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Chapter.1 嵐の来訪者

住人の肖像

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 坊ちゃまじゃない事がバレた。どう誤魔化す?
 焦るあたし。思考は白紙状態だ。

 しかし、次に続いた奴の言葉は、今度は予想外なものだった。

「坊ちゃまじゃない……お嬢様?」

 実に真顔でかまされたボケに、ズルっとコケる効果音が脳内で再生された気がした。

「何でそうなんだよ‼ 気付けよ‼ 別人だろがっ‼」

 ああ、思わず突っ込んじまった。

「……別人?」

 ほら、執事が怪訝な目付きでこっちを見てる。……気がする。実際は表情変わってないんだがな。

「それでは、侵入者、ですか?」

 今度は、はっきりと変化した。キュイーンとかっていうモーター音みたいなものをさせながら、執事の瞳の色が初対面時のように黄金色に輝き出す。

 やべえ。どうやら、これが危険信号らしい。攻撃が来る前にあたしは急いで取り繕った。

「待て、違う! 侵入者じゃなくて……そう、客だ!」

「……お客様?」

「そう、お客様だ!」

 よっしゃ。適当に思い付いた単語だったんだが、見事に食い付いてくれた。あたしはそこに縋りつくように、更に言い訳を並べた。

「急に降られたんで、雨宿りさせてもらおうと思っただけだ! 別に、この家を荒らそうとか、そんな事は思っちゃいねえよ‼」

 すると、必死さが通じたのかアンドロイドは矛を収めた。……正確には瞳の色が通常仕様に戻った。

「そうでしたか。それは、失礼致しました」

 そんでまた、シュウウと何かが収縮するような音がする。――警戒態勢脱却。

 それから立ち上がって姿勢を正すと、執事ロボはあたしに向き直った。

「それでは、改めて主に伺って参ります。お名前をお聞きしても良ろしいでしょうか?」

 主……やっぱ、人間が居るのか。その〝坊ちゃま〟って奴か?

 あたしも同様に立ち上がりながら、自分の名を告げた。

「……未亜みあ

「未亜様。少々こちらでお待ち下さいませ」

 そう言うと執事アンドロイドは、またも何処かに駆けて行った。……忙しない奴だ。

 ともかく、もう襲って来ることはないと判断していいのか。
 つーか、ここで待ってろと言ってたけど……。あいつが持ってきたタオルや着替えは使ってもいいのだろうか。

 とりあえず、執事が転んだ拍子にあらぬ方向に投げ出されていたそれらを回収する。
 次いで、辺りを軽く見回した。着替えるにしてもここじゃ何だな。
 ……ずっと、玄関付近の廊下に居たわけで。

 どっかの部屋を適当に借りるか。そんくらい、許してくれるだろう。そう高を括って長い廊下を進む。

 と、途中である物が目に入って、早々に足を止めた。廊下に飾られた額縁入りの数々の写真。その中の一枚を注視する。

 そこには三人の人物が写っていた。バックには、在りし日のこの館の姿と思しきもの。……ちょっと蝋燭の所為で全体的にオレンジっぽく見えるが。

 推察するに、元の壁の色は純白だったようだ。今のお化け屋敷みたいな状態とは、やはり打って変わって眩しい。

 そして、問題の三人……まず、右側にあの執事ロボが居る。左側にも黒い燕尾服を着た執事らしき人物が居るが、こちらはおそらく、人間だ。
 かなりの高齢だろう、フレームの無い老眼鏡を掛けた白髪の老人。吹けば飛びそうな細い体をしている。

 それより何よりあたしの目を引いたのは、二人の執事に挟まれて中央に写る、車椅子の少年だった。
 アンドロイドの居る科学の発達した時代に、レトロな車椅子を使用しているというのも気になるが……それはともかく、そいつの顔。

 十二、三歳くらいだろうか。亜麻色のサラサラストレートショートに、鳶色の大きな瞳。長い睫毛。少女だと言われても違和感は無い、綺麗な容貌の少年だが……。

 ――うわぁ、本当だ、似てる。

 この写真の少年が、どうやら執事ロボが言っていた〝坊ちゃま〟のようだ。
 一目でわかった。何せ、気味が悪いくらい、あたしとそっくりだったんだ。

 ……もっとも、あたしの方が年上で、髪の色も目の色も違うけど。

 あたしは今年で十八だったか。髪と目は、禍々しい血の色。
 二年前くらいまではもう少し落ち着いた普通の赤茶色って感じだったんだが……まあ、それは置いといて。髪型はベリーショート。男の〝坊ちゃま〟よりも短い。

 それでも、顔のパーツが〝坊ちゃま〟とかなり似通っているのは確かだ。
 あたしの場合は、「美少年っぽい」と言われるんだが……。この〝坊ちゃま〟は、逆に「美少女っぽい」。要するに、二人とも中性的という共通点があるわけだ。

 ちなみに、他の額縁の写真も大概この〝坊ちゃま〟が写ったもののようだ。

 ……何だかな。偶然立ち寄ったこんな場所で、自分とそっくりな人物に出逢うなんて……。
 何か、仕組まれてるみたいで気持ち悪いな。

 まあ、あたしは運命だとかカミサマだとかは信じない主義だけど。
 もしも、カミサマとやらが居るんだとしたら、襟首掴んで問い詰めてやりたいね。

 ――どうして、こんな壊れた世界を作ったのかって。
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