前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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帝位継承権争い?興味ねえ!

変人同士、波長が合うってもんよ

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さてさてそんなこんなで衣装のデザインに取り掛かったペッテリは現在、天使量産機と化している。

「はあ……殿下ならこれも似合うな……!でもこれだと式典向きじゃないし……!ああ……!これでも良いかも……!上質なシルクをつかって……!ふっへへへへへへ……!」

とまあ俺と紙を見比べて変な笑い声上げながらどんどんデザインを考えて行くんですよ。しかも普通のデザイン画とは違って顔とか指の細部まできっちり描かれている。これで絵の才能がないとか喧嘩売ってんの?

俺がそんなことを零すとペッテリは真顔で答えた。

「写生対象がいない状態で理想の天使が描けなければ意味がないのです」

ああ、まあ、そうか。俺は理解することを諦めた。

基本的にペッテリの好きにデザインしてもらっているが、一応こちらからもリクエストはした。魔法陣の刺繍を入れてもらうのだ。察知魔法と防御魔法の二重魔法陣を。流石に複雑すぎるから無理かな?とは思ったけど、ペッテリはどうってことはなさそうに言った。

「これですか?わかりました」

難色見せずに了解してくれたペッテリは余程腕に自信があるのか、興味がないのか。でもどれだけ興奮していてもちゃんと入れてくれているから、ペッテリはプロである。

そんなこんなで衣装のデザインが完成した。なんか天女の羽衣みたいなマントがついてる、神話に出てきそうな服だ。でもきちんと皇族のマナーや式典のしきたりは守っているデザインのため、問題ないだろう。目立つかもしれないけど。今回はそれくらいの方が良いだろうし。

「ではこちらの衣装をご用意させていただきます。……はあ、もっと色んな服を作りたかった……」

デザインを手に抱えながら恭しく頭を下げたペッテリはぽつりと呟いた。彼の視線の先には没になったデザイン画の山が。どれも高クオリティである。着たいかどうかは別として。

だが何となく哀愁漂うペッテリの雰囲気に俺は何とか出来ないかと考えた。変人同士、彼の気持ちもわからなくもないのだ。好きなものをとことん極めたい。俺にも通ずるものがあるのだ。

「……ヴァイナモ。確かアウッティ商会は大陸一の規模を誇る商会でしたよね?」

「ええ。貴族の中でもアウッティ商会の常連客になることが一種のステータスですね。他にも平民向けの部門もあり、幅広い層に人気の大商会です」

「……そしてペッテリさんは商会長のご親戚。つまりコネを持っておいて損はない、ですか……。ペッテリさん」

「どうしよう自腹で作ろうかな……はいっ!?何でしょうか?」

デザイン画を見ながら独り言をブツブツ言っていたペッテリが俺の呼びかけに弾かれるように顔を上げた。俺は天使の如く優しく微笑み、ある提案をした。

「私の専属衣装職人になりませんか?」

「へっ!?私が殿下の、ですか!?」

驚愕で目を丸くするペッテリに俺は皇族らしく優雅に頷いた。そして詳細を説明する。

「はい。私の専属、と言うよりは少し贔屓して欲しいのです。私は衣服に無頓着なので、私の最低限の条件を満たしてくだされば貴方好みを作って構いません。私はこれから貴方以外に衣装を作ってもらうことはしません。その代わり私が欲しいものを商会の伝手を使ってかき集めて欲しいのです」

「……欲しいもの、とは……?」

「今はわかりませんが、私の研究に必要な材料、道具、人員など。無理は言いませんが出来るだけ私の要望に答えて欲しいのです」

ペッテリは俺の条件に一瞬考え込む素振りを見せたがすぐに目を輝かせて頷いた。ほぼ即決。良いのか?割と条件的にそっちが不利だぞ?まあ好きなものに一直線なとこは共感出来るし、信頼出来るけど。

