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Chapter.3 ポンコツと半異形
未亜
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「で? 主様にお伺い立てに行ったんじゃなかったっけ?」
気分を切り替えてあたしが促すと、「そうでした」と、執事が思い出したように手を叩く。……仕草が一々人間くさい。
「主から許可が下りました。雨が止むまでと言わず、未亜様のお気の済むまで、この屋敷でごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
随分、太っ腹な主様だな。
「挨拶がてら礼が言いてぇんだけど、逢えねえの?」
「申し訳ございません。主はこの所お体の調子が優れませんで、お部屋からお出になられないのです」
「ふうん……」
そんな状態で、外から来たあたしと間違えたのかよ。
つーか、〝坊ちゃま〟とあたしって、顔以外は何も似てないよな。〝坊ちゃま〟、車椅子だし。あたしは背中に翼なんか生えてるし。何で別人だと気付かなかったんだ?
あれ? 待てよ。こいつの言ってる〝主〟ってのは、〝坊ちゃま〟の事で合ってるのか?
廊下で見た写真には三人しか写っていなかったが、あたしは一応確認の為に訊いてみた。
「この家には、何人住んでるんだ?」
「主である坊ちゃまと、私の二人でございます」
あ、やっぱ、〝主〟=〝坊ちゃま〟でいいのか。
「以前は、ここに畠山という人間の執事もおりましたが……辞めてしまったようです。」
写真に写っていたあの枯れ木みたいな老人か。あいつは、今は居ない、と。
ここであたしは、素朴な疑問を口にした。
「お前らは、地下街に行かないのか? ここよりは多少安全だと思うけど」
まあ、何処に居たって感染のリスクは同じなんだけどな。
すると、執事は信じられない事を言い出した。
「この所、人間の姿をお見掛けしなくなったと思っておりましたが……皆さん、その地下街に移動なさったのですか?」
「へ? 知らねえの⁉」
どんだけこの屋敷から出てなかったんだよ。
「……まあ、そうだな。現在まだ生きてる奴らは、大体、皆地下に行ったんじゃないか?」
そうか。籠城型の奴らはそういった大きな流れを知らないままって事も、有るのか。
「未亜様は……」
と、執事が何か聞こうとして口を開いたが、あたしがそれを制止する。
「ああ、いいよ、様とか付けなくて。何かくすぐってーし」
言うタイミング逃してたけど、様とか言われんのかなり恥ずいんだよ。
「畏まりました。では、未亜は……」
〝様〟の下のランクはいきなり呼び捨てかよ。……まあ、別にいいけど。
「何故、地上にいらっしゃるのですか?」
さっきから執事が聞きたがっていたのは、それだったらしい。確かに、疑問に思う所だよな。
あたしが答える。
「人を捜してんだ」
――もっとも、もう、〝人間〟では無くなってしまったけど。
「……異形化した兄貴だよ。一年前、異形になって、逃亡したんだ」
異形化が始まったのは、あたしの方が先だったのに。兄貴は、一瞬だった。
一瞬で、人間では無い生き物になってしまった。
あたしは、それを目撃していたのに……何も出来なかった。
ただただ、信じられなくて。
「……約束、したんだ。どちらかが異形になったら、残った片方が、必ず、止めるって」
そう、約束してたんだ。だから、必ず見つけ出す。そして、今度こそ……。
無意識に、刀を握る拳に力が入っていた。適当に人様ん家のコレクションからかっぱらってきたものだけど。……今では、これだけがあたしの拠り所だった。
そんなあたしの様子を、執事は相変わらずきょとんとした表情で何もわからなさげに見ていたが――そのくせ、妙に核心を突く事を訊いてきた。
「……大切な、方なのですね」
――ああ。
「大切な人だよ」
兄貴は優しい奴だから、自分が人を傷付けるなんて事、きっと、堪えられない……。
だから、早く見つけてやらなきゃ――あたしが、完璧に異形化する前に。
待ってろよ、兄貴。必ず、あたしが止めてやるから。
気分を切り替えてあたしが促すと、「そうでした」と、執事が思い出したように手を叩く。……仕草が一々人間くさい。
「主から許可が下りました。雨が止むまでと言わず、未亜様のお気の済むまで、この屋敷でごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
随分、太っ腹な主様だな。
「挨拶がてら礼が言いてぇんだけど、逢えねえの?」
「申し訳ございません。主はこの所お体の調子が優れませんで、お部屋からお出になられないのです」
「ふうん……」
そんな状態で、外から来たあたしと間違えたのかよ。
つーか、〝坊ちゃま〟とあたしって、顔以外は何も似てないよな。〝坊ちゃま〟、車椅子だし。あたしは背中に翼なんか生えてるし。何で別人だと気付かなかったんだ?
