを、誇りに思います」

なんかむず痒いな、と頬をポリポリ搔くと、ヴァイナモも同じだったようで、頬を薄く赤らめながら後頭部を搔いた。変な沈黙だが、不思議と嫌な気はしない。

おいコラヤルノ。独り言のつもりだろうが聞こえているぞ。「人のいるところでイチャつくな」ってどういう意味だ。
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! ルティとトトの動画を作りました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...