オレとアイツの脅し愛

夜薙 実寿

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第五章 記憶の中の男の子

5-4 交錯する過去と現在(いま) ◆

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 ぷつりと、最後の糸が切れた。

「やった……!」

 小声で歓喜を示す。後ろ向きに向かい合っていたオレらは、改めて正面に向き直った。確認するように、隣の男の子を見る。室内はやっぱり薄暗くて判然とはしないけれど、ぼんやり浮かび上がる輪郭で男の子の手が自由に動かせるようになったことが分かった。

「次は、君の番だ」

 男の子がオレに言う。オレは頷きを返して再び後ろ向きに座すと、彼の手に例のガラス片を渡した。
 受け取った男の子が、オレの手首の縄に尖った面を当てて、慎重に鋸引きしていく。一人なら断ち切れなかった束縛も、二人ならば何とかなる。見えてきた希望にオレは勇気が鼓舞され、声を潜めて男の子に語り掛けた。

「ナワがとけたら、オレが戸を開けて、さわぎを起こす。お前はその間に、逃げろ」

 ハッとしたような気配があった。男の子は慌てたように口を開く。

「ダメだよ! それじゃあ、君が……」
「オレは、だいじょうぶだ。オレ、たいくのつうしんぼ、いつも満点だもん。かけっこ、はやいんだ。大人になんか、つかまらねえよ」

 ドヤ顔で告げてみせる。暗い上に後ろ向いてるから見えないだろうけど、自信満々な声だけでも聞かせて、安心させてやりたい。
 男の子はまだ心配そうだったけど、ひとまずは作業に集中することにしたらしく、再び口を閉ざした。オレ達が黙ると、室内にはしんと張り詰めた空気が戻ってきた。――それを切り裂くように突如扉が勢いよく開かれたのは、直後のことだった。

 眩しい。いきなり差し込んできた明かりに、瞬間、目を瞑る。それから、再びそっと開いて横目に確認すると、男の子は咄嗟に手首を後ろに隠してまだ縛られている振りをしたようだった。――賢い子だ。
 カンテラを手に、入ってきたのは先程とはまた別の男だった。でかくて、筋肉質な奴。

「おう、お前ら起きてたのか。随分静かにしてたな。感心感心」
「おい、遊ぶのはいいが、壊すなよ。一応人質なんだからな」

 二つ目の声は、少し遠くから聞こえてきた。やっぱり複数犯。近くに居るんだ。

「分かってる。殺さなきゃいいんだろ」
「体液とかも残すなよ。全く、お前ももの好きだな。そんなガキの何処が良いんだか」
「俺はおめーの熟女好きの方が理解出来ねーよ」
「男子児童にしか勃たないお前よりは正常だよ」

 ――何だ。何の話をしてるんだ? 分からない。でも何か、良くない予感がする。
 筋肉質な男は、オレ達を品定めするように見回して、少し迷う素振りをした。

「ふぅむ、どっちからにすっかな。どっちも可愛い顔してんだよな。流石金持ちん家の息子ってとこか。ママもさぞかし美人なんだろうな。……とりあえず、ちっこい方は後にとっといて、背の高い方からにすっか」

 そう言ってそいつは、男の子の方に手を伸ばした。恐怖に身を竦める彼に男の汚い手が届く前に、オレは間に割って入った。

「やめろよ! そいつに手ぇ出すな! 何かすんなら、オレにしろ!」

 背後で男の子が息を呑む気配がした。オレは構わず目前の男を睨み付けて、精一杯虚勢を張る。……手が震えてるのは、バレてないよな。
 男は少し驚いたようだったけど、次の瞬間にはニタリと厭な笑みを浮かべて、オレを見つめ返した。

「ほぉん、お友達を守ろうってか。いいねぇ、その気の強そうな眼差し。歪ませてやりたくなるぜ。……いいぜ。そういうことなら、お前から喰ってやろう」

 ――喰う? 喰うって、なんだ? コイツ、鬼なのか?
 殺さないって言ってたけど、喰われたら死んじゃわないか?
 怖い。怖い。……でも。これでいい。これでいいんだ。


   ◆◇◆


「――――~~ッ!?」

 声にならない叫びを上げて、オレは拘束の許す限りぎゅっと縮こまって、果てた。男の口の中に、勢いよく精を吐き出す。
 目眩がする程の快楽の余韻。痙攣する腰。混濁しかける意識の中、男がオレの出したものを嚥下する様を目にして、ギョッとして引き戻された。

「ぅあ、あ……ッ」

 飲んでる。オレの。そんなものを。もっとと促すように先端を吸われ、刺激でまだ残っていた液体が中からトロトロと溢れ出した。男はそれらも綺麗に舐め上げ、ごくりと喉を鳴らす。

「――ご馳走様」

 あまりの羞恥に、心が震えた。けれど、男達は待ってはくれない。不意に後ろの男がオレの脚に引っ掛かっていたボトムスを下まで下ろすと、そのままオレの片脚を背後から持ち上げて広げさせた。不安定な体勢。加えて、恥ずかしい恰好。ビデオカメラが、こんなオレの姿をじっと記録している。
 それを構えたリーマンは、いつの間にか興奮したように荒い息を吐きながら、片手で己のモノを扱いていた。ねっとりとした熱い視線に、背筋が粟立つ。

「自分だけ気持ち良くなって終わり、って訳にはいかないのは、分かってるよね? 今度は、俺達が気持ち良くさせて貰う番だ」

 耳元で、男が低く囁いた。――まるで、死刑宣告。
 前の男が再び屈み込む。今度は何をするつもりだ。戦々恐々と息を詰めて動向を見守っていると、男は持ち上げられたオレの尻の下に顔を持ってきて、口を開いた。――まさか、嘘だろ。やめろ。
 予感に、蕾がひくりと震える。男はそこに向かって、舌を伸ばし――。

「ぐっ!?」

 唐突な呻き声。次いで、ドサッと何かが落ちる音。それが響いたのは、男の舌がオレの蕾に届く寸前のことだった。
 オレの秘部を舐ろうとしていた男も、背後から足を持ち上げている男も、それからオレも、驚いて音の方に視線を向けた。――リーマンが倒れていた。地に伏したそいつの背後に、信じられない人物の姿を見る。

「……こ、このえ?」

 九重だ。何で。何でここに? 来るとしても、タカじゃないのか?
 九重は足元に転がったリーマンのビデオカメラをバキリと踏み壊してから、顔を上げた。手には、いつぞやのスタンガン。
 唖然と見つめるオレをその目に映すと、改めて双眸に静かな怒りを湛える。琥珀色の瞳が、獰猛な光を宿して金色に変じた。
 睨まれたら身の危険を感じずには居られない程の、凄絶な殺意――それが、残った男達に向けられる。

「警察だ! 手を上げろ!」

 直後、第三者の声が割って入り、複数の制服警官がその場に駆け込んで来た。

「やべ!」
「逃げろ!」

 二人の男は慌ててその場から逃げ出そうとしたが、敢え無く警官達に取り押さえられる。
 オレは茫然とそれらを眺め――安堵したからだろうか、急激に目の前が白く霞んで消えた。
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