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第五章 記憶の中の男の子
5-7 浄めの接吻が全身に降る。 ◆
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九重が呼んだのは、やっぱり車田さんだった。車田さんはオレの事情を予め聞かされているのかいないのか、こんな時間にいきなり病院への迎えなんて明らかに尋常ならざる事態にも関わらず、特に何も訊いてくることはなかった。
それに甘えてオレも余計なことは話さず、車田さんの娘さんのことや世間話にだけ花を咲かせた。(九重には「お前らいつの間にそんなに仲良くなったんだ」と呆れられたりした)
そうして数十分のドライブの末、オレ達は例のタワマンに帰り着いた。専用エレベーターに乗って最上階の部屋に到着後、オレは九重よりも先に鍵を開けて入室し、一言告げる。
「ただいまー」
っつーのも、何か変な感じだけど。戻ってきたぜ、タワマン! 九重ん家だけど! 改めて、もうオレん家でもあるんだよな!
ようやく安寧の地に着いたって感じで、ホッと一息。後から玄関に上がってきた九重に、上機嫌に話題を振った。
「お前、たぶん夕飯まだだよな? 遅い時間だから簡単なもんしか作れねーけど、昨日は弁当にしちまったし、今日は何か用意するな」
……の、前にまずは風呂か。
「あ、先にシャワー浴びてもいいか? ちょっと待たせちまうけど」
「身体なら、お前が寝てる間に隅々まで濡れタオルで拭いといた」
「は……?」
そういや、オレ……いつの間にか入院着に着替えてて、着替えもないから(体操着切られたし、制服まだ湿ってるし)後日返すってんで、そのまま帰って来ちまったけど……。
「まさかこれ、お前が着せたのか!?」
「他に誰が居るんだ」
「そこは、美人な看護師さんとかさぁ!!」
「美人の看護師に寝てる間に全裸見られる方が嫌じゃないのか」
くっ……それは、確かにそうかもだけど!
「つーか、隅々までって……!? 何か変なことしてないだろうな!?」
「睡姦趣味は無いから安心しろ。起きてないと物足りない」
「そこまでは聞いてねー!! っぎゃあ!? つか、何でオレ下着穿いてねーんだよ!! 何かスースーすると思ったら!!」
「気付くの遅くないか」
長い浴衣みたいな入院着の中を確認し仰天するオレに、九重は全く悪びれた風もなくさらりと言う。
「病院の購買に下着は売ってたが、帰ったらすぐに脱がせるから、まぁ、用意しなくてもいいかという結論に至った」
脱……?
九重の言葉の意味を測りかねてキョトンとしていると、次の瞬間、唐突に身体が宙に浮いた。
「わぁっ!?」
横抱きにされたのだと理解した頃には、九重は有無を言わさず玄関に鞄諸々を置き去りにしたまま、オレを抱えてずんずんと廊下を闊歩し始めた。
「おい、九重!? オレ、自分で歩けるって!! タカじゃあるまいし!!」
タカの名前を出したら眉間に一瞬シワが寄ったが、九重は何も言わずにオレを自身の寝室まで運び込み、キングサイズのベッドの上に下ろした。
ぼふっ、と羽毛布団に埋もれる。病院の薄くて硬いそれとは大違いの感触。しかし、堪能する余裕もなく、九重がオレの入院着の合わせ目の紐をしゅるりと解くのを見て、ギョッと目を剥いた。
ほぼ巻いただけの布一枚。いとも簡単に前を開かれては、もう服としての用を成さない。訴えかけるように見上げると、九重は至極真面目な顔で告げた。
「さて、奴らに触られた場所はちゃんと消毒もしとかないとな。……何処だ?」
「しょ、消毒って……隅々まで拭いたんじゃなかったのかよ?」
「それだけじゃ足りない。俺は、自分のものを他人にベタベタ触られるのは嫌いなんでな。マーキングし直す必要がある」
マーキング? 疑問符を浮かべていると、九重はオレの腕を掴んで、手首の包帯を解き始めた。(これも起きたら巻かれてた)
「お、おい!」
包帯の下は、痣と擦過傷による新たな縄痕で更新されていた。折角最初のが薄れてきていたのに、犯人達は嫌がらせか痛めつける為か、わざわざオレを縛り上げる時、手首のリストバンドを外していたようだ。しかも、自重が掛かった分、九重の時よりも酷い怪我になっていた。
「まずは、ここか」
その傷を見て九重は目を眇めてから、何を思ったのか、不意にそこに唇を落とした。触れるだけの優しいキス。柔らかい唇の感触。だけど傷口は疼き、オレは小さく息を詰めた。
ちゅっと啄むように軽い音を立てて、九重の唇が離れていく。するとすぐさま、もう片方の手首にも同じように唇が押し当てられた。痛い……けど、異様に優しい感触に、何だか擽ったくなる。
「それ、消毒じゃねーじゃん……」
「マーキングとも言ったろ? 手首は後でまた軟膏塗って包帯し直してやる。……で、次は何処だ? 何処を触られた?」
「何処って……」
脳内を駆け巡る、本日の記憶。……言えるか、そんなの!
