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chapter.2 蠱毒
2-3 訓練
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その翌日からは、本格的な訓練が始まった。
「つーかよ、ヴァンパイアって不老不死なんだろ? もう成長しねーのに、筋トレとか意味あんのかよ」
ドライが最もな疑問をぶつけたのが基礎的な筋力トレーニングの最中だった。これに対しての答えはなんと監視室から例の甲高いテノールが寄越してきた。
「勿論ですよ。皆さんの身体は細菌の働きによって常に最善な状態に保たれるようになっています。これによって老化の影響を受けることが無くなり、弱点である心臓を損傷しない限りは死ぬこともない訳ですが、一方でこの細菌はプラス方面の変化には寛容なようなのです。即ち、新たに得た力は積極的に取り入れていく柔軟性を持ち合わせている訳ですな。ですから、大いにトレーニングに励んでください」
「おーおー、うっせーな、何言ってっか分かんねーよ」
他にも銃器の扱い方や射撃訓練、ナイフや爆弾の使い方等を短期間に叩き込まれ、一ヶ月経つ頃にはそこに対AI機械兵との模擬戦闘プログラムが加わった。
最も、この場合相手にするのは本物の機械兵ではなく、訓練用に用意された人間側のロボットだ。
「つーかよ、人間サイドもロボ使えんなら、ロボ同士で戦わせときゃ良くね?」
「その疑問も最もだが、実際にそうすると味方のロボットも敵AIにハックされて取り込まれてしまうから、人間側は前時代的な肉弾戦を仕掛けるしかないようだな」
でなきゃ、私達のような生物兵器など必要とされなかったろう。
私の解説にドライが舌打ちをしたのは言うまでもない。
「つーか、一ヶ月ぶりの外の世界だっつーのに、こう何もねーとこじゃ気晴らしにもなりゃしねーな」
私達の目の前には、荒廃した無人の廃屋郡が広がっていた。この模擬戦闘訓練の為に訪れたのは、かつて本物のAI機械兵に破壊されて打ち棄てられた廃墟の町だった。ここに訓練用ロボットを放ち、それらと戦闘を行うという、より実戦に近い訓練だ。
訓練用ロボットは心臓を狙わないようにプログラムされてはいるが、使用するのは実弾だ。被弾すると死にはしないが、かなり痛い目に遭う。また、私達の使用する武器にも本番と同じように実弾が込められており、全てのロボットを撃破すれば訓練が終了するという運びだ。
「アイちゃん? 大丈夫?」
不意にツヴァイが訊ねてきた。どうやら、寂れた町の風景に目を奪われていた私のことを心配したらしかった。
「ああ……こうして見ると、昔を思い出してな」
AI機械兵の襲撃に遭い、家族も平穏な暮らしも全てを失った過去の記憶が蘇る。今こうしている間にも、どこかの町ではまた同じ悲劇が繰り返されているのかもしれない。
支給されたライフルを握る手に力が篭もった。
――早く実戦に出られるように、もっと強くならなければ。
改めて使命感が湧き上がる中、訓練開始の合図のブザーが鳴り響いた。
◆◇◆
チュイン、と弾丸の跳ねる音がすぐ近くで聞こえた。そちらに意識を向けると、次いでよく知る二人の話し声がした。
「ちょっと、一々俺を狙わないでくれる?」
「うっせー! 死ね、モヤシ!」
ツヴァイとドライだ。またドライがツヴァイに張り合っているらしい。会話の内容からして、ドライはロボットじゃなくツヴァイを狙って撃ったのだろう。これは注意してやった方がいいかもしれない。
そう思って声の方へ向かう内にも、やり取りは続く。
「いいの? 俺なんか追っかけてたら、肝心の撃破数が稼げないでしょ? 俺は君に邪魔されつつも既に結構倒してるけど、君はさっきから全然だよね? このままじゃフュンフやセーラちゃんにすら負けて、最下位になっちゃうかもよ?」
ぐっ、とドライの呻き声。
「チッ、しゃーねーな……じゃあ、撃破数で勝負だ! いいな!?」
「はいはい、頑張って~」
バタバタと遠くへ駆けていく足音は、ドライの方だろう。角を曲がると、ようやく彼らの姿を視界に捉えた。
「大変そうだな」
「アイちゃん」
「アインスだ」
私が声を掛けると、ツヴァイはパッと振り向いて微笑んだ。それから、去りゆくドライの背に呆れたような視線を送る。
「本当にね。まさか戦場で子守りまでさせられる羽目になるとは」
「いっそ、一度あいつに勝たせてやれば気が済むんじゃないか?」
私の提案にツヴァイは瞬間考えるような間を置いてから、ゆるりと頭を振った。
「いや、それはそれで増長して余計に面倒くさいことになりそうな気もする」
「……それもそうだな」
その様は、想像に難くなかった。ドライはどうも、自分よりも格下だと睨んだ相手には居丈高な態度を取る傾向があるようだ。私はガタイの所為かあまり因縁をつけられることはないが、気弱なフュンフや女性であるセーラへの当たりは強い。特に、フュンフに対しての扱いは酷かった。見掛けたら辞めさせるようにはしているが、ドライは彼を自分の子分か何かと勘違いしているような節がある。
全く、困った奴だ。
二人して嘆息していると、そこへ――。
