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帝位継承権争い?興味ねえ!
変人は変人を呼ぶ
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カレルヴォ兄上と別れた後、俺は急いで応接室へ戻った。途中行き交う人達全員に凝視されたけど。俺の奇行は気にすんな!
「ペッテリ!!」
「ふわっはい!!何でしょうかエルネスティ様!」
応接室では丁度帰ろうとしていたペッテリが荷物を持って立っていた。良かった間に合った!俺が突撃して来たことにペッテリは目を白黒させている。すまんな驚かせて。でも俺も驚かされたし平等だろ!
「早速仕事ですぞ!今から言うものを揃えて来てくだされ!」
「えっ!?何時までですか!?」
「出来るだけ早くでござる!」
「わかりました!待ってください、メモをとります!」
ペッテリは慌てて手に持つ荷物からペンとメモ帳を取り出す。後ろに控えていたヴァイナモは「何故口調が違うことにツッコミを入れない……」とボソリと呟いた。多分ペッテリは他人にそこまで興味がないんだろうな!
俺は思いつく必要なものを片っ端から言っていく。ペッテリはすごいスピードでメモをとっていった。すげえ神業だ……!手が器用なんだな、ペッテリって。まあそうでないと衣装職人なんてしてないか。
ペッテリは並べられた単語を見ながら「これなら明日にはご用意出来ると思います」と伝えてきた。マジで!?早い!流石大商人の息子!ぐう有能!
ペッテリは恭しく「承りました」と頭を下げた。その洗練された姿勢を見ていると、やはり大商人の息子だけあって教育がしっかりしているな、と感心する。まあ中身はどうしようもなく変人だけどな!
* * *
そして翌日。有言実行で早速頼んだものを用意してくれたペッテリが図書館の小部屋までやって来た。応接室じゃないのって?魔法陣の資料とかが必要だからここの方が良いんだよ。
「エルネスティ様。こちらが僕の友人でアウッティ商会装飾部門彫刻技術担当のヤルノ・キルッカです。エルネスティ様のご要望に見合うのは彼かと」
「ご紹介に授かりました。ヤルノ・キルッカと申します」
「エルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララです。よろしくお願いします」
ペッテリが紹介したヤルノは一言で言うならチャラそうだ。とても仕事が出来るようには見えないけど、ペッテリが連れて来たなら腕は確かなんだろうな。
「そしてこちらがご依頼された品の数々です。ヤルノに不足分は補ってもらいましたが、代金はいかが致しましょうか」
「その道の専門家が必要だと仰ったのであれば必要なのでしょう。払いますよ」
「ありがとうございます。して、版画の道具を取り揃えて、今回は何をなさるおつもりで?」
ペッテリはヤルノと持ってきた道具を並べながら俺に尋ねて来た。そう言や言ってなかったな。あの時は興奮しすぎてそれどころじゃなかった。
「一度版画で魔法陣を描いてみようと思ったのです」
「版画で、ですか」
「はい。ペンで描くと魔法陣の線に向きが出来てしまい、逆向きに魔力を流すと摩擦抵抗が酷いので、基本的に一筆書きで描くのですが、複雑な魔法陣だと一筆書きが難しくて……版画なら線の向きが生じずどの方向からもスムーズに魔力を流せるのではないかと考えたのです」
これは昨日、カレルヴォ兄上の手形の話を聞いて思いついたことだ。一筆書き出来ないなら線の向きなんて作らなければ良いじゃない、って考えだ。
ペッテリはキョトンとした表情で俺を見つめたが、すぐに眼鏡の縁をクイッと上げてヤルノを一瞥し、俺に向き直った。
