機械仕掛けの執事と異形の都市

夜薙 実寿

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Epilogue

呼び声

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 翌日は、昨日の豪雨が嘘だったのかのように快晴となりました。

 強い風が残らず攫って行ってしまったのか、空には雲一つございません。

 未亜と二人で、庭のにれの木の下に坊ちゃまのお体を埋葬致しました。
 ここからなら坊ちゃまの愛した庭の全景が見られます。……今は、荒れてしまっていますが。

 植物は強いです。いずれ、月日の経つのと共に、いつの日かまた庭一面に美しい花を咲かせる事でしょう。
 その時の光景を思い描いていたら、未亜が声を掛けてきました。

「……なあ、終」

 互いに土で汚れた顔を見合わせます。彼女は、言いました。

「一緒に来るか? ずっと、ここに一人で居んのも、何だし。あたしも、丁度ボディガード欲しかったし」

 それは、とても心躍る誘いでしたが……。

「……すみません。終はここで、坊ちゃまと居ります」

 ずっとお傍に居ると、誓ったのです。終はここで坊ちゃまの墓守として、恒久にお仕え致します。

「そうか……わかった」

 未亜は、別段何を言うでもなく、私の言葉をすぐに受け入れて下さいました。

 そうして、近くに置いていたヒップバッグと日本刀を持つと、彼女は改めて背筋を正しました。

「じゃあ、あたしはもう行くな」

「もう、行ってしまわれるのですか?」

「まあな。あんまり、長居は出来ねーし」

「……そうですか」

 少し、名残惜しいですけれど。

「それでは、お元気で。色々と、ありがとうございました」

 謝意を挨拶と共に示すと、未亜は軽く首肯して、そのまま背を向けました。

 終は、去り行くその背を、暫し眺めていました。
 ――その時でした。

「……え?」

 風に乗って……空耳でしょうか。
 いえ、確かに、聞こえたのです。

 急いで未亜の後を追い掛けました。

「未亜‼」

 呼び止めると、彼女は小さく驚いた顔でこちらを振り向きます。

「坊ちゃまの声が、聞こえました」

 そう……もう聞こえなくなっていた筈の、坊ちゃまの声が確かに聞こえたのです。

 それはまた、私の記録野のバグが生み出した、幻聴なのかもしれません。……それでも、構いません。

「未亜と共に、行けと仰いました」

 それを聞くと、未亜は少しの間だけ黙してから……やがて、口元をほころばせました。

「そうか」

 坊ちゃまによく似た、優しい声音と表情でした。

「じゃあ、行くか」

「はい!」

 旅立ちを促す彼女の合図に、私は大きく二つ返事をしました。

 そうして、歩き出す未亜の後ろに付いて、終も歩を進めます。

 鋼色の門を潜る際に、最後に一度だけ振り返りました。

 坊ちゃまと、年月を過ごしたお屋敷。……そして、坊ちゃまの眠る大きな楡の木に向けて。

 胸に手を当てて、一礼……そうして、顔を上げたらご挨拶です。


「坊ちゃま。行って参ります」
 

------END
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