前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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帝位継承権争い?興味ねえ!

お久しぶりです、父上

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「久しいな、エルネスティ。息災であったか?」

「お久しぶりです、父上。この通り息災でございます」

玉座の間にて、俺は玉座に座るThe皇帝な父上の前で跪いて頭を垂れた。後方ではヴァイナモも同じように頭を垂れている。皇帝父上は俺たちに頭を上げるよう言った。俺はゆったりと、そして無駄のない動きで顔を上げる。

うわあ相変わらず威圧感がパない。絶対王者の風格ってやつ?少しは引き継ぎたかったな、その威厳。この顔も嫌いじゃないけど、やっぱ初対面で舐められやすいし。

「噂で聞いたが、最近珍妙な研究をしているようだな」

「……珍妙とは人聞きの悪いですね。魔法陣学というれっきとした学問ですよ」

「はっはっは!口調が乱れているぞ」

「申し訳ございません」

「良い、良い。自然でいろ。そっちの方が楽だ」

父上は愉快そうにくつくつと笑った。俺は父上の言葉に「言質取りましたよ」と言って不機嫌な表情を浮かべた。父上の傍にいた護衛騎士は俺の無礼に眉を顰めて剣を抜こうとする。が、父上は手で制した。

「迷惑そうな顔だな。我の呼び出しがそれ程嫌だったか?」

「……嫌かどうかは明言を避けさせていただきますが、出来ることならこの時間を研究に費やしたく存じております」

「そう堅苦しい物言いで誤魔化してるつもりかもしれないが、要するに『時間の無駄だ、研究したい』訳であろう?」

「簡潔に申し上げますと、そうですね」

父上に失礼なことを言いつつも毅然とした態度の俺に、笑いが堪えきれないのか声を漏らす父上。護衛騎士は複雑そうな表情で俺を睨みつけてきた。皇帝君主想いの良い騎士だね。皇帝の面目を立てるために我慢しているところがポイント高い。

「まさかここまで人格が変わっているとはな。以前はあの手この手で我に媚びを売っていたのだがな」

「……あの頃は母上の傀儡でしたから」

「つまり今は違う、と」

「ええ。母上を説得して、お互いに不可侵を約束しました」

「ほう……『説得』な……」

父上は含みのある笑みを俺に向けてくる。父上は多分、俺の魔法の能力に薄々勘づいている。まあつまり、説得じゃなくて脅しだろ?と言いたいのだろう。俺は説得だと言い切るけどな!

「つまりお前自身は皇帝の座に興味ない、と」

「ええ。私は魔法陣の研究が出来ればそれで」

「成程な、心得た」

父上は俺をまっすぐ見つめて俺の言葉の真偽を見極めた。嘘はないと判断した父上は厳粛に頷く。次期皇帝を考える上で、俺を候補から外したのだろう。

その場の張り詰めていた空気が少し緩んだ。今回の本題が終わったのだろう。さっさと帰してくれと父上に目線で訴えると、皇帝は不敵に笑った。あっ嫌な予感が……。

「では要件は済みましたのでそろそろ……」

「何を言う。まだ終わっておらん」

いやっ!?絶対終わったよね!?当初の予定は俺の帝位継承の意志の確認だけだったでしょ!?そんな悪い顔して『元から他に要件があった』みたいに言っても誤魔化せないからな!?

「エルネスティ、近頃開催される建国記念式典に、お前も出ろ」

「……お待ちください。私はまだ未成年です」

「ああ、知っている。だが未成年だと言って出られない訳ではなかろう?今年は建国470周年の節目の年だ。他の未成年の皇族も呼ぶつもりだからな。お前が参加してもおかしくはない」

「……今決めたでしょう、それ……」

普通公的な式典には未成年は参加しない。マナーがしっかり身についていない未成年が出席することで、失敗することを防ぐための暗黙の了解である。だが法で定めている訳でも、皇帝が直々に禁止している訳でもない。だから未成年が参加出来ない訳ではない。誰もしないだけだ。皇帝父上はその穴を突くようだ。

「さあ、どうだろうな。まあ出席するのはお前にも得がある。今はまだお前とお前の母親との繋がりが絶たれたことを知らない者もいる。お前が今まで通り皇帝の座を狙っていると思っている者もいる。そういった印象を覆し、研究に集中出来る環境を作るのはお前にとっても重要ではないか?」

「……確かに一理ありますね」

俺は父上の言葉に納得した。今までの印象を否定しておかないと、研究に横槍を入れられたり、勝手に帝位継承権争いに参加させられたりするかもしれない。面倒事は御免だ。一回式典に出るだけで面倒事が避けられるならその方が良い。

「わかりました。出席させていただきます」

「ああ、本番までに衣装とエスコートを決めておけよ。衣装はもちろん、新調するように」

「……わかりました」

「そう面倒そうな顔をするな。皇族としての義務を果たせ」

準備が面倒だなと思っているとそれが顔に出ていたらしく、父上が愉快そうに笑った。だって服なんて何でも良いじゃん、着れれば。

ちなみに未成年は性別関係なしに女性の扱いを公的にはされるため、男子でもエスコートが必要だ。まあ相手が大人なら女性でも良いという点は成人女性とは違うが。

「お前には今、人の伝手がほとんどないだろう。衣装職人と同伴者をこちらが準備しようか?」

「結構です。……と申したいところですが、お言葉に甘えて衣装職人をご紹介お願いします」

俺の今までの人脈は第二皇妃母親に依存していた。しかし今、その人脈はアテにならない。御用達だった商会も全て母親の息がかかっている。繋がりを絶っている俺は、出来るだけ世話になるのは避けたい。だから人脈を把握している父上に母親に関わりのない職人を紹介してもらうよう頼むことにした。まあ自分で探すのが面倒って言うのもあるけど。

「職人だけで良いのか?同伴者も紹介するぞ?」

「いえ。同伴者はヴァイナモに頼みますから、ご心配なく」

「ヴァイナモ……ヴァイナモ・アッラン・サルメライネン。そこに居るお前の専属護衛騎士に頼むのか」

俺は父上がヴァイナモのことを知っていることに驚きを隠せなかった。だってヴァイナモはただの伯爵家の三男坊。いくら近衛騎士団所属とは言え、皇帝父上にフルネームを覚えられることはまず無い。

しかしふと、ヴァイナモが最年少近衛騎士であり、剣術の神童と呼ばれていることを思い出した。以前の俺が知ってたほど有名な二つ名であるため、皇帝父上が知っててもおかしくない。

そう自己解決していると、父上は肩を揺らして笑った。何か笑う要素があっただろうか?と首を傾げると、父上は笑いが収まらないうちに口を開いた。

「いや、な。二人して同じ表情を浮かべているのがおかしくて。その様子から我がヴァイナモの名前を知っていた理由は見当がついたのか?」

どうやらヴァイナモも俺と同じことを疑問に思ったらしい。同じ表情をしていたとは驚きだけど。まあヴァイナモ自身も自分の噂は耳に入っているだろうから、後から説明する必要はないかな?

「……何となくは」

「だろうな。ヴァイナモは剣術の神童であり、生粋の変人であると有名だからな」

「「えっ!?!?」」

「ん?どうした?」

父上の爆弾発言に俺はヴァイナモと声を揃えて驚いた。ヴァイナモが変人扱いされているの!?初耳なんだけど!?ヴァイナモも知らないみたいだよ!?

予想外のところで引っかかりを残したまま、謁見は終わりを見せた。




* * * * * ** * *




○お知らせ○
明日は朝8時頃に閑話を投稿予定です。本編もいつも通り夕方投稿致します。ぜひご覧ください。
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