オレとアイツの脅し愛

夜薙 実寿

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第二章 恐怖の強制ルームシェア

2-9 視られただけで ◆

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 見つめる視線の鋭さに、早くもオレは押されて目を逸らした。抗議の声を上げようとしたけど、再び「命令」の一言で黙らされる。
 仕方ない、従うしかない。オレは九重がしたように、ボディソープを自分の掌に数プッシュ出して泡立たせた。それから、九重に背を向けて――。

「後ろ向くの禁止」

 くそっ! 新たな追加命令に、渋々正面に向き直って座った。マットの上で、正座。だらしなく座るよりは多少ガードされるだろう。
 立ち上がった九重が、上から見下ろしてくる。凄い威圧感。広さのあるシャワールームなのに、やけに距離が近く感じられる。
 とりあえず、九重が洗い残していた腕から擦り始めた。あまり体勢を崩さないように、もそもそと小さい動きで。

 その間も、頭上から九重の視線が降ってくる。目を合わせなくても、見られていることが伝わってくる。冷静なくせに、やけに熱く粘っこい。突き放しているようでいて、異様な執着がある。――そんな視線が、無防備に晒したオレの肌に纏わり付いてくる。
 脇に触れた時は、擽ったくて息を詰めた。いつもは、そんなことはないのに。見られてる――そう思うだけで、全身の神経が過敏になっていく。視線にねぶられる。
 実際に身体に触れているのは自分の手なのに、何だか次第に九重に触れられているような変な気分になってきた。視線を通して、オレの手と九重の感覚が繋がっていくような、そんな有り得ない想像が脳裏を過る。

「早いとこ泡まみれにしといた方が、見えづらくなるんじゃないか? ……そこ」

 不意に九重が、助言とも取れるような発言を落とした。急な声掛けにびくりと肩を震わせつつ、九重の顔を見上げ、奴の視線の先を辿る。九重が注視していたのは、オレの脚の間に挟まれた、オレ自身だった。いつの間にか上を向き始めていて、先端がぴょこんと顔を出している。――また、触れられてもいないのに。
 
「っ……」

 その自覚と、感じる恥部への視線に、首筋から背筋までをゾクゾクとした感覚が走り抜けた。意識したせいで、また少し先が持ち上がってしまう。

「安心しろ。胸を洗ってる頃から、既に反応し始めてた」

 何に対しての安心なんだよ、それ。たぶん、視線だけで勃った訳じゃないってフォローなんだろうけど。ろくにフォローにもなってねーよ。
 そう文句を言ってやりたいのに、あまりの恥ずかしさに顔が火照るだけで、言葉を上手く発せない。パクパクと陸に打ち上げられた魚みたいに無駄に口の開閉を繰り返しただけに終わった。

「どうした? 早く全部洗わないと終わらないぞ」

 このっ……悪趣味な変態ヤロー!!

 上がる体温と吐息。熱さと羞恥で、じわりと視界も濡れてきた。そうだ、終わらせよう。早く。
 九重の言うように泡のヴェールに包んで隠してしまえばいいのだとは思うものの、やはりいきなり自身に触れるのは躊躇われた。ボディソープを追加して、先に脚部の遠い所から洗うことにする。正座を横に崩し、足先から腿にかけて擦っていく。やっぱり、他人の手みたいでこそばゆい。膝の裏。腿の裏――何で裏側って、こんなに擽ったいんだ?
 九重がわざとらしい感嘆の声を上げた。

「器用なもんだな。脚開いた方が楽だぞ」

 うるせえ、放っとけ。誰がやるか。
 ついでに臀部まで洗い上げると、今度は反対側に脚を崩して、同じように洗った。
 次は……そうだ、お腹がまだだ。九重が洗ったのは、胸までだったからな。
 再び正座に戻して、下腹部に触れる。これが意外と難所だった。慎重にオレの雄を避けようとしても、どうしても近くまでいくと手が触れてしまう。

