機械仕掛けの執事と異形の都市

夜薙 実寿

文字の大きさ
上 下
10 / 27
Chapter.4 不完全なもの

失敗作の不良品

しおりを挟む
 あたしが適当に選んで使った部屋は、丁度客間だったらしい。そのまま宛がわれたそこの埃臭いベッドで休んでいたら、数時間後に再び執事アンドロイドが顔を覗かせた。

「未亜、お夕食をお持ち致しました」

「へ? あんの?」

 思わず、聞き返しちまった。

 まさか夕飯まで出るとは思っていなかった。ヒップバッグに地下から持ってきた保存食がまだあったからそれで凌ごうかと思っていたんだが……なんにせよ、ありがたい。

 執事が持ってきたのは、トレイに乗せられた飯の皿と紅茶のティーカップ。それから……いくつかの缶詰だった。

 成程。食糧はどうしているのかと思ったら、缶詰か。つーか、消費期限とか大丈夫なのか? 三年くらいは保つと聞いたことはあるが……。

 まあ、いいか。多少期限逝ってても死なねーだろ。――だが、その前に。

「……缶切りねーんだけど」

 どう食えっつーんだよ。

 すると、執事はこう返した。

「これは、失礼致しました。只今、終が開封致します」

 そんな事を言うから、どうやって開けるのかと興味深く見ていたら……これがまた、とんでもなかった。

 缶詰の一つを手にすると、執事ロボは……。

 バキャッ、っと。
 
 ――そのまま、それを握り潰した。

 凄まじい握力だ。アルミ製みたいにいとも簡単に圧縮された。確かに、蓋は開いた。……開いたけれども。

「中身、全部出てんじゃねーか!!」

 執事の白い手袋に、何か魚の具だったらしいものが最早液状の汁となって染みを作っていた。

 ……これを食えというのか。

「申し訳ございません。少々、力を入れすぎたようです」

 溜息が出る。

「お前さ……ずっと思ってたけど、何でそう、アンドロイドの癖に鈍くさいっつーか、ドジっぽいんだ?」

 普通、アンドロイドって何でも完璧に仕事を熟すものじゃないのか? どんな設定がされてるんだよ。ドジっ子萌えのご主人様専用とかか?

 あたしのそんな疑問に対して、ドジっ子執事はこう答えた。

「すみません。私は、失敗作の不良品ですので」

「失敗作?」

 聞き捨てならない単語に、鸚鵡おうむ返しに訊ねる。

「はい。元々は新型アンドロイドの試作品として製造されたのですが、この通り、何も出来ませんで……。失敗作ということで、本来廃棄処分される筈だったのです」

 ――廃棄処分。

「そこを、坊ちゃまに救って頂いたのです」

「へぇ……」

 つまり、〝坊ちゃま〟は主である前に、こいつの命の恩人? みたいなもんなのか。

 やるじゃねえか、坊ちゃま。

 汚れた手袋を外しながら、執事が続ける。

「一度、お尋ねした事があるのです。何故、このような何も出来ない不良品の私などをお傍に置くのかと。……すると、坊ちゃまは、こう仰いました。『お前が不完全だからだ』、と。」

「不完全だから?」

「はい。坊ちゃまは、〝完璧〟を嫌っておいでなのです」

 脱いだ手袋を裏返しにしてお釈迦になった缶詰の中身を綴じ込めると、不良品アンドロイドは更に説明を重ねた。

「完璧は、無機質でつまらない。不自然だ、と。人間は……世界は、不完全で歪だからこそ、美しいのだと。……それが、坊ちゃまのお考えです」

 ――『不完全で歪だからこそ、美しい』

 何だか、その言葉はすごく胸に残った。

 それだったら、坊ちゃまの目には今のこの世界も、美しく映ってんのかな。

 ……無性に坊ちゃまに逢ってみたくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

デジタル・アポカリプス

憂国のシャープ
SF
米中のサイバー戦争をテーマにしています

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

入れ替わりのモニター

廣瀬純一
SF
入れ替わりに実験のモニターに選ばれた夫婦の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ひめゆり学徒隊の地上戦

廣瀬純一
SF
令和に生きる大学生の翔太が沖縄の地上戦をひめゆり学徒隊の一人になって体験する話

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...