『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる

黒木  鳴

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「絶対にゆるしませんわ。絶対に」


対峙した渡り廊下で睨みつけるように言い放ち通り過ぎた。
怯えたような表情で傍らの友人に泣きつく彼女。

小柄で可愛らしい顔立ちの少女とすれ違いざまに毒を放つキツイ美貌のわたくし。まるでか弱いヒロインと悪役令嬢。

実際、周囲から見た評価はそれが真実。

だけど本当の彼女はそんな無害な存在なんかじゃない。

そしてわたくしは…………
貴方が、皆さまが望むなら、その通りの存在になってあげるわ。ご希望通りにね。


あれから三カ月。
公爵令嬢であり、殿下の婚約者でもあったわたくしが編入してきた男爵令嬢に嫉妬からイジメを行い、挙句の果てには階段から突き落としたという冤罪で断罪されて早三カ月がたった。

浮気されたうえに事実無根の言いがかりで婚約破棄までされ、固く復讐を誓ったわたくしはあれからごく大人しく過ごしていた。
ヒステリックに喚きたてることも、殿下に泣き縋って復縁を求めることもなく。
むしろどっちかというと学園でも社交の場でも彼らに極力近寄らないように過ごしていたの。

婚約破棄から一カ月、殿下とエセ小動物の婚約が発表された。
婚約発表のパーティーでは慇懃無礼な笑顔で祝福を告げ、周囲のうっとうしい視線はフルシカトして壁の花で過ごした。

元男爵令嬢のエリーゼには怯えたような瞳を向けられ、その後きつく睨みつけられましたわ。

怖っ!!

その表情、誰かに見られればいいのに……。
小動物系の皮が剥がれまくった本性丸見えの表情でしたわ。

婚約破棄から一カ月半弱。
待ちに待った夏休みに入りました。
これ幸いと母の祖国である海を超えた隣国に緊急避難。

うざったい周囲の干渉もなく実に充実したバカンスでした。
そのまま夏休みを隣国で過ごしました。

なんなら夏休みをちょっと過ぎての帰国。
新学期ははじまっているけれど、学園は単位制で必要な単位はすでに取得しているので問題なしですわ。
休み明けのテストが終わればもう学園に通う気もありません。

もう王族になるわけでもないですし、無駄な我慢をする必要もありませんわ。卒業資格さえ手に入ればいいですもの。

そんな気だるいモチベーションで訪れた久方ぶりの学園、廊下を歩いているとエリーゼを見かけました。

俯いた顔色は悪く、だいぶお痩せになられたよう。
目の下にお化粧で隠せない程のクマもあり、あまり眠れておられないのかしら?

それからさらに一週間。
訪れた王城の庭園のそばでエリーゼと遭遇いたしました。

間近でお会いするのは随分とお久しぶり。

わたくしは端によって黙って頭を下げました。
なにせ相手は王族の婚約者。公爵令嬢とはいえこちらが礼を尽くすのが筋ですわ。

あ、心のなかでは呼び捨てやあの女呼ばわりですけど、ご本人たちの前ではちゃんとエリーゼ様って呼んでますわよ?

わたくしに気付いたエリーゼは突如すさまじい形相で掴みかかってきましたわ。すぐに騎士が助けてくれましたけどビックリ致しました。

その後、風の噂で聞いたことですけどエリーゼはいきなり叫び出したり情緒不安定なご様子だそうですわ。


そして婚約破棄から約三カ月たった今日。
殿下のお兄様、次期国王になられる方のご生誕のお祝いの席でエリーゼが突然叫びだされましたの。

「もういい加減にして!!」

頭をかきむしる様はとても正常とは思えません。
地団太を踏んだ彼女は血走った瞳でわたくしを睨みつけ、その形相にわたくしは一歩後退ります。

伸ばされた腕がテーブルの上のグラスを払い落しました。
ガシャーンと甲高い音が響いたその瞬間、

「いやぁぁぁ!!!!」

ガラスが割れる音を塗りつぶすように響いたのは耳障りな悲鳴。

耳を押さえ「うるさい!!うるさい!!うるさい!!」と呪文のようにブツブツ唱える姿に皆さまドン引きです。
ジワジワと人の輪が離れるなか、殿下がエリーゼに近づきます。

「ど、どうしたエリーゼ?」

「うるさいっっ!!」

「エリーゼ……?」

伸ばされた殿下の手をバシッと音がする勢いではね除けたエリーゼはドンッ!と激しく足を踏み鳴らしました。

「いいわよ!認めるわっ!!!アンタを嵌めたのはわたし!!陰口を叩かれたのも私物を壊されたのも全部うそ!!!階段からだって落とされてないわ!!でも階段の件はルシルの発案よっ!!わたしじゃないわ!それに嘘の証言をしたリゼッタたちだって同罪じゃないっっ!!??」

衝撃の暴露に会場はざわめきに包まれました。

巻き添えを喰らった公爵令嬢のルシルやエリーゼのお友達……いえ、取り巻きと呼んだ方が正しいのかしら?が真っ青な顔で否定の言葉を叫んでいます。

あらあら、お忙しそう。




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