「……よく理解出来ませんが、つまりエルネスティ様はヤルノに複雑な魔法陣の版画を彫ることをご依頼されたいのですか?」
「はい。これがその図案です。出来れば魔力を込めながら彫ったものと込めずに彫ったものの二つが欲しいのですが、出来そうですか?」
俺はヤルノに魔法陣の見本図を差し出して問うた。ヤルノは見本図に釘付けになりながら、顎を持って考え込み始めた。やはり難しいだろうか?ヤルノが無理なら俺が独学で頑張るしかないけど。諦めるって選択肢はねえ。
「……とても複雑で骨が折れそうですね。私は魔力操作は得意な方ですが、作業に集中しながらとなるとかなり難しいでしょう。そうでなくても魔法陣を発動させるためには正確に彫る必要はありますし、非常に大変な作業となるでしょう」
「……やはり、無理ですか?」
「いいえ、やらせてください。難しい仕事の方が俄然やる気が出る性分なので」
真顔で難点を挙げたヤルノだが、俺が不安そうに問うと顔を上げて横に振り、やる気に満ちた目で仕事を引き受けてくれた。難しい方が燃え上がるって、なんか職人って感じがして良いな!軽薄そうなのに以外と凝り性なのか?まあ職人やってるぐらいだしそうか。
「ではよろしくお願いします」
「承りました」
ヤルノは見本図を胸に抱きしめ、恭しく頭を垂れた。心做しか頬が少し紅潮している。ちょっ、見本図がしわくちゃになってるって!
頭を上げたヤルノは見本図を見ながら頬のにやけを必死に我慢していた。なんかそわそわしている?どうした魔法陣の美しさに感銘を受けたか!?だったら俺と語り合おうぞ!
「エルネスティ様、少々ヤルノの奇行に目を瞑ってくださいませんか?」
「へっ?ええまあ構いませんが……」
ペッテリが申し訳なさそうに眉を下げて聞いてきたので俺は了承しておいた。何かな?様子が変なのと何か関係があるのかな?
「ヤルノ。我慢は良くないよ。エルネスティ様も了承してくださいましたし、存分に吐き出しなよ」
「……だが流石に殿下の御前では失礼じゃ?」
「僕が万歳して土下座しても許してくださったお優しい方だから大丈夫だって」
「……わかった。殿下、少々失礼します」
ペッテリとヒソヒソ話をしていたヤルノは最初は戸惑っていたが、ペッテリの説得により何かを決意したように頷いた。そして俺に一礼し、後ろを向いた。え?マジで何が始まるの?
「……っはああああ~やべえやべえ想像以上にやべえ仕事が舞い込んできた。こんなん無理だろ見てみろこの部分の複雑さ。絶対ここでミスるわ~。ここで手が死んで?ここまで来たら図案と少し違うと錯覚して肝を冷やして?そしてノリに乗った瞬間に魔力の込め忘れに気づいて1からやり直して?うわあ絶望の未来が思い浮かぶわ。そして何より?1枚完成して達成感を味わう最中突きつけられる2枚目の存在ってやつ?天国から地獄へ急降下の絶望がやべえな。2枚とも完璧に模写とかどんな無理ゲーだよ今から軽く死にそう」
小声でブツブツ言うヤルノの言葉が聞こえてきて、俺は内心めっちゃ焦った。無理難題を突きつけた自覚はあったけど、さっき快く了解してくれたよね!?まさかそんなに嫌だった!?やっぱ平民が皇族の依頼を断るとか出来ないか!?悪いことしちゃったな……。でも契約書と誓約書をもう書いちゃったし……。
俺と後ろに待機していたヴァイナモはヤルノの言葉にあたふたしていた。だがペッテリは平然とこちらに静かにしているようジェスチャーをした。なんでそんな落ち着いてられるのペッテリはっ!?
「……やべえめっちゃゾクゾクするっ……!胸の高鳴りが止まんねえ。この感じやっぱ堪んねえな……!だからこの仕事は辞めらんないんだよ……!」
……ん?待って今なんつった?ペッテリの友人はヤルノだった?
