『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる

黒木  鳴

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「もしもわたくしに誰かを呪う力があったならエリーゼ様を、殿下を、皆さまをきっと呪っていたことでしょう」

何を驚いてらっしゃるの?
もしかして憎まれてないとでも思ってらしたのかしら。

本当に、救いようのない方々。

「だけどわたくしにそんな力はないですもの。そしてわたくしにかけられた呪いは解けない。だからせめて……忘れることにしましたの」

シャンデリアの光がキラキラと煌めきます。
この茶番を飾りたてるように。

あの断罪の日のように。

「本当はお別れだけを告げて消えようと思っていましたのに……最後に日にエリーゼ様が真実を告白されるなんて…………数奇なものですわね」

小さく笑い最後にもう一度周囲を見渡します。

ねぇ、見えてらっしゃるかしら?

今日のこの場にはこの国の貴族だけではなく、他国の来賓も沢山いらっしゃるわ。

ほら、皆さまとても愉しそう。
新たなゴシップにハイエナのように舌なめずりしてらっしゃるわ。

殿下、ルシル、リゼッタ。
そしてこの場にいないエリーゼ。

これからはあなたたちが嗤われる番よ。

些細な行動に悪意に満ちた難癖をつけられ、根も葉もない噂をバラまかれるの。

どうぞご存分に堪能なさってね?



国を出る日、船の出る港へと向かう途中で寄り道をして頂きました。

ここ数日、出立までの準備の間に何度か面会の申し込みがありましたわ。

謝罪と出国を思い止まらせようとする王家やルシルの実家の公爵家。自分たちの家の者が原因で我が公爵家の力を失うともなれば批判も影響も計り知れませんものね。

まぁ、お断りしましたけど。

そもそもわたくしあちらで婚約も決まってますし。年の近い従兄で王族の方ですから国際問題になりましてよ?と教えて差し上げたら蒼白になって納得してくださいました。

それからあの場でのお言葉だけでなく、書面上でも正式に殿下やルシルとの縁切りも。

ご自分たちが批判を免れるためのトカゲのシッポ切りですわね。
ご家族なのに冷たいこと。
でもまぁ冷静な判断ができる方は嫌いじゃありませんわ。ただのバカよりずっとマシです。

そのバカたちも来ましたけど……。
もちろん門前払いですわ。

だって相手は平民ですもの。
相手をする必要なんてないでしょう?

元殿下と元公爵令嬢は「許してほしい!」だの「やり直そう!」あの「またお友達に戻りたいの!」だの叫んでらっしゃったそうですわ。

ご自分たちがバカなだけでは飽き足らず、わたくしまでバカにしてらっしゃるようです。

わたくし、聞いたことがありますわ。

これっていわゆる“ふり”とかいうアレですわよね?

ならば期待に応えないわけには参りませんわ。
わたくしは更なる報復を決意致しました。

周囲の人間にでも悪口を囁いてやりましょう。
あとはきっと周りの方々が色々やってくださるでしょうし。

ああ、もちろんデマなど流しませんわ。
わたくし自身が事実無根の冤罪に苦しめられた身ですもの。

事実しか流しませんから安心なさって?

そうそう、わたくしに復縁を迫った元殿下はエリーゼとは婚約破棄したそうですわ。

理由は精神を病んでいるため。
真実の愛なのですからお二人で仲睦まじくお暮しになればいいのに。

なんならルシルも一緒に後ろ盾を失った方々同士助け合って生きていくなんて素敵じゃないかしら?

「着きました」

使用人の声に回想を中断し、馬車を降ります。
目的地は寂れた修道院。せっかくだから最後にご挨拶をと思って。

引きずられるようにして姿をあらわしたのはボロ雑巾のような女性。

ざんばら髪の薄汚れたその方はわたくしを見るなり獣のように唸りました。
潰れ、言葉とならないそれは正に唸り。

彼女を連れてきた方が太い棒で何度か殴り大人しくさせながらわたくしに謝罪します。

アザと汚れにまみれたその女性はエリーゼでした。

以前の見掛けだけは良かった面影などまるで見えません。
喉は殿下に潰されてしまったそうです。あ、元でしたわね。
左目はルシルに。
他にも今回の件で色々と不利益を被った方々の不満のはけ口にされてしまったようですわ。

その姿はとても痛ましい。

「可哀想……」

呟いたわたくしにギラついた瞳が向けられました。
それでもまた殴られることを恐れてか騒ぎ立てることはありません。

「ああ、痛くはありませんか?エリーゼ様」

『ねぇ、聞こえる?』

ビクリと震えるエリーゼにそっと手を伸ばし前髪をどけ、隠れていた顔をじっと見ます。

「なんて酷い……」

『ねぇ、聞こえてるわよね?ちゃんと聞こえてるでしょう?』

悲し気に眉を垂らし、心の中で笑いながらエリーゼに語ります。

「わたくしはもうあなたに怒ってはいませんわ」

『絶対に許さない。許さない、許さない、許さないわ』

限界まで瞳を見開くエリーゼの表情にあるのは、怯えと恐怖。

「全部妄想です。あなたの罪の意識が生み出した幻。わたくしに呪いの力などありません。わたくしは貴方を呪ってなどいない。だからどうか、もう苦しまないで」

『本当よ?わたくしに人を呪うことなんてできないわ、安心なさって?
わたくしに出来るのはね……“テレパシー”というの。こうして誰かの頭の中に直接話かける能力よ。ほら、こんな風に……』


『許さない!!許さない!!!許さない!!!』


息を呑む音と唸り声が大きく響きました。

慈悲深く、寛容な声をかけたわたくしに襲い掛かろうとする人型のケモノを周囲の人間が押さえつけ、打ち据えます。


「さようなら、エリーゼ様」


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