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「それから、エリーゼ様の仰ってた呪いの件も否定いたしますわ」
実はあれ、根も葉もない中傷ではありません。
わたくしのお母様は隣国の元王族。
そしてかの一族の血筋には特殊な能力を持つ者が一定数生まれることは有名ですの。
「確かに王家の血筋を引くものには、光源を灯したり、風を巻き起こしたり特定の特集能力を有する者が生まれることも事実。ですが呪いだなんていう抽象的な能力はありませんわ」
パンッと音とたてて扇子を口元にあて、小首を傾げます。
「わたくしの発言が信じられないならどうぞ王家にご確認を。王家はすべての能力者と能力を把握してますもの。
もっとも……呪いの能力など、そんな侮辱をされたらお怒りになるでしょうけど」
あらあら、皆さまお顔の色が悪いですわ。
慌てて疑ってなんていないとばかりに首をふってくださる方々。
信じて頂けて嬉しいですわ。
「ああ、でも……」
長い睫毛を伏せて、いかにも儚げな笑みをひとつ。
「エリーゼ様を呪うことならしましたわ」
どよめきをよそに「ねぇ?」とある人物に顔を向けました。
わたくしの視線を受け、大きく肩を揺らしたのはリゼッタという少女。
ほぼ付き合いはありませんが、イジメについて嘘の証言をし、渡り廊下でエリーゼと共にいた彼女の取り巻きですわ。
「わたくし、呪いの能力などありません。ですが悪意や言葉は総じて呪いにもなりますわ」
そう、悪意は呪い。
「以前わたくし、あの茶番劇のあとでエリーゼ様に言いましたの
「絶対に許さない」と。
リゼッタ様もその場にいらっしゃいましたよね?」
「わ、わたし……」
「あれから、リゼッタ様はわたくしに会う度に怯えてらっしゃるわ。きっと怖かったのでしょう?ご自身の罪が、わたくしの報復が」
「し、仕方がなかったんですっ。エリーゼ様に脅されて……それでっ……」
リゼッタはしくしく泣き出しました。
「きっとエリーゼ様も恐ろしかったことでしょう」
ポツリと泣き声の狭間にわたくしの声が落ちました。
悲しそうな、切なそうなそんな声音が。
「エリーゼ様はご自分の罪を知っていらした。卑怯な手を使い公爵令嬢たるわたくしを貶めたばかりか、殿下を誑かし王族に入らんとまでしました。
きっとご自分の罪が暴かれることを恐れたでしょう。
そして同時にわたくしの、公爵家からの報復を恐れたでしょう。だって報復されて当然の罪を犯したんですもの。
暴漢を差し向けられると思われたかも知れない、命を狙われると考えられたかも。それともご自身のご申告通り階段から突き落とされると思われたかしら?」
殿下を、ルシルを、リゼッタを、わたくしを嘲笑した方々をゆっくりと見渡します。
「「絶対に許さない」わたくしの言葉はエリーゼ様の罪の意識に結び付き、きっと彼女にとって呪いと化したのでしょう」
そして最近にエリーゼの様子が可笑しかったことや、先日庭園で奇声を上げたエリーゼに掴みかかられた話などをすれば思いあたるところのあった方々が次々納得します。
そうしていとも簡単にエリーゼが罪の意識から精神を病んだという“事実”が出来上がりました。
まだ終わりじゃないですけど。
再び悲しげな表情を作ったわたくしはふるりと小さく首をふりました。
過去を嘆くように力なく。
「先程、殿下はわたくしが冤罪を否定しなかったと仰いました。わたくしが否定しなかったのはわたくしの言葉など届かないと思っただけではりませんわ。例え誰かに届こうと意味がないと思いましたの」
「意味がない……?」
「醜い嫉妬に狂い、イジメを行い、果ては殺人未遂まで犯した。それがわたくしに張られたレッテル。殿下の、エリーゼ様の……いいえ、あの騒動を無責任に楽しんでいらした皆さまの言葉や悪意はわたくしの中で呪いとなりました。
耳をふさいでも、目を閉じても、あの悪夢のような断罪が思い出されるのです」
「ち、違う。私は本当にエリーゼに騙されてっ、だから……」
「同じことです。真実を確かめもしないでわたくしを断罪したのですから。
例え殿下が本当にエリーゼ様のお言葉を傀儡のように信じていたとして、わたくしの無実が明らかになったとしても……もうあの頃には戻れません。皆さまがわたくしを信じてくれても、もうわたくしの方が信じることが出来ませんもの。殿下を愛することも、友人であることも出来るわけがありません。それくらい、皆さまがわたくしにかけた呪いは強くて重い」
しん、とした場を見渡して、ドレスの裾を掴んだわたくしは優雅に一礼しました。
「今日はわたくし、皆さまにお別れを告げに参りましたの」
意味がわからなそうに小さなざわめきが広がります。
「申し上げたように今まで通りこの国で暮らしていくのはとても耐えられません。なので母の祖国である隣国へ行くことにしましたの」
驚かれるのも無理はないですわね。
わたくし公爵家の一人娘ですもの。
でも関係ないですわ。
わたくしを裏切ったのは皆さまだし、当主であるお父様はお母様とわたくしを溺愛して下さってるもの。
それに、わたくしが隣国に渡るということはかの国の王族、貴族らにこの国での醜聞が伝わるということ。影響も色々とおありでしょう。
あとの状況?
