私は問題軍師のその先を知っている

チヨカ

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9.お茶屋で傍観と武士

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「ここが今日から働いて貰う茶屋やよ。お春ちゃん。」
 
数刻前にお春の家に来るや季布は支度を急かしせっせと結花を引っ張って朝から今日から結花が働く茶屋までやって来た。

そう、まだ早い時間だからか店の中に人が居ない。それでもお構い無しに季布は店の奥へ進んで行く。

「おはようさん。紗枝さえはん居てはります?昨日言っとった娘連れて来たで。」

パタパタと草履の音と共に七十代半ばのお婆さんが駆け寄って来た。

「あらあら、おはようさん。こうも早よう来てくれはるとは思わんさかいすまへんな。まぁ立ち話も何やから奥へ行こか。」
「ええ、せやね。」
「は···はい」

連れられて進むと勝手場横の襖を開けてちゃぶ台と戸棚といった昔ながらの簡素な部屋に通された。

お茶とお茶請けにみたらし団子を頂き一息着いたところでこの茶屋のお婆さんこと紗枝が話し出した。

「ふぅ、すまんねぇ。挨拶もせんで、わて紗枝と言います。そこに居る人がこの茶屋の店主でわて旦那やけど、ここふたりでやってたんやが歳やからか身体上手く動かんでな、ちこうに娘は居はるやけど時期が悪るくって来れへんのや。せやから、若くて働いてくれる娘探しとったんやけどこんな可愛らしい娘はんが働いてくれはると助かるわ、これから宜しゅうお願いします。ほれ、あんさんも挨拶しなや。」

お勝手場で黙々と茶菓子の仕込みをしていた無口なおじさんに話しを振る。

「····宜しゅう。」
「はい、これからお世話になります。お春と言います。」
「それじゃ、お春ちゃんにして貰う仕事を一通り説明しなね。お春ちゃんには接客と給仕をしてもいたいやけど、ええかね?

「分かりました。えっと、ここで出している品物を教えて貰えませんか。」
「ほぅ、えらぁ珍しい。他の茶屋と変わらへんさかい知らんのかえ?それにここらに住んではるやろに京弁やないなんて珍しいな···」
「···この娘緊張しはってるのや。気せんでええよ。」

ぎくりと結花の言葉を思わぬ所で取られてしまい言葉が出ない。運良く季布が助れる形になったがふとした時に気が緩んでしまっている為かこれではいつボロが出てお春では無い事がバレるかヒヤヒヤものだ。身体に冷や汗をかきながら今一度気を引き締め直すように眼を閉じ一呼吸をおきゆっくり眼を開く。そして素知らぬふうに紗枝と話す。

「あまり甘味処に行くこと少ないので他の店と此処の店の甘味の品物は違うものかと思いまして。けれども他はほかで此処で働くなら品物を一から教えて貰いたいのです。可笑しいですか·····。」
「あらあら、そうだったのやね。いい心がけで気に入ったわ。そうやね此処で働くのだから先ずは基礎の品物を教えるの通りだ物ね、これは一本取られてもうたわ。」

紗枝は可笑しそうに笑った後袖から紙を出し結花の前に広げた。

「これがこの茶屋で出している甘味やで。大体団子とぜんざいと餡蜜やけど、団子はみたらし団子、三色団子、素団子をだしとるよ。まぁ、仕事は働きながら覚えればえぇから。」

結花にあらかた仕事の流れを教えまだ茶屋が開く時間では無く、季布はお春の父幸助の様子を見るといい帰ってしまった。

申し訳なくなりながらも結花はさっき出されたお茶菓子の団子を味わいながらゆっくり紗枝と話をした。

けれども意外だった。団 子の種類は和菓子だけど結花が居た時代と殆ど大差が無いくらいあるのだ。茶屋でだしてる甘味の品書きを眺め江戸時代と結花の時代の比較をふとしてしまっていた。

