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第八章 家出息子と反抗期
8-4 公衆トイレで ◆
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「どこまで行くんだよ」
手を引いて先をずんずん進んでいく四ノ宮に、オレは困惑して訊ねた。学校に向かうなら本来、今の電車に乗ったままでいなければならなかった。
「トキさんが悪いんでしょう? またすぐに見咎められて……反省してくださいね?」
「んなこと言われたって」
お前が変な風に触るからじゃん……。
理不尽な言い様にそっぽを向く。四ノ宮に関しては今に始まったことじゃねーけど。
つーか、あんまり早く歩かれると、熱を持ったままの前が擦れて辛い。サブバッグで盛り上がりを隠してはいるが、お陰で変な歩き方になってしまう。
オレが気にしているのを勿論察していて、四ノ宮は一度振り返ると鞄越しにそこを見た。
「それ……そのままだと辛いでしょう? 学校に行く前に鎮めておきましょう」
「げ」
前にも聞いたようなセリフ。しかも、それは非常に恐ろしい記憶と共にある。
「いや、いいって! 安静にしてれば、その内収まるから!」
「安静にする場所が必要でしょう。そうですね……あそこにしますか」
そう言って四ノ宮が指し示したのは、駅構内にある公衆トイレだった。……冗談だろ。
「大丈夫。ここの駅の男子トイレはいつも空いてますから」
大丈夫じゃねえ……。
遠くなりかけた気を引き戻したのは、昨日の五十鈴センパイの言葉だった。
――『嫌なことは嫌だってちゃんと言わなきゃ』
「四ノ宮……やっぱ、良くないよ。こういうことも、もう止めよう?」
四ノ宮はこちらを見もしなかった。そうして、すっかり言質を取られたあの言葉を繰り返す。
「僕が満足するまで付き合ってくれるって言ったじゃないですか」
「そうだけど……でも。こんなことしたって、お前も辛いだけだろ?」
「僕は楽しいですけど? 何ですか、もう音を上げるんですか。まぁ、トキさんの意思は初めから関係ないんで、好きにさせて貰いますけど」
駄目だ。やっぱり伝わらない。もどかしい気持ちを抱えたまま、すぐに男子トイレに着いてしまう。確かに空いていて、他に利用者は居ないようだった。乗り換えに使われる駅では無いからか。
一番奥の個室に促され渋々入ると、すぐ後から四ノ宮も入室してきた。狭いスペースに無理に二人詰め込まれる。カチリと四ノ宮が後ろ手に鍵を閉める音がした。
「多目的トイレじゃないので、やっぱり窮屈ですね。トキさん、早く座ってください」
仕方なしに、そのまま便座に腰掛ける。スペースに少し余裕が出来た。
「何やってるんですか、トキさん。下を脱いでからに決まってるでしょう。それとも、脱がされたいんですか」
うぐっ……。
「なぁ、四ノ宮。本当にやめ」
「画像、公開されたいんですか?」
うぐぐっ……!!
「安心してください。何も犯すとは言っていません。トキさんがご自分で抜いてくださって結構ですので」
「え? それって」
鞄から白い携帯端末を取り出すと、四ノ宮はそれをずいとこちらに向け、
「自慰……録画らせてください」
などと、実に可憐なエンジェルスマイルで言ってのけた。
あまりのことに、オレはあんぐり口を開いて数秒固まった。
「あ、悪趣味……」
「今更でしょう」
まぁ、そうなんだけど。
有無を言わさぬ四ノ宮の笑顔に負けて、オレは渋々ベルトを外してズボンと下着を脱いでから座り直した。
四ノ宮の携帯カメラのレンズが、じっとこちらを見据えている。脱衣を始めた所から録画開始音が聞こえていたから、もう既に撮られている筈だ。嫌な緊張感が走る。
せめてもと、カメラから目を逸らした。おそらく意味の無い、僅かばかりの抵抗。
「さぁ、早くしないと誰か来ちゃうかもしれませんよ」
「わ、分かってるよ……」
本当にやるのか? と問うたところで、下手に醜態を晒す時間が長引くだけだ。ここはもう、とっととヤってイって終わらせよう。
そっと、露出した自身の屹立に手を添えた。ぴくり、腰が跳ねる。四ノ宮に見られていると思うだけで、妙に感度が上がってしまっている。
カメラから隠すように、手の中に握り込んだ。そのまま、ゆっくり上下に動かしていく。
「ぅ、ん……っ」
甘い声が漏れそうになり、慌ててもう片方の手で口元を押さえた。血が集中し、屹立がより硬くなっていく。まだ触れていない先端から、とろりとローションよろしく先走りの汁が溢れ出した。
くちゅ、くちゅ……次第に淫猥な水音が立ち始める。じわりと、羞恥と快楽に視界が滲み始めた。
「先っぽ、弄らないんですか? 気持ち良いですよ?」
四ノ宮が口を挟んでくる。分かってるよ、そんなことは。でもそこは刺激が強過ぎて、触れたら声が抑えられなくなりそうで怖い。
だけど、逃げてばかりもいられない。早い所達しないと終わらないんだから。オレは意を決して、濡れた先端を指先で擦った。途端に、目眩がする程の強い快楽が駆け抜ける。
「ぁっ、ん」
押さえた手の隙間から、声が飛び出した。やべ。咄嗟に周囲を気にして手が止まる。
「ほら、早くしないといつまでも終わりませんよ?」
「わ、分かってる!」
うるさいな!
