妖怪のいる遊園地でバイトしています

さかな

文字の大きさ
上 下
3 / 6

3 ここでは俺が普通じゃない

しおりを挟む
 話が戻るが、ヨッツミが話題となっているのは「本物が出る」という噂が流れているからだ。つまりは、幽霊やらなんやらが出ると言うことで、それは本当なのだが、遊園地側としては公にはなってはならない。ここで働いている妖怪は人間に姿を変えているものや、認識阻害の術を使っているものが多い。セツナさんも本来はもっと鳥に近い姿をしているらしいが、今はうっすら羽毛が見える程度だ。そこまでしてここで働いているのは、現代で生きるために仕方のないことというが、みんな楽しそうに働いている。そのため、ここを侵されるのは妖怪たちが黙っていない。彼ら彼女らを怒らせたらどうなるかなんて知りたくないが、最近の職場の雰囲気は最悪だ。
「じゃあ、セツナさんのアレがまた見られるんですね! 」
 俺の不安をよそにユウナさんが小さなこどものように笑いながら言う。
「アレってなんすか……」
 俺の不安が当たらないように聞く。このクソ暑いのに冷や汗が出てきた。冷房効きすぎなんじゃないか?
「アレと言ったら、そりゃ私の本来の姿でしょ」
 当たり前のように鳥の彼女が言う。これなんか既視感あるな。
「いやっ、本来の姿ってバレちゃだめなんでしょ!さすがに特殊メイクですとかなんとかいってどうにかなるもんでもないんすよ」
 そう言うと、チャチャが俺の机に飛び乗り、待てというように小さな手をこちらへ伸ばす。見るからに柔らかいピンクの肉球が可愛い。セツナさんは性格が悪そうにニヤッと笑う。
「猫のくせにわかっているじゃないか。しおん、ヨッツミにはいい場所があるんだ」
 もしかしてと思い、小学生の授業のように挙手をして発言の許可を取る。
「メイジーの館っすか」
「正解だ! 」
 セツナさんの喉がクルクルと鳴る。やっぱり冷房弱めたほうがいいと思う。
 メイジーとはヨッツミのキャラクターの一人で、人を惑わせるのが好きな女性という設定だ。そしてメイジーの館というのは室内迷路のことであり、中は薄暗く結構難しい。たびたび泣いてしまう子どもがでるのは、持ち場を抜け出してこっそり人間を驚かしに行くスタッフのせいだという。妖怪が人間を驚かすことを好むのは昔から有名だろう、といってもほんのいたずら程度で、一緒にいる親は迷路の仕掛けだと思い、くすっと笑う。
 「昼はヨッツミファミリーの園内散歩だろう、その時に館へ誘導するんだ、あいつらは喜んでついていくぞ」
 そうと決まったら他の奴らにも伝えねばと、セツナさんは長い髪をなびかせながら飛ぶように控室を出ていった。
「やったねしおんくん、セツナさんたちの本気を見られるのはたまにしかないんだよ」
 胸の前で手を合わせながら、ウッキウキで俺に言う。
「たまにしかにはツッコミませんが、本当に大丈夫なんすかね」
 と言いながらも、俺も少しワクワクしてきた。人を脅かすなんてめったにない機会だし、学園祭の前の日のような雰囲気が漂っていたからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。 バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・ 「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」 武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。

職業、種付けおじさん

gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。 誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。 だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。 人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。 明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載中

薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。 不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。 その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。 クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。 その病を、完治させる手段とは? (どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの) 狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?

あやかし憑き男子高生の身元引受人になりました

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
【あやかし×謎解き×家族愛…ですよね?】 憎き実家からめでたく勘当され、単身「何でも屋」を営む、七々扇暁(ななおうぎあきら)、28歳。 そんなある日、甥を名乗る少年・千晶(ちあき)が現れる。 「ここに自分を置いてほしい」と懇願されるが、どうやらこの少年、ただの愛想の良い美少年ではないようで――? あやかしと家族。心温まる絆のストーリー、連載開始です。 ※ノベマ!、魔法のiらんど、小説家になろうに同作掲載しております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...