羞恥に戸惑うオレに構わず、九重は「ここか?」とオレの頬にキスを落とし、「それとも、ここか?」と耳も同じようにリップ音を立てながら啄んだ。止める間もなく、今度は首筋に。それから鎖骨……と、幾つものキスが降ってくる。
「っ九重……!」
次第に、肌に熱が上がり、背筋にぞくりとした感覚が走り始めたもんだから、オレは慌てて九重の肩を押し戻そうと手を添えた。でも、やっぱり九重は気にせず続行する。胸元……それから。
「あっ……や、そこ!」
乳首に唇が落とされた時、甘い声が漏れた。手から力が抜ける。ちゅっと軽く啄んで九重の唇が離れていくと、鴇色の尖端はツンと勃ち上がって震えていた。
片側が済むと、もう片側。柔らかい感触が押し当てられては、軽く吸い付いただけで、すぐに離れていく。
「安心しろ。キス以上のことはしない。お前今日は怖い思いをしたばかりだからな」
キスだけ……? でも何か、それって逆に……。
「そういや、脚を持ち上げられてたな」
九重の言葉にハッとした時には、もう足を広げるように抱え上げられしまっていた。そのまま次は、脚部のあちこちにキスの洗礼が来る。ふくらはぎ、膝の裏、腿の内側――鼠径部。
声が出ないように息を止めるので精一杯だった。しかも、例によって片側が終われば反対側にも同じく、焦れったいような刺激が訪れる。
「ッん……もう、いいって、九重!」
「まだだろ? 確かお前、ここ……濡らしてたよな?」
瞠目する。九重の唇は、予告通りオレのそれへと落された。腰が浮く。こそばゆい。キスは一度では済まず、少しずつ位置をずらして、何度もオレの敏感な場所を啄んだ。竿だけじゃなく、玉の一つ一つ、その裏まで丁寧に……。先端を軽く吸われた時には先走りが滲み、九重の唇を汚した。
「はぁ……っ」
熱い吐息が漏れる。身体の奥底が疼く。熱を齎すだけ齎して、それ以上の刺激を与えることなく、去っていく唇。――もどかしい。
「あとは、もう無いか? ……どうした? 物足りなさそうな顔してるな?」
「しっ……してねーし!」
つーか、これ……友達同士でするようなことかよ!?
しかも、何でだ、オレ……あんまり嫌じゃない。九重がオレのこと、嫌いじゃないって分かったからか? 触れる唇が、あまりにも優しいからか? 今日、あんな思いをした後なのに、何で……。
――何で、もっと触れて欲しいなんて、思ってるんだ?
「下の口も……舐められそうになってたな?」
ひくりと、身体が先に反応を示した。
「や、そこはマジでまだ何も……っ! 触られてない!」
「本当か?」
ぶんぶんと必死に首を縦に振った。四ノ宮の件はノーカン……だよな? 九重はそんなオレをじっと見据えて、ふっと口元に不敵な笑みを携えた。
「なら、先にマーキングしとくか」
「先にって……う、嘘だろ、汚いって、そんなとこ!」
「じゃあ、そこにキスされたくなければ、素直にねだれ」
「な、何を?」
「ここ」――と、九重がオレの雄の先端を軽く指先で突ついた。
それだけで、とろりと溢れ出す白濁。腰が跳ねて、切羽詰まったような嬌声が漏れる。
「このままだと苦しいだろ? 抜いて欲しいんじゃないか?」
まるで、初めての時の再現のようなセリフ。でも今は、あの時とはオレの心境が大きく変わっていた。
「……意地悪っ」
――分かってるくせに、言わせんなよ。
ぽろり、文句を零して目を逸らしたオレの頬は、きっと鴇色に染まっていた。
それに甘えてオレも余計なことは話さず、車田さんの娘さんのことや世間話にだけ花を咲かせた。(九重には「お前らいつの間にそんなに仲良くなったんだ」と呆れられたりした)
そうして数十分のドライブの末、オレ達は例のタワマンに帰り着いた。専用エレベーターに乗って最上階の部屋に到着後、オレは九重よりも先に鍵を開けて入室し、一言告げる。
「ただいまー」
っつーのも、何か変な感じだけど。戻ってきたぜ、タワマン! 九重ん家だけど! 改めて、もうオレん家でもあるんだよな!
