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しおりを挟む灯をともさなくとも目で認識できるくらいには、明るい月明を頼りに暗闇に溶け込み、京の小路を宛もなく進むも日中と違い────迷っている。
現代育ちの結花には暗闇ともいえる暗さには心もとない。
それも脇道に入ってしまえばもう夜に馴れた視界を頼りに、手探る他はない。
夜空を見上げれば満天の星が輝き照らしているも、前に視線を移せば暗く家内からの微光すら乏しく、何かでそうで怖く瞳が潤む。
陰湿な冷たさが辺りをただより、草々のざわめき寒くはないのだけれど、身震いしてしまい知らず知らず速歩になっていた。
そもそも結花はそれなりの好奇心はあれど怖がりでもある。
何かと感じやすい質であったが、友達との肝試しやホラー映画は怖がりながらも見るため、夜は当然眠れなく物音ひとつに敏感になって布団を深く被って凌ぐも、それでもだめな時は隣の幼馴染みの元に駆け込んでしがみつきながら寝ていたものだ。
今は会えないことが寂しく、一層心細さ増して明かりが灯るでだろう奥にと急く。
長屋の壁は薄い。漏れ聞こえる声に草履を踏みしめて布の擦れる音に夜風に混じりヒソヒソと囁きが聞こえる。
あぁ、まさに結花が苦手ともする"モノ" "現象"をここに来て聴いてしまうとは卒倒しそうになるも深呼吸をして、何とか心を落ち着かせる様に反射的に目を閉じて開いたことでバッチリと"モノ"と目が合ってしまった。
ひゅっと声とならない悲鳴が上がる。着物で動きにくいとか肌けるとかそんなのはどうでもいい。兎に角、無我夢中で走って走って内から這い漏れる違和感を掻き消えるように、ただただ"モノ"から遠ざかる。
───恐怖の余り、結花は気がつけなかた。この時"モノ"等が結花を何と呼んだのかを、そして───何かを訴えかける様に逃げてと言っていたのだった。
◇◇◇◇
息が上がり身体は寒気を感じなかったと錯覚する程火照っていて覚束無い足取りになっていた。
夜目に慣れても土地勘があるとも言えない通りに増してや昼間とは比べるまでもなく安易に動いてしまっては帰ろうにも、もう来た方向すらあやふやで結花は一人右往左往していた。
家を抜けたのは亥の刻を過ぎた頃だった。
月があんなに上にきてる······あぁそろそろ子の刻になろうとしているのだろう。
町人は寝静まる頃合いで、物音さえしない。
今だここが薄壁の長屋の脇道であることですら忘れそうなほど静観に包まれつつある。
留まっていては帰ることさえままならない。
兎に角ここから離れるため歩もうと踏み出したとき、脇道の向こうにほのかに灯が揺らぎ複数の足音が響いてきた。
運良く誰かが近づいてきているので、あの人達に聞いてみることにする。
だけど夜中ともなる子の刻に女子一人出歩いていているのも怪しいものだろうが"散歩"として通すには無理があるだろが他に言い様が出てこない。
詮索されないに越したことはないが、まずは人に会えることで帰れるだろうと結花はほっと息を吐いた。
だが、それも瞬く間に安心から恐怖えと変えられてしまった。
「───貴様ら壬生浪士組だな。我等が攘夷の礎えのため消えてもらう。ご覚悟」
ざざっと草履の駆け寄ると共に罵声が飛ぶ。
「へぇー。君等、長州のお訪ねものだね。運が無い。今夜は一番隊と三番隊だからね。誰一人として逃がさないから───」
ねぇ、一くんと聞き覚えのある声が聞こえた。
「あぁ····」
短い返しと同時に、刀同士がまじ合うキン──ッと響きが至る所かしこでしだす。
刹那、始まってしまっていた。
結花は刀が擦れる音に顔を青白く強ばらせ、逃げないと行けないとは分かっていても身体がガクガク震えて立っているだけでやっとだった。
この反響する音は嫌。
金属がぶつかる音や爪で引っ掻く不快感を覚える音も身が泡立って仕方ないが、それよりも背筋をも強ばらせる刀の響きの後に、男の悲痛な叫びと皮膚が切り裂かれる音が結花を縛り着けていた。
ほんの僅かでも踏み出せば先程の聞きなれた声の主が分かる。
けれど今そんな無謀な事をしてしまえば命が危ない。
この身体は元はお花のなんだから····。
こんなはずじゃなかったのに。
元号と時期からしてここ数日で長州と新選組いや·····今は壬生浪士組が乱闘することは現代での歴史書で調べたことがあって知っていた。
でもまさか、ドンピシャで騒動に居合わせるなんて思いもしなかった。
意図は分からないが、せっかく動乱最中に来たのだから、歴史も残る名だたる場面を、直に見てみたい衝迫に駆られて、いざ来て見ると余りもの凄惨な光景が目の前を蹂躙した。
