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第二章 恐怖の強制ルームシェア
2-7 誰かに食べて貰う手料理って、
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ほうれん草のお浸し。おからの煮物。大根と胡瓜の漬け物。豆腐とさやえんどうの味噌汁。メインは、金目鯛の煮付け。オマケに婆ちゃんから貰ったみかんで作った、即席みかん大福のデザート。
よし、我ながら良い出来だ! 炊きたてのご飯を碗によそれば、完璧! オレ流、本日のディナーの完成だ!
食卓のテーブルに並べたそれらに、九重も感心したように喉を鳴らした。ドヤ!
「和風だな」
「小さい頃から食ってたからな。やっぱ和食が一番だよな」
手を合わせて、頂きます。九重もオレに倣ってちゃんとしてくれた。
箸を手に、惣菜から手を付けていく。オレは何となく九重の反応が気になって、食べながらソワソワと奴の顔を窺った。九重が、箸を止めてオレを見る。
「もの欲しげな顔して、どうした?」
悪戯っぽい笑み。……コイツ、分かってて言ってんな。
「別に……」
「美味いよ。お前、いい嫁になれるんじゃないか」
「よ、嫁にはならねーよ!」
でも、褒められて悪い気はしない。思わず頬が緩む。
何か、誰かと一緒の夕飯って、久々だな。一人暮らし始めてからは、家で一人で食うことが多かったもんな。たまにバイト仲間と外食したりタカと出かけることはあっても、自分で作った料理を家で誰かに振る舞うことなんて、そうそうなかった。
――悪くない。なんて、思ったり。相手が九重ってのが、癪に障るけど。
ふと気になって、聞いてみた。
「そういや、お茶にしちゃったけど、九重の好きな飲み物とかってあるのか?」
イメージ的には、ブラックコーヒーとか、優雅に紅茶って感じだけど。果たして、九重は。
「水」
……そう言う気も、ちょっとだけしてたけどよ。十秒チャージのアレと一緒に唯一冷蔵庫に入ってたの、天然水のペットボトルだったもんな。
「お前、本当食に興味ねーのな。じゃあ、逆に苦手なもんは? ピーマン食えねーとか、ナス食えねーとか」
ハッ、もしやこれは、弱みになるのでは?
「特にないな」
……だよな。
オレが内心脱力してると、九重が付け加えた。
「たぶん、花鏡が作るものなら、何でも美味しくいける」
何だよ、それ……。
「ふ、ふーん」
ちょっとだけ、嬉しいって思っちゃったじゃんか。
やべ、顔熱い。誤魔化さねーと。
「まぁな!? オレ、天才だし!? 何やらせても上手に出来ちゃうんだよなー!?」
「照れてんのバレバレだぞ」
「はぁ!? おま……っ言うなよ、わざわざ!!」
九重が笑う。優等生モードの胡散臭いやつでもなければ、揶揄うようなイヤミな笑い方でもなくて、初めて見る無邪気な笑みだった。思わず、目を奪われる。
「……いつも、そういう顔で笑ってればいいのにな」
ぽつり、呟いたら怪訝な顔をされた。聞こえなかったようで、聞き返される。けどオレは、曖昧に濁した。言ったらもう、その笑顔は見せてくれなくなる気がしたから。
何だろうな。何か、不思議な気分だ。あんなことされて、恥ずかしい写真撮られて、脅迫されて。挙げ句誘拐同然に連れてこられたってのに、何だかんだオレ、コイツに順応してきてないか?
いや、だって……もっと酷い扱いされるかと思ってたけど、案外普通だし。普段見れない姿も見れたし。
意外とオレ達、上手くやっていけるんじゃないか? ――これで、やらしいことさえされなければ。
オレの携帯が突如着信を告げたのは、丁度食後の歯磨きも食器洗いも済ませたタイミングだった。
小走りにキッチンからリビングの方へ戻る。着信表示は――。
「タカだ」
ソファで寛いでいた九重の空気が、刹那にして切り替わったのが分かった。
「出るな」
「何でだよ。逆に怪しまれるぞ」
って、何か共犯者みたいな言い方になっちまった。九重は少しだけ考えるような間を置いてから、「余計なことは言うなよ」と念を押してきた。「分かってるよ」と唇を尖らせて返し、改めて電話に応答する。
「おう、タカ! どうした?」
『トキ……お前、今日放課後、車が迎えに来たって聞いたが。何かあったのか?』
ドキッとした。誰から聞いたんだ? まぁ、あんだけ注目浴びてたら、そりゃタカの耳にも入るよな。
どうしたもんかと数秒間思案して、オレは適当な理由を拵えて話した。
「いやぁ……親父から、急に呼び出し受けてさ。アイツ、オレの一人暮らしずっと反対してたし、やっぱりオレに花鏡流の後継がせたいみたいだから……説得、っていうか、またグチグチ説教されたっつーか……そんな感じ」
実際、そういうことはこれまでに何度かあった。(リムジンで迎えには来なかったが)だから、これならタカも信じるだろう。……ごめん、タカ。オレまた嘘を吐いてる。
『大丈夫だったのか?』
「ああ、まぁ……いつも通り。今は読モが楽しいから華道とか全然考えらんねーし、家にも当分戻る気はねーっつっといた。アイツも諦めねーよなぁ。オレの華じゃダメだ。オレには才能が無いって、散々オレのこと貶してた癖によ」
『そうか……まぁ、何事も無かったんなら、いい』
タカは安堵したように息を吐いた。オレがまた誘拐されたと思ってたのかもしれないな。……まぁ、ある意味誘拐はされたけど。
端末越しに、タカが苦笑した気配があった。
『親父さんも、いつか分かってくれるといいな』
「……どうだろうな。頭カッチカチ頑固ジジィだからな」
後は二、三世間話をして、通話を終えた。
「随分楽しそうに話してたな」
途端に掛けられた九重の声は、何だかこれまでと様子が違う。……何か、不機嫌? タカへの警戒心のせいか?
