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しおりを挟むこの頃結花がこの時代に訪れてからというのも、結花個人の知り合いがますます増えてきていた。
その中にはもちろん壬生の狼の中の名の知れる沖田と付き添いといった形で斎藤も顔見知りとなっていた。
どうも、沖田は大の甘党で暇さえあれば甘味所に出没していたらしく、ここのところの行きつけとなっているのがこの結花が働いている甘味処なのだそうだ。
だかなのか毎日といっても過言でないほどの頻度で沖田には会っていた。酷い時には京の見廻りの途中であっても訪れる為決まって斎藤が連れ戻しにやってきて引き釣り去って行く。そんな気苦労が絶えない斎藤には同情してしまう。
繰り返し途中で訪れる沖田のために親切心をを兼ね心遣いに斎藤に知らせることにしている。それでも飽きることなく続けているのにいっそ逆に感心する。
「はぁ、総司見廻りの途中だ。行くぞ。お春さん毎回すまない」
「とんでもない、斎藤さんこそ毎回ご苦労様です。沖田さん!毎度毎度言いますが休みの日に来てくだされば私も追い払うことはしませんので、ぜひ休みの日にお越しください」
「ちぇ~。僕は毎日ここの甘味とお春ちゃんが恋しくって仕方ないのに·····ってぇ····何すんのさ一くん」
「総司····お春さんを困らせるなそれと今は職務中だ。はぁ···今日も副長に報告せねばならないな。さぁ、隊員達も表でお前を待っている、行くぞ。····それではお騒がして済まない、私たちはこれにて失礼する」
仲のいい言い合いを見送りながら溜息を漏れる。
こんなはずではずではなかったと遠い目をする。結花はできるだけ総司等とは距離を置いていたはずがいつしかお茶屋でとりとめのない話をするぐらいには親しくなっていた。そもそも強く詰め寄られては結花もあしらうのを諦めるしかない。
でも今は親しくしていたおかげでこうして総司を斎藤に相談して助けてもらっているのだから。
「相変わらず賑やかですねあのお二方は。それにお春さんはまめですね」
寧士郎は自身の指定席となっている隅の席から結花達を眺めていたようだ。
いつから来ていたのかすでに寧士郎の固定となった磯辺と醤油団子を脇に備えられていた。
見ていたのなら声かけてくれれば良いのに。
不満を込めて結花はじとりと寧士郎にお代わりのお茶を差しだす。
「寧士郎さんは最近わたし達のことで楽しんでません?これでも総司には結構困っているんですよ····隙あらば言い迫ってきますし、それに仕事中に抜けて来られていては隊の方々が可哀想です」
「楽しんでるとは違います。ただわたしは微笑ましさを見守っているだけです。浪士組は好きませんがあのお二人がお春さんに危害を加えることはないでしょうから変な輩が居たらむしろ助けてくれるでしょう。あ、もちろんわたしもですよ」
虚をつかれ呆然としていたが考える素振りをして寧士郎は淡々と話しながら微笑みを浮かべた。
天然タラシさながらの台詞に結花は気恥ずかしさからそれ以上文句を言い淀むことは出来なくなりそっぽを向いた。
そんな結花を露知らず躊躇いがちに聞けずじまいだったことを聞こうと寧士郎は口を開いた。
「前々からお尋ねしたかったことがあったのですが、高杉さ────」
が、言いかけて、ぴたりと固まり青ざめていく。
それもそのはず、結花に目を向けると後ろには晋が口元だけにっと緩めていたが目は細めるどころか吊り上がりあまつさえ冷たく射抜かんばかりの目つきを寧士郎に向けている。
驚きのあまり、しどろもどろになる寧士郎のあまりにもの動きにおかしく思って視線の先を辿るとそこに神社でしか会うことがなかったはずの晋がいるではないか········。
──あれ、なんでここに晋さんが居るの
?お茶屋で働いているって話していないはずだけれど······
お茶屋の話していなのに目の前いる晋が不思議で思わず結花は無遠慮にも見つめてしまっていた。
「おう、結花数日振りだな。」
「·····えっ·····晋さんが何で?」
挨拶も忘れ出てきた言葉がなんとも抜けた返しだった。
「くくっ、なんだ?それは挨拶変わりか」
揶揄うかのような可笑しそうに笑い結花の頭を撫で回した。あまりにも毎度毎度子供扱いをしてくるのでほほを膨らませ不貞腐れている。
撫でられるの構わないがそれとこれとは別だ。結花も女の子なのだからもっと気遣ってくれても良いではないか。
一矢報いたいたく晋を覗き見ても今だ揶揄いを含んでいた。顔がいいだけに様になっている彼に隙はなかったけれど、不意に寧士郎の挙動不審さが気になった。
─お二人は知り合いだたの······
「···晋さんはどうしてここにいらしたんですか?それに寧士郎さんと知り合いだったんですね。それならそう言ってもらえればよかでたのに」
目を剥いて驚く二人にしたり顔になり詰め寄った。
「やはりそうなんですね······」
「·····カマかけたのか····なかなかやるじゃねぇか。んっでもよく分かったな、俺がコイツと面識あるなんて」
「揶揄ってばかりいるのでお返しです。寧士郎さん晋を見てから百面相して落ち着きがなかったのでもしやと。本当に知り合いだとは思いませんでした」
教えてくれればと少しの皮肉と不満を漏らした。
共通の知り合いが身近にいたのだからもっと他の話しができたはず。今更恨みがましいことを口にしないけども態度に出てしまうのは見逃してほしい。
「お春ちゃん、お客さんなんやろ注文取っておくれ」
様子を見計らっからっていた紗枝から声をかけられる。
「分かりました。晋さん何にしますか?最近は品書きが増えたんですよ。後、タレの甘さを控えたのもあります」
「ん、俺はみたらし団子の甘さを控えたものを頼む····お前はどうする」
「いっいえ····わたしはもう頂きましたので」
蛇に睨まれた蛙の如く益々縮こまっりどもりながらも答えてもらえた。
顔見知りならと結衣かなりに気を利かせ晋に寧士郎との相席を勧めて店の奥へと戻った。
さっきはひねくれた言い様になってしまっていたがそれでも逢えて嬉しく感じていた。
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