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しおりを挟む毛足の長いラグマットに、もこもこのクッション。
淡い色合いでまとめられた部屋はいかにも “女の子の部屋” という感じで微妙に居心地が悪い。
そのことを気取らせないように、なんでもない風を装って足を崩して後ろ手をつく。
「階段から落ちかけたんだって?」
ぶっきらぼうに口にすれば、ベルは見るからに慌てた。
身を乗り出し、わたわたと動かされる手から二つのマグカップを避難させる。
「な、なんで知ってるのフィーくん?!」
「小耳に挟んだ。お前こそ、なんで言わねーんだよ」
「それは……だってフィーくん心配性だし」
俯いてもごもごと言い訳を口にしたベルは顔をあげてアイツの名前を出した。
「あっ、でもね怪我はなかったんだよ!エバンス先輩っていう先輩がね、助けてくれたの……」
落ちかけたとこを助けてくれたこと、作品を守ってくれたこと……語られるそれは放課後に聞いた話となんら齟齬はなくて思わず頭を抱えたくなった。
嘘だとは思ってなかったけど、こうして本人から話を聞くと自分の勘違いが居た堪れない。
なによりその経緯をアイツら……特にあのクソ生意気なエセ人形野郎に知られたと思うとめっちゃ恥ずかしい。
「あれ?フィーくん顔赤い?」
「あ、赤くねーよ!」
デコに向かって伸ばされた手を避けた。
つか、コイツはなんでこう危機感が足りねーんだよ!!
家が近所で幼馴染だからって普通男を簡単に部屋にあげるか?!
おっちょこちょいだし、人が良すぎるし、可愛い……///。
じゃねーだろ、俺!!
あーもー!!とにかく全部、コイツの所為だっ!!!
「だいたいっ荷物運ぶぐらい俺が手伝ってやるっつの!いいか、次からはなんかあったら絶対ぇ声かけろよ!!」
ビシッと指を突きつけて、カップの中身をグイっと飲み干すとそのまま逃げるように部屋を出た。
存在自体は前から知ってた。
顔を見たことはあったし、名前を聞いたこともあった。
だけど特に意識もしていなかったあの男の存在が目につきはじめたのは、あの校外学習のときからだ。
宙に浮かんだスクリーンに映し出された幾つもの映像。
他の奴らの戦闘能力の高さにも目を見張るとこがあったが、あの中でも一番異彩を放っていたのがあの男、ラファエル・エバンスだった。
音声は聞こえない映像からでもその指揮の正確さは明らかだったし、あれだけの強敵相手に凌いで見せるその統率力には思わず口笛を鳴らしたもんだ。
そっからはちょくちょくあの目立つ連中と行動をするようになったから尚更だ。
街で名前を呼ばれた時には驚いた。
肩を叩かれ、親し気に声をかけてきたときは何事かと思ったが…………まさかバレてたなんて。
確かに仕事のときほど慎重じゃなかったが、バレるようなヘマもしてない筈だ。
それなのに俺の行動も、狙った相手も見抜かれていた。
それだけじゃなくクラウ・ソラスのメンバーと知り合い?
しかもあの男、隊長がどうとか言ってた気もする。
挙句に俺を助けたと思ったら、恩を着せるでもなくあっさりと去りやがった。
面白い、そう思ったからちょっかいを出すことに決めた。
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