それにしてもこの団子美味しい。現代の団子それはそれで美味しかったけれど程よい甘さの団子とみたらしの醤油と砂糖の具合が絶妙で団子とタレの絡みが絶妙だ。
この時代の団子は何処も同じくらい美味しのかが気になってしまうのはお菓子それも和菓子が好きでお菓子を作る事がある結花としては良い所でし仕事が決まった。

「お春ちゃんそろそろ店開けるでのれんかけてくれな。あっそや、まだ前掛け渡してなかたわ。これ仕事用の前掛けやで付けやぁね。」

茶菓子の仕込みをおじさんと座敷の傍にある勝手場でしていた紗枝が結花の元まで来て前掛けを渡してくれた。

結花は前掛けをして仕事の支度をすませはやはやと入口まで行き開店を知らせるのれんをかける。既に来た時よりも日が登り人が行き交う中さあ、これから結花の江戸時代に来て初の仕事が始まる。

わくわくしながら仕事に期待を膨らませ教えられた通り接客をこなしていた。
だが、いざやると茶屋での仕事は甘くなく結花の時代の比ではないほど接客の仕事は動く。

結花は元いた時代でバイトを掛け持ちしていたぐらいだから、その中に接客のバイトを入ていた事もあり茶屋の接客もある程度できると思っていた。
けれどそれは人数が居る場合で此処の茶屋はおじさんが茶菓子を作り紗枝が運ぶといった流れで接客全般を紗枝一人で担っていた。
身体を壊した紗枝の変わりに接客を結花に任されたが·····

「すいません。みたらし団子二本ずつ下さ。」
「は、はいっ···· 」
「こっちは餡蜜と三色団子一つずつや」
「えっは、はいただいま···」
「すいまへん、餡蜜と素団子二本下へい。それにしても、えらぁ可愛えぇ娘が来てくだはって良かね紗枝はん。」
「そうなんよ、この子が来くれはって助かっとるんよ」

お客さんが開店早々に増えてきて今では注文を取り運ぶことに手一杯の結花の間に入り紗枝が常連んと思われるおばさんの相手をしていた。

初めから紗枝がしてきた全て量の接客をこなせるはずもなく紗枝も動けない訳でもないので多少は結花の様子見がてら常連客は紗枝に代わってもらった。

時間が過ぎるのは早いもので太陽が頂点に差し掛かり真昼の九つ十一時から一時頃を知らせていた。

「お春ちゃん今のうちに奥に行って昼膳をとっといでな」

「ありがとうございます。お先い頂きます。」

紗枝に進められお客さんの入り具合も落ち着いてきた頃結花は昼膳を頂いていた。

食事を用意して貰えるのは正直嬉しい。けれど朝の食事でも思ったがご飯、味噌汁、漬物というもの寂しい質素なものだった。

一口又一口食べると現代の味に刺激のある彩りの食べ物が恋しく思い巡る。

─シチューにハンバーグ、野菜炒めそれにあんぱんとドーナツも美味しかったなぁ···。ケーキも隣りのおばさんにもらって美味しかったしフルーツポンチやプリンもあと豆大福をくれた·····─

口の中は味気ない物ばかりなのに思い起こされる物はどれも味が濃い物のせいかさっきよりも味が薄く感じてしまう。泣きたいくらいに。

それでもお腹には溜まるこで体力を養う栄養を取れたので文句も言えない。
昼膳を下げ紗枝と交代する為表に出たところで又ひとりお客さんが入って来た。

「こんにちは!席空いてますかね。」

のれんをくぐり現れたのはなんとも綺麗な顔立ちの優しい風貌をした美青年だ。

「は···い、こちらにどうぞ。」

思わず見惚れてしまう結花だったが周りに居るお客さんは青年を見るやいなやひそひそと避けるような素振りで早々に出ていきお客さんはここに居る青年だけになってしまった。

結花は余りにもの振る舞いに引っかかりはあるものの当の本人の青年は気にする素振りはなく逆に嬉しげだ。

「あぁ、良かった。此処の甘味は人気でなかなか入れないのですが、今日はついてますした。あの、さっそく注文良いですか?」
「えぇ、もうお決まりでしたらどうぞ。」
「では、団子を····」
「総司!!」

