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第三章 新たな脅迫者、現る!?
3-1 同棲後、初登校の朝。
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「いいか! 怪しまれるから、教室入るタイミングはちょっとズラせよ!? あと、学校ではあんまり話し掛けんな!!」
オレの念押しに、九重は「はいはい」と適当な相槌を打った。不安だな。本当にコイツ、分かってんのか? オレ達の関係は皆に……特にタカには絶対に秘密なんだぞ。
現在は送迎の車中。昨日オレを学校まで迎えに来たのと同じ運転手の車。ただし、今日は極力目立たないようにと、リムジンじゃなくて普通の長さのやつで来てもらった。
本当なら車じゃなくて電車を使って九重とは別々に登校したかった所なんだが、生憎前のマンションよりも学校からは距離がある上、まだ道に慣れていない。加えて、朝のドタバタでゆっくりしている時間もなくなっちまった。……ああ、思い出すだに頭が痛い。
朝勃ち攻防戦――逃走も虚しく即座に九重に取っ捕まったオレは、結局朝っぱらから元気に起き上がっていたそれを九重の手によって〝抜かれる〟羽目になった。
挙げ句、下の口にまで昨夜のバスタイムの時みたいに指を突っ込まれて……。洗うのに慣れる為だとか何とか言われたけど、(「次は二本だな。少しずつ指の本数増やしてくぞ」とか物凄い良い笑顔で空恐ろしいことも宣告された)オレはまだその常識、疑ってるんだからな!!
結果、オレはまた派手に達して意識を失ったらしく、次に起きた頃には大分時間がヤバいことになっていた。……ああ、不甲斐ねぇ。
つーか、穴めっちゃ痛え。これから学校だってのに、ふざけんなマジで。今日は体育もあんだぞ。毎日こんなんじゃ絶対身が保たねえ……早いとこ何とかしねーと。
実に恨めしい気持ちで隣に座る九重に目を遣る。九重は何やら考え込んでいる様子で黙していた。急いでたもんだから色々文句を言い足りないんだが、運転手の手前あんまり変な事も言えねえ。……そういやコイツ、オレのことどういう風に説明してんだろう。
車は、校門から少し離れた場所に停車した。他生徒達の目を警戒しての、九重による指示だ。下車して運転手と別れてから、オレは改めてその辺の疑問を九重にぶつけてみた。奴曰く。
「運転手には普通に『友人とルームシェアすることになった』と話した」とのことだった。昨日の誘拐なんかは、『場所は報せてないから、サプライズで連れて来い』という命令のし方をしていたらしい。
それはともかく、問題は親御さんの方だ。
「話してない」
「は? ご家族に? 何も?」
九重が頷く。「父親にも母親にも。……何も言ってない」
あんぐり、口が開いた。
「マジか。いいのかよ、それ」
「問題ない。二人共俺には特に興味も無いからな。誰を連れ込もうが、気にもしないだろう」
そう吐き捨てた九重の表情には、翳りがあった。時折見せる獰猛で狂気的な色にも似た、何処か危なっかしい影。オレはそれに圧倒されて、寸の間言葉を失った。
『興味も無い』そうハッキリと言えてしまう親子関係って……。
そうだ、九重の部屋を見た時の違和感の正体。――写真だ。コイツの部屋には、写真が一枚も無かった。普通、家には家族や友人の写真なんかを飾っておくもんだろ。一人暮らしなら、尚更。
あんなでかくて広いタワマンに息子を一人で住まわせてるってのも何か変だし……もしかして、コイツん家って、親子仲が悪いのか?
