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帝位継承権争い?興味ねえ!

魔法陣には夢がいっぱい

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それに加えて今回の実践で、魔法陣には魔法を維持する能力が高いことがわかった。魔法陣は基本的、描き始めと描き終わりを繋げないと発動せず、一筆書きで描くのが好ましいとされてきたが、それは多分この部分に繋がるのだと思う。

先程も言った叫んだ通り、魔力は動いていないと消えてしまうマグロ性質である。魔法陣は魔力を込めて描くからやはり魔法が流れやすい方向というのがあるらしく、描いた方向と逆向きには流れにくそうだったのがさっきの実践でわかった。つまり魔法陣の中では魔力は一方通行しており、線と魔力の摩擦抵抗が少なければ少ないほど効率よく魔力が魔法陣内を循環出来るのだ。効率よく循環出来れば魔力の節約が出来、それが魔法の持続性に繋がる。

これを使えば前世で言う家電製品みたいな魔導具が作れるのではないだろうか。風魔法の魔法陣でエアコンが、火魔法の魔法陣でコンロが、水魔法の応用魔法である氷魔法の魔法陣で冷蔵庫が。他にも前世で便利だった道具の数々が、魔法陣を使った魔導具で作れるのではないか。

ああ!夢が膨らむ!胸の高鳴りが抑えきれない!これは!正に!!恋!!!

「殿下、落ち着いてください。流石に魔法陣に恋されてはドン引き必至です」

「うう~そうですか?」

「はい。いつか魔法陣と結婚するとか言い出さないかヒヤヒヤです」

「魔法陣と結婚!出来たら最高ですね!」

「冗談が本気に捉えられた……重症だ……」

「聞こえてますよ」

「あっ、すみません」

ヴァイナモ失礼な呟きに不貞腐れたように頬を膨らますと謝罪が帰ってきた。声が割と本気だったので、本当に悪気なく呟いたのだろう。素直に謝るって、真面目だな。

……ん?中身成人男性が頬を膨らますのは痛いって?いいじゃん、別に。見た目天使なんだし。ヴァイナモは天使なショタにハアハアするような変態野郎じゃないから減るもんはねえんだよ。見てみろ、馬鹿真面目に反省するヴァイナモの姿を!

「まあ自分が変人だと言う自覚はありますが」

「……あるんですか……人って吹っ切れるとここまで変わるんですね……」

ヴァイナモは呆れを通り越して感心したようにそう零した。まあ今は前世の人格に大きく影響されてるからね。空っぽの10年間を生きたエルネスティより、倍以上の濃ゆい人生を生きた前世の俺の方が意思が強いっていうか魂がしっかりしてるっていうか。もうエルネスティ要素は記憶ぐらいしか残ってねえんでね?

「嫌いですか?今の私は」

「いえいえ!生き生きとしていて良いと思います!」

狡い質問にも嫌な顔せず即答してくれるヴァイナモぐう優しい。良い人すぎて悪い人にすぐ騙されそう。まあその時は俺のチート魔法で守れば良いんだけどね!

「……では、これからどのような研究をなさるのですか?」

「う~ん……。日常生活用の魔法陣と、護身用の魔法陣を開発したいですね」

「護身用、ですか?」

「ええ。あった方が便利でしょう?」

「まあ殿下はお命を狙われることが多いでしょうし……」

「いいえ。私は別に。察知魔法と防御魔法を使えばだいたいのことからは身を守れます。必要なのはヴァイナモでしょう?」

「俺……ですか?」

俺の発言にヴァイナモはぽかんと口を開けて自らを指差した。驚いているのは魔法でなんとかなる発言かヴァイナモのため発言か。両方かな?

