機械仕掛けの執事と異形の都市

夜薙 実寿

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Chapter.2 壊れた世界

異形

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 異形と化した人間は、異形フリークスと呼ばれるようになった。

 異形フリークスとなった者は、異形化する前の人間らしい人格や知恵、全てを失って戦闘本能と捕食本能のみで人を襲う、食人の怪物となった。

 生きながらにして、その個人はもう死んだも同然だ。異形化するということは、要するにその個人の〝死〟を意味していた。

 金持ち連中は真っ先に海外に逃げようとしたけど、飛行機は飛ばせなかった。海外から拒絶されたのだ。

 逃げ場のない恐怖の中、人々の間では無意味な暴動が起きたり妙な宗教団体が設立されたりした。

 でも、そうやって必死に抗おうとしても、開発所から漏洩したP・Vは瞬く間に広がっていって、すぐに世界中を覆い尽くしてしまった。

 もう、地球上に汚染されていない場所なんて、何処にも無い。国家・都市の機能は麻痺し、人類はまさに絶望の淵に立たされてしまった……。

 でも、全ての人間が異形化してしまったわけじゃない。同じ空気を吸ってても、P・Vに感染するかしないかは個人の体質によって差があるらしい。

 また、感染してから異形化するまでの潜伏期間が長い奴とか、異形化の進行速度にも個人差がある。

 感染と同時に一瞬で完全な異形フリークスと化す奴もいれば、あたしみたいに異形化のスピードがやけに遅く、ずっと中途半端な状態のままの奴もいる。

 とにかく、そうしてなんとか完全な異形化を免れてる人間達は、異形フリークスに塗れた地上を捨てて、地下のシェルター街へと移住した。

 大災害を予想して、国家が秘密裏に地下世界を作り上げていたらしい。なんとも用意周到な話だ。
 ……まあ、地下に非難した所で感染を防げるわけでは無いんで、あくまでも対異形フリークス用の逃げ場程度なわけだが。

 残された人間達は、異形フリークスの襲撃による外の脅威と、自分がいつ異形化するか知れないという、内の二重の脅威に晒されながらも、文明の残骸にしがみついてどうにか生きている。

 未だ効果的なワクチンが開発される気配は無い。
 ただ、静かに、ゆるやかに死を待つだけの世界……。

 それが、P・V発生から五年が経った今日こんにちの現状だ。

 ――たった、五年。それだけの期間で、世界はこうも取り返しがつかない程に歪んでしまったのだ。

 なあ、カミサマ。何でだよ?

 この世界に飽きちまって、終わりにしたいのだとしても、もう少し遣り様があっただろう?
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