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魔法貴族の罠

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図書館入り口にあるホールを通り過ぎようとすると、妙な違和感を覚えた。

「あれ、もう出入り口の扉が閉まってるぞ。」
「おかしいですね。まだ閉館時間前のはずですが」

既に出入り口の扉が閉じられていて、受付の職員の姿が見えない。

何か嫌な予感がする。俺が仲間達に注意をうながそうとした時、
「待ってたぜ、平民共。」
ホールを支える柱の陰からでっぷりと太った男が姿を現した。

先日、市場でもめた魔法貴族だ。名前は確かジーモンだったか。
さらに隠れていた取り巻き達も姿を見せる。
市場の時とは違い完全武装して、数も増えて10名以上はいる。

「銀髪の亜人娘、待ってたぜ。この間は逃げられたが、オマエの事が忘れられなくてなあ。ここでこうして待っていたんだよ。」

しまった。市場でもめたデブ貴族が待ち伏せしていたのだ。
連日、図書館に通う俺達を監視していたのだろう。まさかセフィアルを手に入れるために、そこまでするとは計算外だった。

「なんなのアナタたち」
「グフフ、この金髪もなかなかの上玉だな。」
「ジーモン様、彼女はエルフです。手を出すのはよろしくないかと。」
「チッ、まあいい。今回の目的はそこの銀髪娘だ。さあ俺と一緒に来るんだ。」

「待ちなさい。その子達は私の連れよ。」
「それがどうした。いかにエルフでも。この国で魔法貴族の俺の命令に逆らうことは許さんぞ。」
「くッ!」

厚遇されているエルフでも、魔法貴族の権威には敵わないようだ。
ユーディットは悔しそうに唇を噛む。

フォトンブラストを使うか、いやダメだ。
レクイルを守りながら、これだけの人数を一度に相手には出来ない。
そもそも俺自身もHPは4しかない。武装した兵の攻撃を一撃でも受ければ、間違いなくお陀仏だろう。

くそッ、せめてプロテクション・スフィアさえ使えれば何とかなるのに。
守りの要プロテクション・スフィアが使えない状況ではどんな小さな危険も冒せない。

「平民の分際で前回は、よくも恥をかかせてくれたな。ボコボコにしてやる」
ジーモンが俺を睨み、太った体を揺らしながら近寄って来る。
これはマズい。大ピンチだ。

「待ってくださいッ!私が貴方について行けば、タケルさんのことは見逃してもらえますか?」
「そうだなお前が俺の言う事を、何でも聞くというなら考えてやろう。」

俺の身を案じて、自分からついて行くと言い出したセフィアル。彼女を舐めまわすように見るバカ息子の顔は、欲望で醜く歪んでいる。

「セフィアル、ダメだ。そんなこと・・・」
「お姉ちゃん・・・」
セフィアル、そんな奴について行ったらどんな目にあわされるか・・・。

「大丈夫です。タケルさん、私が戻るまで宿で大人しく待っていてくださいね。」
ぎこちなく微笑むセフィアルは、俺の為を思って平静を装っているが、足が震えている。

「グルルルル」
スノウが今にも飛び出しそうに体を震わせて唸り始める。

ここは彼女たちの主であり、パーティーのリーダーでもある俺が何とかしなくてはならない時なのに、何の解決策も浮かばない。

「さあこっちに来い、これからたっぷりと可愛がってやるからな。」

ジーモンが既に自分の物でもあるかのように、セフィアルの肩に手をまわした時、俺の理性はぶっ飛んだ。
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