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♂それぞれの道へ

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工房に着くと驚きと感激で喜びはしゃいでいた。
その様子はおもちゃ売り場にいる子供と同じだ。
それと言うのもゲームやアニメにある、ファンタジー世界に出てくる派手で煌びやかで強そうなカッコイイ武器がずらりとあったのだ。

工房の表は武器屋になっていて、たくさん商品が並んでいるが一般向けのオーソドックスな汎用品ばかりだ。
それに比べこの工房の武器は二本とない逸品物ばかりである。
それを見ていると元の世界でゲームをしながら過ごした日々が懐かしく思え、
喜びの顔の中に薄らその影がチラついていたようだ。
モルドフさんはそれに気づき声をかけてくれた。
「今思ってる事を素直に話すとい良い」

その優しい言葉に俺は元世界の事をたくさん話した。
まるで不満をぶちまけるかのごとく話した。
モルドフさんは嫌な顔せず真剣に聞いてくれた。
剣に関わりそうな話は、ほぼほぼ無く、本当に俺の身の上話だけだった。

"異世界"
それが何かを説明するだけなら他愛ないが、見たことも無い不確実な物の存在をを信じてもらうと言うのは極めて難しい。
なのにモルドフさんは疑いの気持ちも持たず真剣に聞いてくれた。

「俺の話本当に信じてくれるんですか?」
「何を馬鹿な事を・・・前の勇者も異世界からきておるんじゃ疑うわけがなかろう」
理解者がいると言うのはこんなにも嬉しいものなのか・・・。
俺は今までに感じたことの無い嬉しさに満ち溢れていた。
「前の勇者とは世界の感じが全く違うがな。ほれほれ、もっと聞かせんかい!話したいことはもっとあるんじゃろ?もっと話せ話せ」

あははは・・・
その後もたくさん話した。
俺の好きだったゲームの話やアニメの話。
その様子は、まるで元いた世界での友達との日常のようだった。

気がつけば4時間が過ぎていた。
「少し休憩しましょう」
話つかれて休憩を切り出したのは俺の方だった。
「そうじゃの」

しばらく休憩し、そのあとも止まることなく話をした。
そして夕食の時間になり、宿に帰ろうとしたところモルドフさんの好意で、ここに泊めて貰えることになった。
食事を頂き、風呂に入り、寝るまで話をした。

夜も遅くなってきたところで、話疲れからか眠気が襲ってくる。
「今日は色んな事が起きすぎた。ゆっくり休め」

確かに今日は有り得ないくらいたくさんの事が起きた一日だった。
今目をつぶれば三秒で眠れる自信がある。
「モルドフさんありがとう。お先に失礼します」
そう言うと部屋に向かい布団に入った。
俺は本当に三秒で眠りに・・・とは言わないが一分もかからないうちに眠りについた。

朝、目を覚ますととてもいい匂いがした。
匂いに釣られ足を進めていくとタイミングを合わせたかのように何かが焼きあがった。
「あらちょうど良かったわ。今採れたての卵が焼けたところよ」
「何か具材が入った卵焼きのようなものだった」
「どうぞ、召し上がれ」

なんの卵かは分からないが、とりあえず口に運んでみた。
ムグムグ・・・
とてもふんわり柔らかで優しい食感のなかに、中に詰まったミンチのような肉から出る肉汁の旨み、やや弾力のある豆のようなものが抜群の噛みごたえでとても良い仕事をしている。
そんな美味しい朝食に包まれていると、モルドフさんが奥から顔を出した。
「おお!起きたか。食事が済んだら昨日の続きを聞かせてくれ」
そう言うと何かの途中だったのか工房の方へ戻って言った。

その日は、昨日と同じくとにかく元の世界の事を話した。
時にはアニメのキャラクターの真似事をしたりまるで子供のごっこ遊びのようなこともした。
学校の事や、もちろんみゆの事も沢山話した。

