前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

文字の大きさ
上 下
14 / 221
帝位継承権争い?興味ねえ!

変人同士、波長が合うってもんよ

しおりを挟む
さてさてそんなこんなで衣装のデザインに取り掛かったペッテリは現在、天使量産機と化している。

「はあ……殿下ならこれも似合うな……!でもこれだと式典向きじゃないし……!ああ……!これでも良いかも……!上質なシルクをつかって……!ふっへへへへへへ……!」

とまあ俺と紙を見比べて変な笑い声上げながらどんどんデザインを考えて行くんですよ。しかも普通のデザイン画とは違って顔とか指の細部まできっちり描かれている。これで絵の才能がないとか喧嘩売ってんの?

俺がそんなことを零すとペッテリは真顔で答えた。

「写生対象がいない状態で理想の天使が描けなければ意味がないのです」

ああ、まあ、そうか。俺は理解することを諦めた。

基本的にペッテリの好きにデザインしてもらっているが、一応こちらからもリクエストはした。魔法陣の刺繍を入れてもらうのだ。察知魔法と防御魔法の二重魔法陣を。流石に複雑すぎるから無理かな?とは思ったけど、ペッテリはどうってことはなさそうに言った。

「これですか?わかりました」

難色見せずに了解してくれたペッテリは余程腕に自信があるのか、興味がないのか。でもどれだけ興奮していてもちゃんと入れてくれているから、ペッテリはプロである。

そんなこんなで衣装のデザインが完成した。なんか天女の羽衣みたいなマントがついてる、神話に出てきそうな服だ。でもきちんと皇族のマナーや式典のしきたりは守っているデザインのため、問題ないだろう。目立つかもしれないけど。今回はそれくらいの方が良いだろうし。

「ではこちらの衣装をご用意させていただきます。……はあ、もっと色んな服を作りたかった……」

デザインを手に抱えながら恭しく頭を下げたペッテリはぽつりと呟いた。彼の視線の先には没になったデザイン画の山が。どれも高クオリティである。着たいかどうかは別として。

だが何となく哀愁漂うペッテリの雰囲気に俺は何とか出来ないかと考えた。変人同士、彼の気持ちもわからなくもないのだ。好きなものをとことん極めたい。俺にも通ずるものがあるのだ。

「……ヴァイナモ。確かアウッティ商会は大陸一の規模を誇る商会でしたよね?」

「ええ。貴族の中でもアウッティ商会の常連客になることが一種のステータスですね。他にも平民向けの部門もあり、幅広い層に人気の大商会です」

「……そしてペッテリさんは商会長のご親戚。つまりコネを持っておいて損はない、ですか……。ペッテリさん」

「どうしよう自腹で作ろうかな……はいっ!?何でしょうか?」

デザイン画を見ながら独り言をブツブツ言っていたペッテリが俺の呼びかけに弾かれるように顔を上げた。俺は天使の如く優しく微笑み、ある提案をした。

「私の専属衣装職人になりませんか?」

「へっ!?私が殿下の、ですか!?」

驚愕で目を丸くするペッテリに俺は皇族らしく優雅に頷いた。そして詳細を説明する。

「はい。私の専属、と言うよりは少し贔屓して欲しいのです。私は衣服に無頓着なので、私の最低限の条件を満たしてくだされば貴方好みを作って構いません。私はこれから貴方以外に衣装を作ってもらうことはしません。その代わり私が欲しいものを商会の伝手を使ってかき集めて欲しいのです」

「……欲しいもの、とは……?」

「今はわかりませんが、私の研究に必要な材料、道具、人員など。無理は言いませんが出来るだけ私の要望に答えて欲しいのです」

ペッテリは俺の条件に一瞬考え込む素振りを見せたがすぐに目を輝かせて頷いた。ほぼ即決。良いのか?割と条件的にそっちが不利だぞ?まあ好きなものに一直線なとこは共感出来るし、信頼出来るけど。