半ばヤケっぱちな気持ちで、オレは敏感な先端を指先で扱き始めた。腰が浮いて、ガタガタと便器を揺らす。息が上がる。時折押し殺すのに失敗した嬌声が、指の隙間から漏れては羞恥を高める。
「はぁっ……ん、ふッ」
自分の一番感じる所を自分の手指で追い込んでいく、間抜けな行為。徐々に加速していくそれを、無機質なカメラのレンズが捉えている。――四ノ宮が見てる。
四ノ宮には散々痴態を見られているのに、彼にされるのと自分でするのとでは、また羞恥のベクトルが違う。何でだか、こっちのが恥ずかしい。自分だと手加減してしまうので、まだ思考の余地が残されているからだろうか。
けど、それも次第に失せていく。押し寄せる快楽の波に、思考も羞恥も、カメラを気にする余裕すらも、やがては保てなくなっていく。頂の一歩手前まで上り詰めてふわふわと漂う意識の中、突如聴覚が異音を拾った。
人声。それから、足音。ハッとして目を見開く。二人組み? 誰かが、入ってきた――!!
手を止めて、息を詰める。達しかけていた前が、寸止めに切なく震える。あとひと押し、触れる空気ですらも過敏に感じ取り果ててしまいそうになるそこから何とか気を逸らしつつ、口元を覆った片手にぎゅっと力を込めて二人組みが立ち去るのを待った。
二人組みは学生のようだった。「今日、数学の小テストだっけ?」とか他愛もない会話を交わし、こちらに気付く様子はない。そのことに少なからず安堵しつつも、内心焦れた。
早く、早く行ってくれ――!
その時。先端にぴしりと〝あとひと押し〟の刺激が加えられた。四ノ宮がオレのそこを指先で軽く弾いたらしい。二人組みに気を取られていたオレは全く心構えが出来ておらず、いきなりの強い快楽信号に為す術もなく果てた。
「――~~ッ!?」
ぶるりと身を震わせ、大きく背が仰け反る。便器がガタンと音を立てた。何とか声は殺したが、詰めた息の鳴る音は誤魔化し切れない。
ぴしゃり、勢い良く弾け散ったオレの精が、四ノ宮の携帯端末――丁度カメラのレンズの位置を濡らして塞いだ。
幸い、二人組みは会話に夢中で変には思わなかったようだ。そのまま遠ざかっていく足音を聞き、オレはへにゃりと便座の上で脱力した。口元を覆っていた手を離し、止めていた呼気を思い切り吐き出す。ここぞとばかりに肩で荒い息をした。
「あーもう、トキさん。付いたじゃないですか。携帯壊れたら弁償してくださいね?」
「おまっ……ハァ、お前の、せいだろ……何、すんだよ」
危なかったじゃねーか! 潤んだ瞳でキッと睨め付けるも、四ノ宮が悪びれる訳もない。
「ちょっとした悪戯心ですよ」なんて、可愛らしくテヘペロして見せる。くそぅ……不覚にも顔がどストライクなもんだから、そんな仕草にときめいてしまう。自分が情けない。
とにかく、これでミッションクリアだ。早い所身支度を済ませて撤収しよう。……そう思っていた矢先、ペーパーに伸ばした手を掴まれ、阻止された。見上げると、四ノ宮がにっこりと笑みを浮かべて、言った。
「ところで、トキさんを見ていたら僕も前が腫れてしまいました。責任、取ってくれますよね?」
――は?