「九重、お前――」
「ほら、あんまりモタモタしてる時間はない。先行くぞ」
オレがようやく金縛りから解けて口を開いたところで、九重が制するように先んじて告げた。おっと、やべえ。そうだった。オレも九重の後を、敢えて少し遅れて追う。……何か、話をはぐらかされた気もしなくもねーが。まぁ、いいか。
教室の手前、先に九重が入っていくのを見届けてから、また少し待ってオレも扉に近寄ろうとした。その時、不意にそれはガラリと内側から開かれた。中から顔を出したのは。
「タカ!」
「トキ!」
タカだ。もうすぐ始業時間だってのに、何で教室から出てくるんだ? 焦燥を浮かべていたタカの表情は、オレを見ると安堵のそれに変わった。
「良かった……。いつもより遅いから、何かあったのかと思った」
オレを探しに行こうとしていたのか。
「あー、悪りぃ、その……例によって動画で夜更かしして……寝坊、的な」
ぅおお、ごめんタカ。心配させた上に、本当のことも言えねえ……。
「そうか……何も無かったんなら、いい」
ホッと息を吐いてから、タカはふと教室内に視線を投げた。その先には、自席に着こうとしている九重が居る。
「どうした? タカ」
「いや……アイツ、お前が来たのに挨拶に来ないなと思って」
「へ?」
「いつも、来るだろ。やけにお前に絡みに」
「あー……時間ねーからじゃね?」
オレの誤魔化し推理にタカは「そうか」と呟いたけれども、どうも納得はしていなさそうだった。何やら思案げに目を伏せている。やべえ、早くも疑われてる? 内心冷や汗を掻くオレに、タカは更にド肝を抜かれる質問をしてきた。
「トキ。お前、昨日……何処に居た?」
「ふぇっ!?」
つい変な声が出ちまったじゃねえか。席から九重がチラリとこちらを気にして、一瞬視線を寄越してきた。オレはもう心臓バクバクだ。でもそれを隠すように、努めて笑みを形作る。
「何でそんなこと、訊くんだ?」
いや、顔引き攣ってっかも。オレ顔に出やすいんだっけな。大丈夫か、これ。
「昨日、親父さんと会ったって聞いて……電話の後、やっぱり大丈夫なのか気になって、お前のマンションに行ったんだ。そしたら、何度呼んでもお前は出なかった。まだ実家の方に居るのかと思ったが、そんな長居するとも思えない」
タカが今一度同じ言葉を紡いだ。
「お前昨日……何処に居たんだ?」
オレの念押しに、九重は「はいはい」と適当な相槌を打った。不安だな。本当にコイツ、分かってんのか? オレ達の関係は皆に……特にタカには絶対に秘密なんだぞ。
現在は送迎の車中。昨日オレを学校まで迎えに来たのと同じ運転手の車。ただし、今日は極力目立たないようにと、リムジンじゃなくて普通の長さのやつで来てもらった。
本当なら車じゃなくて電車を使って九重とは別々に登校したかった所なんだが、生憎前のマンションよりも学校からは距離がある上、まだ道に慣れていない。加えて、朝のドタバタでゆっくりしている時間もなくなっちまった。……ああ、思い出すだに頭が痛い。
朝勃ち攻防戦――逃走も虚しく即座に九重に取っ捕まったオレは、結局朝っぱらから元気に起き上がっていたそれを九重の手によって〝抜かれる〟羽目になった。
挙げ句、下の口にまで昨夜のバスタイムの時みたいに指を突っ込まれて……。洗うのに慣れる為だとか何とか言われたけど、(「次は二本だな。少しずつ指の本数増やしてくぞ」とか物凄い良い笑顔で空恐ろしいことも宣告された)オレはまだその常識、疑ってるんだからな!!
