上 下
1 / 6

1 妖怪のいる遊園地

しおりを挟む
 「くっそ暑い! 」
 自分の頭より一回りも二回りも大きい頭を取り外すと、送風機から送られた風が頬を撫でる。狭い控室のなかにあるこれまた狭い衣装部屋でぶつからないようにそっと頭を近くの棚へ置く。つうっと汗が伝い、慌てて用意しておいたスポーツドリンクを飲む。高校に入学した俺は、春から地元の遊園地、四谷見よつやみミシックワールドできぐるみバイトをしている。
「暑い中お疲れ様しおんくん、次の時間まで体力戻しておかなきゃね」
 隣でこれまた大きな頭を外しながらユウナさんが言った。汗でびしょびしょになってもその顔は相変わらずきれいで、ニコッと笑いかけられたら照れくさくなってしまう。
「はいお疲れ様ふたりとも。洗濯しちゃうから、しおんははやくそれ脱いで」
 三人の中で一番小柄なセツナさんは誰よりも動き、汗臭い手袋やらタイツやらを洗濯かごへポイポイと入れていた。ダボッとしたパーカーから覗く細い腕には褐色の羽毛のようなものが生えている。いや、ようなものではなく正真正銘羽毛なのだ。彼女は妖怪、鳥女である。バイト初日に俺が困惑する中で、何も不思議でないようにそう言った。俺が脳みそをフル回転させながら固まっていると、ユウナさんが少し申し訳無さそうに「オーナーに言われてない? 」と言ったが、俺は何も聞いていないし聞いていたらここでバイトなんてしていないだろう。
 そんな俺の世界観がまるっと変わってしまった日からもう一ヶ月が経ち、それなりにここでの仕事も妖怪の存在も慣れてきた。後で知ったのだが、ここでは人間よりも妖怪の従業員のほうが多く、それを隠しながら営業をしているという。
 セツナさんに急かされ男子更衣室へ行き、胴体部分やら小物類やらを脱いで半袖Tシャツとジャージ素材のパンツ姿になる。仕事はかなりの肉体労働で、気を抜けば脱水状態となり倒れてしまうこともある。特に夏休み期間は暑い中でいつもより多めに出番があるもんだからより一層注意が必要となる。
 タオルで汗を拭き、机に置かれた塩タブレットを口に放り込み、俺は一息ついた。
「しおんくん最近よく動けるようになっていてすごいよ。今日なんてかっこいいって言われていたね」
 姿勢良くパイプ椅子に座り、髪を結び直しながらユウナさんはニコッと笑う。この遊園地では珍しく俺と同じ人間であり2つ上の高校三年生、そして俺の倍仕事をこなす憧れの先輩だ。
「マジスか、ありがとうございます、あいかわらずテトラは人気っすねえ」
 テトラとはここのメインキャラクターである”テトラ君”のことだ。ちなみにパートナーは”デルタちゃん”で、先程のショーではユウナさんが演じていた。地方の遊園地で、某有名テーマパークと比べたらそりゃ小さなものだが、意外とファンが多く、テトラにかっこいいと言った若い女性は両手にテトラとデルタのぬいぐるみを持っていた。テトラに対してとはいえ少し嬉しくなりながら、先程のショーの記録をノートに書いていると、ひょいと膝の上に三毛猫がのってきた。
 『しおんくん、今日のオイシイ頂戴ナ』
 くあっとあくびをしながらビー玉のような目でこちらを見てくる。
 「おはようチャチャさん、今日はかつおささみ味にしようか」
 喋る猫なんてここでは普通だ。まるっとした三毛猫は嬉しそうに喉をぐるぐる鳴らす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。 バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・ 「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」 武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。

【NL】花姫様を司る。※R-15

コウサカチヅル
キャラ文芸
 神社の跡取りとして生まれた美しい青年と、その地を護る愛らしい女神の、許されざる物語。 ✿✿✿✿✿  シリアスときどきギャグの現代ファンタジー短編作品です。基本的に愛が重すぎる男性主人公の視点でお話は展開してゆきます。少しでもお楽しみいただけましたら幸いです(*´ω`)💖 ✿✿✿✿✿ ※こちらの作品は『カクヨム』様にも投稿させていただいております。

路地裏猫カフェで人生相談猫キック!?