「はい……!わかりました……!理想の天使をこの手で作り上げることが出来るのであれば……!何でも致します……!」

「では交渉成立ですね。契約書と誓約書を書いてしまいましょう」

そうして俺は大陸一の大商会に大きなコネが出来た。


* * *


「驚きました。まさかペッテリが商会長のご子息だったとは……」

「商会長のご子息がアレとは……ご家族も苦労したでしょうね……」

ペッテリと話をつけて別れた後、俺は図書館へ向かいながらヴァイナモと話していた。内容はペッテリについてだ。

なんとペッテリは商会長の五男であった。親戚だろうな、と苗字から思っていたけど、まさかの家族。まあ帝都の大教会に行けるのは一部の裕福層であるから、そこそこの家柄なんだろうなとはわかっていたけど。想像以上に大きなコネが出来たのは素直に嬉しい。

ああちなみに呼び方は『ペッテリ』と『エルネスティ様』になった。そっちの方が親密感がアピール出来るから。まあそれが無くてもペッテリとは仲良くしたかったから、後付けの理由みたいなモンだけど。

そうこう歩いていると、廊下の先にカレルヴォ兄上の後ろ姿が見えた。俺はちょっと上機嫌になりながら駆け寄っていく。

「カレルヴォ兄上!」

「ん?おお!エルネスティか!どうした?今日は図書館に行かないのか?」

「今から行きます。さっきまで衣装の新調をしていました」

「衣装……ああ、建国記念式典用のか!俺もその関連で父上に呼び出されていてな。今から謁見だ」

カレルヴォ兄上はカラカラと笑いながら俺の頭をくしゃりと撫でた。小っ恥ずかしくて、擽ったくて。でも嫌な感じはしない。寧ろ嬉しい。前世の俺は家族愛に包まれていたから、今世の冷めた家族関係が思っている以上に堪えている。前世では長男だったって言うのもあるかもしれない。異母兄ではあるけど、カレルヴォ兄上とは血の繋がった兄弟。弟として兄に甘えたいって思うところがあるのだ。

「魔法陣の研究の方はどうだ?進んでいるか?」

「いえ、今は行き詰まっていまして……。カレルヴォ兄上は複雑な模様を一筆書きで描く方法を、何か思いつきませんか?」

「一筆書きか~。いやあ俺は芸術的才能がないからなあ。絵とか描かねえし。あっ、でも昔一度、ムカついた先輩を平手打ちして、先輩の頬に綺麗な紅葉を描いたことはあるぞ。あれは傑作だった」

「ははっ。兄上らしいですね。平手打ちとは……平手打ち?」

カレルヴォ兄上の冗談に笑っていると、ふとある引っかかりを覚えた。平手打ち。美術分野で言う版画。あれは線を描く訳じゃないから、魔力の向きとかないんじゃね?彫る手間はあるけど……。いやもしかしたら魔法陣自体が発動しないかもしれない。線で描くことに意味があるのかもしれない。でも……試してみる価値はある!

「兄上!素晴らしい案をありがとうございます!」

「おっ、おう?何か思いついたのか?」

「ええ、ええ!それはもう!今ある課題が解決するかもしれませんぞ!ああ!こうしちゃいられない!ヴァイナモ殿!ペッテリ殿はまだ宮殿にいらっしゃるでござるかっ!?」

「へっ?ええ多分まだお帰りにはなってないかと……」

「なら今すぐペッテリ殿の元へ戻りますぞ!必要な道具を揃えていただきましょうぞ!それでは兄上殿!私は先を急ぎますのでこれで!」

「おっ、おう。まあ気ぃつけてな」

俺は全力疾走で踵を返した。後ろからするヴァイナモの「廊下は走らないでください!」と言う声に耳を塞ぎながら。確かに走るとか皇族として有るまじき行為だけど、今はそんなの関係ねえ!

「……いや、うん。……元気なことは良いことだ」

カレルヴォ兄上が走り去る俺の後ろ姿を惚けたように眺めながら現実逃避していたことを、俺は知る由もない。
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