ようやく安寧の地に着いたって感じで、ホッと一息。後から玄関に上がってきた九重に、上機嫌に話題を振った。
「お前、たぶん夕飯まだだよな? 遅い時間だから簡単なもんしか作れねーけど、昨日は弁当にしちまったし、今日は何か用意するな」
……の、前にまずは風呂か。
「あ、先にシャワー浴びてもいいか? ちょっと待たせちまうけど」
「身体なら、お前が寝てる間に隅々まで濡れタオルで拭いといた」
「は……?」
そういや、オレ……いつの間にか入院着に着替えてて、着替えもないから(体操着切られたし、制服まだ湿ってるし)後日返すってんで、そのまま帰って来ちまったけど……。
「まさかこれ、お前が着せたのか!?」
「他に誰が居るんだ」
「そこは、美人な看護師さんとかさぁ!!」
「美人の看護師に寝てる間に全裸見られる方が嫌じゃないのか」
くっ……それは、確かにそうかもだけど!
「つーか、隅々までって……!? 何か変なことしてないだろうな!?」
「睡姦趣味は無いから安心しろ。起きてないと物足りない」
「そこまでは聞いてねー!! っぎゃあ!? つか、何でオレ下着穿いてねーんだよ!! 何かスースーすると思ったら!!」
「気付くの遅くないか」
長い浴衣みたいな入院着の中を確認し仰天するオレに、九重は全く悪びれた風もなくさらりと言う。
「病院の購買に下着は売ってたが、帰ったらすぐに脱がせるから、まぁ、用意しなくてもいいかという結論に至った」
脱……?
九重の言葉の意味を測りかねてキョトンとしていると、次の瞬間、唐突に身体が宙に浮いた。
「わぁっ!?」
横抱きにされたのだと理解した頃には、九重は有無を言わさず玄関に鞄諸々を置き去りにしたまま、オレを抱えてずんずんと廊下を闊歩し始めた。
「おい、九重!? オレ、自分で歩けるって!! タカじゃあるまいし!!」
タカの名前を出したら眉間に一瞬シワが寄ったが、九重は何も言わずにオレを自身の寝室まで運び込み、キングサイズのベッドの上に下ろした。
ぼふっ、と羽毛布団に埋もれる。病院の薄くて硬いそれとは大違いの感触。しかし、堪能する余裕もなく、九重がオレの入院着の合わせ目の紐をしゅるりと解くのを見て、ギョッと目を剥いた。
ほぼ巻いただけの布一枚。いとも簡単に前を開かれては、もう服としての用を成さない。訴えかけるように見上げると、九重は至極真面目な顔で告げた。
「さて、奴らに触られた場所はちゃんと消毒もしとかないとな。……何処だ?」
「しょ、消毒って……隅々まで拭いたんじゃなかったのかよ?」
「それだけじゃ足りない。俺は、自分のものを他人にベタベタ触られるのは嫌いなんでな。マーキングし直す必要がある」
マーキング? 疑問符を浮かべていると、九重はオレの腕を掴んで、手首の包帯を解き始めた。(これも起きたら巻かれてた)
「お、おい!」
包帯の下は、痣と擦過傷による新たな縄痕で更新されていた。折角最初のが薄れてきていたのに、犯人達は嫌がらせか痛めつける為か、わざわざオレを縛り上げる時、手首のリストバンドを外していたようだ。しかも、自重が掛かった分、九重の時よりも酷い怪我になっていた。
「まずは、ここか」
その傷を見て九重は目を眇めてから、何を思ったのか、不意にそこに唇を落とした。触れるだけの優しいキス。柔らかい唇の感触。だけど傷口は疼き、オレは小さく息を詰めた。
ちゅっと啄むように軽い音を立てて、九重の唇が離れていく。するとすぐさま、もう片方の手首にも同じように唇が押し当てられた。痛い……けど、異様に優しい感触に、何だか擽ったくなる。
「それ、消毒じゃねーじゃん……」
「マーキングとも言ったろ? 手首は後でまた軟膏塗って包帯し直してやる。……で、次は何処だ? 何処を触られた?」
「何処って……」
脳内を駆け巡る、本日の記憶。……言えるか、そんなの!