「んっ……」

 詰めていた声が漏れて、慌てて唇を噛んだ。九重の反応が気になったが、確認するのも怖くて目を合わせられない。これじゃあ、さっきの九重のように変に焦らしてるみたいになっちまった。
 とにかく、これでもう、残るは――。

「そこだな」

 オレの心中を読んだように、九重が告げた。そこ――オレの、雄たる証。
 本当に触るのか? これに直接? 九重の見てる前で? 何かそれって、まるで……。
 思わず、縋るように九重を見上げた。九重は冷たい。

「あんまりモタモタしてたら、俺が洗うぞ?」
「っ! じ、自分でやるから!」

 そんなことになったら、昨日の二の舞だ!! 慌てて、腿の間からはみ出したオレ自身に手を伸ばした。そっと触れる。途端に、びくん、と腰が跳ねた。それだけの刺激で、一層そこに血が集まってきてしまう。やめろ、もう。これ以上起きるな。
 だけど、身体は言うことを聞かない。オレがそこを擦る度――違う、洗っているんだ――オレの雄は張り詰めて固くなっていく。その様を、まじまじと九重が観察している。絡み付く視線。見るな。見るなよ、こんなところ。九重に見られてると思うだけで、何だか――。
 不意に先端から、石鹸とは違う白いものが滲み出した。それを、サッと泡で覆い隠す。
 もういいだろ。もう許してくれ。軽く全体に泡を擦り付けると、オレはまだ腫れたままの自身から手を離した。

「終わり、だ!」

 終わりだろ? 乞い願うように宣言する。しかし、九重は首を縦には振らなかった。

「まだだろ? 一番綺麗にする必要のある場所が、ちゃんと洗えてない」
「はぁ!? どこだよ!? 全部洗っただろ!?」

 顔なら、歯磨きの後に洗っている。残っている箇所なんて、どこも――。
 考えていると、九重が斬り付けるように告げた。

「脚……開け」

 一瞬、何と言われたのか分からずに硬直した。数秒遅れて理解が及び、血の気が引くのを感じる。

「なっ、なんで」
「いいから、開け。命令」
「ぐっ……」

 それを言われたら弱い。オレは目を伏せて、そろそろと正座から体育座りになる。これじゃあ、何の為にさっき頑張って隠しながら洗ったんだか、分からない。恐る恐る、膝を割って左右に脚を開いていく。感じる視線。こんなの……見られたくないとこ、丸見えじゃんか。
 いやもう……昨日だって見られてるんだ。大したことない、大したこと……ダメだ。昨日のこと思い出したら、また背筋がゾクゾクする。何も考えるな。

 言われた通り開脚したオレに、九重は何も言わない。ただじっと見つめてくる。
 なんだよ、お前がこうしろって言ったんだろ! で、なんなんだよ!?
 堪えきれなくなり、オレはぽそりと零した。

「何か……言えよ」
「感想が欲しいのか」
「ち、違う! お前がっ!?」

 言葉の最後は疑問符に置き変わった。九重が正面に屈み込み、手を伸ばしてくるのが見えたから。九重はオレには触れず、ある一点を指さした。そこは、オレの雄……ではなく、その下。ほぼ床と同位置。

「そこ、まだだろ」
「……? 尻なら、さっき洗っただろ」
「そうじゃない」
「わっ!?」

 視界が回転した。九重に肩を押されてマットに倒されたのだと、数秒遅れて理解する。
 困惑して見上げるも、奴とは目が合わなかった。九重が見ていたのは、別の場所――答え合わせをするように、直後そこに軽い刺激が訪れる。 

「ひッ……!?」
「――ここだ」

 そう言ってアイツが指先で触れたのは、オレの尻たぶの間に挟まれた、小さな蕾。排泄の為の、穴。突然の指名に、そこはわずかにひくついて応えた。
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