ヴァイナモ。「変人が変人を呼んだ……!」って呟いたの聞こえてるからな。
* * * * * * * * *
2020/07/05
終盤ペッテリの一人称を『俺』から『僕』に修正しました。
「ペッテリ!!」
「ふわっはい!!何でしょうかエルネスティ様!」
応接室では丁度帰ろうとしていたペッテリが荷物を持って立っていた。良かった間に合った!俺が突撃して来たことにペッテリは目を白黒させている。すまんな驚かせて。でも俺も驚かされたし平等だろ!
「早速仕事ですぞ!今から言うものを揃えて来てくだされ!」
「えっ!?何時までですか!?」
「出来るだけ早くでござる!」
「わかりました!待ってください、メモをとります!」
ペッテリは慌てて手に持つ荷物からペンとメモ帳を取り出す。後ろに控えていたヴァイナモは「何故口調が違うことにツッコミを入れない……」とボソリと呟いた。多分ペッテリは他人にそこまで興味がないんだろうな!
俺は思いつく必要なものを片っ端から言っていく。ペッテリはすごいスピードでメモをとっていった。すげえ神業だ……!手が器用なんだな、ペッテリって。まあそうでないと衣装職人なんてしてないか。
ペッテリは並べられた単語を見ながら「これなら明日にはご用意出来ると思います」と伝えてきた。マジで!?早い!流石大商人の息子!ぐう有能!
ペッテリは恭しく「承りました」と頭を下げた。その洗練された姿勢を見ていると、やはり大商人の息子だけあって教育がしっかりしているな、と感心する。まあ中身はどうしようもなく変人だけどな!
* * *
そして翌日。有言実行で早速頼んだものを用意してくれたペッテリが図書館の小部屋までやって来た。応接室じゃないのって?魔法陣の資料とかが必要だからここの方が良いんだよ。
「エルネスティ様。こちらが僕の友人でアウッティ商会装飾部門彫刻技術担当のヤルノ・キルッカです。エルネスティ様のご要望に見合うのは彼かと」
「ご紹介に授かりました。ヤルノ・キルッカと申します」
「エルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララです。よろしくお願いします」
ペッテリが紹介したヤルノは一言で言うならチャラそうだ。とても仕事が出来るようには見えないけど、ペッテリが連れて来たなら腕は確かなんだろうな。
「そしてこちらがご依頼された品の数々です。ヤルノに不足分は補ってもらいましたが、代金はいかが致しましょうか」
「その道の専門家が必要だと仰ったのであれば必要なのでしょう。払いますよ」
「ありがとうございます。して、版画の道具を取り揃えて、今回は何をなさるおつもりで?」
ペッテリはヤルノと持ってきた道具を並べながら俺に尋ねて来た。そう言や言ってなかったな。あの時は興奮しすぎてそれどころじゃなかった。
「一度版画で魔法陣を描いてみようと思ったのです」
「版画で、ですか」
「はい。ペンで描くと魔法陣の線に向きが出来てしまい、逆向きに魔力を流すと摩擦抵抗が酷いので、基本的に一筆書きで描くのですが、複雑な魔法陣だと一筆書きが難しくて……版画なら線の向きが生じずどの方向からもスムーズに魔力を流せるのではないかと考えたのです」
これは昨日、カレルヴォ兄上の手形の話を聞いて思いついたことだ。一筆書き出来ないなら線の向きなんて作らなければ良いじゃない、って考えだ。
ペッテリはキョトンとした表情で俺を見つめたが、すぐに眼鏡の縁をクイッと上げてヤルノを一瞥し、俺に向き直った。
「……よく理解出来ませんが、つまりエルネスティ様はヤルノに複雑な魔法陣の版画を彫ることをご依頼されたいのですか?」
「はい。これがその図案です。出来れば魔力を込めながら彫ったものと込めずに彫ったものの二つが欲しいのですが、出来そうですか?」
俺はヤルノに魔法陣の見本図を差し出して問うた。ヤルノは見本図に釘付けになりながら、顎を持って考え込み始めた。やはり難しいだろうか?ヤルノが無理なら俺が独学で頑張るしかないけど。諦めるって選択肢はねえ。
「……とても複雑で骨が折れそうですね。私は魔力操作は得意な方ですが、作業に集中しながらとなるとかなり難しいでしょう。そうでなくても魔法陣を発動させるためには正確に彫る必要はありますし、非常に大変な作業となるでしょう」
「……やはり、無理ですか?」
「いいえ、やらせてください。難しい仕事の方が俄然やる気が出る性分なので」
真顔で難点を挙げたヤルノだが、俺が不安そうに問うと顔を上げて横に振り、やる気に満ちた目で仕事を引き受けてくれた。難しい方が燃え上がるって、なんか職人って感じがして良いな!軽薄そうなのに以外と凝り性なのか?まあ職人やってるぐらいだしそうか。
「ではよろしくお願いします」
「承りました」
ヤルノは見本図を胸に抱きしめ、恭しく頭を垂れた。心做しか頬が少し紅潮している。ちょっ、見本図がしわくちゃになってるって!