「お前な! あんな目立つ迎えなんか寄越すから、タカに心配掛けたじゃんか!」
「花鏡の実家も金持ってるんだから、かえってあの方が自然だろ」
「そう……かもしんねーけど。そもそも、お前がオレを誘拐しなけりゃ済んだ話だろ!」
「お前の一人暮らしの理由って、家出か?」
急な話題転換に、少々面食らった。
「そう……みたいなもんかな。親父と、意見が合わないっつーか。読モになんの、めっちゃ反対されてさ」
訊いておいて九重は、「ふぅん」なんて、気の無い返事をする。何だよ!
「風呂。……お前、先に入れよ」
「へ?」
またもや唐突にとんでもないことをぶっ込まれて、オレの思考は一時停止した。
だって、風呂ってあの……スケスケの。
「いや、その……オレまだ、食休みしたいし? お前先入れよ。一番風呂は、やっぱ家主が入るべきだろ、うん」
あはは、と乾いた笑いで何とか誤魔化そうとする。風呂は正直、コイツが寝静まってからこっそり入ろうかと思ってた。もしくは、早朝、コイツが起きる前に。
だけど、九重はそんなオレの甘えた考えなんて、到底許してくれる気はないようだった。例の紫色の携帯端末をスイスイ操作し始めたかと思いきや、案の定、あの画像をオレの眼前に突き付けてきて――。
「命令」
短く二文字で最大圧力を掛けると、ニッコリと邪悪な笑みを浮かべた。
よし、我ながら良い出来だ! 炊きたてのご飯を碗によそれば、完璧! オレ流、本日のディナーの完成だ!
食卓のテーブルに並べたそれらに、九重も感心したように喉を鳴らした。ドヤ!
「和風だな」
「小さい頃から食ってたからな。やっぱ和食が一番だよな」
手を合わせて、頂きます。九重もオレに倣ってちゃんとしてくれた。
箸を手に、惣菜から手を付けていく。オレは何となく九重の反応が気になって、食べながらソワソワと奴の顔を窺った。九重が、箸を止めてオレを見る。
「もの欲しげな顔して、どうした?」
悪戯っぽい笑み。……コイツ、分かってて言ってんな。
「別に……」
「美味いよ。お前、いい嫁になれるんじゃないか」
「よ、嫁にはならねーよ!」
でも、褒められて悪い気はしない。思わず頬が緩む。
何か、誰かと一緒の夕飯って、久々だな。一人暮らし始めてからは、家で一人で食うことが多かったもんな。たまにバイト仲間と外食したりタカと出かけることはあっても、自分で作った料理を家で誰かに振る舞うことなんて、そうそうなかった。
――悪くない。なんて、思ったり。相手が九重ってのが、癪に障るけど。
ふと気になって、聞いてみた。
「そういや、お茶にしちゃったけど、九重の好きな飲み物とかってあるのか?」
イメージ的には、ブラックコーヒーとか、優雅に紅茶って感じだけど。果たして、九重は。
「水」
……そう言う気も、ちょっとだけしてたけどよ。十秒チャージのアレと一緒に唯一冷蔵庫に入ってたの、天然水のペットボトルだったもんな。
「お前、本当食に興味ねーのな。じゃあ、逆に苦手なもんは? ピーマン食えねーとか、ナス食えねーとか」
ハッ、もしやこれは、弱みになるのでは?
