機械仕掛けの執事と異形の都市

夜薙 実寿

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Prologue

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 私の名前は、すがら執事バトラーアンドロイドでございます。
 主人であるぼっちゃまが名付けて下さいました。

 私と同種の型は、私が最初であり最後。――世界でたった一体だけ。
 そういった意味合いを込めて、坊ちゃまは私に〝終わり〟という名を付けたのでございます。

 終は、この名をとても気に入っております。

 さあ、そろそろお昼になります。坊ちゃまがお腹を空かせていることでしょう。私の出番でございます。
 早速、事前に準備しておいたお食事を、トレイに乗せて運びましょう。

 坊ちゃまは元々お体の弱い方でしたが、この所特に体調が芳しくないようで臥せっておられます。
 なので、お食事は直接坊ちゃまのお部屋にお運び致します。

 ……おっと、危ない。つまずいてしまいました。お食事を乗せたトレイが宙を舞っています。

 全身を床に打ち付けてしまいましたが、即座に立ち上がって何とか空中でトレイを受け取りました。お食事は無事です。良かった。

 転んだ際に大きな音を立ててしまいましたが、坊ちゃまを驚かせてしまったでしょうか。心配です。

 一階の奥。ここが坊ちゃまのお部屋です。早速、ノックをして失礼致します。

 あっと、どうやら強く叩き過ぎてしまったようです。拳が扉を貫通してしまいました。いけませんね。後で直しておきましょう。

 どうも先程からお見苦しい所ばかりをお見せしてしまって、申し訳ありません。終は失敗作の不良品ですので、アンドロイドの割に何も出来ないのでございます。

 とにかく、坊ちゃまのお食事が現在の最優先事項です。

「坊ちゃま。昼食のお時間でございます」

 声をお掛けして、テーブルの上にトレイを置きます。……おや、朝食が全く減っていらっしゃらない。やはりお加減が良ろしくないようです。心配です。

「本日は、白米と鯖の味噌漬けの缶詰でございます」

 私は料理が出来ません。食材ももう底を突いてしまいましたので、缶詰しかありません。
 それが不満なのでしょうか。坊ちゃまはこちらを見向きもなさいません。それとも、具合が良ろしくない所為でしょうか。

 新鮮な空気を入れ替えた方が良いでしょうか。閉ざされたままの窓を開けてみることにします。

 遠くの空に黒い雲の塊が見えました。これから雨が降りそうです。となれば、開けてはいられません。窓を閉め直します。

 そういえば、屋敷内が少々薄暗くなってきているかもしれません。天気が優れない為でしょう。
 アンドロイドである私には闇は何の問題もありませんが、人間ヒトである坊ちゃまは、そうはいきません。灯りが必要でしょう。

 少し早いかもしれませんが燭台に火を灯しておきましょう。……と、思ったら蝋燭が縮み過ぎています。新しいものに変えなくては。

 ああ、そうでした。屋敷中の蝋燭が、もう足りないのでした。これは、久々にお買い物に行かなくてはなりません。

 電気が点かなくなってから、どのくらい経つでしょうか。忘れてしまいましたが、電化製品の使えない今、蝋燭は照明として重要な存在です。無くてはなりません。

 ……そういえば、私も長い事充電をしていません。他の給仕メイドアンドロイド達はもう動かなくなってしまいましたが、何故か私だけは動けるようです。不思議です。不良品だからでしょうか?

 ともかく、蝋燭を買いに行きましょう。坊ちゃまを暗闇に置いてはおけません。
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