妖怪のいる遊園地でバイトしています

さかな

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3 ここでは俺が普通じゃない

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 話が戻るが、ヨッツミが話題となっているのは「本物が出る」という噂が流れているからだ。つまりは、幽霊やらなんやらが出ると言うことで、それは本当なのだが、遊園地側としては公にはなってはならない。ここで働いている妖怪は人間に姿を変えているものや、認識阻害の術を使っているものが多い。セツナさんも本来はもっと鳥に近い姿をしているらしいが、今はうっすら羽毛が見える程度だ。そこまでしてここで働いているのは、現代で生きるために仕方のないことというが、みんな楽しそうに働いている。そのため、ここを侵されるのは妖怪たちが黙っていない。彼ら彼女らを怒らせたらどうなるかなんて知りたくないが、最近の職場の雰囲気は最悪だ。
「じゃあ、セツナさんのアレがまた見られるんですね! 」
 俺の不安をよそにユウナさんが小さなこどものように笑いながら言う。
「アレってなんすか……」
 俺の不安が当たらないように聞く。このクソ暑いのに冷や汗が出てきた。冷房効きすぎなんじゃないか?
「アレと言ったら、そりゃ私の本来の姿でしょ」
 当たり前のように鳥の彼女が言う。これなんか既視感あるな。
「いやっ、本来の姿ってバレちゃだめなんでしょ!さすがに特殊メイクですとかなんとかいってどうにかなるもんでもないんすよ」
 そう言うと、チャチャが俺の机に飛び乗り、待てというように小さな手をこちらへ伸ばす。見るからに柔らかいピンクの肉球が可愛い。セツナさんは性格が悪そうにニヤッと笑う。
「猫のくせにわかっているじゃないか。しおん、ヨッツミにはいい場所があるんだ」
 もしかしてと思い、小学生の授業のように挙手をして発言の許可を取る。
「メイジーの館っすか」
「正解だ! 」
 セツナさんの喉がクルクルと鳴る。やっぱり冷房弱めたほうがいいと思う。
 メイジーとはヨッツミのキャラクターの一人で、人を惑わせるのが好きな女性という設定だ。そしてメイジーの館というのは室内迷路のことであり、中は薄暗く結構難しい。たびたび泣いてしまう子どもがでるのは、持ち場を抜け出してこっそり人間を驚かしに行くスタッフのせいだという。妖怪が人間を驚かすことを好むのは昔から有名だろう、といってもほんのいたずら程度で、一緒にいる親は迷路の仕掛けだと思い、くすっと笑う。
 「昼はヨッツミファミリーの園内散歩だろう、その時に館へ誘導するんだ、あいつらは喜んでついていくぞ」
 そうと決まったら他の奴らにも伝えねばと、セツナさんは長い髪をなびかせながら飛ぶように控室を出ていった。
「やったねしおんくん、セツナさんたちの本気を見られるのはたまにしかないんだよ」
 胸の前で手を合わせながら、ウッキウキで俺に言う。
「たまにしかにはツッコミませんが、本当に大丈夫なんすかね」
 と言いながらも、俺も少しワクワクしてきた。人を脅かすなんてめったにない機会だし、学園祭の前の日のような雰囲気が漂っていたからだ。
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