頭を上げたヤルノは見本図を見ながら頬のにやけを必死に我慢していた。なんかそわそわしている?どうした魔法陣の美しさに感銘を受けたか!?だったら俺と語り合おうぞ!
「エルネスティ様、少々ヤルノの奇行に目を瞑ってくださいませんか?」
「へっ?ええまあ構いませんが……」
ペッテリが申し訳なさそうに眉を下げて聞いてきたので俺は了承しておいた。何かな?様子が変なのと何か関係があるのかな?
「ヤルノ。我慢は良くないよ。エルネスティ様も了承してくださいましたし、存分に吐き出しなよ」
「……だが流石に殿下の御前では失礼じゃ?」
「僕が万歳して土下座しても許してくださったお優しい方だから大丈夫だって」
「……わかった。殿下、少々失礼します」
ペッテリとヒソヒソ話をしていたヤルノは最初は戸惑っていたが、ペッテリの説得により何かを決意したように頷いた。そして俺に一礼し、後ろを向いた。え?マジで何が始まるの?
「……っはああああ~やべえやべえ想像以上にやべえ仕事が舞い込んできた。こんなん無理だろ見てみろこの部分の複雑さ。絶対ここでミスるわ~。ここで手が死んで?ここまで来たら図案と少し違うと錯覚して肝を冷やして?そしてノリに乗った瞬間に魔力の込め忘れに気づいて1からやり直して?うわあ絶望の未来が思い浮かぶわ。そして何より?1枚完成して達成感を味わう最中突きつけられる2枚目の存在ってやつ?天国から地獄へ急降下の絶望がやべえな。2枚とも完璧に模写とかどんな無理ゲーだよ今から軽く死にそう」
小声でブツブツ言うヤルノの言葉が聞こえてきて、俺は内心めっちゃ焦った。無理難題を突きつけた自覚はあったけど、さっき快く了解してくれたよね!?まさかそんなに嫌だった!?やっぱ平民が皇族の依頼を断るとか出来ないか!?悪いことしちゃったな……。でも契約書と誓約書をもう書いちゃったし……。
俺と後ろに待機していたヴァイナモはヤルノの言葉にあたふたしていた。だがペッテリは平然とこちらに静かにしているようジェスチャーをした。なんでそんな落ち着いてられるのペッテリはっ!?
「……やべえめっちゃゾクゾクするっ……!胸の高鳴りが止まんねえ。この感じやっぱ堪んねえな……!だからこの仕事は辞めらんないんだよ……!」
……ん?待って今なんつった?ペッテリの友人はヤルノだった?
ヴァイナモ。「変人が変人を呼んだ……!」って呟いたの聞こえてるからな。
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2020/07/05
終盤ペッテリの一人称を『俺』から『僕』に修正しました。
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