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Chapter.4 不完全なもの
失敗作の不良品
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あたしが適当に選んで使った部屋は、丁度客間だったらしい。そのまま宛がわれたそこの埃臭いベッドで休んでいたら、数時間後に再び執事アンドロイドが顔を覗かせた。
「未亜、お夕食をお持ち致しました」
「へ? あんの?」
思わず、聞き返しちまった。
まさか夕飯まで出るとは思っていなかった。ヒップバッグに地下から持ってきた保存食がまだあったからそれで凌ごうかと思っていたんだが……なんにせよ、ありがたい。
執事が持ってきたのは、トレイに乗せられた飯の皿と紅茶のティーカップ。それから……いくつかの缶詰だった。
成程。食糧はどうしているのかと思ったら、缶詰か。つーか、消費期限とか大丈夫なのか? 三年くらいは保つと聞いたことはあるが……。
まあ、いいか。多少期限逝ってても死なねーだろ。――だが、その前に。
「……缶切りねーんだけど」
どう食えっつーんだよ。
すると、執事はこう返した。
「これは、失礼致しました。只今、終が開封致します」
そんな事を言うから、どうやって開けるのかと興味深く見ていたら……これがまた、とんでもなかった。
缶詰の一つを手にすると、執事ロボは……。
バキャッ、っと。
――そのまま、それを握り潰した。
凄まじい握力だ。アルミ製みたいにいとも簡単に圧縮された。確かに、蓋は開いた。……開いたけれども。
「中身、全部出てんじゃねーか!!」
執事の白い手袋に、何か魚の具だったらしいものが最早液状の汁となって染みを作っていた。
……これを食えというのか。
「申し訳ございません。少々、力を入れすぎたようです」
溜息が出る。
「お前さ……ずっと思ってたけど、何でそう、アンドロイドの癖に鈍くさいっつーか、ドジっぽいんだ?」
普通、アンドロイドって何でも完璧に仕事を熟すものじゃないのか? どんな設定がされてるんだよ。ドジっ子萌えのご主人様専用とかか?
あたしのそんな疑問に対して、ドジっ子執事はこう答えた。
「すみません。私は、失敗作の不良品ですので」
「失敗作?」
聞き捨てならない単語に、鸚鵡返しに訊ねる。
「はい。元々は新型アンドロイドの試作品として製造されたのですが、この通り、何も出来ませんで……。失敗作ということで、本来廃棄処分される筈だったのです」
――廃棄処分。
「そこを、坊ちゃまに救って頂いたのです」
「へぇ……」
つまり、〝坊ちゃま〟は主である前に、こいつの命の恩人? みたいなもんなのか。
やるじゃねえか、坊ちゃま。
汚れた手袋を外しながら、執事が続ける。
「一度、お尋ねした事があるのです。何故、このような何も出来ない不良品の私などをお傍に置くのかと。……すると、坊ちゃまは、こう仰いました。『お前が不完全だからだ』、と。」
「不完全だから?」
「はい。坊ちゃまは、〝完璧〟を嫌っておいでなのです」
脱いだ手袋を裏返しにしてお釈迦になった缶詰の中身を綴じ込めると、不良品アンドロイドは更に説明を重ねた。
「完璧は、無機質でつまらない。不自然だ、と。人間は……世界は、不完全で歪だからこそ、美しいのだと。……それが、坊ちゃまのお考えです」
――『不完全で歪だからこそ、美しい』
何だか、その言葉はすごく胸に残った。
それだったら、坊ちゃまの目には今のこの世界も、美しく映ってんのかな。
……無性に坊ちゃまに逢ってみたくなった。
「未亜、お夕食をお持ち致しました」
「へ? あんの?」
思わず、聞き返しちまった。
まさか夕飯まで出るとは思っていなかった。ヒップバッグに地下から持ってきた保存食がまだあったからそれで凌ごうかと思っていたんだが……なんにせよ、ありがたい。
執事が持ってきたのは、トレイに乗せられた飯の皿と紅茶のティーカップ。それから……いくつかの缶詰だった。
成程。食糧はどうしているのかと思ったら、缶詰か。つーか、消費期限とか大丈夫なのか? 三年くらいは保つと聞いたことはあるが……。
まあ、いいか。多少期限逝ってても死なねーだろ。――だが、その前に。
「……缶切りねーんだけど」
どう食えっつーんだよ。
すると、執事はこう返した。
「これは、失礼致しました。只今、終が開封致します」
そんな事を言うから、どうやって開けるのかと興味深く見ていたら……これがまた、とんでもなかった。
缶詰の一つを手にすると、執事ロボは……。
バキャッ、っと。
――そのまま、それを握り潰した。
凄まじい握力だ。アルミ製みたいにいとも簡単に圧縮された。確かに、蓋は開いた。……開いたけれども。
「中身、全部出てんじゃねーか!!」
執事の白い手袋に、何か魚の具だったらしいものが最早液状の汁となって染みを作っていた。
……これを食えというのか。
「申し訳ございません。少々、力を入れすぎたようです」
溜息が出る。
「お前さ……ずっと思ってたけど、何でそう、アンドロイドの癖に鈍くさいっつーか、ドジっぽいんだ?」
普通、アンドロイドって何でも完璧に仕事を熟すものじゃないのか? どんな設定がされてるんだよ。ドジっ子萌えのご主人様専用とかか?
あたしのそんな疑問に対して、ドジっ子執事はこう答えた。
「すみません。私は、失敗作の不良品ですので」
「失敗作?」
聞き捨てならない単語に、鸚鵡返しに訊ねる。
「はい。元々は新型アンドロイドの試作品として製造されたのですが、この通り、何も出来ませんで……。失敗作ということで、本来廃棄処分される筈だったのです」
――廃棄処分。
「そこを、坊ちゃまに救って頂いたのです」
「へぇ……」
つまり、〝坊ちゃま〟は主である前に、こいつの命の恩人? みたいなもんなのか。
やるじゃねえか、坊ちゃま。
汚れた手袋を外しながら、執事が続ける。
「一度、お尋ねした事があるのです。何故、このような何も出来ない不良品の私などをお傍に置くのかと。……すると、坊ちゃまは、こう仰いました。『お前が不完全だからだ』、と。」
「不完全だから?」
「はい。坊ちゃまは、〝完璧〟を嫌っておいでなのです」
脱いだ手袋を裏返しにしてお釈迦になった缶詰の中身を綴じ込めると、不良品アンドロイドは更に説明を重ねた。
「完璧は、無機質でつまらない。不自然だ、と。人間は……世界は、不完全で歪だからこそ、美しいのだと。……それが、坊ちゃまのお考えです」
――『不完全で歪だからこそ、美しい』
何だか、その言葉はすごく胸に残った。
それだったら、坊ちゃまの目には今のこの世界も、美しく映ってんのかな。
……無性に坊ちゃまに逢ってみたくなった。
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