「特にないな」
……だよな。
オレが内心脱力してると、九重が付け加えた。
「たぶん、花鏡が作るものなら、何でも美味しくいける」
何だよ、それ……。
「ふ、ふーん」
ちょっとだけ、嬉しいって思っちゃったじゃんか。
やべ、顔熱い。誤魔化さねーと。
「まぁな!? オレ、天才だし!? 何やらせても上手に出来ちゃうんだよなー!?」
「照れてんのバレバレだぞ」
「はぁ!? おま……っ言うなよ、わざわざ!!」
九重が笑う。優等生モードの胡散臭いやつでもなければ、揶揄うようなイヤミな笑い方でもなくて、初めて見る無邪気な笑みだった。思わず、目を奪われる。
「……いつも、そういう顔で笑ってればいいのにな」
ぽつり、呟いたら怪訝な顔をされた。聞こえなかったようで、聞き返される。けどオレは、曖昧に濁した。言ったらもう、その笑顔は見せてくれなくなる気がしたから。
何だろうな。何か、不思議な気分だ。あんなことされて、恥ずかしい写真撮られて、脅迫されて。挙げ句誘拐同然に連れてこられたってのに、何だかんだオレ、コイツに順応してきてないか?
いや、だって……もっと酷い扱いされるかと思ってたけど、案外普通だし。普段見れない姿も見れたし。
意外とオレ達、上手くやっていけるんじゃないか? ――これで、やらしいことさえされなければ。
オレの携帯が突如着信を告げたのは、丁度食後の歯磨きも食器洗いも済ませたタイミングだった。
小走りにキッチンからリビングの方へ戻る。着信表示は――。
「タカだ」
ソファで寛いでいた九重の空気が、刹那にして切り替わったのが分かった。
「出るな」
「何でだよ。逆に怪しまれるぞ」
って、何か共犯者みたいな言い方になっちまった。九重は少しだけ考えるような間を置いてから、「余計なことは言うなよ」と念を押してきた。「分かってるよ」と唇を尖らせて返し、改めて電話に応答する。
「おう、タカ! どうした?」
『トキ……お前、今日放課後、車が迎えに来たって聞いたが。何かあったのか?』
ドキッとした。誰から聞いたんだ? まぁ、あんだけ注目浴びてたら、そりゃタカの耳にも入るよな。
どうしたもんかと数秒間思案して、オレは適当な理由を拵えて話した。
「いやぁ……親父から、急に呼び出し受けてさ。アイツ、オレの一人暮らしずっと反対してたし、やっぱりオレに花鏡流の後継がせたいみたいだから……説得、っていうか、またグチグチ説教されたっつーか……そんな感じ」
実際、そういうことはこれまでに何度かあった。(リムジンで迎えには来なかったが)だから、これならタカも信じるだろう。……ごめん、タカ。オレまた嘘を吐いてる。
『大丈夫だったのか?』
「ああ、まぁ……いつも通り。今は読モが楽しいから華道とか全然考えらんねーし、家にも当分戻る気はねーっつっといた。アイツも諦めねーよなぁ。オレの華じゃダメだ。オレには才能が無いって、散々オレのこと貶してた癖によ」
『そうか……まぁ、何事も無かったんなら、いい』
タカは安堵したように息を吐いた。オレがまた誘拐されたと思ってたのかもしれないな。……まぁ、ある意味誘拐はされたけど。
端末越しに、タカが苦笑した気配があった。
『親父さんも、いつか分かってくれるといいな』
「……どうだろうな。頭カッチカチ頑固ジジィだからな」
後は二、三世間話をして、通話を終えた。
「随分楽しそうに話してたな」
途端に掛けられた九重の声は、何だかこれまでと様子が違う。……何か、不機嫌? タカへの警戒心のせいか?
「お前な! あんな目立つ迎えなんか寄越すから、タカに心配掛けたじゃんか!」
「花鏡の実家も金持ってるんだから、かえってあの方が自然だろ」
「そう……かもしんねーけど。そもそも、お前がオレを誘拐しなけりゃ済んだ話だろ!」
「お前の一人暮らしの理由って、家出か?」
急な話題転換に、少々面食らった。
「そう……みたいなもんかな。親父と、意見が合わないっつーか。読モになんの、めっちゃ反対されてさ」
訊いておいて九重は、「ふぅん」なんて、気の無い返事をする。何だよ!
「風呂。……お前、先に入れよ」
「へ?」
またもや唐突にとんでもないことをぶっ込まれて、オレの思考は一時停止した。
だって、風呂ってあの……スケスケの。
「いや、その……オレまだ、食休みしたいし? お前先入れよ。一番風呂は、やっぱ家主が入るべきだろ、うん」
あはは、と乾いた笑いで何とか誤魔化そうとする。風呂は正直、コイツが寝静まってからこっそり入ろうかと思ってた。もしくは、早朝、コイツが起きる前に。
だけど、九重はそんなオレの甘えた考えなんて、到底許してくれる気はないようだった。例の紫色の携帯端末をスイスイ操作し始めたかと思いきや、案の定、あの画像をオレの眼前に突き付けてきて――。
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