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しおりを挟む鬼のような表情でわたくしを睨みつけて人差し指を突きつけてくるのが恐ろしくて、肩をふるりと震わせて助けを求めるように周囲に視線を走らせます。
「ちゃんと認めたわ!!もういいでしょう?!!!とっとと呪いを解きなさいよ!!」
「呪い……?」
「しらばっくれるんじゃないわよ!!?アンタたちが妙な力を持ってんのはみんな知ってんだから!!!」
ついにはガラスの破片を手にわたくしにつかみかかろうとしたエリーゼは騎士により拘束……いえ、安全のために確保され連れ出されました。
しん、とそれまでとは正反対の奇妙な静けさにつつまれた会場。
集まる視線のなか、わたくしは背を伸ばします。
「……本当、なのか…………?」
代表するように口を開いたのは殿下でした。
恐れを含んだ声音に、笑いだしそうになるのを必死に堪えて答えます。
「ええ、本当ですわ」
笑いの代わりに浮かべたのは悲し気げな表情。
「わたくしはエリーゼ様をイジメてなんていませんし、もちろん階段から突き落としたりしていません。そもそもあの時間わたくしにはアリバイがありますもの」
殿下が尋ねたのは呪いのことだと知っていながら、しらばっくれて自身の無罪を主張いたしました。
「あの日、あの時間わたくしは王立図書館に居ましたもの。閲覧制限のある蔵書のエリアにも立ち入りましたから記録だって残っている筈です」
わたくしの言葉にザワザワとどよめきが広がります。
瞳を見開く殿下の顔色が紙のよう。
でもそれ以上に誰より動揺を露わにするルシルにチラリと視線を向けます。
「意外ですか?あの日、本来ならわたくしは一人で庭園へ向かおうとしていましたものね。ダリアが見事な咲き頃だと秘密のスポットをルシル様に教えて頂いて。
でも直前で気が変わりましたの。良かったですわ。ルシル様のお言葉に従っていましたら今頃わたくしアリバイがありませんでしたもの」
「ち、違うわっ!!」
上擦った声でルシルは叫びますが、そんな取り乱した様子では怪しいだけですわ。
現に非難がましい視線が殿下やルシルに集まります。
皆さま自分たちの非は棚上げして他人を責めるのは大好きですものね。
冷たい視線に気づいた殿下があたふたと周囲を見渡したのち、わたくしに向かって叫びます。
「あ、あの時はそんなこと一言も言わなかったじゃないか?!」
「言って意味があったのですか?」
「な……何を言って……?」
「わたくしはやっていませんと言いました。だけど殿下たちは一方的にエリーゼ様の言い分だけを持ち出してわたくしの所在さえ問わなかった」
悲し気に目を伏せ、声を震わせます。
我ながらいい感じではないでしょうか。
「殿下はわたくしの至らなさを理由に糾弾し、断罪し、婚約破棄をなさった。ですが実際はそんな事実はありません。つまり、殿下とエリーゼ様が結ばれる理由すらありませんわ」
そもそも本当に非があって婚約破棄したとしても、別の女性とすでにくっついてるってどう考えても可笑しいですわよね。
「殿下はわたくしという婚約者がありながらエリーゼ様と浮気し、事件を調べもしないで一方的に断罪した。エリーゼ様といっしょになるにはわたくしの存在は邪魔ですもの。王家や公爵家も共同となってわたくしを嵌めたのだと思っても仕方がないことでしょう?それならわたくしがいくら真実を言ったところで……」
「違う!!!」
いくつもの否定の言葉が重なりました。
殿下やルシルはもとより、真っ青になった王家やルシルの家族である公爵家からも。
まぁ、一緒になって非難の目に晒されてはたまりませんものね。
「私たちは一切関与していない。いまはじめて事実を知ったんだ!」
本当かしら?という風に小首を傾げてルシルの父である公爵を見れば、証が必要だと思ったのかついにはルシルの縁切り宣言をして下さいました。
庇いだてもせず即決なのは自身の娘がやらかしかねない自覚がおありなのでしょう。
現に動揺も露わなルシルの様子は疑惑を抱くに十分ですし、もしも娘を信じていればこの反応は有り得ませんもの。
絶望に染まったルシルの表情に笑いだしてしまいそう。
そして公爵のそんな宣言があれば人々の視線は当然殿下や王家にも向かいます。
わたくしはあえてなにも言わず沈黙と保ちますわ。
ここで殿下を庇えば王家の立場も悪くなると思ったのでしょう。
陛下が苦渋の表情で殿下を王族から外すことを宣言しました。
わたくしにすがる表情を向けた殿下の唇が開かれたのを、先に声を発することで遮ります。
この後に及んでわたくしにすがるとか面の皮が厚すぎません?
欠片も反省してない証拠ですわよね。
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