4 / 6
4 時は来たれり
しおりを挟む
それからセツナさんが戻らないまま、昼が来た。
「せっかくだし、今日のお散歩はメイジーで出ようかな」
俺とユウナさんはストレッチをしながら園内散歩の軽いミーティングを行う。
「誘導するって言ってもどうすればいいんすか」
「ああ、そこらへんは他のスタッフのみんなが協力してくれると思うよ。アトラクションに乗られちゃったらどうしようもないし、私たちは基本いつも通り散歩をしながら子どもたちと触れあえばいいかな」
「それで、あいつらがよってきたらそれとなく館へ誘い込む、と」
「私がメイジーになれば自然に誘導できると思う。その間しおんくんは子どもたちがこちらへ来ないようにしていてほしいな」
「うっす、わかりました。なんか楽しくなってきますね」
そう言うと、フフッとユウナさんは笑う。
外へ出ると、園内には陽気なBGMが流れ出す。園内散歩が始まる合図だ。テトラである俺は、その狭い視界から子どもたちを見つけると大きく手をふる。きぐるみのときは普段より大げさに動かないと自然に見えないのだ。メイジーとなったユウナさんは朝のデルタとは違って上品に歩きはじめる。デルタのときは活発な少女で、メイジーのときはしとやかな女性といったように、とてもみごとに演じ分けている。初めはキャラクターごとに演者が決まっていると思っていたが、ここでは一人で何役もやるらしい。人が少ないからね、と困ったようにユウナさんは言うから、俺もいつかユウナさんのようになれるといいなと呟いたら、現場でしごくから心配するなとセツナさんに言われた。
「メイジーの館」はメインの広場からは少し外れた場所にある。俺たちは広場を抜け、館の方角へ歩き始める。と、例のグループを見つけた。そのそばにはSTAFFと背中に書かれたTシャツを着た男性がいる。こちらに気づいたらしく、グループの男たちに声をかけている。そのひとりがメイジーの方へよってきた。
「これがメイジーだって! こんにちは~、あ、お辞儀してくれた。喋れるの?無理か、なにこれ、スカート? のぞいちゃおうかな~」
なんて、面白みのないことを囃し立てる。俺はそれを横目に、たまに寄ってくる子どもの対応をした。メイジーはさすが、無茶ぶりにも慌てることはなく、男たちを適当にあしらいながら、館の方を指差す。あなたたちを招待しますというように手をさしだし、誘導を始める。
「いやあ、さすがだよネ、ユウナちゃん」
ジジッと右耳につけたイヤホンから声が聞こえた。後ろを振り向くと、先程グループと一緒にいたスタッフが無線機を持ちながらこちらへよってくる。スラッとした体で中性的な整った顔をしている。片目を前髪で隠し、もう片方の目は四角い瞳孔をしていた。
「ぼくは、驚かすのは苦手だから、眺めるだけにしとくヨ」
俺はそのスタッフに見送られながら、ユウナさんの後を追う。館へ入り、スタッフオンリーと書かれた部屋へ入ると、そこはいくつかモニターが置かれ、迷路内の映像が流れていた。ユウナさんは頭だけ脱ぎ、椅子に座っている。俺も同じように隣の椅子へ座った。
「良かった、まだこれからだよ。ほら、ここにいるのがさっきの人たち」
指さしたモニターには先程のグループが写っていた。音は聞こえないが、動きだけでもやかましい。手持ちカメラを持った一人は何かを探すようにキョロキョロしている。心霊現象を撮りたいとか思っているのだろう。ユウナさんもそれに気づいたようで、「これから嫌ってほど起きるけど、大丈夫かな」
と、男たちの方を心配してみせた。
「せっかくだし、今日のお散歩はメイジーで出ようかな」
俺とユウナさんはストレッチをしながら園内散歩の軽いミーティングを行う。
「誘導するって言ってもどうすればいいんすか」
「ああ、そこらへんは他のスタッフのみんなが協力してくれると思うよ。アトラクションに乗られちゃったらどうしようもないし、私たちは基本いつも通り散歩をしながら子どもたちと触れあえばいいかな」
「それで、あいつらがよってきたらそれとなく館へ誘い込む、と」
「私がメイジーになれば自然に誘導できると思う。その間しおんくんは子どもたちがこちらへ来ないようにしていてほしいな」
「うっす、わかりました。なんか楽しくなってきますね」
そう言うと、フフッとユウナさんは笑う。
外へ出ると、園内には陽気なBGMが流れ出す。園内散歩が始まる合図だ。テトラである俺は、その狭い視界から子どもたちを見つけると大きく手をふる。きぐるみのときは普段より大げさに動かないと自然に見えないのだ。メイジーとなったユウナさんは朝のデルタとは違って上品に歩きはじめる。デルタのときは活発な少女で、メイジーのときはしとやかな女性といったように、とてもみごとに演じ分けている。初めはキャラクターごとに演者が決まっていると思っていたが、ここでは一人で何役もやるらしい。人が少ないからね、と困ったようにユウナさんは言うから、俺もいつかユウナさんのようになれるといいなと呟いたら、現場でしごくから心配するなとセツナさんに言われた。
「メイジーの館」はメインの広場からは少し外れた場所にある。俺たちは広場を抜け、館の方角へ歩き始める。と、例のグループを見つけた。そのそばにはSTAFFと背中に書かれたTシャツを着た男性がいる。こちらに気づいたらしく、グループの男たちに声をかけている。そのひとりがメイジーの方へよってきた。
「これがメイジーだって! こんにちは~、あ、お辞儀してくれた。喋れるの?無理か、なにこれ、スカート? のぞいちゃおうかな~」
なんて、面白みのないことを囃し立てる。俺はそれを横目に、たまに寄ってくる子どもの対応をした。メイジーはさすが、無茶ぶりにも慌てることはなく、男たちを適当にあしらいながら、館の方を指差す。あなたたちを招待しますというように手をさしだし、誘導を始める。
「いやあ、さすがだよネ、ユウナちゃん」
ジジッと右耳につけたイヤホンから声が聞こえた。後ろを振り向くと、先程グループと一緒にいたスタッフが無線機を持ちながらこちらへよってくる。スラッとした体で中性的な整った顔をしている。片目を前髪で隠し、もう片方の目は四角い瞳孔をしていた。
「ぼくは、驚かすのは苦手だから、眺めるだけにしとくヨ」
俺はそのスタッフに見送られながら、ユウナさんの後を追う。館へ入り、スタッフオンリーと書かれた部屋へ入ると、そこはいくつかモニターが置かれ、迷路内の映像が流れていた。ユウナさんは頭だけ脱ぎ、椅子に座っている。俺も同じように隣の椅子へ座った。
「良かった、まだこれからだよ。ほら、ここにいるのがさっきの人たち」
指さしたモニターには先程のグループが写っていた。音は聞こえないが、動きだけでもやかましい。手持ちカメラを持った一人は何かを探すようにキョロキョロしている。心霊現象を撮りたいとか思っているのだろう。ユウナさんもそれに気づいたようで、「これから嫌ってほど起きるけど、大丈夫かな」
と、男たちの方を心配してみせた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる