前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

文字の大きさ
上 下
8 / 221
帝位継承権争い?興味ねえ!

誤解は早めに解きましょう

しおりを挟む
さてさて、そんなこんなで今日もやって来ました図書館!ヴァイナモはアウクスティの様子が気にならなくもなかったそうだが、それ以上に俺を侮辱したことに怒っていた。なんで俺より怒ってんの……嫌じゃないけど。寧ろ嬉しいけど。

司書達は「今日も来た……」という視線を俺にプレゼントしてくれた。ありがとうこれから毎日だよさっさと慣れろ。寧ろあの小部屋頂戴。でかでかと扉に名前書きたい。

「では今日は察知魔法と防御魔法関連の本を読んで、最後にちょっと実験してみましょうか」

「わかりました」

俺はひょいひょいっと本を取り出し、椅子に座って斜め読みを始める。ヴァイナモはじっと何もせずに俺を見守っていた。暇じゃないのかな?

「……ヴァイナモ?手持ち無沙汰ではないですか?私が本を読んでいる間は、別に好きなことをしていて良いですよ?」

「別に、楽しそうな殿下を見るのは楽しいですよ。俺は殿下の護衛ですし」

こんな所で暗殺とかあるのかな?まあ不意打ちであるかもしれないけど、余程のことが無い限り俺の魔法でどうにか出来ちゃうし。てかなんやねん俺を見てると楽しいて。俺は愛玩動物とちゃうし。思わず関西弁になってしもたやんか。

「ですがずっとそれなのは……」

「……なら、オススメの魔法陣の本を教えてくれませんか?俺もちょっと気になっていまして……ですが殿下が読まれた本を全部読むことは、時間的に難しいですし……」

「わかりました!すぐ取ってきますね!」

ヴァイナモがおずおずと俺に尋ねてきたので、俺は上機嫌で本を探しに行った。自分の好きなことに興味を持ってくれることは、やはり嬉しい。


* * *


本にのめり込んでいると、ヴァイナモからお昼の時間だと声をかけられた。今日の昼食はキッシュだ。なんかこの世界って前世のヨーロッパ文化がごっちゃ混ぜだな。そりゃ前世のどこかの国とまんま同じ文化だったらそれはそれで怖いけど。

ヴァイナモに本の進み具合を聞くと、まだ・・半分しか読めてないと返ってきた。いや、それもう・・だから!俺のスピードが異常なだけで十分早いからね!?

そんなこんなで手短に昼食を済まし、再び本の世界へ戻った。読み終えて顔を上げると、丁度本を読み終えたらしいヴァイナモが魔法陣を作る準備をしていた。俺の護衛騎士がぐう優秀(知ってた)

「では今日は試しに二重魔法陣を作ってみましょう」

「二重……ですか」

「ええ。普通は一重ですが、理論上は別の魔法陣を上手く重ねることで別の魔法を併用出来るらしいです」

「理論上は、ですか」

「ええ。これまで魔法陣魔法の種類を増やす研究はされてきたようですが、併用したり効果を高める研究はあまりされてこなかったようで。この本でも理論だけ展開して、実験はほとんどしてませんでした」

通常魔法なら魔力量やら神経の使い方やらで微調整をするため、比較的魔法を発動させ易いが、魔法陣だと一つの完成された形を作らないと上手く魔法が発動しない。もし魔法陣に不備があった場合、一から作り直しである。なので細かい微調整が難しく、一つの新しい魔法を完成させるのにも一苦労なのだ。よって魔法陣魔法は通常魔法より魔法の種類が少ない。だからこそ応用の効かない学問だと軽視されてきたのだが。

先人達はその『応用の効かない』というのを克服したいと躍起になり、様々な魔法陣魔法を生み出した。今でも圧倒的な種類数の差。その差を埋めるのに精一杯で、魔法陣と魔法陣を掛け合わせてみたりだとか、より効率のよい魔法陣を作り出す研究が追いついていないのだ。だから理論だけ展開して、実験を重ねて証明することを放棄している研究がこの分野には数多くある。

「私はそんな理論たちを研究すればもっと魔法陣が便利になって、魔法陣への偏見を取り除いたり分野人口を増加させたり出来ると思います。通常魔法と同じものにするのではなく、魔法陣の特長を最大限に活用した、通常魔法とはまた別の独立した存在にする。通常魔法と魔法陣魔法を一緒に考えるから、魔法陣魔法の欠点が目立ってしまうだけなのです。切り離して考えれば、魔法陣はきっと世界で輝くことが出来るでしょう」

「……殿下が魔法陣学を研究する上で、まず二重魔法陣というマニアックなものに手を出す理由が、それということですか……」

「まあ純粋に早く作ってヴァイナモに使ってもらいたいというのが一番ですが」

にっこり笑うとヴァイナモはキョトンとした後、へにゃりと頬を緩ませた。本当に嬉しい時、この笑い方になるのかな?破壊力パねえ……。こういう顔の時に、ああヴァイナモは16歳なんだなって実感する。若いってオーラがある。……ん?ジジくさいって?仕方ねえよ前世の俺の方が歳上だからな!

「俺のため、ですか……嬉しいです」

「……その顔をあまり他人に見せてはいけませんよ」

「え?何故ですか?」

「全世界の女性ないし一部の男性に致命傷を与えます」

「俺ってそんな笑顔変ですか!?」

ヴァイナモは自らを指差しながらショックを受けたように固まった。ん~そう言う意味じゃないけど説明も面倒だしそのままでいっか。無自覚って怖いな。

俺は曖昧に微笑んでおいた。ヴァイナモは肯定と捉えたようで、深刻そうな表情でブツブツと独り言を呟き始めた。顔が青い。……待って思った以上に落ち込んでる。説明端折らない方が良かった!?

「あ~えっと、ヴァイナモ?そこまで深刻に考えなくても……」

「いっ、いえ。俺は良く他人にもっと笑えって言われるのですが、どう笑えば良いのかわからなくて。ですか殿下のお側にいると自然と笑顔になれるのです。ですから俺の酷い笑顔は殿下しか見ないと言いますか、ですか殿下のお側だと笑顔を我慢しようとしても無意識に頬が緩むと言いますか……。殿下に俺のお見苦しい笑顔を向けるのは如何なものかと……」

「えっ!?あっ、ちょっ……私の前では良いんですよ!他の人に見せなければそれで!」

待って今、俺ナチュラルに『君の笑顔は俺のもの』発言しなかった!?恥ずっ!恥ずかしっ!!でも先にこの笑顔は俺専用って言ったのヴァイナモの方だし、全部ヴァイナモのせいだよね!?責任とってよね!?何の責任かはわからないけど!

「俺の醜い笑顔を許して下さるのですね……。殿下はお優しい……」

ん~なんか勘違いが変な方向行ってる!でももう誤解解くのも面倒だし、このままで良いや!誤解は早めに解いておく!これ訓戒!!
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

処理中です...