機械仕掛けの執事と異形の都市

夜薙 実寿

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Chapter.5 題名の無い本

坊ちゃまの手記

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 僕は、失敗作の不良品だ。

 生まれつき体のあちこちがポンコツで、普通の人が普通に出来るようなことが、僕には出来なかった。

 その代り、誰もが羨むような資産家の家に生まれた。

 だけど、それが僕にとってプラスの方向に働いたかと言えば、必ずしもそうではない。むしろ、マイナスに働くことの方が多かった気がする。

 父は仕事一辺倒の人間で、事業に成功して巨万の富を得てからも、それを使う事よりも増やす事の方ばかりを考えていた。
 父から仕事を取ったら何も残らないのではないかというくらい、父は仕事だけを愛した。

 実際、父は人間嫌いというか、人間不信の気があった。自分に近付く人間、全てが財産目当てだと思い込んでいるようだった。
 唯一信用していたのは、父に長く付き添ってきた執事の畠山くらいのものだったろう。

 そんなだから、当然父と母は、恋愛結婚では無かった。会社をより大きくする為の、政略結婚だった。
 それでも、父は母にはそれなりに優しかったらしい。母から父の不満を聞いたことは無かった。

 対して、父は子供にはあまり関心が無かった。……というか、諦められたのか。

 父は最初、子供に自分の事業を継がせる事を考えていたようだが、いざ生まれてきた息子は、僕みたいな欠陥だらけの失敗作の不良品だった。

 だから、父は早々に僕に見切りを付けたのだ。

 疎まれてはいなかったが、愛された記憶も無い。父にとって僕は、居ても居なくても変わらないような、そんな存在だった。

 そんな父だが、母の葬式では涙を流していた事だけは、鮮明に覚えている。

 大人しくて気の優しかった母は、やはり体が弱かったらしく、僕が小さな頃にこの世を去った。

 母の死後、父はより一層家に帰らなくなった。仕事仕事仕事に明け暮れて……終いには、海外に移り住むことになった。
 父は僕を連れて行こうとしたが、僕が拒否した。

 僕は母以上に体が弱かったから、そう長くは生きられないと知っていた。尽きるのなら、母の眠るこの土地で、一緒に逝きたかった。

 それでも、父には僕とこの国に残るという選択肢は無かった。結局父は、畠山にまだ幼い僕を任せて、一人で海外に行ってしまった。

 しかし、世間体を気にしてか、海外に渡ってからの方が父は僕に構うようになった。

 僕の世話をさせようと色々なアンドロイドを寄越してきたり、僕の動かない足や壊れた体の部位を機械に変えさせようと、その道の専門家を紹介して来たりもした。

 その全てを、僕は拒絶した。

 僕は、機械が嫌いだ。完璧で、無機質で、冷たい。……そして、不完全である事を、許さない。

 不完全では、いけないのか? 完璧でなくば、いけないのか?

 僕は、人間だ。機械じゃない。

 ――機械になんか、ならない。

 その日も、いつものように父が送りつけてきた何体目かの執事バトラーアンドロイドを工場に返品した所、畠山に泣きつかれた。

「坊ちゃま、お願いでございます。旦那様も、すぐる坊ちゃまが心配なのでございますよ」

 心配……ね。どうだかな。

「アンドロイドは、給仕メイド庭師ガーデナーが既にウチに居るだろう。大体、執事はお前が居るじゃないか」

「畠山も、もう歳でございます。わたくし一人では、坊ちゃまのお身の周りの事も、充分には熟せなくなって参りましたので……」

「だったら、人間の執事を雇えばいいじゃないか」

「旦那様は、人間ヒトは信用ならないと仰りますので……」

 まあ、そうだろうな。

「お願いでございます、坊ちゃま。わたくしを助けると思って……」

 痩せて骨と皮だけになった白髪の老人が、そう恨めし気に訴えて来る。
 その姿には、流石に僕も哀れになってきた。

「仕方ないな……。一体だけだぞ」

「坊ちゃま!」

 僕が折れると、老執事は目を輝かせた。

「だが、選ぶのは僕だ。自分の執事くらい、自分で選ぶ。いいな?」

 それを条件に、執事バトラーアンドロイドを一体購入する事になった。……まあ、一体傍に置けば、父も気が済むだろう。
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