ばさりとのれんが舞い行きよいよくお店に男が入ってきた。

「あぁ、一くんどうしたのですか?もしかして一くんも休憩ですか。」
「·····総司···」 

青年の知り合い思わしき男は打刀と脇差を携えていて、武士とおもしき青年は只ならぬ雰囲気を身に纏っていた。
それに先程から交わされる会話の中に"総司"と"一くん"と名が飛び交っていて、結花は自然と鼓動が速まる。

もしかしてと思い、注意深く観察して歴史書に載っていた写真と特徴が合う。
なんってことだろう。歴史に名を馳せる新選組が目の前に居るのだ。思わず彼等から目が離せない。
近くに居た結花は彼等の会話の内容からするに青年総司と言われた彼は"一番隊隊長こと沖田総司"でそして、後から現れた男は一という事は"三番隊隊長斎藤一"その人だろう。

「屯所迄が隊務の一環だ。それも隊長自ら寄り道をしては隊が乱れるではないか。」
「硬ったいなぁ。一くんは。そんなんだと近いうちに土方さんみたく眉間のしわ取れなくなるよ。」
「···それは総司が隊務を途中でほっぽり出すせいだ。はぁぁっ。」
「すいません。注文良いですか?」

噛み合わない話しのせいでズレてる。沖田の自由奔放の行動に毎度付き合わされているのが伺える。

「待て、話の節を折るな。そして此処で食べる気か···」
「はい、そうですよ~。みたらし団子三十本ください。」
「えっ····はあ。」
「····仕方ない。総司こうなっては聞かないからな。済まないがそのみたらし団子は持ち帰りにしてくれ。」
「むむ、はぁっ仕方ないですね今日は持って帰ることにします····」
「はい、それでは少しお待ちください。」

奥に居るおじさんのところ迄行き急ぎ三十本のみたらし団子を包み沖田お斎藤が待つ席に向かう。沖田は包みを団子が入った包みを受け取ると嬉しそうに微笑み代金を結花に渡しくるりと表へと歩き出した。
 
「済まなかったな。」
「···えっ」
「総司が訪ねたお陰で客が逃げて言ってしまっだろ。あんたは私等を怖がら無いのだな。」
「····怖い··?···」

斎藤は沖田がお店に来た為にお客さんが避けるようなるのではないかと結花とお店を気ずかい申し訳ないと声を掛けてくれたようだ。結花は京の町人がどういう心情でか新撰組を忌み嫌い避けるのかは知り得ない。結花は幕末それも新選組の歴史書を読んでいたが京都を護り攘夷志士に対抗する為の結成された組織ではず──。

「すまへんね斎藤はん。皆悪気あらしまへんのやけどもどうもまだ壬生浪士組の皆はんと馴染めてないだけなのや。皆さんええ人なんやのにね。」
「いや、しかたない。町人からした人斬りにしか見えないだろう。···紗枝さん毎度毎度総司が迷惑かける。」
「いいえ、沖田はんはお得意のお客さんさかい。またのお越しをお待ちしとります」

結花は紗枝と斎藤を見送り、新選組が居なかったのようにお店はお客さんので賑わいを取り戻した。
客足が落ち着き暁染まる空そろそろ一日の仕事が終わりを知らせる。紗枝とおじさんに挨拶をし、帰路につきながら新選組との出逢いを思い出す。江戸時代の京都ならいつかは会ってみたいと思っていたがそれは突然とも必然もいえる。けれどいざ会うと印象が違った。もっと厳つい者達だと思ってたが気さくで楽しげな人達だがやはり武士とだけあり志しを秘めている印象が伺えた。また逢えないだろうか話せないだろうかと偉人に会えたことで心躍らせた。

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