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1 妖怪のいる遊園地
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「くっそ暑い! 」
自分の頭より一回りも二回りも大きい頭を取り外すと、送風機から送られた風が頬を撫でる。狭い控室のなかにあるこれまた狭い衣装部屋でぶつからないようにそっと頭を近くの棚へ置く。つうっと汗が伝い、慌てて用意しておいたスポーツドリンクを飲む。高校に入学した俺は、春から地元の遊園地、四谷見ミシックワールドできぐるみバイトをしている。
「暑い中お疲れ様しおんくん、次の時間まで体力戻しておかなきゃね」
隣でこれまた大きな頭を外しながらユウナさんが言った。汗でびしょびしょになってもその顔は相変わらずきれいで、ニコッと笑いかけられたら照れくさくなってしまう。
「はいお疲れ様ふたりとも。洗濯しちゃうから、しおんははやくそれ脱いで」
三人の中で一番小柄なセツナさんは誰よりも動き、汗臭い手袋やらタイツやらを洗濯かごへポイポイと入れていた。ダボッとしたパーカーから覗く細い腕には褐色の羽毛のようなものが生えている。いや、ようなものではなく正真正銘羽毛なのだ。彼女は妖怪、鳥女である。バイト初日に俺が困惑する中で、何も不思議でないようにそう言った。俺が脳みそをフル回転させながら固まっていると、ユウナさんが少し申し訳無さそうに「オーナーに言われてない? 」と言ったが、俺は何も聞いていないし聞いていたらここでバイトなんてしていないだろう。
そんな俺の世界観がまるっと変わってしまった日からもう一ヶ月が経ち、それなりにここでの仕事も妖怪の存在も慣れてきた。後で知ったのだが、ここでは人間よりも妖怪の従業員のほうが多く、それを隠しながら営業をしているという。
セツナさんに急かされ男子更衣室へ行き、胴体部分やら小物類やらを脱いで半袖Tシャツとジャージ素材のパンツ姿になる。仕事はかなりの肉体労働で、気を抜けば脱水状態となり倒れてしまうこともある。特に夏休み期間は暑い中でいつもより多めに出番があるもんだからより一層注意が必要となる。
タオルで汗を拭き、机に置かれた塩タブレットを口に放り込み、俺は一息ついた。
「しおんくん最近よく動けるようになっていてすごいよ。今日なんてかっこいいって言われていたね」
姿勢良くパイプ椅子に座り、髪を結び直しながらユウナさんはニコッと笑う。この遊園地では珍しく俺と同じ人間であり2つ上の高校三年生、そして俺の倍仕事をこなす憧れの先輩だ。
「マジスか、ありがとうございます、あいかわらずテトラは人気っすねえ」
テトラとはここのメインキャラクターである”テトラ君”のことだ。ちなみにパートナーは”デルタちゃん”で、先程のショーではユウナさんが演じていた。地方の遊園地で、某有名テーマパークと比べたらそりゃ小さなものだが、意外とファンが多く、テトラにかっこいいと言った若い女性は両手にテトラとデルタのぬいぐるみを持っていた。テトラに対してとはいえ少し嬉しくなりながら、先程のショーの記録をノートに書いていると、ひょいと膝の上に三毛猫がのってきた。
『しおんくん、今日のオイシイ頂戴ナ』
くあっとあくびをしながらビー玉のような目でこちらを見てくる。
「おはようチャチャさん、今日はかつおささみ味にしようか」
喋る猫なんてここでは普通だ。まるっとした三毛猫は嬉しそうに喉をぐるぐる鳴らす。
自分の頭より一回りも二回りも大きい頭を取り外すと、送風機から送られた風が頬を撫でる。狭い控室のなかにあるこれまた狭い衣装部屋でぶつからないようにそっと頭を近くの棚へ置く。つうっと汗が伝い、慌てて用意しておいたスポーツドリンクを飲む。高校に入学した俺は、春から地元の遊園地、四谷見ミシックワールドできぐるみバイトをしている。
「暑い中お疲れ様しおんくん、次の時間まで体力戻しておかなきゃね」
隣でこれまた大きな頭を外しながらユウナさんが言った。汗でびしょびしょになってもその顔は相変わらずきれいで、ニコッと笑いかけられたら照れくさくなってしまう。
「はいお疲れ様ふたりとも。洗濯しちゃうから、しおんははやくそれ脱いで」
三人の中で一番小柄なセツナさんは誰よりも動き、汗臭い手袋やらタイツやらを洗濯かごへポイポイと入れていた。ダボッとしたパーカーから覗く細い腕には褐色の羽毛のようなものが生えている。いや、ようなものではなく正真正銘羽毛なのだ。彼女は妖怪、鳥女である。バイト初日に俺が困惑する中で、何も不思議でないようにそう言った。俺が脳みそをフル回転させながら固まっていると、ユウナさんが少し申し訳無さそうに「オーナーに言われてない? 」と言ったが、俺は何も聞いていないし聞いていたらここでバイトなんてしていないだろう。
そんな俺の世界観がまるっと変わってしまった日からもう一ヶ月が経ち、それなりにここでの仕事も妖怪の存在も慣れてきた。後で知ったのだが、ここでは人間よりも妖怪の従業員のほうが多く、それを隠しながら営業をしているという。
セツナさんに急かされ男子更衣室へ行き、胴体部分やら小物類やらを脱いで半袖Tシャツとジャージ素材のパンツ姿になる。仕事はかなりの肉体労働で、気を抜けば脱水状態となり倒れてしまうこともある。特に夏休み期間は暑い中でいつもより多めに出番があるもんだからより一層注意が必要となる。
タオルで汗を拭き、机に置かれた塩タブレットを口に放り込み、俺は一息ついた。
「しおんくん最近よく動けるようになっていてすごいよ。今日なんてかっこいいって言われていたね」
姿勢良くパイプ椅子に座り、髪を結び直しながらユウナさんはニコッと笑う。この遊園地では珍しく俺と同じ人間であり2つ上の高校三年生、そして俺の倍仕事をこなす憧れの先輩だ。
「マジスか、ありがとうございます、あいかわらずテトラは人気っすねえ」
テトラとはここのメインキャラクターである”テトラ君”のことだ。ちなみにパートナーは”デルタちゃん”で、先程のショーではユウナさんが演じていた。地方の遊園地で、某有名テーマパークと比べたらそりゃ小さなものだが、意外とファンが多く、テトラにかっこいいと言った若い女性は両手にテトラとデルタのぬいぐるみを持っていた。テトラに対してとはいえ少し嬉しくなりながら、先程のショーの記録をノートに書いていると、ひょいと膝の上に三毛猫がのってきた。
『しおんくん、今日のオイシイ頂戴ナ』
くあっとあくびをしながらビー玉のような目でこちらを見てくる。
「おはようチャチャさん、今日はかつおささみ味にしようか」
喋る猫なんてここでは普通だ。まるっとした三毛猫は嬉しそうに喉をぐるぐる鳴らす。
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