「ええ。これから魔法陣が実用的になれば、その情報を盗もうとする輩が出てくるでしょう。そうでなくても私の専属護衛騎士なので命を狙われることは多いはず。魔法が得意な輩と対峙した時、不利なのは魔法が不得手なヴァイナモです。その時に備えて、危険察知魔法と防御魔法が発動する魔法陣を作りましょう」

「そんな……態々俺なんかのためにしなくても……」

「私がしたいのですよ。研究を進めるにあたって、私の研究に理解があるヴァイナモの存在が必須です。他の騎士では多分、鼻で笑われて終わりでしょうから。それに……私が嫌なのです。貴方に何かあるのが。ですから私の我儘だと思って、付き合ってくれませんか?」

そう。これは我儘だ。俺がいて欲しいのだ。魔法陣学に、そして俺に理解がある、ヴァイナモに。

ヴァイナモは目を見開いて固まっていたが、じわじわと言葉を呑み込んでいったのか、頬を緩めていく。

「……ありがとうございます。俺も殿下のお側でお仕えしたいと存じます。殿下のご期待に応えられるよう、精進して参ります」

「ふふっ。ありがとうございます」

俺はとても恵まれている。傍に理解者がいてくれるのだから。信頼出来る人が、一人でもいてくれるのだから。

理解者がいない孤独は、辛いものだから。


* * *


「よう!エルネスティ!体調は大丈夫なのか?」

図書館から自室への帰り道、前からやって来た青年に声をかけられた。体格のがっしりとした彼は俺の異母兄であるこの国の第三皇子、カレルヴォ・ラリ・ユッタ・ハーララである。彼は第三皇妃の長男であり、帝国軍に所属している。

武は剣を以て皇帝に忠誠し

軍人であるカレルヴォは政治に関わることが出来ない。よって彼は帝位継承権を皇帝に返上している。つまり継承権争いには参加しておらず、比較的どの兄弟姉妹にも平等に付き合いを持っている。次期元帥と名高い彼は、誰が次期皇帝となっても良好な関係を持てるよう用意しているのだ。

例に漏れず俺にも話しかけて来るが、今までの俺は争いに参加しない兄になど興味がなく、軽くあしらって終わっていた。

「ありがとうございます、カレルヴォ兄上。お陰様で体調はすっかり良くなりましたよ」

「うおっ!?兄上だと!?今まで頑なに兄と呼んでくれなかったのに、どうしたんだ?急に」

「駄目でしたか?」

「いいや!嬉しい!」

俺の兄上呼びに驚いたカレルヴォ兄上は、俺が不安そうに眉を下げるとニカッと笑って俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。

裏表ない真っ直ぐでおおらかな、人を惹きつける性格のカレルヴォ兄上は、以前は次期皇帝にとの声が数多くあった。しかし本人が腕っ節だけで為政などはからっきしだと言って潔く継承権を返上したこともあり、今では一部の貴族からは脳筋と揶揄されている。それでも堂々と軍人として功績を挙げる彼はとても男前で芯を曲げない人であり、多くの軍人の憧れである。

だからカレルヴォ兄上は俺の尊敬する異母兄であり、エルネスティ今までの俺が最も苦手とした相手でもある。

「それで?今日は何をしていたんだ?」

「図書館で魔法陣学の研究をしていました」

「……はっ?魔法陣学?なんでお前が?」

カレルヴォ兄上は嘲ているのではなく本気で疑問に思ったらしく、素っ頓狂な声を出した。カレルヴォ兄上は俺が皇帝の座を狙っていたことも、学問を究めることは皇帝の座を諦めることと同義なことも知ってるため、無理もない。俺はにっこり笑って口を開いた。

「カレルヴォ兄上は何故軍に所属しているのですか?」

「……何故ってそりゃ、剣が好きだし、軍は居心地が良いし、皇帝の座には興味ないし……自らの剣でこの国に貢献したいからだ」

「それと一緒ですよ」

俺は思っていた通りの答えに上機嫌になり、その場でくるりとターンした。ふわりと俺の艶やかな金髪が俺の頬の上を踊る。

「私は魔法陣が好きですし、本に囲まれた空間が何よりも居心地が良いですし、皇帝の座に興味ありませんし……自らの研究で俺の大切な方々に貢献したいからですよ」
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