「いやぁああっ!! 来ないでぇえええっ!!」
けたたましい叫声が空気を劈いた。
「つーかよ、ヴァンパイアって不老不死なんだろ? もう成長しねーのに、筋トレとか意味あんのかよ」
ドライが最もな疑問をぶつけたのが基礎的な筋力トレーニングの最中だった。これに対しての答えはなんと監視室から例の甲高いテノールが寄越してきた。
「勿論ですよ。皆さんの身体は細菌の働きによって常に最善な状態に保たれるようになっています。これによって老化の影響を受けることが無くなり、弱点である心臓を損傷しない限りは死ぬこともない訳ですが、一方でこの細菌はプラス方面の変化には寛容なようなのです。即ち、新たに得た力は積極的に取り入れていく柔軟性を持ち合わせている訳ですな。ですから、大いにトレーニングに励んでください」
「おーおー、うっせーな、何言ってっか分かんねーよ」
他にも銃器の扱い方や射撃訓練、ナイフや爆弾の使い方等を短期間に叩き込まれ、一ヶ月経つ頃にはそこに対AI機械兵との模擬戦闘プログラムが加わった。
最も、この場合相手にするのは本物の機械兵ではなく、訓練用に用意された人間側のロボットだ。
「つーかよ、人間サイドもロボ使えんなら、ロボ同士で戦わせときゃ良くね?」
「その疑問も最もだが、実際にそうすると味方のロボットも敵AIにハックされて取り込まれてしまうから、人間側は前時代的な肉弾戦を仕掛けるしかないようだな」
でなきゃ、私達のような生物兵器など必要とされなかったろう。
私の解説にドライが舌打ちをしたのは言うまでもない。
「つーか、一ヶ月ぶりの外の世界だっつーのに、こう何もねーとこじゃ気晴らしにもなりゃしねーな」
私達の目の前には、荒廃した無人の廃屋郡が広がっていた。この模擬戦闘訓練の為に訪れたのは、かつて本物のAI機械兵に破壊されて打ち棄てられた廃墟の町だった。ここに訓練用ロボットを放ち、それらと戦闘を行うという、より実戦に近い訓練だ。
訓練用ロボットは心臓を狙わないようにプログラムされてはいるが、使用するのは実弾だ。被弾すると死にはしないが、かなり痛い目に遭う。また、私達の使用する武器にも本番と同じように実弾が込められており、全てのロボットを撃破すれば訓練が終了するという運びだ。
「アイちゃん? 大丈夫?」
不意にツヴァイが訊ねてきた。どうやら、寂れた町の風景に目を奪われていた私のことを心配したらしかった。
「ああ……こうして見ると、昔を思い出してな」
AI機械兵の襲撃に遭い、家族も平穏な暮らしも全てを失った過去の記憶が蘇る。今こうしている間にも、どこかの町ではまた同じ悲劇が繰り返されているのかもしれない。
支給されたライフルを握る手に力が篭もった。
――早く実戦に出られるように、もっと強くならなければ。
改めて使命感が湧き上がる中、訓練開始の合図のブザーが鳴り響いた。
◆◇◆
チュイン、と弾丸の跳ねる音がすぐ近くで聞こえた。そちらに意識を向けると、次いでよく知る二人の話し声がした。
「ちょっと、一々俺を狙わないでくれる?」
「うっせー! 死ね、モヤシ!」
ツヴァイとドライだ。またドライがツヴァイに張り合っているらしい。会話の内容からして、ドライはロボットじゃなくツヴァイを狙って撃ったのだろう。これは注意してやった方がいいかもしれない。
そう思って声の方へ向かう内にも、やり取りは続く。
「いいの? 俺なんか追っかけてたら、肝心の撃破数が稼げないでしょ? 俺は君に邪魔されつつも既に結構倒してるけど、君はさっきから全然だよね? このままじゃフュンフやセーラちゃんにすら負けて、最下位になっちゃうかもよ?」
ぐっ、とドライの呻き声。
「チッ、しゃーねーな……じゃあ、撃破数で勝負だ! いいな!?」
「はいはい、頑張って~」
バタバタと遠くへ駆けていく足音は、ドライの方だろう。角を曲がると、ようやく彼らの姿を視界に捉えた。
「大変そうだな」
「アイちゃん」
「アインスだ」
私が声を掛けると、ツヴァイはパッと振り向いて微笑んだ。それから、去りゆくドライの背に呆れたような視線を送る。
「本当にね。まさか戦場で子守りまでさせられる羽目になるとは」
「いっそ、一度あいつに勝たせてやれば気が済むんじゃないか?」
私の提案にツヴァイは瞬間考えるような間を置いてから、ゆるりと頭を振った。
「いや、それはそれで増長して余計に面倒くさいことになりそうな気もする」
「……それもそうだな」
その様は、想像に難くなかった。ドライはどうも、自分よりも格下だと睨んだ相手には居丈高な態度を取る傾向があるようだ。私はガタイの所為かあまり因縁をつけられることはないが、気弱なフュンフや女性であるセーラへの当たりは強い。特に、フュンフに対しての扱いは酷かった。見掛けたら辞めさせるようにはしているが、ドライは彼を自分の子分か何かと勘違いしているような節がある。
全く、困った奴だ。
二人して嘆息していると、そこへ――。
「いやぁああっ!! 来ないでぇえええっ!!」
けたたましい叫声が空気を劈いた。
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