結果、オレはまた派手に達して意識を失ったらしく、次に起きた頃には大分時間がヤバいことになっていた。……ああ、不甲斐ねぇ。
つーか、穴めっちゃ痛え。これから学校だってのに、ふざけんなマジで。今日は体育もあんだぞ。毎日こんなんじゃ絶対身が保たねえ……早いとこ何とかしねーと。
実に恨めしい気持ちで隣に座る九重に目を遣る。九重は何やら考え込んでいる様子で黙していた。急いでたもんだから色々文句を言い足りないんだが、運転手の手前あんまり変な事も言えねえ。……そういやコイツ、オレのことどういう風に説明してんだろう。
車は、校門から少し離れた場所に停車した。他生徒達の目を警戒しての、九重による指示だ。下車して運転手と別れてから、オレは改めてその辺の疑問を九重にぶつけてみた。奴曰く。
「運転手には普通に『友人とルームシェアすることになった』と話した」とのことだった。昨日の誘拐なんかは、『場所は報せてないから、サプライズで連れて来い』という命令のし方をしていたらしい。
それはともかく、問題は親御さんの方だ。
「話してない」
「は? ご家族に? 何も?」
九重が頷く。「父親にも母親にも。……何も言ってない」
あんぐり、口が開いた。
「マジか。いいのかよ、それ」
「問題ない。二人共俺には特に興味も無いからな。誰を連れ込もうが、気にもしないだろう」
そう吐き捨てた九重の表情には、翳りがあった。時折見せる獰猛で狂気的な色にも似た、何処か危なっかしい影。オレはそれに圧倒されて、寸の間言葉を失った。
『興味も無い』そうハッキリと言えてしまう親子関係って……。
そうだ、九重の部屋を見た時の違和感の正体。――写真だ。コイツの部屋には、写真が一枚も無かった。普通、家には家族や友人の写真なんかを飾っておくもんだろ。一人暮らしなら、尚更。
あんなでかくて広いタワマンに息子を一人で住まわせてるってのも何か変だし……もしかして、コイツん家って、親子仲が悪いのか?
「九重、お前――」
「ほら、あんまりモタモタしてる時間はない。先行くぞ」
オレがようやく金縛りから解けて口を開いたところで、九重が制するように先んじて告げた。おっと、やべえ。そうだった。オレも九重の後を、敢えて少し遅れて追う。……何か、話をはぐらかされた気もしなくもねーが。まぁ、いいか。
教室の手前、先に九重が入っていくのを見届けてから、また少し待ってオレも扉に近寄ろうとした。その時、不意にそれはガラリと内側から開かれた。中から顔を出したのは。
「タカ!」
「トキ!」
タカだ。もうすぐ始業時間だってのに、何で教室から出てくるんだ? 焦燥を浮かべていたタカの表情は、オレを見ると安堵のそれに変わった。
「良かった……。いつもより遅いから、何かあったのかと思った」
オレを探しに行こうとしていたのか。
「あー、悪りぃ、その……例によって動画で夜更かしして……寝坊、的な」
ぅおお、ごめんタカ。心配させた上に、本当のことも言えねえ……。
「そうか……何も無かったんなら、いい」
ホッと息を吐いてから、タカはふと教室内に視線を投げた。その先には、自席に着こうとしている九重が居る。
「どうした? タカ」
「いや……アイツ、お前が来たのに挨拶に来ないなと思って」
「へ?」
「いつも、来るだろ。やけにお前に絡みに」
「あー……時間ねーからじゃね?」
オレの誤魔化し推理にタカは「そうか」と呟いたけれども、どうも納得はしていなさそうだった。何やら思案げに目を伏せている。やべえ、早くも疑われてる? 内心冷や汗を掻くオレに、タカは更にド肝を抜かれる質問をしてきた。
「トキ。お前、昨日……何処に居た?」
「ふぇっ!?」
つい変な声が出ちまったじゃねえか。席から九重がチラリとこちらを気にして、一瞬視線を寄越してきた。オレはもう心臓バクバクだ。でもそれを隠すように、努めて笑みを形作る。
「何でそんなこと、訊くんだ?」
いや、顔引き攣ってっかも。オレ顔に出やすいんだっけな。大丈夫か、これ。
「昨日、親父さんと会ったって聞いて……電話の後、やっぱり大丈夫なのか気になって、お前のマンションに行ったんだ。そしたら、何度呼んでもお前は出なかった。まだ実家の方に居るのかと思ったが、そんな長居するとも思えない」
タカが今一度同じ言葉を紡いだ。
「お前昨日……何処に居たんだ?」
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