1 / 27
Prologue
終
しおりを挟む
私の名前は、終。執事アンドロイドでございます。
主人である坊ちゃまが名付けて下さいました。
私と同種の型は、私が最初であり最後。――世界でたった一体だけ。
そういった意味合いを込めて、坊ちゃまは私に〝終わり〟という名を付けたのでございます。
終は、この名をとても気に入っております。
さあ、そろそろお昼になります。坊ちゃまがお腹を空かせていることでしょう。私の出番でございます。
早速、事前に準備しておいたお食事を、トレイに乗せて運びましょう。
坊ちゃまは元々お体の弱い方でしたが、この所特に体調が芳しくないようで臥せっておられます。
なので、お食事は直接坊ちゃまのお部屋にお運び致します。
……おっと、危ない。躓いてしまいました。お食事を乗せたトレイが宙を舞っています。
全身を床に打ち付けてしまいましたが、即座に立ち上がって何とか空中でトレイを受け取りました。お食事は無事です。良かった。
転んだ際に大きな音を立ててしまいましたが、坊ちゃまを驚かせてしまったでしょうか。心配です。
一階の奥。ここが坊ちゃまのお部屋です。早速、ノックをして失礼致します。
あっと、どうやら強く叩き過ぎてしまったようです。拳が扉を貫通してしまいました。いけませんね。後で直しておきましょう。
どうも先程からお見苦しい所ばかりをお見せしてしまって、申し訳ありません。終は失敗作の不良品ですので、アンドロイドの割に何も出来ないのでございます。
とにかく、坊ちゃまのお食事が現在の最優先事項です。
「坊ちゃま。昼食のお時間でございます」
声をお掛けして、テーブルの上にトレイを置きます。……おや、朝食が全く減っていらっしゃらない。やはりお加減が良ろしくないようです。心配です。
「本日は、白米と鯖の味噌漬けの缶詰でございます」
私は料理が出来ません。食材ももう底を突いてしまいましたので、缶詰しかありません。
それが不満なのでしょうか。坊ちゃまはこちらを見向きもなさいません。それとも、具合が良ろしくない所為でしょうか。
新鮮な空気を入れ替えた方が良いでしょうか。閉ざされたままの窓を開けてみることにします。
遠くの空に黒い雲の塊が見えました。これから雨が降りそうです。となれば、開けてはいられません。窓を閉め直します。
そういえば、屋敷内が少々薄暗くなってきているかもしれません。天気が優れない為でしょう。
アンドロイドである私には闇は何の問題もありませんが、人間である坊ちゃまは、そうはいきません。灯りが必要でしょう。
少し早いかもしれませんが燭台に火を灯しておきましょう。……と、思ったら蝋燭が縮み過ぎています。新しいものに変えなくては。
ああ、そうでした。屋敷中の蝋燭が、もう足りないのでした。これは、久々にお買い物に行かなくてはなりません。
電気が点かなくなってから、どのくらい経つでしょうか。忘れてしまいましたが、電化製品の使えない今、蝋燭は照明として重要な存在です。無くてはなりません。
……そういえば、私も長い事充電をしていません。他の給仕アンドロイド達はもう動かなくなってしまいましたが、何故か私だけは動けるようです。不思議です。不良品だからでしょうか?
ともかく、蝋燭を買いに行きましょう。坊ちゃまを暗闇に置いてはおけません。
主人である坊ちゃまが名付けて下さいました。
私と同種の型は、私が最初であり最後。――世界でたった一体だけ。
そういった意味合いを込めて、坊ちゃまは私に〝終わり〟という名を付けたのでございます。
終は、この名をとても気に入っております。
さあ、そろそろお昼になります。坊ちゃまがお腹を空かせていることでしょう。私の出番でございます。
早速、事前に準備しておいたお食事を、トレイに乗せて運びましょう。
坊ちゃまは元々お体の弱い方でしたが、この所特に体調が芳しくないようで臥せっておられます。
なので、お食事は直接坊ちゃまのお部屋にお運び致します。
……おっと、危ない。躓いてしまいました。お食事を乗せたトレイが宙を舞っています。
全身を床に打ち付けてしまいましたが、即座に立ち上がって何とか空中でトレイを受け取りました。お食事は無事です。良かった。
転んだ際に大きな音を立ててしまいましたが、坊ちゃまを驚かせてしまったでしょうか。心配です。
一階の奥。ここが坊ちゃまのお部屋です。早速、ノックをして失礼致します。
あっと、どうやら強く叩き過ぎてしまったようです。拳が扉を貫通してしまいました。いけませんね。後で直しておきましょう。
どうも先程からお見苦しい所ばかりをお見せしてしまって、申し訳ありません。終は失敗作の不良品ですので、アンドロイドの割に何も出来ないのでございます。
とにかく、坊ちゃまのお食事が現在の最優先事項です。
「坊ちゃま。昼食のお時間でございます」
声をお掛けして、テーブルの上にトレイを置きます。……おや、朝食が全く減っていらっしゃらない。やはりお加減が良ろしくないようです。心配です。
「本日は、白米と鯖の味噌漬けの缶詰でございます」
私は料理が出来ません。食材ももう底を突いてしまいましたので、缶詰しかありません。
それが不満なのでしょうか。坊ちゃまはこちらを見向きもなさいません。それとも、具合が良ろしくない所為でしょうか。
新鮮な空気を入れ替えた方が良いでしょうか。閉ざされたままの窓を開けてみることにします。
遠くの空に黒い雲の塊が見えました。これから雨が降りそうです。となれば、開けてはいられません。窓を閉め直します。
そういえば、屋敷内が少々薄暗くなってきているかもしれません。天気が優れない為でしょう。
アンドロイドである私には闇は何の問題もありませんが、人間である坊ちゃまは、そうはいきません。灯りが必要でしょう。
少し早いかもしれませんが燭台に火を灯しておきましょう。……と、思ったら蝋燭が縮み過ぎています。新しいものに変えなくては。
ああ、そうでした。屋敷中の蝋燭が、もう足りないのでした。これは、久々にお買い物に行かなくてはなりません。
電気が点かなくなってから、どのくらい経つでしょうか。忘れてしまいましたが、電化製品の使えない今、蝋燭は照明として重要な存在です。無くてはなりません。
……そういえば、私も長い事充電をしていません。他の給仕アンドロイド達はもう動かなくなってしまいましたが、何故か私だけは動けるようです。不思議です。不良品だからでしょうか?
ともかく、蝋燭を買いに行きましょう。坊ちゃまを暗闇に置いてはおけません。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
sweet home-私を愛したAI-
葉月香
SF
天才と呼ばれた汎用型人工知能研究者、久藤朔也が死んだ。愛する人の死に打ちひしがれ、心を患う彼の妻、陽向は朔也が遺した新居――最新型OSにより管理されるスマートホームに移り住む。そこで彼女を迎えたのは、亡き夫の全てを移植されたという人工知能、立体ホログラム・アバターのsakuyaだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる