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第三章 新たな脅迫者、現る!?
3-4 目撃者Sからの呼び出し
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タカを見送った後、充分な間を置き、ベッドからのそりと身を起こした。保健室のセンセ(実は居た)に見咎められるも、「ちょっと、トイレに」と断りを入れて、オレ自身も保健室を出た。
……嘘は言っていない。オレはこれからトイレに向かう。そう、須崎に指定された、実習棟三階の男子トイレ。昼休みの校内では最も人の入りが少ない箇所のトイレだ。実習棟なんて授業でしか来ないからな。それを承知で、須崎もそこに呼び出したんだろう。
用件は……確実に縄痕に関してだろうな。呼び出して、須崎は一体どうするつもりなんだ?
緊張に喉が渇く。良くない想像がいつくも脳内を駆け巡り、足が止まりそうになる。でも、行かなかったらきっと、もっと悪いことになる……そんな気がして、自分を叱咤しながら目的地へと急いだ。
実習棟三階男子トイレ周辺は、しんと静まり返っていた。扉の前に須崎の取り巻き達が見張りに立っている、なんてこともない。立ち止まり、一度深呼吸をして気を落ち着けてから、オレは意を決して入口の戸を開いた。
「おう、遅かったな。保健室に逃げ込んで、すっぽかすつもりかと思ってたぜ」
須崎はオレの姿を見るや、すぐに話しかけてきた。ここにも取り巻き達の姿はない。コイツも一人で来たのか。
「……保健室は、カモフラージュだ。普通に『トイレに行く』ってだけじゃ、タカ付いてきちゃうからな」
「女子の連れションかよ。お前も大変だな。過保護過ぎる幼馴染を持つと」
須崎は揶揄するように顔を歪めて笑った。オレはそれには返さず、冷静を意識して静かに本題を切り出した。
「用件は、何だ?」
「分かってんだろ?」
焦らすような足取りで、須崎が寄ってくる。横に並び、そのまま通り過ぎるかと見せかけて、奴はオレの腕を掴み上げた。
「コレのことだよ」
眼前に掲げられた、オレの手首のリストバンド。先刻掴まれたのとは逆の、左腕。確認するように須崎はその小さなタオル地の布を捲りあげた。そこには、右手首同様、例の縄痕が存在している。二日経って、よりくっきりと浮かび上がった、赤い痕跡。
わざとらしく感嘆の息を吐いて、奴はまじまじとそれを鑑賞した。
「これは、明らかに怪しいもんだよなぁ? 普通にしてて付くような痕じゃねえ。片方ならまだしも、両手首。増して、こうやって隠してるってことは、世間様にゃ知られたくねーようなもんなんだろ?」
「……」
「縄――だろ、コレ。オレもムカつく奴縛って転がすことあるから、よく分かるぜ」
どういう高校生活送ってんだよ、お前は……。そうツッコんでやりたいが、今はそれどころではない。須崎は鬼の首を取ったように生き生きと話を続けた。
「てめーみてーな甘ったれ坊っちゃんがケンカとかは考えらんねーし、一体何したんだよ、なぁ? 〝イケナイこと〟かぁ? まさか花鏡にそんな趣味があったなんてなぁ。幼馴染も知らなさそうだったよなぁ。教えてやったら、どういう反応すんだろうな」
「っ……タカには、言わないでくれ。アイツには、余計な心配、掛けたくない」
思わず懇願を口にすると、須崎は得たりとばかりに笑みを深め、掴んだ腕を引き寄せた。至近距離、真上から恫喝するように、奴は告げた。
「金だ。金寄越せよ。口止め料ってやつだ。てめーんち金持ちなんだから、そんくらい余裕だろ?」
うわ……分かりやすいタイプの脅迫が来た。いや、脅迫っていったら普通これだよな? 九重のが意味分かんねーんだよ。アイツ自身が金持ちだからか? それはともかく。
「ねーよ、金なんて」
「はぁ!? 何言ってんだ!? てめー!!」
「親の金は! オレの金じゃねー! だから、お前にやれる程、オレだって余裕ねーんだよ!」
叫んで、腕を振り払う。すると、須崎は逆上したようで、「てめぇっ!!」とオレの体操着の襟首を掴んできた。
やべ、殴られる!? 慌てて退避しようとして、丸首から肩が露出する。それでも、須崎は離さない。もう片方の手もオレを掴みに掛かった。
「落ち着け! だから、金以外の何か……オレに出来ることなら、何でもやるから!」
「てめーに何が出来るってんだよ!! 金だ!! いいから、金出せよ!!」
取っ組み合いみたいになって、オレは無我夢中で須崎の手を振り解いた。その反動で、奴の手がオレの胸元に触れた。丁度、緊張のあまりピンと張って勃っていた、オレの胸の突起……乳首を、くりっと指先で引っ掛けて。
「ぁっ……ん」
声が出た。鼻に掛かった、甘ったるい声。直後、ハッとして須崎の方を窺う。須崎は最初にオレの手首の縄痕を見た時のように、驚いて硬直していた。オレの乳首を弾いた手もそのままに、完全に動きを止めて石になり、唖然とオレを見ている。
「あっ……」
かぁああっと、一気に顔に熱が昇ってきた。うわ、うわ! 何だよ、「あんっ」て! 聞かれた! よりにもよって、須崎に聞かれた!
須崎の金縛りが解ける前に、オレはそのまま勢いよく回れ右して奴の前から逃走を図った。須崎は依然固まったまま、オレを追っては来なかった。
思わず逃げちまったけど……どうすんだよ、これぇえええ!!
口止めは失敗。アイツはきっと、タカに縄痕のことを話すだろう。ああ……タカにどういう言い訳をするか。そっちを考えておいた方が良さそうだ……。
痛む頭を抱え、オレはひとまず保健室に戻った。顔面蒼白のオレを見てよほどの体調不良と思ったのか、保健室のセンセはすぐにオレをベッドに押し込んだ。安静にしてからの早退を促されたけど、そういやオレ、まだ九重のタワマンまでの道程をちゃんと覚えてない。
今後どうするかを考える時間も欲しかったので、昼休みだけと言わず、午後の授業もここでサボることにした。
……嘘は言っていない。オレはこれからトイレに向かう。そう、須崎に指定された、実習棟三階の男子トイレ。昼休みの校内では最も人の入りが少ない箇所のトイレだ。実習棟なんて授業でしか来ないからな。それを承知で、須崎もそこに呼び出したんだろう。
用件は……確実に縄痕に関してだろうな。呼び出して、須崎は一体どうするつもりなんだ?
緊張に喉が渇く。良くない想像がいつくも脳内を駆け巡り、足が止まりそうになる。でも、行かなかったらきっと、もっと悪いことになる……そんな気がして、自分を叱咤しながら目的地へと急いだ。
実習棟三階男子トイレ周辺は、しんと静まり返っていた。扉の前に須崎の取り巻き達が見張りに立っている、なんてこともない。立ち止まり、一度深呼吸をして気を落ち着けてから、オレは意を決して入口の戸を開いた。
「おう、遅かったな。保健室に逃げ込んで、すっぽかすつもりかと思ってたぜ」
須崎はオレの姿を見るや、すぐに話しかけてきた。ここにも取り巻き達の姿はない。コイツも一人で来たのか。
「……保健室は、カモフラージュだ。普通に『トイレに行く』ってだけじゃ、タカ付いてきちゃうからな」
「女子の連れションかよ。お前も大変だな。過保護過ぎる幼馴染を持つと」
須崎は揶揄するように顔を歪めて笑った。オレはそれには返さず、冷静を意識して静かに本題を切り出した。
「用件は、何だ?」
「分かってんだろ?」
焦らすような足取りで、須崎が寄ってくる。横に並び、そのまま通り過ぎるかと見せかけて、奴はオレの腕を掴み上げた。
「コレのことだよ」
眼前に掲げられた、オレの手首のリストバンド。先刻掴まれたのとは逆の、左腕。確認するように須崎はその小さなタオル地の布を捲りあげた。そこには、右手首同様、例の縄痕が存在している。二日経って、よりくっきりと浮かび上がった、赤い痕跡。
わざとらしく感嘆の息を吐いて、奴はまじまじとそれを鑑賞した。
「これは、明らかに怪しいもんだよなぁ? 普通にしてて付くような痕じゃねえ。片方ならまだしも、両手首。増して、こうやって隠してるってことは、世間様にゃ知られたくねーようなもんなんだろ?」
「……」
「縄――だろ、コレ。オレもムカつく奴縛って転がすことあるから、よく分かるぜ」
どういう高校生活送ってんだよ、お前は……。そうツッコんでやりたいが、今はそれどころではない。須崎は鬼の首を取ったように生き生きと話を続けた。
「てめーみてーな甘ったれ坊っちゃんがケンカとかは考えらんねーし、一体何したんだよ、なぁ? 〝イケナイこと〟かぁ? まさか花鏡にそんな趣味があったなんてなぁ。幼馴染も知らなさそうだったよなぁ。教えてやったら、どういう反応すんだろうな」
「っ……タカには、言わないでくれ。アイツには、余計な心配、掛けたくない」
思わず懇願を口にすると、須崎は得たりとばかりに笑みを深め、掴んだ腕を引き寄せた。至近距離、真上から恫喝するように、奴は告げた。
「金だ。金寄越せよ。口止め料ってやつだ。てめーんち金持ちなんだから、そんくらい余裕だろ?」
うわ……分かりやすいタイプの脅迫が来た。いや、脅迫っていったら普通これだよな? 九重のが意味分かんねーんだよ。アイツ自身が金持ちだからか? それはともかく。
「ねーよ、金なんて」
「はぁ!? 何言ってんだ!? てめー!!」
「親の金は! オレの金じゃねー! だから、お前にやれる程、オレだって余裕ねーんだよ!」
叫んで、腕を振り払う。すると、須崎は逆上したようで、「てめぇっ!!」とオレの体操着の襟首を掴んできた。
やべ、殴られる!? 慌てて退避しようとして、丸首から肩が露出する。それでも、須崎は離さない。もう片方の手もオレを掴みに掛かった。
「落ち着け! だから、金以外の何か……オレに出来ることなら、何でもやるから!」
「てめーに何が出来るってんだよ!! 金だ!! いいから、金出せよ!!」
取っ組み合いみたいになって、オレは無我夢中で須崎の手を振り解いた。その反動で、奴の手がオレの胸元に触れた。丁度、緊張のあまりピンと張って勃っていた、オレの胸の突起……乳首を、くりっと指先で引っ掛けて。
「ぁっ……ん」
声が出た。鼻に掛かった、甘ったるい声。直後、ハッとして須崎の方を窺う。須崎は最初にオレの手首の縄痕を見た時のように、驚いて硬直していた。オレの乳首を弾いた手もそのままに、完全に動きを止めて石になり、唖然とオレを見ている。
「あっ……」
かぁああっと、一気に顔に熱が昇ってきた。うわ、うわ! 何だよ、「あんっ」て! 聞かれた! よりにもよって、須崎に聞かれた!
須崎の金縛りが解ける前に、オレはそのまま勢いよく回れ右して奴の前から逃走を図った。須崎は依然固まったまま、オレを追っては来なかった。
思わず逃げちまったけど……どうすんだよ、これぇえええ!!
口止めは失敗。アイツはきっと、タカに縄痕のことを話すだろう。ああ……タカにどういう言い訳をするか。そっちを考えておいた方が良さそうだ……。
痛む頭を抱え、オレはひとまず保健室に戻った。顔面蒼白のオレを見てよほどの体調不良と思ったのか、保健室のセンセはすぐにオレをベッドに押し込んだ。安静にしてからの早退を促されたけど、そういやオレ、まだ九重のタワマンまでの道程をちゃんと覚えてない。
今後どうするかを考える時間も欲しかったので、昼休みだけと言わず、午後の授業もここでサボることにした。
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