「はい……!わかりました……!理想の天使をこの手で作り上げることが出来るのであれば……!何でも致します……!」

「では交渉成立ですね。契約書と誓約書を書いてしまいましょう」

そうして俺は大陸一の大商会に大きなコネが出来た。


* * *


「驚きました。まさかペッテリが商会長のご子息だったとは……」

「商会長のご子息がアレとは……ご家族も苦労したでしょうね……」

ペッテリと話をつけて別れた後、俺は図書館へ向かいながらヴァイナモと話していた。内容はペッテリについてだ。

なんとペッテリは商会長の五男であった。親戚だろうな、と苗字から思っていたけど、まさかの家族。まあ帝都の大教会に行けるのは一部の裕福層であるから、そこそこの家柄なんだろうなとはわかっていたけど。想像以上に大きなコネが出来たのは素直に嬉しい。

ああちなみに呼び方は『ペッテリ』と『エルネスティ様』になった。そっちの方が親密感がアピール出来るから。まあそれが無くてもペッテリとは仲良くしたかったから、後付けの理由みたいなモンだけど。

そうこう歩いていると、廊下の先にカレルヴォ兄上の後ろ姿が見えた。俺はちょっと上機嫌になりながら駆け寄っていく。

「カレルヴォ兄上!」

「ん?おお!エルネスティか!どうした?今日は図書館に行かないのか?」

「今から行きます。さっきまで衣装の新調をしていました」

「衣装……ああ、建国記念式典用のか!俺もその関連で父上に呼び出されていてな。今から謁見だ」

カレルヴォ兄上はカラカラと笑いながら俺の頭をくしゃりと撫でた。小っ恥ずかしくて、擽ったくて。でも嫌な感じはしない。寧ろ嬉しい。前世の俺は家族愛に包まれていたから、今世の冷めた家族関係が思っている以上に堪えている。前世では長男だったって言うのもあるかもしれない。異母兄ではあるけど、カレルヴォ兄上とは血の繋がった兄弟。弟として兄に甘えたいって思うところがあるのだ。

「魔法陣の研究の方はどうだ?進んでいるか?」

「いえ、今は行き詰まっていまして……。カレルヴォ兄上は複雑な模様を一筆書きで描く方法を、何か思いつきませんか?」

「一筆書きか~。いやあ俺は芸術的才能がないからなあ。絵とか描かねえし。あっ、でも昔一度、ムカついた先輩を平手打ちして、先輩の頬に綺麗な紅葉を描いたことはあるぞ。あれは傑作だった」

「ははっ。兄上らしいですね。平手打ちとは……平手打ち?」

カレルヴォ兄上の冗談に笑っていると、ふとある引っかかりを覚えた。平手打ち。美術分野で言う版画。あれは線を描く訳じゃないから、魔力の向きとかないんじゃね?彫る手間はあるけど……。いやもしかしたら魔法陣自体が発動しないかもしれない。線で描くことに意味があるのかもしれない。でも……試してみる価値はある!

「兄上!素晴らしい案をありがとうございます!」

「おっ、おう?何か思いついたのか?」

「ええ、ええ!それはもう!今ある課題が解決するかもしれませんぞ!ああ!こうしちゃいられない!ヴァイナモ殿!ペッテリ殿はまだ宮殿にいらっしゃるでござるかっ!?」

「へっ?ええ多分まだお帰りにはなってないかと……」

「なら今すぐペッテリ殿の元へ戻りますぞ!必要な道具を揃えていただきましょうぞ!それでは兄上殿!私は先を急ぎますのでこれで!」

「おっ、おう。まあ気ぃつけてな」

俺は全力疾走で踵を返した。後ろからするヴァイナモの「廊下は走らないでください!」と言う声に耳を塞ぎながら。確かに走るとか皇族として有るまじき行為だけど、今はそんなの関係ねえ!

「……いや、うん。……元気なことは良いことだ」

カレルヴォ兄上が走り去る俺の後ろ姿を惚けたように眺めながら現実逃避していたことを、俺は知る由もない。
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...