上 下
24 / 75

銀狼族の少女 その3

しおりを挟む
「残念ですがこの二人を、書庫に住まわせるわけにはいきません。」

俺はセフィアルとレクイルを、書庫に住まわせるようにエクレールに頼んだが、
メイガス専用の施設であるこの書庫に、他の職業の者を置くわけにはいかないとにべもなく断られてしまう。

「そこをなんとか頼むよ。このまま二人で、森で暮らしていくなんて無理に決まってるだろ。」

行き場のない姉妹を、魔物がうようよいる森に放り出したら、姉はともかく妹はまず生き残れないだろう。
しつこく食い下がる俺に、根負けしたエクレールは

「仕方ありません。それならばお二人にはタケルさんの眷属となっていただく必要があります。
タケルさんとお二人との間で、眷属契約を結んでいただくことになりますが、宜しいですか?」

と眷属契約などという聞いたことのない条件を提示してきた。

「それって彼女たちに、俺の奴隷になれってことか?」

「ひゃ、ど、奴隷?!」
脅えたレクイルは、姉の後ろに隠れてしまう。

「奴隷ではありません。眷属です。
眷属とは、いわば主人と従者。
眷属が主人の行動を助ける代わりに、主人は眷属の面倒と見て、その行動に責任を持つという関係です。
奴隷のように、どんな命令にでも従わせるというようなものではありません。
彼女たちをこのまま書庫に住まわせたいのなら、
タケルさんにその責任を負っていただかなくてはなりません。」

「そんなこと言ったって、セフィアルたちとはまだ会ったばかりだぞ。」
エクレールの言い分にも一理あるが、彼女たちとは出会ったばかりだ。
そんな重大な決断ができるわけがない。

「無理もありません。銀狼族は、誇り高い部族として有名です。
出会ったばかりのタケルさんの眷属になるなんて、考えられないでしょう。」

セフィアルが黙っているのを見て、エクレールは拒絶のサインと受け取ったようだ。


「分かりました。タケルさんと眷属契約を結びます。」

「お、お姉ちゃん?」

それまで一言も言葉を発していなかったセフィアルが、突然一歩踏み出してくるとそう言った。

「驚きました。本当に宜しいのですか?」

「はい。それで構いません。」

「タケルさん。あなたは私たち姉妹を眷属として受け入れてもらえますか?」
セフィアルは決意を込めた眼差しで俺を見つめる。

「あ、ああ、もちろん仲間が増えるのは嬉しいんだけど、セフィアルは本当にそれで良いのか?」

「はい、私は大丈夫です。レクイルもそれで良いですね。」

「うん、お姉ちゃん。私も大丈夫だよ。」

レクイルも初めは戸惑った様子だっだが、姉の言葉を聞いて決心したようだ。

「お二人が承諾してくださるのなら問題ありません。
それでは契約の儀式を始めましょう。」

エクレールが、床に人ふたりが入れるくらいの大きさの魔法陣を描き出した。

「さあ、まずはセフィアルさん。
タケルさんと一緒にこの陣の中に入ってください。」

俺とセフィアルは、エクレールに促されて魔法陣の中に入る。

「最初にお互いの両の手のひらを合わせて、握ってください。
・・・そうです。
そうしたら次は、お互いの額を近づけて、
・・・そう、額と額をくっつけてください。」

エクレールの言う通りにしていくと、セフィアルの顔が俺の目の前にくる。
間近で見ると、本当に綺麗な顔立ちしている。
俺が美しい少女との急接近でドキドキしていると、心なしかセフィアルの頬も紅くなっているみたいだ。

しばらくそうしていると、魔法陣が光り出して二人の体が光に包まれた。

「はい、結構です。これでタケルさんとセフィアルさんとの間に、眷属契約が結ばれました。」

契約が完了しても、俺の方は以前となんら変わりはない。
セフィアルの方はといえば、左手の甲に俺と同じメイガスの紋様が刻まれた。

次にレクイルとも同じように、儀式を行う。
身長差があるので、俺が膝をついて額の高さを合わせてあげる。

「えへへへ」
レクイルは照れて赤くなっていたが、嫌がってはいないようだ。
儀式が完了して、彼女の左手にも紋様が施される。

こうして何事もなく儀式は終了して、二人との眷属契約が結ばれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...