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Chapter.4 不完全なもの

とある発見

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 その夜。あたしは軽く尿意を覚えて、深夜に目が覚めた。

「トイレ……どこだよ」

 室外の廊下の壁に掛けられていた燭台を手に取って、暗闇の屋敷内を歩く。……何か、お化け出そうだ。

 外では相変わらず雨が止まないらしい。閉ざされた窓を叩き付けるような激しい水音が、未だに絶えない。

 まあ、トイレを見つけたところで水道止まってそうだけどな。

 欲しいのはトイレットペーパーだ。……いざとなったら嵐の中野良ションだってするぞ、あたしは。……下品で悪かったな。

 誰に弁明するでもなくそんな事を考えながら進んでいると、いつの間にか館の最奥にまで来ていたようだ。行き止まりにぶち当たる。

 そこで、一枚だけあたしの目を引く扉があった。

 ……何だ、このドア。ここだけ、やけにぶっ壊れてんな。

 他の部屋の扉はそれなりに綺麗なままだったんだが、その部屋のそれは正に満身創痍。綻びを修復しようとしたのか、実に下手くそな修繕があちこちに施されていた。

 あの不器用な執事の仕業か?

 あたしがその扉を押して中に入る気になったのは、単なる好奇心だったと思う。

 何で自分でもそんな事をしようと思ったのか、後で思い返してみても、よくわからない。

 ともかくあたしは、その傷だらけの扉の先に、足を踏み入れた。

 当然だが室内は真っ暗だ。手にした燭台の淡い橙色の灯りを向けて、少しずつ部屋の様子を探る。

 まあ、トイレではなかった。最初本棚が目に入ったから、書斎かと思ったが……寝室か? 奥にベッドがある。

 あたしに宛がわれた客間よりも数倍広い。アンティークな作りの家具が立ち並ぶ、豪華な印象の部屋。

 ……坊ちゃまの部屋かとも思ったんだが、ベッドには誰も寝ていない。

 使われてない部屋なのか? そう思って、引き返そうとした時だ。

 戻りながらベッドのある方とは反対側の奥に、なんとなく視線を向けた。

 ――そこに、あるものを見た。

 最初は何だかわからずに、怪訝に思って近寄った。蝋燭の炎で照らし出して……それが何であるかを理解した時、あたしは危うく叫び出しそうになった。

 喉元まで出かかった声を呑み込んで、改めてそれを観察する。

 間違いない……これは。

 と、傍らに一冊の本が置いてあることに気が付いた。軽く埃を払って、手に取ってみる。

 その本には、題名が無かった。
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