「え? だって、シないって言っ」
「そのつもりでしたが、トキさんが煽ってくるから……貴方が悪いんですよ?」
「はぁ!? だって、お前がやれって……冗談だろ!?」
「僕が冗談を言っているように見えますか?」
見えない。四ノ宮のベージュの瞳の奥には、熱く滾る欲情の色があった。獲物を見る肉食獣の瞳。ひくり、恐怖にオレの口元が引き攣る。
――嘘吐き。
抗議の言葉は声にすることもなく、そっと心中だけで零して虚しく呑み込んだ。
手を引いて先をずんずん進んでいく四ノ宮に、オレは困惑して訊ねた。学校に向かうなら本来、今の電車に乗ったままでいなければならなかった。
「トキさんが悪いんでしょう? またすぐに見咎められて……反省してくださいね?」
「んなこと言われたって」
お前が変な風に触るからじゃん……。
理不尽な言い様にそっぽを向く。四ノ宮に関しては今に始まったことじゃねーけど。
つーか、あんまり早く歩かれると、熱を持ったままの前が擦れて辛い。サブバッグで盛り上がりを隠してはいるが、お陰で変な歩き方になってしまう。
オレが気にしているのを勿論察していて、四ノ宮は一度振り返ると鞄越しにそこを見た。
「それ……そのままだと辛いでしょう? 学校に行く前に鎮めておきましょう」
「げ」
前にも聞いたようなセリフ。しかも、それは非常に恐ろしい記憶と共にある。
「いや、いいって! 安静にしてれば、その内収まるから!」
「安静にする場所が必要でしょう。そうですね……あそこにしますか」
そう言って四ノ宮が指し示したのは、駅構内にある公衆トイレだった。……冗談だろ。
「大丈夫。ここの駅の男子トイレはいつも空いてますから」
大丈夫じゃねえ……。
遠くなりかけた気を引き戻したのは、昨日の五十鈴センパイの言葉だった。
――『嫌なことは嫌だってちゃんと言わなきゃ』
「四ノ宮……やっぱ、良くないよ。こういうことも、もう止めよう?」
四ノ宮はこちらを見もしなかった。そうして、すっかり言質を取られたあの言葉を繰り返す。
「僕が満足するまで付き合ってくれるって言ったじゃないですか」
「そうだけど……でも。こんなことしたって、お前も辛いだけだろ?」
「僕は楽しいですけど? 何ですか、もう音を上げるんですか。まぁ、トキさんの意思は初めから関係ないんで、好きにさせて貰いますけど」
駄目だ。やっぱり伝わらない。もどかしい気持ちを抱えたまま、すぐに男子トイレに着いてしまう。確かに空いていて、他に利用者は居ないようだった。乗り換えに使われる駅では無いからか。
一番奥の個室に促され渋々入ると、すぐ後から四ノ宮も入室してきた。狭いスペースに無理に二人詰め込まれる。カチリと四ノ宮が後ろ手に鍵を閉める音がした。
「多目的トイレじゃないので、やっぱり窮屈ですね。トキさん、早く座ってください」
仕方なしに、そのまま便座に腰掛ける。スペースに少し余裕が出来た。
「何やってるんですか、トキさん。下を脱いでからに決まってるでしょう。それとも、脱がされたいんですか」
うぐっ……。
「なぁ、四ノ宮。本当にやめ」
「画像、公開されたいんですか?」
うぐぐっ……!!
「安心してください。何も犯すとは言っていません。トキさんがご自分で抜いてくださって結構ですので」
「え? それって」
鞄から白い携帯端末を取り出すと、四ノ宮はそれをずいとこちらに向け、
「自慰……録画らせてください」
などと、実に可憐なエンジェルスマイルで言ってのけた。
あまりのことに、オレはあんぐり口を開いて数秒固まった。
「あ、悪趣味……」
「今更でしょう」
まぁ、そうなんだけど。
有無を言わさぬ四ノ宮の笑顔に負けて、オレは渋々ベルトを外してズボンと下着を脱いでから座り直した。
四ノ宮の携帯カメラのレンズが、じっとこちらを見据えている。脱衣を始めた所から録画開始音が聞こえていたから、もう既に撮られている筈だ。嫌な緊張感が走る。
せめてもと、カメラから目を逸らした。おそらく意味の無い、僅かばかりの抵抗。
「さぁ、早くしないと誰か来ちゃうかもしれませんよ」
「わ、分かってるよ……」
本当にやるのか? と問うたところで、下手に醜態を晒す時間が長引くだけだ。ここはもう、とっととヤってイって終わらせよう。
そっと、露出した自身の屹立に手を添えた。ぴくり、腰が跳ねる。四ノ宮に見られていると思うだけで、妙に感度が上がってしまっている。
カメラから隠すように、手の中に握り込んだ。そのまま、ゆっくり上下に動かしていく。
「ぅ、ん……っ」
甘い声が漏れそうになり、慌ててもう片方の手で口元を押さえた。血が集中し、屹立がより硬くなっていく。まだ触れていない先端から、とろりとローションよろしく先走りの汁が溢れ出した。
くちゅ、くちゅ……次第に淫猥な水音が立ち始める。じわりと、羞恥と快楽に視界が滲み始めた。
「先っぽ、弄らないんですか? 気持ち良いですよ?」
四ノ宮が口を挟んでくる。分かってるよ、そんなことは。でもそこは刺激が強過ぎて、触れたら声が抑えられなくなりそうで怖い。
だけど、逃げてばかりもいられない。早い所達しないと終わらないんだから。オレは意を決して、濡れた先端を指先で擦った。途端に、目眩がする程の強い快楽が駆け抜ける。
「ぁっ、ん」
押さえた手の隙間から、声が飛び出した。やべ。咄嗟に周囲を気にして手が止まる。
「ほら、早くしないといつまでも終わりませんよ?」
「わ、分かってる!」
うるさいな!
