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14.手折られ花 前※

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「何、それ……まさか、ここにずっと繋いでおくつもり?」
「それでもいいけど、ツヴァイが自分の意思でここに残る選択をしなくちゃ意味が無いよね」

 内心の怯懦を隠すようにツヴァイが皮肉な笑みを浮かべてみせると、アベルは大真面目に返してきた。

「だから、今からキミを犯すよ。――二度と恋人に顔向け出来なくなるくらい、めちゃくちゃにね」
「なっ……んぅ!?」

 理解が追い付く間もなく、ツヴァイの唇は塞がれた。押し付けられた熱い感触。柔らかく弾力のあるこれは、アベルの唇だ。把握した途端、隙間から舌が侵入はいりこんできた。
 口唇を掻き分けて、ナメクジのようにぬるりと濡れた感触が口内を自在に這う。粟立つ背筋。抗議するように、ツヴァイは思い切り侵入者に牙を突き立てた。

「痛って!!」

 直後、悲鳴を上げてアベルが口を離した。噛んだ舌からは血が出たようで、ツヴァイは口中に鉄錆を感じた。人狼モドキ故か、人間ひととも違う獣臭い味だ。

「そんな、力いっぱい拒まなくっても……ッ、あれ?」

 哀れっぽくぼやいてから、ふと何かに気が付いたようにアベルは調子を変えた。

「なんだろ……何か、身体が、熱く……っ」

 熱を帯び、浅くなった相手の呼気の乱れから、ツヴァイは己の失態を悟った。

(しまった、媚薬効果……!)

 吸血鬼の牙から分泌されるそれは、人狼モドキにも有効なのか。完全に墓穴を掘った形になってしまったツヴァイが青ざめる中、アベルが興奮もあらわに獲物のシャツを引き裂いた。

「ツヴァイ!」
「っ!」

 月光に照らされたツヴァイの素肌は透き通るような白さで、ほんのりと桜色を帯びていた。細身だが引き締まった体躯はきちんと男性だと分かるものの、匂い立つような色香は吸血鬼の毒を受けたアベルを一層昂らせた。

「ああ、ツヴァイ……キレイだよ」

 堪えかねたように、アベルが手を伸ばす。――熱い手指が肌を撫ぜる感触に、ツヴァイの全身のうぶ毛が逆立った。
 強ばる顔面に熱い吐息を感じ、それが耳元へと移動していく。ぴちゃりと濡れた水音と感触が耳の縁をゆっくりとなぞり、やがては耳穴をほじるように執拗に舐る。

「う……」

 びちゃびちゃと耳の中で魚が跳ねるような水音が、視界を遮られた暗闇の中にやたら大きく響いた。そうしている間にも、大きな手が下腹部から胸元へと撫で上げていき、ツヴァイは身を震わせる。見えない分、余計に感覚が鋭敏になっている。
 脳裏を過ぎったのは、やはり虐げられた過去の記憶だった。

 ――いやらしい子だ。

「ぅあ、あ……っ」

 嫌だ。誰か、助けて。喉元まで出かかった叫びを何とか押し戻し、ツヴァイはまだ傍に居るであろう双子の兄の方に語り掛けた。

「カイン……っカイン、止めてよ!」

 アベルよりはまだ話が通じる筈と、一縷の希みを託して。しかしその声も、アベルの手指が胸の突起を掠めた途端、上擦った嬌声に変わった。

「あっ……ん」

 思わず漏れた甘い声に、ハッとしてツヴァイが唇を噛み締める。アベルは目敏く追及した。

「ツヴァイ、もしかして乳首ここ、好きなの?」
「ちが……っあ!」

 違う、と主張しようとしたところで、今度は先程よりも強く突起を親指で押し潰される。そのまま、両の突起を指先で捏ねるように集中的に転がされてしまい、ツヴァイはその度にびりびりと先端から全身にかけて電撃が走るような刺激に苛まれた。

「やめ……っや、だ」
「可愛い……ツヴァイ。こんなに硬くして」

 ぷっくりと膨らんで色付いた突起は、まるで食べてくれと主張しているようで、「美味しそう」と囁きを落として、アベルは片方のさくらんぼを口に含んだ。

「あっ……!?」

 突如濡れた感触に包まれ、驚いたようにツヴァイの身が跳ねる。
 アベルは舌先で硬くなった先端を舐り、吸った。それから甘噛みをすると、同時にもう片方の突起を指先で摘んで捻った。
 ぞくりとした快楽が、一気にツヴァイの背筋を駆け上る。

「ッ……!」

 次の瞬間、ツヴァイは顔を横に背け、身を引き攣らせた。頭の上で握り締めた拳に、ぎゅっと力が入る。

「っはぁ……はぁ」

 詰めた息を吐き出すと、それは酷く熱を孕んで艶を帯びていた。

「あれ? もしかしてツヴァイ、今軽くイった?」

 依然、胸の突起を弄いながら、アベルがキョトンと指摘した。

「乳首だけでそんなに感じるなんて、女みたいだな。満更でもないんじゃないか」

 続けてそんな感想を漏らしたのは、カインだった。嘲笑うような声音に、ツヴァイの心は絶望を覚える。カインには弟を止める気は毛頭無いようだ。――もう、誰も助けてはくれない。

「違う……これ、は」
「下の方まで勃ってるよ。こっちも早く、触ってあげないとね」

 アベルの言葉に、ツヴァイはハッとして目隠しの下で瞠目した。

「や、やめ……要らない!」

 ベッドの上で身を捩らせるも、どこにも逃げ場は無い。抗議も虚しく、程なくしてツヴァイのズボンは下着ごとずり下ろされた。
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