機械仕掛けの執事と異形の都市

夜薙 実寿

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Chapter.1 嵐の来訪者

執事アンドロイド

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 ――は? 坊ちゃま?

「これは、大変失礼致しました。外に出てらしたのですね」

 困惑するあたしを余所に、燕尾服のアンドロイドは胸に手を当てて姿勢を正す。
 さっきまで黄金色に輝いていた瞳が光を失い、髪と同じ黄緑に色を変えた。同時に、そいつの体からシュウウと何かが萎むような音が聞こえてきた。

 ……よくわからんが、殺気が完全に消えている。ひとまず、危機は脱したと見ていいのか?

 と、そこでアンドロイドは、あたしのびしょ濡れの服装に目を向けた。

「このままでは、お風邪を召されてしまいますね。只今、終がお体を拭く物をご用意致します」

 そう宣言するが早いか、終というらしい執事ロボットは、これまた超速で廊下の奥へと引っ込んでいった。
 後に残されたあたしは、状況が把握出来ずにひたすら呆然とするしかない。

 坊ちゃまって……あいつ、あたしを誰かと間違えたのか?

 それも、〝坊ちゃま〟というからには男と間違われたようだ。……まあ、昔からよく男の子みたいだとは言われてきたが。

 さて、どうするか。もし人違いだとバレたら、また襲われかねない。今の内に逃げておくのが賢明か?

 だが、外は相変わらずの豪雨。正直、もう出たくはない。濡れたままの服を纏った体が今更のように冷えてきた。……初夏で良かった。

 少しでも雨を避けようと被ったフードも、全く意味を為さなかった。水分を含んで頭にぺったり貼り付く重たいだけのそれを下ろすと、半袖のパーカーごと脱ぐ。
 下はキャミソールだ。これはさすがに脱げないな。

 万遍なく大量に水を吸ったパーカーを、少し迷った末に、あたしはひとまずそのまま床に置いた。
 廃屋だと思っていたら、一応住人? が居たようだし、流石にこんな場所で絞ったら悪いよな。

 そんなことを考えていたら――直後。

「お待たせ致しました、坊ちゃま」

 執事が戻ってきた。……早っ!

 手には、タオルらしきものと着替えらしきもの。その二種を持って、やはり凄まじいスピードでこちらへ駆け寄ってくる。
 と、何もない場所でいきなり躓いた。その先には、あたしが居る。――嫌な予感。

 案の定、躱す間もなくアンドロイドはあたしの上に倒れ掛かってきた。
 派手な音を立てて、コントみたいに二人してすっ転ぶ。

 痛てぇっ‼ つーか、重いっ‼

 そりゃそうか、鉄の塊が圧し掛かってきたわけだからな。
 気が付きゃ、執事に押し倒された構図になってやがる。……何だこの展開、誰得だよ。あたしはそういうキャラじゃねーぞ。

「申し訳ございません」

 執事が慌てた様子であたしの上から退こうとする。アンドロイドも慌てるんだな。

 が、機械のくせに妙に人間くさいこのロボットは、またもやドジを踏んだ。起き上がろうとして床に着いた手首を、つるりと滑らせて……。
 顔面からあたしの胸にダイブだ。ぼふっと、音がする勢いで谷間に顔が埋まる。

 ……だから、あたしはそういうキャラじゃねーっつってんだろ!

 あまりの事に硬直するあたしには構わず、執事は顔を上げると首を傾げた。

「おや? ……坊ちゃま、少々肉付きが良くなられましたか?」

 肉付きって……。

「この所、お食事をあまり口にされていらっしゃらなかったので、心配しておりましたが……安心致しました」

 勝手な事を言って、人の上で和み出す。更にこの後、こいつはとんでもない行動に出た。

 あろうことか、片手であたしの胸を掴んで……揉んだ。

 おまけに、トドメの一言だ。

「ですが、これは……少々運動なさった方が良いかもしれませんね」

 ――流石に、キレた。

「ええい! やめろ変態‼ これは胸だ‼ 肥満じゃねぇえ‼」

 叫びながら、上のそいつを押し返す勢いで身を起こす。激情に任せて手を払い除けてから、しまった、と思った。

 予想通り、あたしの反応に両膝を着いた執事がきょとんとする。そうして生まれた疑問を確認するように、独りちた。

「胸……女性? 坊ちゃまじゃ、無い?」

 ヤバイ。バレた。ていうか、自分でバラしちまった。
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