血が視界を埋め尽くし引きづり込まれるようである。
命の危機とは正にこのことを指すのだろう。軽はずみに足を突っむとゆうか覗いてはいけなかったのだと、今更ながら強制的に理解せざるおえなかった。
──動いて·····動いてよ。逃げないとわっわ···私も──
思うように、動かない足を力を込めてやっと動いてたものの、後ろに下がってしまったためジャリッと音を鳴らしてしまった。
しまったと足下から視線を戻すも既に遅く、刀を振るう男は目先に迫り避けられないと悟り咄嗟に目を瞑る。
キン────ッ
「····嫌な予感ってほんと良く当たる。まさか、こんな刻限に会うとはね」
一向に斬られる気配がなくうっすらと片目を明けた先には、結花を斬らんとした浪士と相対するかのように、結花より幾ばくか歳が下の線の細い端正な顔の少年が、ため息混じりに庇い立ち漏らした。
「なっっっ何でここに子供がいる。それも女子もと···は······えっ貴方組長が行くお茶屋の娘───」
「はい、そこまで。」
背の月明かりで灯されたおかげで結花だと認識した浪士は狼狽する。浪士は結花を知っているみたいだが、この位置では明かりの陰陽でこちらからは姿は疎か誰かなのか分からない。
だが、声音には聞き覚えがある気がする。数回、総司が巡察中に抜け出してお茶屋に来た時に呼びに来た一番隊の隊員だったはず。
ここで知り合いに見られるとは思わなかった。次に総司等とお茶屋で会ったらなんて言おうと悶々とする。
少年も顔を知られたくないのか結花を助けてくれたかは分からないが、すかさず相手の隙をみて手刀を喰らわせ気絶させていた。
「·······何でこんな夜更けにここにあるのさ。寿命が縮むから止めて。相変わらず無謀気周りないことしてるようだね。この動乱時に無策で危険地帯に突っ込むとかありえない」
「えっはっ·····知り合い?」
「まさか代っても無謀なとするなんて」
少年は眉根を寄せ結花を凝視してあからさまに手で目を覆い、天を仰ぎみてからため息をついた。───会って間もないが結花を見て溜息しかついてない。
失礼では無いだろうかと内心不満を漏らす。
「·····ここは騒々しいから静かなとこに移動するよ」
背後の今だ続く乱闘を余所に優しい手つきで落ち着かせるように頭を撫でられる。
歳の割に落ち着いた少年はそれからち凄惨な光景を見せないように手を引いて遠ざけた。
結花はチラッと振り向くもそこには彼──総司はここからでは見えない。
「······総司っっ」
騒がしい中では小さな呟きは届くはずもなく夜の闇消えるだけだった。
カキン────ッ
一人また一人と浪士を薙いでいっていた。
かれこれ何人かやったがそれでもまだ浪士は向かってきて、引くことはないらしい。
「はぁ~、帰りたいよ。ねぇ一くんもそうでしょ」
「無駄口をたたくぐらいなら残りを片付けてからにしろ総司」
「一くんはほ~んと真面目何だから、疲れない?でも、そうだね。そろそろ終わらせようか」
ふざけた態度ではあるが確実に相手を倒している姿は伊達に浪士組一、二を争う剣豪のことだけはある。瞬間、鋭い眼差しになり構えを変え敵を狙ったが、その時研ぎ澄まされた聴力よって、僅かに何か聞き覚える響きのいい声が聞こえた。
「·······総司」
息を飲む。まさかとは思いつつも声の主であろう彼女を探して当たりを見渡すが名残すら感じない。
こんな血なまぐさい姿は彼女には見られたくないと思いながらも声を聞いてしまっては探さずにはいられない衝動に駆られた。
そんなもの相手には知ったことではない、すかさず隙を見て斬りかかってきた。
「総司!何をぼさっとしている。気を引き締めろ」
一によって意識を戻した。まだ戦いは終わっていない。今度こそ相手を見据え、仕留める。
総司がやったのを最後に浪士等は苦々しくも無理に続けては犬死にだと悟り徐々に撤退して行った。
こちらに近づきながらも一は隊員に指示を出し後始末を任せた。
「総司、先程のは何だ。終わってもないのに気を散らしては命を掬われるぞ」
言われずとも分かっている。
僅かとも隙を見せれば命取りになりうることは、命を軽視しているわけではないが、敵の命を断つことでこちらも何時なりとも命を絶たれる覚悟ているのだから。
「う~ん、聞き覚えのある声が────いや何でもないよ。····さぁさっさと片付けて屯所に帰ろうっか!」
確かに聞こえた気がしたが、見渡しても見当たらなかったことで気のせいだと総司は自己完結させることにして隊員等の元に歩を進めるのだった。
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