あれ? 待てよ。こいつの言ってる〝主〟ってのは、〝坊ちゃま〟の事で合ってるのか?
廊下で見た写真には三人しか写っていなかったが、あたしは一応確認の為に訊いてみた。
「この家には、何人住んでるんだ?」
「主である坊ちゃまと、私の二人でございます」
あ、やっぱ、〝主〟=〝坊ちゃま〟でいいのか。
「以前は、ここに畠山という人間の執事もおりましたが……辞めてしまったようです。」
写真に写っていたあの枯れ木みたいな老人か。あいつは、今は居ない、と。
ここであたしは、素朴な疑問を口にした。
「お前らは、地下街に行かないのか? ここよりは多少安全だと思うけど」
まあ、何処に居たって感染のリスクは同じなんだけどな。
すると、執事は信じられない事を言い出した。
「この所、人間の姿をお見掛けしなくなったと思っておりましたが……皆さん、その地下街に移動なさったのですか?」
「へ? 知らねえの⁉」
どんだけこの屋敷から出てなかったんだよ。
「……まあ、そうだな。現在まだ生きてる奴らは、大体、皆地下に行ったんじゃないか?」
そうか。籠城型の奴らはそういった大きな流れを知らないままって事も、有るのか。
「未亜様は……」
と、執事が何か聞こうとして口を開いたが、あたしがそれを制止する。
「ああ、いいよ、様とか付けなくて。何かくすぐってーし」
言うタイミング逃してたけど、様とか言われんのかなり恥ずいんだよ。
「畏まりました。では、未亜は……」
〝様〟の下のランクはいきなり呼び捨てかよ。……まあ、別にいいけど。
「何故、地上にいらっしゃるのですか?」
さっきから執事が聞きたがっていたのは、それだったらしい。確かに、疑問に思う所だよな。
あたしが答える。
「人を捜してんだ」
――もっとも、もう、〝人間〟では無くなってしまったけど。
「……異形化した兄貴だよ。一年前、異形になって、逃亡したんだ」
異形化が始まったのは、あたしの方が先だったのに。兄貴は、一瞬だった。
一瞬で、人間では無い生き物になってしまった。
あたしは、それを目撃していたのに……何も出来なかった。
ただただ、信じられなくて。
「……約束、したんだ。どちらかが異形になったら、残った片方が、必ず、止めるって」
そう、約束してたんだ。だから、必ず見つけ出す。そして、今度こそ……。
無意識に、刀を握る拳に力が入っていた。適当に人様ん家のコレクションからかっぱらってきたものだけど。……今では、これだけがあたしの拠り所だった。
そんなあたしの様子を、執事は相変わらずきょとんとした表情で何もわからなさげに見ていたが――そのくせ、妙に核心を突く事を訊いてきた。
「……大切な、方なのですね」
――ああ。
「大切な人だよ」
兄貴は優しい奴だから、自分が人を傷付けるなんて事、きっと、堪えられない……。
だから、早く見つけてやらなきゃ――あたしが、完璧に異形化する前に。
待ってろよ、兄貴。必ず、あたしが止めてやるから。
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