そんな日が一週間ほど続いた。
そろそろ話しのネタも無くなりかけてきていたその時に、モルドフさんの様子に変化があった。
「一希殿、沢山の話ありがとう。とても良い参考になったわい」
そういうと奥の工房に向かい、しばらくすると旅支度のような物を持って出てきた。
それを見た俺はいよいよ剣を作り始めるんだなという事を悟った。
が、しかし、俺は剣に関することは何一つきかれてないし、話してもいない。
長さや、形、握り。
俺のために作ってくれるなら色々聞かれそうなものなのに・・・。
「一希殿、ちょいと出かけてくるわい」
「ありがとうございます。気をつけて下さいね」
そう言うと、モルドフさんは振り返りもせず背中を向けたまま手を振っていた。

部屋に戻り、この後何をするべきか頭の中を整理した。
考えがまとまったところで、女将さんの元へ向かい、魔界へ向かう事を話し、世話になった事へのお礼をした。
そして、ギルドを出ようとすると女将さんが手を伸ばし何かを差し出した。
「これは?」
「ドワーフ族に伝わる御守りですよ」
それは珍妙なものだった。
手のひらに収まるほどの大きさのぬいぐるみのようだが・・・何のぬいぐるみなのかが分からない。
ピンク色で耳が長く、ウサギのようにも見えるが体は人の形をしている。
顔はまん丸でまるで、まるでアン●ンマンのようだ。
ウサギにしてはモフモフ感が無さすぎる。
俺は"これがなんなのかさっぱり分からない"と言う顔をしていたんだろう。
女将さんの方から教えてくれた。
「これは"ペギルー"と言うドワーフ族に伝わる護りの精霊なの」
「ペギルー?」
なんかキレの悪い変な名前だな・・・

「何百年か、何千年かの大昔、ドワーフ族の村にあったあるお話をしましょう」

あるドワーフ村の近くの森にペギルーと言う精霊がいました。
その精霊はドワーフ達に幸せをもたらす森の精霊です。
ドワーフ達は精霊のおかげで毎日何事もなく平和で幸せな日々を送っていたのです。
しかし、とある魔女がその事を知りペギルーを自分の物にしようと捕まえてしまいました。
しかしペギルーが魔女の為に加護を使うことはありませんでした。
そこで魔女は決めたのです。
私のために加護を使わなければドワーフ村の人を全てウサギに変える呪いをかけてやると。
そして魔女は自分の血を贄に魔法陣から呪いの悪魔を呼び出しました。
魔女は悪魔に命じます。
ドワーフ達をうさぎに変える呪いをかけろと。
その時ペギルーは魔法陣の中に飛び込み悪魔に話しかけました。
ドワーフの呪いは僕が引き受けるからみんなには手を出さないで。
悪魔は答えました。
我は呪いを行使する者、主の願いを叶える力はない。
なら、呪いをかけて!
"魔女に魔女が呪いを使えなくなる呪いを!"
その呪いに主は何を差し出す?
僕の一部を・・・
良いだろう、お主の一部と引き換えに呪いの命約を交わすとしよう。
すると悪魔はペギルーから名前の一部を奪った。
それによりべギルーは魔女のウサギの呪いをその身に受けうさぎの姿に。
そして、魔女はペギルーの呪いにより、自分の呪いが暴発し、その身は一本の樹木へと変わってしまった。

「こうしてドワーフを守ったペギルーはドワーフの守り神として今も称えられているんですよ」
「名前の一部を奪うってどう言う事なんですか?」
「"ペギルー"という名は、その一部を奪われた後の名前なんです。奪われると言うのはその存在を無くしてしまうと言う事らしく、奪われたそれは誰の記憶にも残ってなかったそうです。本人でさえ分からなかったとか・・・」
「なんだがとても悲しい話ですね」
「まぁでも、奪われてしまったせいで、ペギルーと言う名前が本当の名前として語り継がれているわけでさほど問題では無いんじゃないんでしょうか?」
「ハハハ・・・確かに」
「でも、そういう御護りなら心強いですよ!ありがとうございます!」