知りませんわ。もう関係ないですもの。
実はあれ、根も葉もない中傷ではありません。
わたくしのお母様は隣国の元王族。
そしてかの一族の血筋には特殊な能力を持つ者が一定数生まれることは有名ですの。
「確かに王家の血筋を引くものには、光源を灯したり、風を巻き起こしたり特定の特集能力を有する者が生まれることも事実。ですが呪いだなんていう抽象的な能力はありませんわ」
パンッと音とたてて扇子を口元にあて、小首を傾げます。
「わたくしの発言が信じられないならどうぞ王家にご確認を。王家はすべての能力者と能力を把握してますもの。
もっとも……呪いの能力など、そんな侮辱をされたらお怒りになるでしょうけど」
あらあら、皆さまお顔の色が悪いですわ。
慌てて疑ってなんていないとばかりに首をふってくださる方々。
信じて頂けて嬉しいですわ。
「ああ、でも……」
長い睫毛を伏せて、いかにも儚げな笑みをひとつ。
「エリーゼ様を呪うことならしましたわ」
どよめきをよそに「ねぇ?」とある人物に顔を向けました。
わたくしの視線を受け、大きく肩を揺らしたのはリゼッタという少女。
ほぼ付き合いはありませんが、イジメについて嘘の証言をし、渡り廊下でエリーゼと共にいた彼女の取り巻きですわ。
「わたくし、呪いの能力などありません。ですが悪意や言葉は総じて呪いにもなりますわ」
そう、悪意は呪い。
「以前わたくし、あの茶番劇のあとでエリーゼ様に言いましたの
「絶対に許さない」と。
リゼッタ様もその場にいらっしゃいましたよね?」
「わ、わたし……」
「あれから、リゼッタ様はわたくしに会う度に怯えてらっしゃるわ。きっと怖かったのでしょう?ご自身の罪が、わたくしの報復が」
「し、仕方がなかったんですっ。エリーゼ様に脅されて……それでっ……」
リゼッタはしくしく泣き出しました。
「きっとエリーゼ様も恐ろしかったことでしょう」
ポツリと泣き声の狭間にわたくしの声が落ちました。
悲しそうな、切なそうなそんな声音が。
「エリーゼ様はご自分の罪を知っていらした。卑怯な手を使い公爵令嬢たるわたくしを貶めたばかりか、殿下を誑かし王族に入らんとまでしました。
きっとご自分の罪が暴かれることを恐れたでしょう。
そして同時にわたくしの、公爵家からの報復を恐れたでしょう。だって報復されて当然の罪を犯したんですもの。
暴漢を差し向けられると思われたかも知れない、命を狙われると考えられたかも。それともご自身のご申告通り階段から突き落とされると思われたかしら?」
殿下を、ルシルを、リゼッタを、わたくしを嘲笑した方々をゆっくりと見渡します。
「「絶対に許さない」わたくしの言葉はエリーゼ様の罪の意識に結び付き、きっと彼女にとって呪いと化したのでしょう」
そして最近にエリーゼの様子が可笑しかったことや、先日庭園で奇声を上げたエリーゼに掴みかかられた話などをすれば思いあたるところのあった方々が次々納得します。
そうしていとも簡単にエリーゼが罪の意識から精神を病んだという“事実”が出来上がりました。
まだ終わりじゃないですけど。
再び悲しげな表情を作ったわたくしはふるりと小さく首をふりました。
過去を嘆くように力なく。
「先程、殿下はわたくしが冤罪を否定しなかったと仰いました。わたくしが否定しなかったのはわたくしの言葉など届かないと思っただけではりませんわ。例え誰かに届こうと意味がないと思いましたの」
「意味がない……?」
「醜い嫉妬に狂い、イジメを行い、果ては殺人未遂まで犯した。それがわたくしに張られたレッテル。殿下の、エリーゼ様の……いいえ、あの騒動を無責任に楽しんでいらした皆さまの言葉や悪意はわたくしの中で呪いとなりました。
耳をふさいでも、目を閉じても、あの悪夢のような断罪が思い出されるのです」
「ち、違う。私は本当にエリーゼに騙されてっ、だから……」
「同じことです。真実を確かめもしないでわたくしを断罪したのですから。
例え殿下が本当にエリーゼ様のお言葉を傀儡のように信じていたとして、わたくしの無実が明らかになったとしても……もうあの頃には戻れません。皆さまがわたくしを信じてくれても、もうわたくしの方が信じることが出来ませんもの。殿下を愛することも、友人であることも出来るわけがありません。それくらい、皆さまがわたくしにかけた呪いは強くて重い」
しん、とした場を見渡して、ドレスの裾を掴んだわたくしは優雅に一礼しました。
「今日はわたくし、皆さまにお別れを告げに参りましたの」
意味がわからなそうに小さなざわめきが広がります。
「申し上げたように今まで通りこの国で暮らしていくのはとても耐えられません。なので母の祖国である隣国へ行くことにしましたの」
驚かれるのも無理はないですわね。
わたくし公爵家の一人娘ですもの。
でも関係ないですわ。
わたくしを裏切ったのは皆さまだし、当主であるお父様はお母様とわたくしを溺愛して下さってるもの。
それに、わたくしが隣国に渡るということはかの国の王族、貴族らにこの国での醜聞が伝わるということ。影響も色々とおありでしょう。
あとの状況?
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