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4 時は来たれり

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 それからセツナさんが戻らないまま、昼が来た。
「せっかくだし、今日のお散歩はメイジーで出ようかな」
 俺とユウナさんはストレッチをしながら園内散歩の軽いミーティングを行う。
「誘導するって言ってもどうすればいいんすか」
「ああ、そこらへんは他のスタッフのみんなが協力してくれると思うよ。アトラクションに乗られちゃったらどうしようもないし、私たちは基本いつも通り散歩をしながら子どもたちと触れあえばいいかな」
「それで、あいつらがよってきたらそれとなく館へ誘い込む、と」
「私がメイジーになれば自然に誘導できると思う。その間しおんくんは子どもたちがこちらへ来ないようにしていてほしいな」
「うっす、わかりました。なんか楽しくなってきますね」
 そう言うと、フフッとユウナさんは笑う。
 外へ出ると、園内には陽気なBGMが流れ出す。園内散歩が始まる合図だ。テトラである俺は、その狭い視界から子どもたちを見つけると大きく手をふる。きぐるみのときは普段より大げさに動かないと自然に見えないのだ。メイジーとなったユウナさんは朝のデルタとは違って上品に歩きはじめる。デルタのときは活発な少女で、メイジーのときはしとやかな女性といったように、とてもみごとに演じ分けている。初めはキャラクターごとに演者が決まっていると思っていたが、ここでは一人で何役もやるらしい。人が少ないからね、と困ったようにユウナさんは言うから、俺もいつかユウナさんのようになれるといいなと呟いたら、現場でしごくから心配するなとセツナさんに言われた。
「メイジーの館」はメインの広場からは少し外れた場所にある。俺たちは広場を抜け、館の方角へ歩き始める。と、例のグループを見つけた。そのそばにはSTAFFと背中に書かれたTシャツを着た男性がいる。こちらに気づいたらしく、グループの男たちに声をかけている。そのひとりがメイジーの方へよってきた。
「これがメイジーだって! こんにちは~、あ、お辞儀してくれた。喋れるの?無理か、なにこれ、スカート? のぞいちゃおうかな~」
 なんて、面白みのないことを囃し立てる。俺はそれを横目に、たまに寄ってくる子どもの対応をした。メイジーはさすが、無茶ぶりにも慌てることはなく、男たちを適当にあしらいながら、館の方を指差す。あなたたちを招待しますというように手をさしだし、誘導を始める。
「いやあ、さすがだよネ、ユウナちゃん」
 ジジッと右耳につけたイヤホンから声が聞こえた。後ろを振り向くと、先程グループと一緒にいたスタッフが無線機を持ちながらこちらへよってくる。スラッとした体で中性的な整った顔をしている。片目を前髪で隠し、もう片方の目は四角い瞳孔をしていた。
「ぼくは、驚かすのは苦手だから、眺めるだけにしとくヨ」
 俺はそのスタッフに見送られながら、ユウナさんの後を追う。館へ入り、スタッフオンリーと書かれた部屋へ入ると、そこはいくつかモニターが置かれ、迷路内の映像が流れていた。ユウナさんは頭だけ脱ぎ、椅子に座っている。俺も同じように隣の椅子へ座った。
「良かった、まだこれからだよ。ほら、ここにいるのがさっきの人たち」
 指さしたモニターには先程のグループが写っていた。音は聞こえないが、動きだけでもやかましい。手持ちカメラを持った一人は何かを探すようにキョロキョロしている。心霊現象を撮りたいとか思っているのだろう。ユウナさんもそれに気づいたようで、「これから嫌ってほど起きるけど、大丈夫かな」
 と、男たちの方を心配してみせた。
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