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Chapter.6 真実
日常の終わり
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怪物の一本しか無い脚には、更に黒い布……見知った黒い燕尾服の残骸が巻き付いている。
老執事の顔を持つ異形の怪物が、口を開いた。……くぐもった声。
「ぼっぢゃま……おにげ、ぐらはい」
次の瞬間、目を覆いたくなるような変化が訪れた。
「ぐうぅうう」
苦しみ出す畠山の顔が、見る見る内に形を変えていく。
ボコボコと盛り上がり、波打ちながら膨張する皮膚。老眼鏡の弦が肉に埋もれ抱かれ同化し、先程まで肌色だった部位も、瞬く間に硬い羽毛に覆われる。
大きく裂けた口からは、長く尖った黄色い嘴が生えて来た。……そこに、鮫のような鋭い歯。
唯一、最後まで面影を残していた瞳も、やがて前後左右に裂けて肥大化し、濁った魚のような生気の無いものにすり替わった。
……もう、そのどこにも、畠山の姿は無かった。
茫然と。僕はただ、その様を見上げていた。
「畠、山……?」
呼ぶも、もう返事は返ってこない。代わりに、数秒前まで畠山であったモノは、突如奇声のような雄叫びを発して、こちらに襲い掛かった。
「うわぁあっ‼」
避けようもない僕の体は、車椅子ごと怪物の嘴で引っ繰り返される。
反動で、座していたそれから投げ出され、床に転がる。
「ッ畠山‼」
打ち付けた部分に生じる鈍痛から意識を逸らし、僕は呼ぶ。
「畠山‼ 僕だ‼ わからないのか⁉」
ひたすらに、呼び掛ける。しかし、畠山であった筈の異形の怪物は、最早言葉を解さないようだ。
暫し唸り声のようなものを発した後――何の躊躇いもなく、無抵抗に横たわる僕目掛けて跳躍した。
思わず、目を瞑る。……死を覚悟した。
しかし、予想した痛みは訪れなかった。
直後、暗闇の視界の中、何かが砕ける鈍い音が聞こえて来た。それから、獣のような鳴き声の、甲高い悲鳴。
「ギイィイ‼」
その異変にぱっと目を開くと、そこには……。
首があらぬ方向に曲がり、骨の突き出した、異形の怪物の姿。
そして、中空からスタッと着地を果たした、緑の燕尾服の青年……終の姿だった。
彼の瞳は、戦闘モード時の煌く黄金色の光を発している。
何をどうしたのかは見ていなかったが、どうやら終が異形に攻撃したらしい。
首を折られた怪物がその場に頽れる。しかし、すぐには息絶えず、地を這い身を捩り、苦しげにのた打ち回った。
そんな異形に止めを刺すように、終がソレの頭部を踏みつける。勢い良く振り下ろされた左足が、怪物の頭蓋を粉砕した。
再び骨の砕ける鈍い音が鳴り、夥しい量の鮮血が赤い絨毯を暗褐色に染め上げた。
そうして、異形が完全に動きを止めると、終の瞳が通常時のライムグリーンへと戻る。
シュウウと場にそぐわない力の抜ける音が聞こえ……。
「坊ちゃま、お怪我はございませんか?」
倒れた僕に、白い手袋の手を差し伸べて来る。
僕は、それをすぐには取らず、暫し自失状態で黙していた。
すると、心配げに終が声を掛ける。
「坊ちゃま? どこか痛いのですか?」
「……いや……平気だ……」
目は、息絶えた異形の怪物を映したまま。ようやくそれだけ、喉から絞り出した。
地に臥したその屍を見ても、アレが畠山だったモノだと頭では理解していても……どうしても感情が結びつかず、喪失感は湧かなかった。
老執事の顔を持つ異形の怪物が、口を開いた。……くぐもった声。
「ぼっぢゃま……おにげ、ぐらはい」
次の瞬間、目を覆いたくなるような変化が訪れた。
「ぐうぅうう」
苦しみ出す畠山の顔が、見る見る内に形を変えていく。
ボコボコと盛り上がり、波打ちながら膨張する皮膚。老眼鏡の弦が肉に埋もれ抱かれ同化し、先程まで肌色だった部位も、瞬く間に硬い羽毛に覆われる。
大きく裂けた口からは、長く尖った黄色い嘴が生えて来た。……そこに、鮫のような鋭い歯。
唯一、最後まで面影を残していた瞳も、やがて前後左右に裂けて肥大化し、濁った魚のような生気の無いものにすり替わった。
……もう、そのどこにも、畠山の姿は無かった。
茫然と。僕はただ、その様を見上げていた。
「畠、山……?」
呼ぶも、もう返事は返ってこない。代わりに、数秒前まで畠山であったモノは、突如奇声のような雄叫びを発して、こちらに襲い掛かった。
「うわぁあっ‼」
避けようもない僕の体は、車椅子ごと怪物の嘴で引っ繰り返される。
反動で、座していたそれから投げ出され、床に転がる。
「ッ畠山‼」
打ち付けた部分に生じる鈍痛から意識を逸らし、僕は呼ぶ。
「畠山‼ 僕だ‼ わからないのか⁉」
ひたすらに、呼び掛ける。しかし、畠山であった筈の異形の怪物は、最早言葉を解さないようだ。
暫し唸り声のようなものを発した後――何の躊躇いもなく、無抵抗に横たわる僕目掛けて跳躍した。
思わず、目を瞑る。……死を覚悟した。
しかし、予想した痛みは訪れなかった。
直後、暗闇の視界の中、何かが砕ける鈍い音が聞こえて来た。それから、獣のような鳴き声の、甲高い悲鳴。
「ギイィイ‼」
その異変にぱっと目を開くと、そこには……。
首があらぬ方向に曲がり、骨の突き出した、異形の怪物の姿。
そして、中空からスタッと着地を果たした、緑の燕尾服の青年……終の姿だった。
彼の瞳は、戦闘モード時の煌く黄金色の光を発している。
何をどうしたのかは見ていなかったが、どうやら終が異形に攻撃したらしい。
首を折られた怪物がその場に頽れる。しかし、すぐには息絶えず、地を這い身を捩り、苦しげにのた打ち回った。
そんな異形に止めを刺すように、終がソレの頭部を踏みつける。勢い良く振り下ろされた左足が、怪物の頭蓋を粉砕した。
再び骨の砕ける鈍い音が鳴り、夥しい量の鮮血が赤い絨毯を暗褐色に染め上げた。
そうして、異形が完全に動きを止めると、終の瞳が通常時のライムグリーンへと戻る。
シュウウと場にそぐわない力の抜ける音が聞こえ……。
「坊ちゃま、お怪我はございませんか?」
倒れた僕に、白い手袋の手を差し伸べて来る。
僕は、それをすぐには取らず、暫し自失状態で黙していた。
すると、心配げに終が声を掛ける。
「坊ちゃま? どこか痛いのですか?」
「……いや……平気だ……」
目は、息絶えた異形の怪物を映したまま。ようやくそれだけ、喉から絞り出した。
地に臥したその屍を見ても、アレが畠山だったモノだと頭では理解していても……どうしても感情が結びつかず、喪失感は湧かなかった。
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