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しおりを挟むあの日、わたくしは復讐を決意した。
だけど人を雇って憎い相手を襲わせたり、危害を加えるつもりは全くなかった。
そんな粗暴なことはできませんし、第一そんなことをしたらそれこそこっちの立場が悪くなってしまいますわ。
そう、醜聞は貴族にとって痛手なのです。
散々傷つけられたわたくしですが、隣国へ移住する前にやらなければならないことがございました。
潔白の証明 です。
いくら国が変わるとはいえ、くだらい醜聞がつきまとうのは不愉快ですし、第一周囲の皆さまにも迷惑がかかってしまいますわ。
あ、この皆さまはどうでもいい有象無象のことではなく、わたくしに寄り添ってくださる大切な方々のことですわ。
そんなわけで手始めにごく軽い嫌がらせからスタートしました。
例えばティータイムの途中、
『……どうして?』
例えば入浴の寛ぎタイムに、
『わたくしが何をしたというの……?』
例えば就寝の前に、
『ひどいわ』
ごく軽い苦情をひっそりと囁いてみました。
当の本人にお会いしたときに騒がれても面倒なので、気のせい……?で終わるぐらいの頻度です。
そして夏休みに隣国に渡ってから本領発揮いたしましたわ。
『許さない!!許さない!!!許さない!!!』
『呪ってやる!!呪ってやる!!!呪ってやる!!!』
呪詛じみた早口で頻繁にテレパシーを送って差し上げましたわ。
もちろんわたくしだって暇じゃありませんもの。
四六時中あんな女に構ってる余裕なんてありませんわ。
ですが、朝も夜も問わず隙間時間を見つけては頑張りましたの。能力は距離を問わなくて幸いでしたわ。
帰国した折にはエリーゼは精神的に参っていたそうです。
まわりにわたくしの声が……と訴えたところで他の方たちには聞こえないんですもの。
そのうち、周囲の扱いが腫れものにさわるようになり、それがいっそう彼女を苛立たせ精神状態を乱れさせたようです。
そんな噂を漏れ聞いたわたくしはラストスパートに入りましたの。
例えば王城の庭園でお会いしたとき、
『まぁ、みっともない!!やつれて顔色もひどいですわ。唯一のとりえの容姿までそんなじゃ今度はエリーゼ様が婚約破棄されてしまうのでは?』
『どうして震えているの?もしかして怖いのかしら?ねぇねぇねぇねぇ!!!!』
『安心して?もうすぐ終わらせてあげるわ。あなたの命ごとねっ!!!!!!!あはははははははっ!!!!!!』
高笑い、というものをしてみたのは初めてですわ。
テレパシーですけど。
とっても難しいんですのね。
実際に声に出してするとなったらそれなりの肺活量も必要そうですし、わたくしには無理そうですわ。
第一恥ずかしいですし。
でも我ながら迫真の演技ができたと自負しておりますわ。
そして……例えばあのパーティーで、
『赤ワインには喉を死ぬまでかきむしむような毒が、白ワインには全身が焼けるようにもがき苦しむ毒が入ってますの。さぁ、お召し上がりになって?ああ、顔面が爛れとけるシャンパンがいいかしら?』
当然毒など仕込んでいません。
『それとも……ご自分の罪をお認めになられる?この苦しみから解放されるために』
エリーゼがテーブルの上のグラスを薙ぎ払ったのはこのあとですわ。
数日前から集中的に
『罪を償いなさい』
『真実を告白するの』
『大勢の前で全てを認めない限りあなたは一生このままよ。一生、ね』
そんな言葉を暗示のように囁き続けた甲斐があったようです。
これで駄目なら最終手段も辞さないつもりでしたわ。
出国まで引き籠って一日中怨嗟の言葉を送り続けてやるしかないと思っておりました。
ええ、耐久勝負です。
わたくしの生活時間や睡眠時間も犠牲にする覚悟でしたわ。
エリーゼの精神が壊れるか、わたくしの忍耐が尽きるかの。
最終手段の前に決着がついてなによりでした。
あとはご存じの通りです。
無事潔白を皆様の前で証明することができました。
他国の来賓の方々も面白おかしく吹聴なさってくだっさってるみたいだし、わたくしは悪役令嬢から悲劇の令嬢に早変わり。
清く正しく生きてたら悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を誓って行動した結果が悲劇の令嬢扱いなんて皮肉なものですわね。
他人の噂やものごとをありのまま信じてはいけない、という良い教訓になりましたわ。
ああ、船が見えました。
晴れ渡る空、白い雲。まるでわたくしを祝福しているかのような旅立ち。
さぁ、いつまでも悲しい過去や負の感情に囚われているのもやめましょう。
輝かしい新しい人生が待っているんですから。
全てを吹っ切るように瞳を閉じ、最後の言葉を贈りました。
今の心と正反対の言葉を。
二度と関わることのない彼女たちの心に呪いが刻みこまれることを願って。
『絶対に許さないわ』
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