そう言ってギルドを後にし、ミューの待つ宿に向かった。
宿に着くなり部屋へ足をやったがミューはいない。

受付の人にどこに行ったか聞いてみたら中央広場の横の公園に行ったと言うことだったので、とりあえず向かってみる事にした。

公園に近づくにつれ何やら強い魔力を感じる。
きっとミューだろうと思い、それを頼りに向かって行った。

お!
そこにはミューとレーティアが何やらトレーニングでもしているような感じで向かい合っていた。

「お~い!」
大きな声で2人に声掛けた。

「あ!一希さん」
レーティアは嬉しそうに手を振っていたが、ミューはなんだがプンプンしているような・・・
「やっと来ましたか・・・一体連絡もよこさず何をしていたんですか?」
「あ、いや、ごめん。モルドフさんが今回の戦いの為に打ってくれる剣の事で色々と話を・・・」

ふぅ~
「それにしても連絡くらいしてくれないと心配するでしょう」
「ごめん」

レーティアは何かに気づいた様で視線を下げた。
「その腰にぶら下げている変ちくりんなうさぎはなんですか?」
その声につられミューの視線も腰の方へ向いた。
「へぇ、べギルーじゃないですか」
「ミューは知ってるのか。さすが博識だな」
「二人だけずるいですよぉ・・・私にも教えてくださいー」
「ははは、ゴメンゴメン」
そう謝ると、レーティアにべギルーの話をした。

「ミューさんでもべギルーさんの本当の名前知らないんですか?」
「そうですね。奪われてしまった名前の存在は誰も認識できないですからね・・・。私も含めてですけど、元々ペギルーと言う名前だったと言う認識ですね」
「なんか、奪って存在が認識でき無くなるって所はウラクムモロスと似てますね」
レーティアが思わず思ったことを漏らした。

!?
「まさか・・・ね」
「うん・・・たまたまだと思う・・・」

・・・・・・。
・・・・・・。

しばらく変な空気が素続いた。

「で、魔界へ行く準備はできましたか?」
耐え難い妙な空気を払拭するかのようにミューが聞いてきた。
「おう!それを女将さんに伝えたらべギルーをくれたんだ」
「なるほどね。まぁそう言う事なら早速向かってください。それと、時々は近況報告くらいしてくださいね。生きてるか死んでるか分からないんで」
「なんかもうちょっと言い方ないのかよ・・・」

『あっ!』
レーティアが何かを思い出したかのように大きな声を出した。
「いきなりそんな大きな声出したらびっくりしますよ!どうしたんですか?」
「ご、ごめんなさい。これなんですけど・・・」
レーティアは耳にしていたピアスを外し見せた。
「何やら魔力を感じます。これは魔道具ですね?」
「レイナスから貰った"フィンブルビット"と言う魔道具なんです。お互いの魔力を記憶させておくことで通信ができる魔道具なんですよ」
「な?ほど。でもそういう事ならもう一ついるのでは?」
「はい。もうひとつは治療院のレイナスが持ってます」
「という事は連絡を取りたい時はレイナスさんに伝えれば良いわけですね」
レーティアはうなづいた。

「ところで、魔界に行くにはどうすればいいんだ?」
「火山ですよ、火山。私たちが鉢合わせたあそこですよ」

なるほど、あそこが魔界の入口か。
でもそれが知られてしまうと、新たな問題に発展しかねないな・・・。
なんて事を考えていたのがわかったのか、ミューは何も言わず首を縦に振りそれとなく口止めを促された。
「一希さん、くれぐれもレーティアさんの事、頼み・・・・・・と言うかレーティアさんの方がはるかに強いか。足引っ張らないように自分の身は自分で守りなさいよ!」
「うわぁー間違ってないけど言って欲しくなかったわぁー」

アハハハハ!
結局ミューに締めくくられたかんじだな。

「では1年後ここで集まりましょう!」
「はい!」
「おー!」

「えっ?」
「いや、ここはおーだろ」
「なんでー?」
「はぁ・・・先が思いやられますぅ・・・」

そうして俺たちはやるべき事の為にそれぞれの道に別れて行った。
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