羞恥に戸惑うオレに構わず、九重は「ここか?」とオレの頬にキスを落とし、「それとも、ここか?」と耳も同じようにリップ音を立てながら啄んだ。止める間もなく、今度は首筋に。それから鎖骨……と、幾つものキスが降ってくる。
「っ九重……!」
次第に、肌に熱が上がり、背筋にぞくりとした感覚が走り始めたもんだから、オレは慌てて九重の肩を押し戻そうと手を添えた。でも、やっぱり九重は気にせず続行する。胸元……それから。
「あっ……や、そこ!」
乳首に唇が落とされた時、甘い声が漏れた。手から力が抜ける。ちゅっと軽く啄んで九重の唇が離れていくと、鴇色の尖端はツンと勃ち上がって震えていた。
片側が済むと、もう片側。柔らかい感触が押し当てられては、軽く吸い付いただけで、すぐに離れていく。
「安心しろ。キス以上のことはしない。お前今日は怖い思いをしたばかりだからな」
キスだけ……? でも何か、それって逆に……。
「そういや、脚を持ち上げられてたな」
九重の言葉にハッとした時には、もう足を広げるように抱え上げられしまっていた。そのまま次は、脚部のあちこちにキスの洗礼が来る。ふくらはぎ、膝の裏、腿の内側――鼠径部。
声が出ないように息を止めるので精一杯だった。しかも、例によって片側が終われば反対側にも同じく、焦れったいような刺激が訪れる。
「ッん……もう、いいって、九重!」
「まだだろ? 確かお前、ここ……濡らしてたよな?」
瞠目する。九重の唇は、予告通りオレのそれへと落された。腰が浮く。こそばゆい。キスは一度では済まず、少しずつ位置をずらして、何度もオレの敏感な場所を啄んだ。竿だけじゃなく、玉の一つ一つ、その裏まで丁寧に……。先端を軽く吸われた時には先走りが滲み、九重の唇を汚した。
「はぁ……っ」
熱い吐息が漏れる。身体の奥底が疼く。熱を齎すだけ齎して、それ以上の刺激を与えることなく、去っていく唇。――もどかしい。
「あとは、もう無いか? ……どうした? 物足りなさそうな顔してるな?」
「しっ……してねーし!」
つーか、これ……友達同士でするようなことかよ!?
しかも、何でだ、オレ……あんまり嫌じゃない。九重がオレのこと、嫌いじゃないって分かったからか? 触れる唇が、あまりにも優しいからか? 今日、あんな思いをした後なのに、何で……。
――何で、もっと触れて欲しいなんて、思ってるんだ?
「下の口も……舐められそうになってたな?」
ひくりと、身体が先に反応を示した。
「や、そこはマジでまだ何も……っ! 触られてない!」
「本当か?」
ぶんぶんと必死に首を縦に振った。四ノ宮の件はノーカン……だよな? 九重はそんなオレをじっと見据えて、ふっと口元に不敵な笑みを携えた。
「なら、先にマーキングしとくか」
「先にって……う、嘘だろ、汚いって、そんなとこ!」
「じゃあ、そこにキスされたくなければ、素直にねだれ」
「な、何を?」
「ここ」――と、九重がオレの雄の先端を軽く指先で突ついた。
それだけで、とろりと溢れ出す白濁。腰が跳ねて、切羽詰まったような嬌声が漏れる。
「このままだと苦しいだろ? 抜いて欲しいんじゃないか?」
まるで、初めての時の再現のようなセリフ。でも今は、あの時とはオレの心境が大きく変わっていた。
「……意地悪っ」
――分かってるくせに、言わせんなよ。
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