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Chapter.5 題名の無い本
不穏の訪れ
しおりを挟む僕と畠山と終の三人の生活は、平穏に過ぎていった。
僕の体は相変わらず弱かったが、この所は小康状態が続いており、いい傾向だった。
しかし、平和な日々はそう長くは続かない。日常に潜む闇は、気付かない内に色を濃くしていた。
最初にそれを知ったのは、ニュースだった。
都内の某所に、突如謎の怪物が出現した、という何とも作り話のような報道が流されていた。
幸い近隣の自警団の活躍により、怪我人などは無く、大事には至らなかったそうだが……。
その怪物の正体は知れず、追って調査を進めるとの旨だった。
「怖いですねぇ。一体、どこから来たのでしょう」
画面に映し出されるゴジラの着ぐるみのような怪物を見ながら、畠山はそう言ったが……。
映画の中の話をしているような、どこか他人事の響きがあった。
この段階ではまだ、彼も僕もこの事件に対して、殆ど無関心だった。
謎の怪物の出現は、それからも相次いで起こった。人々の間では、山奥から降りてきたビッグフットだの地球侵略に来た宇宙人だのと、様々な噂話が駆け巡った。
徐々に被害も出だしていたが、それでも、まだ僕には現実味が無かった。
その話が直接僕に降りかかって来たのは、とある研究機関の発表があってからだった。
Phantom Virus――通称、P・V。そう呼ばれるふざけたウイルスが、研究所から漏洩したのだという。
そのウイルスに感染した人間は、異形の怪物へと変貌してしまうのだとか……。
その事実の発覚に、世界は大きく動揺した。
これまでに目撃された謎の怪物達は皆、元は人間だったというのだ。
……そういえば、怪物が発見されるようになってから、原因不明の行方不明者数が増えていたのだそうだ。
人間が、突如としてモンスターに変質する。そんな信じられない話が、現実に起こったというのか。
世間は大騒ぎしているが、僕はどうしてもまだ半信半疑だった。
そのB級映画のような突拍子もない話は、早々に海外にまで知れ渡って行った。
ある日、父からこちらへ来いとの呼び出しの声が掛かった。
……何だ、ずっと放っておいた癖に。今更父親面して、僕の事が心配だとでも言うのか。
僕は、断わってやろうかとも思ったのだが……。
「坊ちゃま、お願いでございます! わたくしは、恐ろしゅうございます……。一刻も早く、この国から脱出致しましょう!」
畠山がそんな風にひどく怯えるものだから、またも折れることにした。
「……わかった。だが、終も連れて行く。いいな?」
最低限それだけの条件を出して、僕は父の居る国へと渡ることになった。
この時もまだ、僕はP・Vの恐ろしさを何も知らなかったのだ。
――その恐怖が、いずれ身近に迫って来る事になるなどとは……思いもしなかった。
幸福は、いつでも突然崩れ去るもの。
……それを僕は、幼くして母の死から学んでいたというのに。
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