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しおりを挟む暇つぶしにちょっかいをかけだしても、あの時のことを匂わされることさえなかった。
どうやら本気で俺を助けたことに意味はなかったらしい。
途中からはちょっかいの目的はあの男への興味よりも、あのクソ生意気な人形野郎をおちょくる為に変わっていた。
マジでアイツうぜーんだけど。
誰が野良猫だ!誰が!!
「おはよう!フィーくん」
わざわざ家まで迎えに来て、いつものようにそう微笑んだベルに感じた違和感。
無意識にくん、と鼻を動かしていた。
自慢じゃないが俺は物凄く鼻が良い。
下品に香水をつけまくった女どもの近くに居る時なんかは閉口するが、盗賊仕事じゃ随分と役に立つ。
制服から漂うベルのものじゃない香り。
さして強いわけじゃない残り香はきっと俺でなければ気づきもしない程度の香りだろう。
嫌味がなく仄かに甘く深みのある香り。
学生にはやや大人びたイメージのその香りがぴたりと嵌る男の姿が脳裏に浮かんだ。
最近纏わりついているあの男の香りが何故ベルに、しかも全身についているのかわからず頭の中が一瞬真っ白になった。
男物の香りのことをそれとなく指摘すれば、ベルは見るからに慌てて話しを逸らした。
薄っすらと赤い頬をして。
翌日にはリボンで装飾された一目でプレゼントとわかる手荷物を持っていて……。
早合点した俺は__________。
ベルの口からも真実を確認してしまい、重い足取りで学園へと向かう。
ここ数日、日課となっていた3年の教室へは向かわず、移動教室の際も奴らに遭遇しないよう遠回りして廊下を歩いていると突然腕を掴まれた。
「何の用だよ?」
腹へと喰い込ませようとした肘は避けられた。
チッと舌打ちして相手を睨む。
もちろん、当然のようにその存在には気づいていた。だからこそ素直に空き教室に引きずり込まれてやったのだから。
ただ、学園で接触してきたアダムの意図がわからない。
睨む俺以上の尖った目つきでアダムは睨み返してきた。
怒っているし、焦っている。
その反応に思わず目を見開く。
「はぁぁ?!」
予想外に響いた声に慌てて口を閉じて辺りを窺う。
はく、と喉を鳴らすも目の前の相手の深刻な表情は変わらない。
「バレてるぞ」その一言には鼻を鳴らして「ハッタリだろ」と短く返した。
昨日、あの男が去り際に残した言葉に動揺した自分を隠すように敢えて歪な笑みを浮かべて見せる。
あの言葉を聞いて咄嗟に思い浮かんだのは俺らのシゴトのこと。
だけどアイツがそれを知っているわけがない。
だから “バレて困ること” っていうのは俺の手癖の悪さだって昨日散々自分に言い聞かせた。
なにせ一度それを止められてもいるのだから。
だけど固い表情のアダムは続けた。
「お前をアインズと、俺をツヴァイと呼んでもか?」と。
驚きの声を上げたあと、無言で見つめ合うこと数十秒。
「冗談だろ?」
「俺もそうあってほしい」
「…………」
「…………」
さらに数十秒の沈黙。
「いやいやいやいや、ちょっと待てよ!なんでだよ?!」
「気持ちはわかるが声抑えろ。授業中とはいえ誰かがきたらマズい」
なんでバレてんの??
会話の中でもシュヴァルツに繋がるヘマを踏んだ覚えはない。
なら最初から知ってた??
いつから?どうやって?
焦りと困惑。
だけどそれとは別の感情が沸々と沸き上がるのを感じていた。
それは、あの初遭遇の時と同じそれで…………。
「あの兄ちゃん、何者だよ?」
面白れぇ、小さく呟いた声に唇の端が持ち上がっているのを自覚する。
俺が興味を抱いたときの癖のようなそれに、目の前のアダムの顔面が引き攣るがそんなことは関係ない。
油断のならない相手、同時にとびきり面白い相手であることも確実だ。
取り敢えず、地雷を踏まない程度に接触してみよっと!
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