半ばヤケっぱちな気持ちで、オレは敏感な先端を指先で扱き始めた。腰が浮いて、ガタガタと便器を揺らす。息が上がる。時折押し殺すのに失敗した嬌声が、指の隙間から漏れては羞恥を高める。
「はぁっ……ん、ふッ」
自分の一番感じる所を自分の手指で追い込んでいく、間抜けな行為。徐々に加速していくそれを、無機質なカメラのレンズが捉えている。――四ノ宮が見てる。
四ノ宮には散々痴態を見られているのに、彼にされるのと自分でするのとでは、また羞恥のベクトルが違う。何でだか、こっちのが恥ずかしい。自分だと手加減してしまうので、まだ思考の余地が残されているからだろうか。
けど、それも次第に失せていく。押し寄せる快楽の波に、思考も羞恥も、カメラを気にする余裕すらも、やがては保てなくなっていく。頂の一歩手前まで上り詰めてふわふわと漂う意識の中、突如聴覚が異音を拾った。
人声。それから、足音。ハッとして目を見開く。二人組み? 誰かが、入ってきた――!!
手を止めて、息を詰める。達しかけていた前が、寸止めに切なく震える。あとひと押し、触れる空気ですらも過敏に感じ取り果ててしまいそうになるそこから何とか気を逸らしつつ、口元を覆った片手にぎゅっと力を込めて二人組みが立ち去るのを待った。
二人組みは学生のようだった。「今日、数学の小テストだっけ?」とか他愛もない会話を交わし、こちらに気付く様子はない。そのことに少なからず安堵しつつも、内心焦れた。
早く、早く行ってくれ――!
その時。先端にぴしりと〝あとひと押し〟の刺激が加えられた。四ノ宮がオレのそこを指先で軽く弾いたらしい。二人組みに気を取られていたオレは全く心構えが出来ておらず、いきなりの強い快楽信号に為す術もなく果てた。
「――~~ッ!?」
ぶるりと身を震わせ、大きく背が仰け反る。便器がガタンと音を立てた。何とか声は殺したが、詰めた息の鳴る音は誤魔化し切れない。
ぴしゃり、勢い良く弾け散ったオレの精が、四ノ宮の携帯端末――丁度カメラのレンズの位置を濡らして塞いだ。
幸い、二人組みは会話に夢中で変には思わなかったようだ。そのまま遠ざかっていく足音を聞き、オレはへにゃりと便座の上で脱力した。口元を覆っていた手を離し、止めていた呼気を思い切り吐き出す。ここぞとばかりに肩で荒い息をした。
「あーもう、トキさん。付いたじゃないですか。携帯壊れたら弁償してくださいね?」
「おまっ……ハァ、お前の、せいだろ……何、すんだよ」
危なかったじゃねーか! 潤んだ瞳でキッと睨め付けるも、四ノ宮が悪びれる訳もない。
「ちょっとした悪戯心ですよ」なんて、可愛らしくテヘペロして見せる。くそぅ……不覚にも顔がどストライクなもんだから、そんな仕草にときめいてしまう。自分が情けない。
とにかく、これでミッションクリアだ。早い所身支度を済ませて撤収しよう。……そう思っていた矢先、ペーパーに伸ばした手を掴まれ、阻止された。見上げると、四ノ宮がにっこりと笑みを浮かべて、言った。
「ところで、トキさんを見ていたら僕も前が腫れてしまいました。責任、取ってくれますよね?」
――は?
「え? だって、シないって言っ」
「そのつもりでしたが、トキさんが煽ってくるから……貴方が悪いんですよ?」
「はぁ!? だって、お前がやれって……冗談だろ!?」
「僕が冗談を言っているように見えますか?」
見えない。四ノ宮のベージュの瞳の奥には、熱く滾る欲情の色があった。獲物を見る肉食獣の瞳。ひくり、恐怖にオレの口元が引き攣る。
――嘘吐き。
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