RINFAM
キャラ文芸
「な、なんだ…これ?」  闇夜で薄っすら光る真っ白な猫に誘われるようにして、高層ビルの隙間を縫いつつ歩いて行った先には、ビルとビルの隙間に出来たであろうだだっ広い空間があった。  そしてそこに建っていたのは── 「……妖怪屋敷????」  いかにも妖怪かお化けでも住んでいそうな、今にも崩れ落ちてしまいそうなボロ屋だった。  さすがに腰が引けて、逃げ腰になっていると、白い猫は一声鳴いて、そのボロ屋へ入っていってしまう。 「お…おい……待ってくれよ…ッ」  こんなおどろおどろしい場所で一人きりにされ、俺は、慌てて白い猫を追いかけた。  猫が入っていったボロ屋に近づいてよく見てみると、入口らしい場所には立て看板が立てられていて。 「は??……猫カフェ??」  この恐ろしい見た目で猫カフェって、いったいなんの冗談なんだ??絶対に若い女子は近付かんだろ??つーか、おっさんの俺だって出来ることなら近寄りたくないぞ??  心を病んだ人だけが訪れる、不思議な『猫カフェ』の話。

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

黄龍国仙星譚 ~仙の絵師は遙かな運命に巡り逢う~

神原オホカミ【書籍発売中】
キャラ文芸
黄龍国に住む莉美は、絵師として致命的な欠陥を持っている。 それは、右手で描いた絵が生命を持って抜け出してしまうというものだ。 そんなある日、住み込み先で思いを寄せていた若旦那が、莉美に優しい理由を金儲けの道具だからだと思っていることを知る。 悔しくてがむしゃらに走っているうちに、ひょんなことから手に持っていた絵から化け物が生まれてしまい、それが街を襲ってしまう。 その化け物をたった一本の矢で倒したのは、城主のぼんくらと呼ばれる息子で――。 悩みを抱える少女×秘密をもった青年が 国をも動かしていく幻想中華風物語。 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆大変申し訳ありませんが、予告なく非公開にすることがあります。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。 〇構想執筆:2022年、改稿投稿:2024年

俺の猫は支子色の瞳

ひつじのはね
ファンタジー
不思議な三毛猫に誘われるまま、無類の猫好き青年は夕暮れの街へ迷い込む。 逢魔が時に出会った少女には、猫の耳としっぽが生えていて――。 *支子(くちなし)色:赤みの混じった黄色 *柳色:やや渋めの黄緑色 花言葉を知っていると、より楽しめるかも。 動物保護施設さん向けのチャリティ作品集「もふもふもふっ」に参加のため書いた短編です。 作品集の売上は全額寄付されます。 作品募集は2022年4月末まで行われています。 詳細はTwitter等にて。

護国神社の隣にある本屋はあやかし書店

井藤 美樹
キャラ文芸
【第四回キャラ文芸大賞 激励賞頂きました。ありがとうございますm(_ _)m】  真っ白なお城の隣にある護国神社と、小さな商店街を繋ぐ裏道から少し外れた場所に、一軒の小さな本屋があった。  今時珍しい木造の建物で、古本屋をちょっと大きくしたような、こじんまりとした本屋だ。  売り上げよりも、趣味で開けているような、そんな感じの本屋。  本屋の名前は【神楽書店】  その本屋には、何故か昔から色んな種類の本が集まってくる。普通の小説から、曰く付きの本まで。色々だ。  さぁ、今日も一冊の本が持ち込まれた。  十九歳になったばかりの神谷裕樹が、見えない相棒と居候している付喪神と共に、本に秘められた様々な想いに触れながら成長し、悪戦苦闘しながらも、頑張って本屋を切り盛りしていく物語。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...